クマ邸

 クマ邸の防衛システムは時間を止めてしまう。

 だから泥棒が何人いようが無力だ。

 警報が鳴る。時が止まる。
 するとその世界を一人自由に行き来できるクマばあさんが、がたがたと家の戸を開けて出てくる。

 そうして入れ歯のない口をモグモグしたりしながら、曲がった腰で時間が止まった泥棒たち一人ひとり荒縄できつく縛り上げていくのだ。

 彼らが気づいたときには干し柿や新巻鮭と並んで軒に吊るされていることになる。

 これは元は自然の時空の歪みだとかで、何か敷地に敵意が近づくと、そうなってしまうとのことだった。
 クマ婆さんは生まれたときからその家に住んでいるから、彼女だけは時間が止まっても動けるとのことだ。


 その邸の秘密を探りに、色々な国の諜報機関からその辺の泥棒にいたるまで、村には招かれざる訪問者は多い。
 かくしてクマ婆さんの荒縄しばりの腕だけが上がって行く。


 野球なんかしていて、ボールがばあさんの家に入ったときは大変だ。
 内緒でとりに行く気配を出そうものなら時間がとまる。

 次の瞬間、僕らはみんな逆さまになって吊るされている。
 婆さんは僕らがボールを取りに来たことは分かっている。
 でも、度重なる他人からの侵入行為で疑心暗鬼になっている

 宅配や郵便の人なんかも吊るされる。
 これは彼らの敵意ではなく、クマ婆さん本人から発せられる敵意だろうと、村の人たちは薄々気づいている。

 ただこれに関しても、クマ婆さんが悪いとは言えない。
 僕らの近所は、色々な国から内緒で婆さんの見張りを頼まれているから。

 数十億でこの土地を売ってくれなんて話もあるけど、そういう動きがあると、時間が止まってしまう。

 部外者には手が出せないのだ。

 そういうことで、僕らは今日も彼女の家にボールを投げ込む。中には探知機とか、カメラなんかが入っているらしい。
 そうやって、いろんな国の調査に協力している。
 
 村の小学生はこれが仕事だ。

 父も祖父も、こうやって日銭を稼いでいた。

 ただ、突飛な家を建てたり、豪華な車を買うと時間が止まってしまう(保守的なのだ)。
 そのため、村は何百年もこの状態を保ったままだ。
 
 僕らはとても裕福だ。
 ひょっとしたら、クマ婆さんの目的はそれなのかも知れないと思うこともある。
 
 とにかく僕らは、今日も学校が終わると、婆さんの家にボールを投げ込む。
 これで都内にビルが建つというのだからやめられない。



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