破壊の連鎖~いびつな絆が生まれた時代(工藤明男)

元関東連合幹部、工藤明男(柴田大輔)によるエッセイみたいなもの。
自分の出生から、関東連合にいた青春時代、そして少年院に入って青春の終りを迎えるまで。

タイトル上部にはTOKYO UMBRELLAと書かれ、頁の最初にumbrellaについての説明が短く載っている。

umbrella(アンブレラ種)—ある地域の生態系において、食物連鎖の頂点に立つ捕食者

工藤の人生は正に、アンブレラを目指したものだった。そして一時、成し遂げられたのだろう。
2021年、工藤は自分の体を切り刻み、自殺。晩年は孤独で、関東連合OBからの襲撃に怯え、向精神薬をOD、コロナ後遺症、脳梗塞を抱えていたそう。
捕食者の頂点を目指した末路は、悲惨なものだった。これまでけっこう、ノワール小説を読んできたつもりだが、これほど悲惨な末路を迎えたアウトローは、ちょっと見た事無いと思う。
現実はフィクションよりも残酷。

後書きでは、怯えて生きる日常はもう嫌だ平穏が欲しい、と言っている。色々自分を美化するために誤魔化してそうだ、と思う所の少なくない本書だったが、この泣き言だけは本音であったのかもしれない。

しかし新堂冬樹「無間地獄」や「闇の貴族」でも思ったが、工藤もまたアンブレラを目指す生き方しか学ぶ機会を得られなかったのだよな、と。
そう思うと、少し可哀想ではあるし、自己責任と言うのも酷な気がする。
もちろん、やっていた事を正当化するわけではないが。

さて、関東連合と言えば残虐王子の名で知られる、現在も逃亡中の見立真一がよく知られている。

工藤は見立とはチームが違ったらしく、工藤もまた頭がキレ、要領も良かった事から、彼は見立から距離を置かれていた様子。
見立は腕っぷしが弱かったのに対し、工藤は喧嘩が強かった事もあるのかもしれない。
そういや工藤は生前Twitterで「見立くんはただのいじめっ子だよ」と呟いていた。

第二章「非道」では、工藤の見た見立真一の姿が書かれている。

・性依存症だった見立くん

見立くんが初めて少年院送致となった罪状は、強姦。
そして、彼の趣味は強姦だった。多分、いや確実に病気だったと思う。
よく知られているように、見立くんはIQ180を超える秀才。たいへん頭が良かったので、少年院を出た後は逮捕されぬよう巧妙に犯行を続けていたらしい。

・DV系男子、見立くん

見立くんは残虐王子と呼ばれているだけあって、付き合っている彼女に対しても日常的に暴力を振るっていた。
それも、他の男に挨拶をした、話をしたとか、そんなちょっと理解不能な理由で怒鳴り散らし、暴力を振るうらしい。

・爬虫類系男子、見立くん

見立くんは「爬虫類のような、情の無い乾いた目付き」をしていた。
そして奇しくも、見立くんと付き合う彼女は皆、付き合ってから一年くらい経つと同じ目付きになったらしい。

・見立くんのチームで行われる、謎の儀式

皆の敵意を煽り、一人の人間を孤立させる事を、見立くんは最も得意としていた。(嫌な特技ww
そして見立くんのチームでは、見立以外のメンバーがローテーションで孤立させられたそう。まるで通過儀礼のように、順番が回ってくるというこの謎の儀式は成人後も続いた。

・遠回しにいんねんをつける見立くん

見立くんは文句があっても、はっきりと伝えないタイプだったらしい。
ターゲット周囲の人間を使って、すっごく遠回しに「何が気に入らないのかよく分からないけど、文句があるらしい」ってサインを伝えてくる。
すごく面倒くさい男だと思う。


見立くんと同じくらい頁を割いているのが「K」という、関東連合のケツ持ちのような存在の、インテリヤクザ。

ただ、工藤はこのKについては今でも慕う気持ちがあるように感じた。

Kは見立ほどではなかったかもしれないが、かなりヤバい人だったらしい。
舎弟をナイフやスタンガンでいたぶるのが趣味で、当然工藤もそういう事をやられていたはず。
しかし、工藤にKを恨む様子は無い。

Kは工藤の面倒を色々と見ていた所もあったから、それ故かもしれない。
でもそれって、DV被害者の思考では…
瓜田純士の、見立への思いと似ているような。
ちなみに、Kは工藤が警察に追われた際も、親身になり匿った事でとばっちりを受けている。共依存だったのかもしれない。
世が世なら、この二人のBL同人誌が出たかも…

工藤とKの出会いと交流は、上田早夕合「上海灯蛾」の次郎と楊直を思わせる。考えてみれば、彼らの人生は正に「上海灯蛾」だったかもしれない。
醜くて、残酷な上海灯蛾。現実の黒社会は醜くて、残酷だ。





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