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『1週間で100万本売れたゲーム『Cult of the Lamb』のマーケティング5箇条に学ぶ』~【新しいweb3ビジネスのアイディアのタネ】2022.11.13

■1週間で100万本売れたゲーム『Cult of the Lamb』開発元のSNS担当が「バズるためにしたこと」を明かす。ただしバズらなくてもいい

『Cult of the Lamb』は、カルト教団の運営とダンジョン探索の要素を持つアクションゲームだ。
(中略)
かわいらしいグラフィックと「カルト教団の運営」というブラックな要素のギャップが注目を集め、8月12日のリリース後1週間で売り上げ100万本を達成した。
(中略)
売り上げを支えたひとつの要因が、本作のSNS戦略だろう。Twitterの公式アカウントのフォロワー数は、記事執筆時点で18万2000人にものぼる。本作のSNS戦略について、Jared J Tan氏がその取り組みを紹介した。

いやぁメチャクチャ参考になります。
当然このままプロセスを真似ればいいというわけではありませんが、ファンファーストな視点・トレンドに乗ることの躊躇のなさなど学ぶべきことが多いと感じました。


■SNSマーケティングの5要素

Tan氏はソーシャル上でのゲームマーケティングについて、5つの要素を考慮したと述べている。「ストーリーを理解する」「感情を呼び起こすコンテンツ」「熱心なファンの熱心なファンであれ」「トレンドを予想する」「アセットの有効活用」の5つだ。

1.ストーリーを理解する
2.感情を呼び起こすコンテンツ
3.熱心なファンの熱心なファンであれ
4.トレンドを予想する
5.アセットの有効活用

の5つの要素を挙げています。


1.ストーリーを理解する

「ストーリーを理解する」というのは、ここでは広告戦略上の筋書きを指すと思われる。開発陣に聞き取りを実施し、このゲームのユニークな要素は何であるか、どうすれば伝えたいメッセージが素早く伝わるかを明確にする作業だ。

「広告戦略上の筋書き」があることは言うまでもなく非常に重要なことですが、意外にできていないプロジェクトも多くあります。

SNSアカウントやDiscordを作るだけ。プレスリリースのような固くて一方通行の情報発信だけ。そんなプロモーションはよく見かけます。

ではどうやって筋書きを作ればいいのか。

「開発陣に聞き取りを実施し、今ゲームのユニークな要素は何であるか、どうすれば伝えたいメッセージが素早く伝わるかを明確にする」とされています。これは実は案外難しいことです。

広告戦略を担うマーケティング担当者だけでなく、開発陣やその他スタッフがみんな製品のユニークなセールスポイントを理解していることが必要です。

これができるプロダクトは、企画初期から良質なプロダクトを皆で作ろうというモチベーションがあります。そしてチームが縦割りになっていないことの証拠であり、魔法のような広告宣伝にだけ頼るのではなくプロダクトに自信がある証拠です。

「売り」が言語化できたら、それを一番効果的に伝える方法をマーケティング担当者が考えます。これは何を伝えたいのかの意思や目的を担当者自身がきちんと持っている必要があります。

また時代を理解するセンスが必要です。SNSマーケティングで何が流行っているのか、何をやると失敗するのか、そのあたりの知見をマーケティングの専門家として誰よりも知っているからこそ打ち手を決めることができます。

つまり、企画初期からイイモノを作る意思があり、チーム全体が一体化しており、マーケティング担当者がきちんとプロフェッショナルな仕事ができる人。この3点セットが揃っているからこそ広告戦略のストーリーが描けます。


2.感情を呼び起こすコンテンツ

「感情を呼び起こすコンテンツ」とは、SNSを見ているユーザーに本作がもたらす驚きを指している。かわいらしいキャラクターが残虐な行為をするというギャップはユーモアを生み、SNS上でも機能するというのだ。

プレスリリースのような固く一方通行のプロモーションだけ、の真逆です。ユーザーの心を動かすことを狙うことに徹底することがプロモーション成功の秘訣だとしています。

そして何が感情を動かすのかのポイントはプロダクトのユニークなセールスポイントそのものである必要があります。煽情的な広告を打ってもプロダクトが心動かさないものだと成功しません。


3.熱心なファンの熱心なファンであれ

Tan氏は続けて「熱心なファンの熱心なファンであれ」と述べている。本作の公式アカウントはユーザーの作品にコメントを添えて紹介するなど、ユーザーの盛り上がりや創作に対して協力的な姿勢を維持してきた。

