[いただきました] 河崎信樹・吉田健三・田村太一・渋谷博史『現代アメリカの経済社会――理念とダイナミズム』(東京大学出版会、2018年9月)

河崎信樹・吉田健三・田村太一・渋谷博史『現代アメリカの経済社会――理念とダイナミズム』(東京大学出版会、2018年9月)をいただきました。ありがとうございました。

本書によれば、「アメリカの経済社会」の「理念」(サブタイトル)とは「アメリカ・モデル」を指します。これは「『自由』という理念に至上の価値を置く自由主義を編成原理として、市場経済と民主主義の経済システムを、可能な限り徹底的な形で構築しているという意味」でしょう(渋谷「アメリカ経済社会の理念――自由主義とリベラルと保守」3ページ)。この理念的な意味での「アメリカ・モデル」は、第二次大戦後、世界各国にインパクトを与え続けてきましたが(グローバル・インパクト)、その具体的な表れは国ごとに異なります。

本書によれば、冷戦崩壊後のアメリカは「アメリカ・モデルのアメリカ・バージョン」を展開してきました。ここで「アメリカ・バージョン」というのは、理念がそのまま現実化することはありえず、たえずそれが展開する現実的な条件との緊張関係(ダイナミズム)があるという当然のことがらに著者らが留意しているからにほかなりません。その意味では、「アメリカ・モデルが最も強く現れるのは、アメリカ・モデルの理念や理想型を実現するプロセスにおいてである」(5ページ)し、「アメリカ・モデルを実現するための闘いの中にアメリカ・モデルが典型的に現れる」(16ページ)ということになります。

つまり、本書の特徴は、アメリカ的理念がどのような経済的・政治的・社会的条件のもとで現れ、それがどのような限界をもっているのかを考察しようとしている点にあります。第2章「アメリカ経済社会の経済構想――労働編成と産業構造、金融・財政」(渋谷)では、労働、産業、金融、財政の国内的な条件との関わりが、第3章「貿易・国際金融構造の変化」(河崎)、第4章「国際経済政策――アメリカ・モデルのグローバル展開」(河崎)では、貿易と通商体制、資本移動、援助政策といった対外的諸条件との関わりが仔細に検討されます。

第5章~第8章では、こうした整理をふまえて、自動車(第5章「自動車産業の再編過程――グローバル化とその社会的帰結」吉田)、農業・食料(第6章「農業・食料産業――アメリカと世界の『豊かな食卓』」渋谷)、ICT産業(第7章「グローバル化の推進軸としてのICT産業」田村)、地域経済(第8章「構造変化が生み出すサービス産業の拡大――アーリントン郡のクリエイティブ産業と保育事業」渋谷)という主要な経済・社会領域の1990年代以降の変化が分析されます。

本書は、依然としてグローバル・インパクトの源泉としての地位を失っていないアメリカをトータルに把握しようとするうえで、コンパクトかつ手近な入門テキストとなる好著です。(2018.10.1)

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