pearl(映画)

田舎の貧乏農場の娘、パールの夢はダンサーとして芸能人になる事。
農場での仕事や厳格な母親に閉塞感や鬱屈を感じており、それがやがて彼女を狂気へと走らせる…

オープニングで、とくに理由も無くピッチフォーク(後に彼女のお気に入りアイテムとなる)でアヒルを刺し殺し、ワニの餌にするパールの笑顔は屈託が無く無邪気。
この頃から彼女の狂気は始まっていたという事でしょうか。

パールは別にダンスが好きだから、それを極めて舞台に立ちたいとかそういう事ではなく、芸能界でチヤホヤされて自分の価値を認めてもらいたい、そういう理由でダンサーというか芸能界を目指しているのですが、別にそれについては不純だとか思いませんでした。
芸能界って、~を極めたいとか好きだからとかそういう理由であるよりも、強い承認欲求が理由である方が入る事を目指す理由として自然というか、逆に真っ当な気がしますし。

同時に彼女が芸能界入りを目指す理由としておそらく最も強い動機が、遣り甲斐を感じない合わない仕事と厳格な母親の居る閉塞感から抜け出すというもの。
だからそのための踏み台として、華やかな世界の住人であるハワードと結婚したわけですが、彼は農場の仕事を気に入り婿養子になってしまう。

なぜ単独で家を出て行かないのか、と情夫の映写技師に問われたパールは「両親を置いては行けない」と言います。
パールの父親は寝たきりで、喋る事すらできない状態なのですが、父親が元気だった頃はひょっとしたら母親もああまで厳格ではなく、仲の良い家族だったのかもしれません。
つまりパールを家に縛り付けているのは、家族への情なんですね。

そしてその結果「病気のパパとその看護に追われるママを置いては行けないわ…だからパパをワニさんのご飯にしよう!」ってなる辺りが狂ってるんですけど。

パールってすごい自分勝手なんですが、思考回路が狂い過ぎてて潔く感じてしまうというか。
躊躇い無く殺人やるんだけど真昼間に家の前で堂々と、被害者の断末魔の叫びも鳴り響いているのに、誰からも気付かれないのおかしいやろ、とか。色々現実味が無いせいかブラックジョーク的で、軽く見れてしまう。
あと、ウキウキと軽快に死体をワニの餌にするんですよね。

パールの母親もまた、ただの厳格で嫌な女として描かれておらず、彼女もまた八方塞がりの状況で、ギリギリの精神状態である事が見てて分かる。
時は第二次世界大戦中のアメリカ。そしてパールの家はドイツ系。肩身が狭く貧しい中、家業と夫の介護に明け暮れる日々。
パールも母親も互いに悪意が無くて、本人なりに精一杯頑張って生きてるだけなんですよね。
そしてパールと母親が言い合いになった時、母親もまた抱えていた狂気を爆発させる。

この映画、以前に作られた「Xエックス」という映画に通じているらしい。
Xに登場する殺人鬼婆さんが、パールの後の姿らしいのです。

て事は、ハワードはあの後も妻のパールと暮らし続け、いつの間にか馴染んで自らも殺人鬼爺さんになったという事でしょうか…
幸せそうで良かったです。





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