森本修代

地方紙の記者を29年2カ月勤め、2022年5月末に退社しました。2020年6月に『赤ち…

森本修代

地方紙の記者を29年2カ月勤め、2022年5月末に退社しました。2020年6月に『赤ちゃんポストの真実』(小学館)を出版しました。美談的な報道に疑問を持っており、報道のあり方などについて考えたいです。

最近の記事

暴行死疑いの女児が「赤ちゃんポスト」に預けられていた、というニュースに感じるモヤモヤ

三重県で4歳女児に暴行し死なせたとして、母親が逮捕される事件がありました。この女児は生後間もないころ、熊本市の慈恵病院が運営する親が育てられない子どもを預かる「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)に預けられていた、と報道されています。このニュースについて私が感じる「モヤモヤ」について書いてみたいと思います。 事件は既に警察発表を基に実名で報じられており、この記事の中に実名はなくても、特定することは容易にできます。子どもを赤ちゃんポストに預けた母親が特定可能な状態で報じら

    • 子どもの権利はどうなるのかー 国の内密出産ガイドライン

       「内密出産のガイドラインを国が公表へ」というニュースが駆け巡りました。熊本市の慈恵病院が独自に導入したとしている内密出産について、国はガイドラインで「親に対して出自を知る権利をきちんと説明する」「戸籍法で義務付けられている出生届を親や医師が出さなくても、市区町村長の職権で戸籍が作れるという解釈を明確にする」などと報道されています。内密出産は「いいこと」であるかのような報道が続いていますが、果たしてそうでしょうか。 親に会いに行けるのか?  まず、出自を知る権利について考

      • 私が新聞記者を辞めた理由

        巨大な岩 29年2カ月続けた新聞記者を2022年5月末に辞めました。仕事は楽しかった。面白かった。辞めたくて辞めたわけではありません。目の前に突然、巨大な岩が立ちふさがって前に進めなくなってしまった。そんな感じです。  拙著『赤ちゃんポストの真実』(小学館)を出版するとき、会社ともめたことは既にnoteに書きました。けれども、読んでくださった方から寄稿の依頼を受けたり、講演の依頼が来たりするようになったので、少しずつ風向きが変わるかなあと淡い期待を持っていました。ところが…

        • 「内密出産」を巡る報道の無責任

          「裏を取る」新聞記者なら情報の「裏」、つまりその情報が事実であるかどうかの根拠を確かめることは基本中の基本です。私は駆け出しのころ、デスクから「こういうことか?」と聞かれ、「そうだと思います」と答えたらこっぴどく叱られました。「思う、で記事を書くな。伝聞や想像で書くな。事実かどうか確かめろ。裏を取れ」と厳しく指導されました。記者はみんな同じような経験があると思います。 熊本市の慈恵病院が独自に導入したとしている「内密出産」について、連日のように大きく報道されています。報道に

        暴行死疑いの女児が「赤ちゃんポスト」に預けられていた、というニュースに感じるモヤモヤ

          文春オンライン報道への疑問

          2021年11月に配信された文春オンライン「『誰にもばれずに出産したいです』そう告げた19歳女性は、なぜ『内密出産』をやめたのか」について、感じた疑問を書かせていただきます。 この文章は、内密出産制度を「導入した」と主張している熊本市の慈恵病院に、「誰にもばれずに出産したい」と言って相談してきた19歳の女性に関するものです。内密出産をしたいと言ったものの、女性に軽度の知的障害があることが分かり、院長が育てる里子を見て翻意し、自分で育てることにした、というものです。 記事に

          文春オンライン報道への疑問

          内密出産は本当に母子を救うのか

          「内密出産 国内初か」 2022年1月、こんなニュースが駆け巡りました。匿名で子どもを預かる「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)を設置している熊本市の慈恵病院が、内密出産を希望した女性が出産した、と発表したのです。 内密出産は、相談機関では実名を明かし、医療機関では匿名で出産する制度で、ドイツでは法制化されています。慈恵病院も「制度を導入した」と発表しましたが、国内では法制化されておらず、熊本市は「法に抵触する可能性がないとはいえない」として控えるよう求めています。

          内密出産は本当に母子を救うのか

          新聞社で言論の自由がない

          ちょっと物騒なタイトルをつけてしまいました。言論の自由を標榜している新聞社で、言論の自由がないなんて? 私自身、そんなことあるはずがないと思ってきました。私は新聞記者になって28年。言論の自由はもう空気みたいなものだと思ってきました。 きっかけは2017年12月、朝日新聞が1面トップで「内密出産導入を検討」という記事を出されたことです。熊本市で赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」を運営している病院が、匿名で出産をする制度の導入を検討していると書かれていました。「朝日にこん

          新聞社で言論の自由がない

          「内密出産」に思う

          「内密出産」に関して最近報道されているので、見聞きした方も多いかと思います。「赤ちゃんポスト」を設置している熊本市の慈恵病院が独自に導入した、としています。匿名で妊婦を受け入れ、病院の新生児相談室長だけに身元を明かし、生まれた子どもは赤ちゃんポストに入れられた子どもと同様に一人戸籍を作ってもらいたい、としています。匿名で出産したいとして女性が相談に来て、病院が保護したというニュースがありました。 内密出産はもとはドイツで法制化されたものです。赤ちゃんポストもドイツをモデルに

          「内密出産」に思う

          「赤ちゃんポストの真実」を出版して

          初めまして。森本修代(のぶよ)と申します。地方紙の記者をしています。 昨年、『赤ちゃんポストの真実』と題した本を出版しました。「赤ちゃんポスト」は熊本市の病院が「捨てられる命を救いたい」という目的で2007年に設置したものです。正式な名称は「こうのとりのゆりかご」といいます。これまで159人の子どもが預けられました。 私は15年から18年までの3年間、担当していました。今後も取材を続けるつもりでしたが、担当を外れたため、業務外の時間を使って取材を続け、本にまとめました。出

          「赤ちゃんポストの真実」を出版して