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マジパン思い出話第十七回 THe Start~新体制初のワンマンへ~

 マジカル・パンチラインが新体制になるにあたって、新メンバー加入以外に二点、大きな変更がありました。
 一つ目は、それまでリーダーだった沖口さんの、プロデューサー兼任です。グループ結成時は最年長のわりにどこか頼りない泣き虫だった沖口さんが、やがて立派なリーダーになり、とうとうプロデューサーまで兼任する。その年月を見てきた側として、とても胸が熱くなる決定でした。もっとも、時に思いつめがちな彼女に余計な重荷を背負わせることになるのではないか、という懸念もありましたが。
 二つ目は、吉澤さんが衣装デザインを担当すること、でした。もともとモデル経験があり、ファッションも大好きな吉澤さんでしたが、まさか衣装デザインまで担当するとは、と驚きました。今ではすっかり慣れましたが、まだ年少メンバーというイメージが抜けなかったこともあり、当時はとてもチャレンジングなことだったのです。
 結成時、マジパンはリーダーである佐藤麗奈がプロデューサーを兼任していました(実質はポニーキャニオンのシマムラ氏と共同プロデュースのような形でしたが)。また、衣装デザインも佐藤麗奈が担当していました。ある意味、マジパンにとって、原点回帰とも言える変更でしょう(余談ですが、8周年ワンマンでのカラーがはっきりした衣装とポンチョは、最初の衣装へのオマージュなのかな、と推測しています)。

 そして2021年2月23日、新メンバーお披露目イベントがAKIBAカルチャーズ劇場にて開催されます。僕は、行っていません。コロナ禍で座席が少なく、観覧が抽選だったからです。引退宣言をした人間が、これからも応援する意志のあるファンを押しのけて椅子に座るべきではありません。もっとも、そうでなくても行ったかどうかは分かりませんが。

 その様子は配信も行われ、上記アーカイブに残っているのでよければご覧ください。
 この日は新メンバーの紹介と特典会のみで、ライブはありませんでした。ここで発表されたのが、カラー変更です。
 沖口優奈 青→白
 吉澤悠華 水色→ピンク
 吉田優良里 オレンジ→黄色
 そして新メンバーは、益田珠希が赤、山本花奈が緑、宇佐美空来が青と発表されました。ビジュアルに強みがある吉澤さん、益田さんをピンクと赤にしてセンターに置き、経験がある沖口さん、吉田さんを両側に置いて新メンバーを支える、という意図が見えたカラー変更と配置でした。
 同時に発表されたのが、第四章におけるコンセプト「世界中の毎日をキラキラハッピーにする(キラハピ)」でした。第一章では魔法をコンセプトとしていましたが、第二章、第三章でははっきりしたコンセプトはありませんでした。
 そしてイベントのラストでは、サプライズで、5月のデジタルシングルのリリースと、新体制初のライブとして5月2日に横浜ベイホールでワンマンライブが行われることが発表されました。
 プロデューサー発信でコンセプトを決めたこと、沖口さんがサプライズを受ける側ではなく発表する側であったことを見て、名実ともにプロデューサーなのだな、と伝わるイベントでした。
 それまで、いつ新体制でのライブを見ることができるのだろうともやもやしていたものが、少し先とはいえ、明確な目標が提示され「よしここから」という気持ちになりました。メンバーも、必死にレッスンに励んでいるようでした。
 しかしそんなとき、マジファンをざわつかせる出来事が起こりました。
 吉田さんのSNSの更新が、ぱったりと止まってしまったのです。
 一切の音沙汰がなく一週間ほどが過ぎたころ、運営から、体調不良による吉田さんの活動休止が発表されました。


