[いただきました] 那須野公人『グローバル経営論――アジア企業のリープフロッグ的発展』(学文社、2018年)

那須野公人『グローバル経営論――アジア企業のリープフロッグ的発展』(学文社、2018年)をいただきました。ありがとうございました。
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「リープフロッグ」とは蛙飛びという意味。したがって、変化に飛躍があるということです。東アジアの新興国の工業化はこうした一足飛びの変化の好例を提供しているようにみえます。本書も触れている、台湾のフォックスコンによるシャープの買収は最近の印象的な事例でしょう。

なぜこうした飛躍的な発展が起こったのか。

本書の仮説は、「後発国企業のキャッチアップのためのハードルが、グローバル化と情報化、さらには製品のデジタル化の進展と経営それ自体のモジュール化の進展によって、以前の重工業時代に比べて下がってきている」こと、「とりわけ、経営のグローバル化と経営それ自体のモジュール化の進展によって、バリューチェーンの一部を担いながらも、全体の不可欠な要素となることによって、強い国際競争力を持つことが可能」になっており、これが「後発国企業の参入のための負担を大きく軽減」していることです(18ページ)。

かつて私も著書で整理したように、1990年代の「ウィンテリズム」の進展は支配的な製品設計のあり方を変革し、産業組織のあり方を変え(垂直分裂)、さらにはその下での企業間競争のありようも変えました(垂直的競争)。こうした条件の下では、特定の要素技術に特化した専業企業――本書はこれを「モジュール化経営」と呼んでいます――が有利になりやすく、実際、マイクロソフトやインテルはこれを意識的に追求して成功したわけです。本書も触れている台湾IT産業の成功も、こうした条件がなければ起こりえませんでした。国内にフルセット型の産業構造を用意しなければ工業化を果たせなかった時代とは明らかに異なっており、その意味で、本書の主張は適切です。

ところで、2010年代に入ると、先進国の巨大IT企業は事業領域を絞る方向から、事業領域を拡張する方向に舵を切ったようにみえます。たとえばマイクロソフトは、OSやアプリケーションを提供するソフトウェア専業でしたが、ハードウェアやアフターサービスも手掛けるようになりました。これは専業モデルがユーザーに統合的な保障能力を提供できず、個々の要素技術の処理能力が飽和した下では統合的なサービスが競争の焦点にシフトするためだと考えられます。

では、1990年代に成功した新興国の企業は先進国のブランド企業と伍して競争できるでしょうか。事業領域の拡張には膨大な資本力が必要です。フォックスコンや中国のファーウェイ、それからBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)のような少数の巨大企業以外の企業にとって、チャレンジングな外部環境が広がっているように思えます。本書の吟味をつうじてこれまでの新興国工業化の軌跡を振り返るとともに、新興国企業の行く末をじっくりと考えたいと思います。

*本書では私の学会報告(「データ駆動型経済とGAFA」日本比較経営学会第43回全国大会統一論題報告、2018年5月13日、杏林大学も引用していただきました。伏して感謝申し上げます。

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