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「冷めないピザ」が焼けるまで

 少し前の夕食に、鶏肉と高菜の水餃子を作った。
 大量生産して冷凍することもできたのに、初めて作るからレシピに忠実に10枚だけ使った。あと20枚の餃子の皮がある。
 さて、どうしたものか。
 寒い時期だったら鍋で泳がせてしゃぶしゃぶにするのもいい。しかし今は夏真っ盛りだ。私が住む土地では日中は蝉、夜は蛙が鳴いている。
 暑い時こそ熱いものという気分にもなれない。
 去年の夏は自宅療養であまり外出しなかったからか、一年越しの猛暑にまだ慣れていない。どうやってやり過ごしたのか覚えていないのは、空調の効いた屋内にいたからやり過ごす必要がなかったからだ。
 しばらくうんうんと悩み続け、パッと閃いたのが餃子の皮のピザだった。
 小さな丸の上にねぎ味噌やツナマヨコーン、ケチャップと千切ったハムなんかも乗っけて、オーブントースターでパリッと焼くのがいい。

 同じ頃、いつもの文芸文庫への参加を検討していた。

 いつもの文芸文庫(以下、いつ文)は、文芸同人誌のシェア型本屋・招文堂の作品募集企画だ。
 A6文庫サイズ以下限定の紙1枚から参加できて、無料配布だからさらりと発表できる手軽さに惹かれた。
 Twitterやnoteにぽんと載せていた短編でも、ちゃんと紙の作品になる。
 宣伝や承認欲求が目当てではないけれど、少なくとも人の目に触れる機会は増える。読んでもらえないことには物語は始まらない。

 いつ文への参加申し込みを済ませてから、実際に余った餃子の皮でピザを再現したり、書き始めていた本文が作品テーマに沿っているか見直した。餃子の皮のピザは、加筆修正の過程でミニピザから皮を重ねた一枚のピザに変わった。
 こうして「冷めないピザ」は完成した。
「僕」と「先輩」と完璧な円形にならなかったピザの話。
 登場人物の性別は明言していないので、読み手の解釈に委ねたい。
 これは本の冒頭で触れるべきか迷って、結局どこにも載せなかった。想像する楽しさを体験してほしかった、と言い訳させてほしい。


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