 当初我々は、体調を崩ししばらく休んでいるのだろう、と思っていました。心配はしていましたが、風邪がちょっと長引いているのかな、という程度の危機感しか持っていませんでした。当然、ワンマンまでには復帰するだろう、と。
 しかし、それから一ヶ月が経っても、復帰のアナウンスはありませんでした。ワンマンライブの日が刻一刻と迫っているにもかかわらず、相変わらず本人のSNSに動きはありません。六人でスタートしたはずが、まさか五人で新体制ファーストライブを迎えることになるとは思ってもいなかった。それが、すべてのマジファンの気持ちでしょう。
 そうしてとうとう5月2日、ワンマンライブの日がやってきました。アイドルファンを続けるつもりはなかったものの、節目の日は行ってあげるべきだと思い、僕はライブに行きます。それは、会場が横浜ベイホールであったことも大きかったでしょう。過去最大規模の箱でのライブながら、埋められなかった二年前の横浜ベイホールでのライブの悔しさをよく覚えていたからです。
 新メンバーのレッスンが追い付いていなかったのでしょう、曲数はわずか11曲、ドリー時代の曲のみ、というライブでした。それでも、はるゆら加入後のツアーでちょくちょく二人が舞台袖にはけて四人でライブをしていたことを思うと、頑張ったほうでしょう。
 実際「思っていたより頑張っている」というのが第一印象でした。歌唱のエース二人が抜け、しかも二人に次ぐ歌唱力であった吉田さんまで欠けているとなれば、もっとボロボロになるかもしれないと危惧していましたが、いい意味でそれを裏切ってくれました。これならどこに出しても恥ずかしくない、と思えるパフォーマンスでした。
 中でも特筆すべきは、吉澤さんの頑張りと進化でしょう。正直、加入時の吉澤さんの歌声は不安定で、頼りないものでした。少しずつ上達はしていたものの、大変なパートはすべて先輩たちに任せていました。
 それが「今日がまだ蒼くても」の落ちサビを任されたのですから、驚きです。
「うおおお! はるるんが落ちサビだ!」
 彼女がセンターに立って堂々と歌い上げたシーンは、今でもよく覚えています。それまで、ビジュアルは整っていても先輩たちの影に隠れる脇役だった吉澤さんが、名実ともにマジカル・パンチラインのエースになった瞬間でした。心中ではさぞ緊張していたことでしょう。あのときの彼女のパフォーマンスには、全力の賛辞を送りたいと思います。

 また、沖口さんのパートが増えていたことも印象的です。中でも「Melty Kiss」のラストの甘いセリフを担当したのには驚きました(後に吉澤さんに変更になります)。それは彼女の「プロデューサーになっても後ろには引かない、現役アイドルとしてガンガン前に出る」という宣言に思えました。

 新メンバーの印象について、それぞれ。
 アイドル・益田珠希の華やかなビジュアルは圧倒的でした。ライブ後、推しを決めていなかった何人ものマジファンが「たまヒカリになります!」と落ちていったものです。しかし、ダンスは上手いものの、歌唱力が三人の中でもっとも不安定だったのもたしかです。音程は合わせられるのですが、声が細い。また表情が固く、当時の写真を見返しても笑っている写真は多くありません。MCでも発言は少なめでした。

 山本さんは、さすがにアイドル経験があるだけあって、三人の中では比較的落ち着いていたように思います。しかし、今の弾けっぷりを知っていると「全然自分を出せていなかったんだな」と分かります(苦笑)ハコイリムスメは、ゆっくりと丁寧に歌うグループでしたが、マジパンはフォーメーション移動が多く、テンポも速く、活動的です。基礎的な技術はあるのですが、ハコイリムスメの「お嬢様」なイメージから脱却しきれておらず、その適応に苦労している印象でした。

 期待通り、いや期待以上に高い歌唱力を発揮してくれたのが、宇佐美さんでした。あの難しい「今日がまだ蒼くても」の歌い出しを堂々と歌い上げるさまは「なんて中学生だ!」と驚愕したものです。これでマジパンの歌は心配ない、と安心しました。しかし、表情がよくない。とにかく必死すぎるのです。まるで、運動会の子供のように。表情に気を配る余裕がまるでなかったのでしょう。写真の撮れ高がもっとも少なかったのは、彼女でした。

 このときに、新生マジカル・パンチラインの新曲として発表されたのが「キラハピ」と「Shiny Shose」でした。まさにアイドル王道と言うべき二曲で、沖口プロデューサーが示す明確な方向性が反映されたものでした。また、吉澤さんデザインの新衣装も、まさかの白一色ながらとても可愛らしくアイドルらしいもので、このときのフレッシュなマジパンにぴったりでした。

 期待、不安、わくわく、心配。いろいろなものを抱え、こうして第四章のマジカル・パンチラインはスタートを切ったのです。


※三人の卒業ライブから新体制初のワンマンライブに至る歩みは、公式YouTubeにてドキュメンタリーとして発信されています。ぜひそちらもご参照ください。

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