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『「コンピュータ以外のものでAIをつくる」大阪大学 赤井教授の研究』~【新しいweb3ビジネスのアイディアのタネ】2023.10.5


■人工知能をコンピュータから解き放つ

赤井教授は「コンピュータ以外のものでAIをつくる」ことを目標としている。

AIは人間の脳の神経回路を模した「ニューラルネットワーク」の技術を基本とし、コンピュータのソフトウエア上で動く。「人間の脳に比べ、コンピュータは計算のたびに全体に電気を流す必要があり、スピードは速くても膨大な電力を消費します」。加えて、通信ネットワークなしでは機能しない。

「コンピュータをどんなに小型化しても、その課題から脱せないのなら、次の世代の何かがあるべき。コンピュータを使わずに計算や判断ができるものをつくりたい」と考えるに至った。

先日、常飲している薬をもらうためにかかりつけの街の病院に行きました。

混んでいると1時間以上待つことになるのですが、この病院はそうとう厳重にスマホの通信を遮断してあって、その1時間以上の待ち時間は強制的にスマホ断ちさせられます。

医者先生に「Wi-Fiを導入してください」とお願いするもけんもほろろ。小さな医院なので精密な検査機器もないのですが、今のスマホの電波は医療機器にどのくらい影響があるものなんでしょうね?

そんな街の病院で体験した「通信できないスマホ」の役に立たなさからも、今回ご紹介する大阪大学の赤井教授が研究されている「通信しない、コンピュータではない、モノの人工知能」はとても魅力的に感じます。

大阪大学 理学研究科 教授 赤井恵
1997年大阪大学大学院理学研究科博士課程修了。博士(理学)。2007年同大工学研究科助教。15年科学技術振興機構CREST・さきがけ複合領域研究員を経て、20年9月から北海道大学大学院情報科学研究院教授。21年から現職。


電力を使わず通信もしないAI

ChatGPTに代表される生成AI(人工知能)の台頭で、AIは我々の生活により身近なものになった。むしろ、AIがなければ生活に支障を来しかねない時代になったと言えるかもしれない。しかし、現在のAIはコンピュータの中でしか機能しない性質を持つ。赤井恵 教授は、コンピュータの次の世代として、日常にあるリアルな物質にAIの能力を持たせるための独創的な研究を続けている。

AIというと、巨大なサーバルームに高性能なGPUを積んだマシンが冷却ファンをブンブン回して計算しまくり、スマホやパソコンから打ち込まれた言葉から画像や文章を人間っぽく返すアレが今のイメージです。

サーバルームはこんな感じ

大電力を消費しますし、最近ではリアルタイムでインターネットから検索した結果を使って要約文を作ったりする都合、高速通信も欠かせません。そしてAIサーバの計算結果を手元のスマホに表示させる時も通信回線経由で届きます。

これが人工知能=コンピュータの現在です。

しかし「通信せず・充電せず長時間動く知能体」というのは世の中にはたくさんあります。

それは、生物です。
知性の程度はさまざまですが、自律的に活動し、かんたんな計算ができるものもいます。

コンピュータじゃないものでも、計算能力がある。
生物としては自然界に存在していて、その生物の仕組みを物理的に再現すれば、人工的な知能になる。

生命を人間が作るのとはまた違う、創造主的な発想です。
そして、コンピュータの高度化や小型化とも違うアプローチです。


コンピュータを使わずに計算や判断ができるものを作る

赤井教授によると、コンピュータのCPU(中央演算処理装置)に使われ、ナノ(10億分の1)メートルレベルまで微細加工技術が進んだ半導体でも、現状では2次元、つまり平面でしか配線できない。

今のCPUやGPUは、どんなに高性能なものでも2次元配線、つまり平面なのだそうです。

これを、液体などを使って3次元化することで、生物の脳や神経回路に近づけることができます。

「もともと脳の中は3次元で配線され、空間を電気信号が行き来しています。しかし、3次元で配線する技術は、我々のテクノロジーにはまだありません。2次元から1次元上がるだけで、全く違うオーダーの配線が可能になります」。

3次元に配線できれば、「非常に複雑な計算を解く人工知能的な構造に近づくのでは」と赤井教授は考える。それが意味するものは「今までにない素材を使って小型の人工脳ができる可能性を示した」ということだ。

3次元配線の技術ができれば、コンピュータの高度化にも使えるでしょうが、赤井教授はこれを「コンピュータを使わずに計算や判断ができるもの」の発明に使いたいとおっしゃっています。


AIチップどうしがつながり巨大な知能体に

さらにその先は、ポリマーなどの有機物を使って、AIの入った小さなチップを実現したい、と夢を描く。

コンピュータのようにCPUを使わず、特定の機能に特化した、いわば「分業制」のデバイスだ。「例えばチップを木に貼り、病気になったらアラートが鳴るようにする。木の声が聞けるようになればいいですね」。そんなチップが社会のあちこちに散らばり、それぞれの役目を果たす世界。

IoT、モノのインターネットという言葉がありますが、それはモノに通信チップを内蔵させて実現させる前提のことが多く、またモノ側で何かの判断はしないケースも多いものです。

「AIの入った小さなチップ」が想定しているのは、単なる通信インターフェースではなく、自律的に思考・判断するAIチップです。ただし、個々のAIチップは高度なことは行わない・行えない想定です。

それでも、街中にチップがたくさん設置されて、それらが全体としてつながれば、巨大な知能体として動くかもしれません。


博士とは、キュリオシティ(好奇心)の先駆者としての称号

赤井教授にとって研究とは?
好奇心ですね。「博士とは、キュリオシティ(好奇心)の先駆者としての称号」という言葉が好きです。好奇心を生まれ持ち、それを抑えられない人たちが研究を続けているのだと思っています。

世の中に製品として出てくる前の「研究」の分野はおもしろいですね。ChatGPTのすごさにワクワクはしますが、それ自体は限界も見えますし課題も噴出します。

現在の生成AIを「コンピュータの中でしか機能しないもの」と捉え、電力を使わず通信も必要ないAIが必要だと考える、研究分野としての課題設定が非常に興味深いと感じます。

産業界ではもっと短期的に実利を求めますが、こういう研究分野があってこそ産業として花開いているわけで、学術研究とその根っこにある好奇心は改めてとても大事だなぁと思わされました。

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