見出し画像

『STEPNに学ぶ「to Earn」実現に必要な構造』~【Web3ビジネスのアイディアのタネ】・Web3ニュース2022.5.25

おかげさまでWeb3企画のご相談を多数いただくようになりました。

Web3プランナーとして企画のお手伝いから実装パートナーの手配などWeb3らしいことを目指すプロジェクトの実現にタッチできるのはとてもありがたいことです。

なかでもご相談が多いのは「to Earn系」のNFT企画です。
そしてご相談者の念頭にあるのはやっぱりSTEPNのEarn規模、食えるほど稼げる、です。

ただ、STEPNがなぜユーザーにEarnを提供できるのかについて誤解も多いので、私なりの理解も交えながら整理分解してみたいと思います。

といっても世間でよく言われている「STEPNはポンジスキームなのか!?」の話ではなく、どうやって多額のEarnを実現しているのかの話です。


■STEPNで多額のEarnを実現する仕組み

STEPNの収益構造全体については★しゅんさんのこの動画が一番わかりやすかったのでご紹介します。

★しゅんさんのYouTube動画より引用

上記の図説の通り、運営の収益はSTEPNユーザーがシューズを「ミント」(所有する2足から新しい1足を生成すること)し、それを売却した売り上げの6%を手数料として取ることがメインになっています。

他にもアプリ内で暗号資産同士を両替する手数料0.5%もありますが割合は大きくないと思います。

この収益構造だからこそ多額のEarnを実現できています。


〇 STEPNのよくある誤解

1.運営はシューズNFTを発行しユーザーに高額で売ることで莫大な収益を得ているんでしょ。
2.ユーザーは歩くことで「GST」という独自通貨(ゲーム内ポイント)を稼げるけれど、GSTは勝手に発行した本来無価値なコインであり、元は他のユーザーの初期投資を小分けにして時間稼ぎして分配してるだけでしょ。

簡単なスニーカーのイラストを10万で売って、売り上げをユーザーに分配してるだけ。しかも勝手通貨で。さぞかし運営は儲かるよね。

STEPNのよくある誤解

こう捉えている方が多いです。
全部が誤解でもありませんが、「1」は間違いなく誤解です。

運営はシューズNFTを売る立場にありません。
シューズを売っているのはユーザーで、運営は6%の販売手数料を取っているのみです。

他にも両替手数料を0.5%取ったりはしていますが、この薄い手数料収入しか売上らしい売上はありません。


〇 ユーザーが何万円もEarnできる仕組み

確かに、ユーザーが初期投資する高額のお金をユーザーのEarnの原資にしているのはその通りです。

しかし短時間のウォーキングで何万円も払えるのは、STEPN内で流通しているお金の大部分をユーザーのEarnに回すことができるコスト構造に特徴があります。


1.ゲーム・アプリ自体がシンプル

STEPNアプリはゲーム性自体が簡素でグラフィックも凝っていません。

無数にあるシューズもポリゴンチックなシューズイラストのテンプレートが数種類、模様や色の塗り分けを自動化してランダム・ユニークにしているだけなので、毎回イラストを描き起こすコストもかかりません。

プログラミング部分も少量なので開発者にかかるコストも少なくて済みますし、セキュリティコストをかけなければならない箇所も少なくて済みます。

2.サーバサイドのコストも最小限

ゲーム性がシンプルなため、サーバサイドのコストも最小限で済みます。
DeFi・GameFiを司る部分もソラナチェーン・BNBチェーンでガス代が少額です。

3.広告宣伝費・マーケティングコストが最小限

「歩くだけでめちゃくちゃ稼げる」というキャッチーさだけで特別な宣伝をしなくてもクチコミで世界中から多数のユーザーが獲得できています。

4.総じて運営体制のコストが小さい

これらの条件が揃っているうえ、6%という手数料率に抑えても大丈夫なほど運営体制がスリム。しかも高利益を求めない姿勢も相まって、大半のお金をユーザーのEarnに回すことができています。
多くの株式会社でネットビジネスを計画する時に粗利率6%で利益設計することはないはずです。この体質・気質がWeb3らしいと感じます。

5.Earn対価が独自通貨のGST

シューズNFTの性能に応じて機械的にEarnの量を約束(スマートコントラクト)をするかわりに、Earn報酬を独自通貨=GSTとし、価値を変動相場制にすることで運営が破綻しないように調整できるようにしています。

Earn額を機械的に約束する場合は支払い可能な予算額の価値を変動させる。
法定通貨など価値を変動させられないもので支払う場合はEarn額を総予算都合で変動させる。

基本的にはこのどちらかを選択する必要があり、STEPNは前者を選択しています。

私のシューズのステータスだと1日27.39GST稼げると「算出」できる

ユーザーにとっては「約束通りに払われる安心感」や「計算式どおりに稼げる計画性」に映ります。10日後にはいくら稼げる、何日で原資回収できる、などの確定的っぽい情報をユーザーがSNSやYouTubeなどで拡散してくれるようになります。

実際は運営側のEarnの予算プールとユーザーのEarn状況に応じてGSTの価格がある程度変動するため「〇日後に原資回収完了」が計画通りにならないことが起きます。この変動相場制は運営を守るために機能します。

もしEarn対価が法定通貨やイーサリアムなど通用通貨であれば運営が価値を制御することができませんので、STEPN側の事情ではないところで破綻する可能性が高くなります。

通用通貨をEarn報酬に使いながら破綻を防ぐためにはEarn予算をあらかじめ固定してユーザーに予算を分配する方式か、抽選で配布するような仕組みにせざるを得ません。
または絶対に運営が破綻しない程度の少額に抑えるかです。

