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もり塾の歩き方(5)取材にはビジネススキルと愛が必須

60歳目前。でも人生100年ならは、まだ折り返し地点。
これが最後の挑戦と、「もり塾ブックライター・編集ライター養成コース」に挑んだ野村紀美子の受講体験記、第5回です。

卒業制作として、受講生たちが取材した人物について原稿を書き、それを一冊の小冊子に仕上げることになりました。講義も、取材のやり方や写真撮影など実践的な内容に深まっていきます。「本ができる」と聞いて、私は不安ながらもワクワクする気持ちの方が大きかったのを覚えています。しかし、いざ始まってみると……。

取材のためには準備が重要

インタビュイー、取材対象者の選定が決まったので「さあ取材!」と思ったらその前に、さまざまな準備が必要でした。

まずは、アポイント。アポイントを取るためには、企画書または依頼書が必須ということで、「取材依頼書を作成する」という課題が出ました。

取材依頼書つまり企画書のようなものは、ライターの仕事に限らずオフィスで働く人なら基礎的な知識を持っている人も多いでしょう。

でも私にとっては「キカクショ、イライショ」みたいなイメージ。聞いたことはあるけど、作ったことはおろか見たこともないというありさま。

長く接客販売の仕事に従事してきたこともあって、業務できちんとした企画書を使用する機会はほとんどありませんでした。フェアやバーゲンなどの企画案件は、口頭で担当営業や取引先とすり合わせ、日程や値引などの詳細はメモを交わす程度がほとんど。

お客様に向けて郵送する手書きのダイレクトメールも、シーズンに合わせて多少のアレンジもありましたが、基本は会社指定の文章を使用することが求められていたのです。

その課題が出たとき、「まずその方について詳しく調べることが重要、出版物があればなるべく読んでおくこと。すると取材テーマも明確になり、質問項目もそれに沿った内容になり、執筆にも役立つ」と指導していただきました。

私は、以前からインタビュイーの方に強く関心を抱いていたので、少しの情報は蓄えていましたが、取材のためにさらに詳しく知ろうと思いました。

書籍は3冊を大急ぎで購入して読了、SNSもフォローしてYouTubeの動画もチェック。WEBでも関連記事を探しまくり、あらゆる手段で調べ直しました。

すると私が初めてこの方を知った時よりも、かなり知名度が上がっており、新刊書籍も発売になったばかり。調べさえすれば経歴やエピソードもずいぶんと露出しています。

なるべく新鮮な内容をお聞きしたいところですが、何をどう質問すれば良いのか悩んでしまいました。

それでも先生のお手本と講義を参考にどうにか期日までに仕上げて提出しました。

取材には「愛」

講義で先生は、私の依頼書について「愛が伝わってこない」と、一括。もちろん私の依頼書が未熟すぎることは否めませんが、「愛」?

「不器用でも文が多少へんでもいいから、恥ずかしがらずにもっと自分の思いを伝えたほうが良い。紙や文字で伝える場合は特に言えること」と。

今回の取材では人物の魅力を伝えるのが目的なのだから、その方に対する興味、関心、つまり「愛」が重要だと。

「取材相手の気持ちになって考えて、答えたくなるような質問と依頼文をイメージすることが必要」だと言います。

私の依頼書は淡々としていて、その方の魅力が浮き彫りになる質問項目として成立していないようです。

本やメディアでわかることを聞いてしまうと「私のことをあまり知らないのに取材に来た」と不愉快に思われないように気をつけたつもりでした。

どんなに下調べしたところで、依頼書が魅力的に書かれていなければ、取材の承諾という目的を果たせないかもしれないのです。

ビジネスメールが作れない

その後は、依頼書にオーケーが出るまで別の先生に添削をしていただきました。質問項目やテーマ、企画意図を伝える効果的な言葉選びと文章などを、細かく指導していただきました。

具体的な内容にするために著書を再び確認し、答えやすいけれどあっさりしすぎないよう注意して、思い「愛」を盛り込み、何度も書き直しました。

ようやくOKが出て「やっとメールで送信できる!」と安堵したのも束の間、ここで私は再び困りました。

「こういう場合のメールって、どんな文章で送るのかしら?」

恥ずかしながらこれも経験が全くありません。取引先などにメールを使っての正式な交渉や、商談をしたことがなかったのです。

顧客様に「毎度ご愛顧いただきまして……」、「拝啓、ますます御清祥のことと……」など、定型文のお手紙を書いたことがあるだけ。

ビジネスメールのどの位置に相手の名前が来るのか、自分の連絡先はどこ入れるかなど、これも基本的なことを知らなかった私。

ましてや全く面識のない人に、いきなり取材の依頼を申し込むのですからハードルが高すぎます。

悩んだ末仲間に相談。取材経験のある仲間からテンプレートをもらってどうにかメール文を作成したものの、自信が持てず念の為また先生にチェックをお願いしました。

ビジネスメールに慣れない私は、テンプレートがあるとはいえ一つの文を作るのにかなりの時間を要します。正しい敬語を入念に調べて使用し、わかりやすく好感の持てる文章にはなかなか仕上がりません。

丁寧に早く対応してくださる先生もお忙しい方。すぐには返信もいただけないし、私も仕事の合間を縫うようにして受信と修正を繰り返していたので、あっという間に日々が過ぎていきます。

もり塾のグループチャット上では、仲間たちの「アポが取れた」、「早くも取材を終えた」などの報告や、早い人は初稿の添削依頼のメッセージまで飛び交っています。

アポイントどころか依頼書さえ送付できていない私は焦るばかり。自分のビジネススキルの足りなさに情けないやら悔しいやら。やっとメールを送信できたときは、ほんとにホッとしたものです。

本当にアポは取れるのか

しかし今度は、いつ返信が来るのか、取材を受けてもらえるのかと新たな不安が押し寄せます。

万一この方に取材ができなかった場合のことも考えておいた方が良い、というアドバイスはありましたが、そんな余裕はなくただ祈るばかり。

私の不安をよそに先生方は長年の経験からか、私を安心させるためなのか「多分大丈夫でしょう」と楽観的。私は毎日メールの受信をチェックしながら気が気ではありませんでした。

そして数日後、待ちに待ったメールの返信が! 取材を承諾、期日も指定されました。

「よかったー!」

安心と嬉しさで、思わず道端で声を出して飛び上がりました。同行してくださる先生も調整が可能な日時。晴れて取材ができることになったのです。
(次回に続く)


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