川名晋史・佐藤史郎編『安全保障の位相角』(法律文化社、2018年)

川名晋史・佐藤史郎編『安全保障の位相角』(法律文化社、2018年)をいただきました。ありがとうございました。
https://amzn.to/2QOy0ly

著者らのいう「位相角」とは、以下のような意味。

本書は二項対立の図式にもとづく従来の言説空間を一次元的な空間ととらえる。左右の極から互いに紐を引っ張りあうような空間である。そこから、個別のイシューごとに対立的な2つの要素を抽出し、それぞれを縦軸と横軸として展開することで、新たに二次元の空間を創り出す。それは、単なる分類ではない。縦軸と横軸の共通の出発点を0度と設定し、そこから放射線状に4つの領域へと広がっていく角度を示すことで、①4つの領域からなる位相の共通点や相違点を可視化するとともに、②領域間の論争を架橋し、調整することを可能とする視座を提供する。このような動的分析を可能とする概念を、本書では位相角と呼んだ。(189ページ)

戦後日本における安全保障をめぐる言説を、上のような意味での「位相」に整理し、論争を調整しようとする意欲的な著作です。

これは、たんなる「言説のマッピング」ではありません。本書がユニークなのは、「可能性の束」(丸山眞男)としての現実の豊かさをつかまえようとする志向性がある点です。著者らの作業は、土佐弘之の「『現実』の変革可能性を構想していく想像力を取り戻すことが求められている」(「『平和のリアリズム』再考」日本平和学会編『平和を考えるための100冊+α』法律文化社、2014年、181ページ)という指摘を踏まえつつ行われたものです。

取り上げられているテーマは以下。

序 文 なぜ位相角なのか 〔佐藤史郎〕
第1章 位相角をとらえる 〔川名晋史〕

 第I部 「遺産」か,それとも「選択」か

第2章 基地問題の「解法」 〔川名晋史〕
第3章 靖国問題の認識構造 〔古賀慶〕

 第II部 国際社会への「貢献」とは何か

第4章 未完の九条=憲章構想 〔中村長史〕
第5章 日本の安全保障政策における国連の集団安全保障制度の位置づけ 〔佐藤量介〕

 第III部 「両義性」をどうとらえるか

第6章 デュアルユースの政治論 〔齊藤孝祐〕
第7章 武器輸出をめぐる論争の構図 〔松村博行〕

 第IV部 軍事と非軍事の「境界」

第8章 開発協力大綱をめぐる言説 〔山口航〕
第9章 大規模災害における自衛隊の役割 〔上野友也〕

本書を通読することで、戦後日本における安全保障・軍事にかんする言説とその連関がクリアに整理されるだけでなく、その対立の構図が時期によって変化していること――これも、本書のいう「動的な分析」の効果のひとつでしょう――をも理解できるでしょう。

もちろん、なにをもって「対立的な2つの要素」とみなすかは重大な問題をはらみます。ただ、この点は本書も自覚しており、「観察者あるいは研究者が第1領域と第3領域の共有する要素を設定することに意識するあまり、縦軸と横軸が窓意的に設定されるという危険性をはらむ」(194ページ)と述べています。

とすれば、重要なのは、本書で整理された言説の「位相角」が、現実のマクロ、ミクロの政治においてどのような効果をもたらしているか、あるいは逆に、マクロ、ミクロの政治が本書の整理した諸言説をいかにして産出しているか、ということになるかと思われます。続編が期待される好著です。(2018年12月14日)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?