わずかなEarn額だと「歩くだけで食っていけるレベルで稼げる」ほどのクチコミ効果は得られず、広告宣伝費をかけて普及させなければならなくなります。

歩いて少額のポイントが稼げる、というものは昔からありますが、それほど広まっていないのが証左です。


■まとめ

まとめると、
「STEPN内に流通するお金の94%をユーザーへのEarnに回し、わずか6%の収益で運営できるようにコストが最小限になるよう工夫している」
と言えます。

・STEPNは圧倒的低コストで運営可能なアプリやUXに限定し、運営自身もそれほど利益を取らないことでたくさんユーザーに稼いでもらえるようにしている。
・「歩くだけで稼げる」キャッチーさで広告費も削減(どころか普通リーチできない世界中の人を巻き込めている)。
・機械的にEarn報酬を払う信頼性を提供する代わりに価値変動する独自通貨を採用することで魅力的かつ破綻しないようにしている。

これら条件を満たすことでMove to Earnを実現しています。

独自トークンを正面切って使えない日本企業・現状の日本の法制度ではどうしてもEarnの額が小さかったり、抽選などガッカリ感のある方法しか取れないのが現状です。

また、超リッチな見た目のゲームでto Earnをやろうとしたり、運営が大儲けを狙って50%トップオフするような高利益率設定でto Earnをやろうとするのは無理があるということもわかります。

ただ僅か6%の粗利であってもSTEPN運営が儲かっていないわけではありません。

2022年第1四半期で198635.62SOL分(26815807.35ドル/約33億円)の利益を出したとしています。また最近のAMAで運営体制を100名規模にすることも発表されています。

94%もEarn原資に回しながらもこの利益規模をたった半年のスタートアップで実現できています。このスピード感がグローバルなWeb3らしいところです。


■STEPNの実態はNFTの長期ステーキングDeFi

シューズNFTはソラナで売買します。
そしてその売買手数料もソラナで徴収します。
ソラナ(SOL)は市場で値付けされている暗号資産です。

ユーザーに払い出すのは独自通貨のGSTです。
可能な限りGSTはSTEPNアプリ内で使用されるよう、レベルアップやシューズミントなどでの用途をたくさん提供します。

レベルアップするともっと稼げる、シューズを増やすともっと稼げる、という「未来」を見せることでGSTがSTEPNアプリ内で消費されるように指向させ、GSTがソラナやUSDCに換金されることを可能な限り遅らせます。

この構造はシューズNFTを長期ステーキングして利子報酬を得ている状態と同じです。

極端な話、DeFi的には歩くことは必須ではありません。
長期ステーキングすれば利子がもらえる。それだけです。

ただ「NFTステーキングのDeFiです。利子はGSTで払います。APY1000%です。」と言うだけではよくある怪しい魔界コインのDeFiに見えてしまい、投資家が集まりません。

「歩くだけで何万円も稼げる」というUXがDeFiにくっついた結果、世界中で大流行になったわけです。そういう意味では「歩く必要性」が運営にはありました。

NFTステーキングDeFiなので、暗号資産全体の相場の影響を受けますし、ステーキングしてくれる人がいなくなったり換金要求する人が増えすぎると破綻します。

ステーキング期間を明示的にロックできないのもSTEPN独特な部分です。2年定期預金すると利率は〇%です、というのが通常なところ、ユーザーの欲望によってステーキング期間を自ら延長させるように仕向けています。

運営側の事情で払えるEarn予算を中央集権的に決める方法ではなく、市場経済の原理でGSTの価格が変動するDeFi前提でシューズ需要などをゲーム内ルールでコントロールすることで実現するという点がSTEPNの真骨頂です。


■「to Earn」はオマケではない。

STEPNがすごいのはこのDeFiの報酬バランスをゲーム内のルールやAMA(Ask Me Anything)での情報発表の仕方でうまくコントロールしていることです。金融のスペシャリストだからこその経済設計で「ゲームにto Earn要素を足しただけ」とは次元が違います。

特にシューズの性能に応じて固定的に報酬を配布する、という仕組みと、ユーザーにとって魅力的に見えるEarn額をバランスさせる妙が素晴らしく、だからこそto Earn要素をサービスに組み込むのが実際には困難なのです。

機械的な報酬の支払いは非常にバランスを取る難易度が高いので、たとえばRPGでギルド運営のお手伝いをしてくれたらいくら払う、払う額はその時のご時世次第、のようにしておいた方が実装しやすいかもしれません。ユーザー間で助け合いと報酬を払い合うようにできれば非中央集権っぽい自律的な経済活動の環境になりそうです。

日本国内のプロジェクトで多くの場合現実的なのは、ゲームならゲームの楽しさの方をきっちり作り込み「to Earn」を集客の中心に据えないことです。ましてやオマケ程度にポイント報酬を配布することを、流行っているからといって「to Earn」と呼ばないほうが良いと考えます。

でも「to Earn」要素を入れるとすごくよい味付けになることも多いので、外向きに声高に「to Earn!」と言わなくても企画検討に混ぜてみるのはすごく良いと思います。企画会議が盛り上がります。


■楽しいWeb3企画、お待ちしてます。

ここまで見てきた通り「to Earn」は収益構造・コスト構造ともに既存ビジネスと違う発想をしなければならないところが多くあります。

そこがWeb3の面白いところであり新しいところだと感じています。

STEPNは相当練りに練られた素晴らしい仕組みだということがよくわかりますし、多くの人に暗号資産やブロックチェーンの可能性を感じさせ、勇気を与えてダイブさせた功労サービスだと思います。

そんなサービスを作りたいと考えた方、お力になれるかもしれません。
Web3プランナーが必要になりましたらいつでもお声がけください!

ご連絡、お問い合わせはTwitter DMにてお待ちしております!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?