これは1.と2.の運営サイドが考えたプロモーション施策を実行するのとは少し違う視点です。

ファンが何に反応しているのかを観察して、その声を加速させるように企画しよう、という考え方です。

ファンが何かに反応している状態は火種です。そこに運営サイドが油を注ぐわけです。運営サイドの一方的な宣伝企画だけではない上手なやり方です。

カラスの信者は、顔の横にくちばしがありながら、顔の正面にも口があるという、口が二つあるかのようなデザインになっていた。デフォルメによって生まれたツッコミどころのある顔になっており、このカラスのデザインはTan氏いわく「多くの人が肯定的ではなかった」という。

肯定的かどうかはともかく、バズっているポイントを見つけてそこに油を注ぐ。ファンと一緒に盛り上げる。

そこでTan氏は公式アカウントに、カラスの信者とそのくちばしの画像を投稿。ユーザーが自由に信者の画像を作り、投稿するように促したのだ。

SNSをマーケティングに使うなら、ユーザー自身が投稿するように促すのは定石です。何を投稿させるのかを運営が机上で考えるのではなく、ファンが反応しているポイントを見つけて投稿材料にしていく企画方法は非常に効果的です。


4.トレンドを予想する

「トレンドを予想する」ことも重要だ。SNS上で特定の話題がトレンドになることを事前に見込める時は、それに合わせた投稿を用意していたという。

映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」のトレイラーが発表された際は、映画というがワードとしてトレンドに上ると見込み、映画風ポスターを投稿していた。

季節ネタを当てるのもトレンドを予想する簡単な方法です。それを世間のバズトレンドにまで広げて、躊躇なくブームに乗っかっていく姿勢はとても大切です。

プロダクトへの思いが強い運営サイドは、ともすると「衆愚に迎合するな」と言わんばかりの態度を示すことがあります。しかし広告プロモーションは特に、ブームやトレンドが大事です。

しかしながら、3.のファンの火種に油を注ぐ後追いアクションばかりやっていると、ファンからも迎合していると見なされて冷めることがあります。そこでこの4.のトレンドを予想して運営サイドから乗せに行く態度も必要になります。

このバランス感覚を持っていることがマーケターには必要です。


5.アセットの有効活用

こうしたSNS上での戦略を展開するには、映像や画像といった「投稿する素材」が必要だ。Tan氏は最後に「アセットの有効活用」にも言及している。『Cult of the Lamb』の場合、すでに用意されている映像を編集し、さらにハイペースな”魅せる”紹介映像に編集したとのこと。

これは重要ポイントの解釈が少し異なります。
アセットの有効活用が重要なのではなく、顧客接点を作る「頻度」が大切だということです。

既存アセットを活用することで短時間にたくさんの顧客接点を作ることが大切。時間をかけて良質なものを作るのではなく、数が大事だと理解しました。

単純接触効果とも言いますが、たくさん会っている人には好意的な印象を持つということです。

例えて言うなら、TV局が莫大な予算をかけて「良質な番組」を作るよりYouTubeで毎日10分の動画を流しているYouTuberに好感や信頼感を持つのが最近のトレンドです。


必ずしもバズる必要はない

同氏はあわせて、ゲームが売れるために必ずソーシャル上でヒットする必要はないとも述べている。ゲームをできるだけ多くの人に見せることが重要であり、そのゲームを見かけるごとにユーザーは購入に一歩近づくとしている。

バズること自体を目的化しない方がいい、のは間違いありませんが、「多くの人に見せることが重要」とも言っています。

瞬間的にバズるようなプロモーションは冷めるのも早いもの。バズというピークの高さを狙うのではなく、「期間あたりの総量」としてできるだけ多くの人に見せる「面積」という発想です。

プロダクトが良質で運営も善良なら、長期間にわたって楽しんでもらうことを目指します。

この点が1.に戻る部分で、広告だけに頼らずちゃんとプロダクトに力があるからこそできるプロモーション施策です。


■暗号資産の冬だからこそ本質を磨く

LUNA崩壊とFTX破産はどちらも本質価値を磨かずFintechに溺れた結果のように見えます。またNFT、チェーン、トークン、BCGなどのプロジェクトでも本質価値が薄いFintech頼りのプロダクトが散見されます。

Why NFT? Why Blockchain?とはよく言ったもので、NFT嫌い、ブロックチェーン嫌いから狙われるポイントにもなってきました。過度な伝統主義者は時代に淘汰されるとは思いますが、先進主義者の地盤が緩かったのも確か。

『Cult of the Lamb』のプロモーション施策をこうやって見てくると、プロダクトが本質的に強く、運営チームとファンに一体感があり、それらを言語化する能力に長けたマーケティング担当者がプロの仕事をしたのだなぁと思います。web3業界は無理筋なFintechに頼りすぎ・夢見すぎでした。

暗号資産の冬はこの緩い地盤をきちんと固め、ブロックチェーンの本質的な価値を活用したプロダクトの開発やコミュニティの結束力にパワーの源泉があることを証明するよい時期になるのではないかと思います。

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