みつる

日記と小説を書きます。食べ物、お酒、着物。 一次創作:つるみ李乃

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  • 千夜の晩酌

    晩酌に理屈は必要ない――ある夫婦の生活を描いた掌編小説です。全4編。

最近の記事

サバの水煮缶

 平日フルタイム出勤で、自炊は頑張ったり頑張らなかったり。  おかずは鶏肉や豚肉を選びがちだけれど、たまには魚も食べたい。切り身を煮たり焼いたり、スーパーで割引シールを貼られた刺身でもいい。  とは言っても運悪く魚が売り切れていたり、そもそも買い物すらしたくない日もある。そんな時に重宝しているのがサバ缶だ。  味が決まった味噌煮缶も良いけれど、水煮缶は万能選手だ。トマト缶と余り物の野菜たちと煮込んだり、味噌汁、炊き込みごはん、カレー、リエット等々どんな場面でも活躍できる。

    • 半透明人間

       たまの週末、職場の人たちに誘われて飲みに行く。  多くても五人まで。場所は大衆居酒屋。主な話題は仕事の悩みとか、その場で注文した料理やお酒の感想とか。あとはオタクだと認知されているので、その手の話を振られる。  お酒は割と何でも飲める。ビールで乾杯してからレモンやお茶系のチューハイに移るか、この頃はまだ寒いので芋焼酎のお湯割りを注文する。  多分、楽しい。終盤の偏った論説でスッと酔いが醒めてしまうことさえ除けば。  1から100まで満足を求めるのはさすがに欲張りかもしれない

      • 書は捨てずに町へ出た

         節分に恵方巻きではなく、焼き立ての明太フランスを頬張ってしまった。もちろん方角は東北東だ。  休日に出かけることは好きだけれど、どちらかといえばインドア派だと思う。パソコンの前に座って日記や小説を書くならまだしも、SNSをだらだらと眺めて動かないことも珍しくない。  この日は後者だった。座りっぱなしの体は凝り固まる。当然、お腹も空かない。  このままではいけないと思い立ち、買い物がてら外に出た。駅へ向かう通勤ルートとは反対方向に歩き出す。  迷子猫のチラシ、鳥が啄みそうな

        • 掌編小説「ジョンは何でもお見通し」

           友人のジョンが殺された。  朝のコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた僕は、目を疑った。犯人はエリーゼ夫人。エリーゼは同郷のクラスメイトで、ジョンの妻だ。  ジョン・ルマンド氏が、エリーゼ夫人の浮気の証拠を見つけたことから揉め事になり、エリーゼ夫人は、チェストから取り出した拳銃で——新聞にはこのような内容が書かれていた。  僕は天を仰いだ。悪い夢だと言ってほしい。あのジョンが拳銃が見えないはずがない。だって君は、何でもお見通しだったじゃないか。  ジョンには昔から不思議な力が

        サバの水煮缶

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          三が日ダイジェスト

           喪中につき新年の挨拶は控えていたものの、素直に祝えない状況になってしまい、あれよあれよと一週間が経ってしまった。  地震が起こった当時は、実家のリビングのソファでくつろいでいた。今は安全圏にいることと、自身の心が引っ張られやすいことから、早々に情報を遮断した。  せめてTwitterでは普段通りに振る舞おうとしたけれど、すっかり戻るタイミングを逃してしまい……しかしどっぷり浸かってしまったSNSからの卒業も出来ずに、近況報告としてnoteで日記を書いている。  年始の出来

          三が日ダイジェスト

          今年買ってよかったもの2023

          両手に買い物袋を持ってニコニコのうさぎが可愛いね。 今年買ってよかったもの、2023年もまとめてみました。 Nolismのyuragu サクラ 陶磁器のピアス/イヤリング「yuragu(ゆらぐ)」シリーズの春限定。 淡いピンク色のグラデーションに、ふちの金彩も上品でため息が出る。消して枯れることのない桜の美しさよ。 当時のTwitterにも感想を残した。 J-Scentの和肌 川端康成の『眠れる美女』をモチーフにした香水。 去年の記事では『まずはサンプルを取り寄せてみ

          今年買ってよかったもの2023

          そうだ、紅葉を見よう

           先週末、母親と紅葉を見るために京都に行った。  紅葉といえば、せいぜい近所の公園のイチョウや、通勤ルートにある桜の木が赤黄に色付いているのを眺める程度だ。実家にいた頃は、自転車で六義園の夜間ライトアップを見に行った記憶がある。あの時も母親と一緒だった。  折角ならあまり行ったことがない場所にしよう。ということで、修学旅行以来の嵐山へ。嵐山には鶴屋寿の嵐山さ久ら餅を買いに行きたかったので、ちょうどいいタイミングだった。  母親は金曜日から京都入りして、醍醐寺と六曜社に行ったそ

          そうだ、紅葉を見よう

          掌編小説「引っ越し蕎麦はいらない」

           わたし、魚沼千夜は三人姉弟の真ん中。おうし座。出身は新潟。好きなものは美味しい食事とお酒。  就職をきっかけに上京して数年。たまに友達や先輩とお茶をしたり、甥っ子たちの子守りをする。仕事もやりがいを感じ始めて、それなりに充実した独身生活を送っていた。  このままでもいいと思っていたけれど、三十歳になった今年、守屋宗一郎さんと入籍した。  同い年の宗一郎さんとの出会いは、結婚相談所だった。  お姉ちゃんは結婚して男の子が二人いて、弟は彼女と同棲中。わたしは上京してから地元の彼

          掌編小説「引っ越し蕎麦はいらない」

          前向きなお別れ

           色々あって私物を断捨離することになった。衣類や書籍、大きな物から小さな物まで。洋服タンス三段分を占領していた着物類も二段分まで減った。  手持ちの中には新品の浴衣や半幅帯もあるが、ほとんどがリサイクルやアンティークだ。  着物仲間も皆無なので譲れない。メルカリに出そうにも点数が多い。私のように一人で着物を楽しんでいる人でも参加できるような、次の人に着物を譲れる場所があれば教えてほしい。  結局、着物の買取業者に宅配買取をしてもらうことにした。一般ごみとして燃やされて灰になっ

          前向きなお別れ

          一番好きなお菓子って何?

           職場での休憩時間のことだ。 「一番好きなお菓子って何?」隣のデスクの先輩が言った。 「一番ですか?」  私は漠然とした質問に戸惑った。出張土産に配られためんべいのラインナップを眺めて、「香味えびもあるのか。今度田舎に帰ったら買ってみよう」と上の空だった。  この先輩と話すのは少し緊張する。私の言葉足らずでよく勘違いされてしまうからだ。  和菓子か洋菓子とざっくり濁すか、具体的にお饅頭かチョコレートか、もっと厳選して梅ヶ枝餅かラミーか……  難しく考える必要なんてないのに、せ

          一番好きなお菓子って何?

          ア、秋

           noteからの通知が来た。9月30日までに記事を書くことで連続投稿を17ヶ月に伸ばすことができる、と。  そういえば今月は何も投稿していなかった。なんなら他のSNSも疎かだ。  noteでは日記を書いたり小説を載せたりしている。月一の投稿は義務ではないけれど、ここまで来たら続けられるところまで頑張りたい。  近況報告をつらつらと書き綴るのもいいけれど、Twitterに投稿するつもりだった下書きに少し付け加えた。  ラジオで「秋の蚊」という季語を聞いた。文字の如く、秋になっ

          祖父のいない処暑

           ミンミン、ジジジ、と競うように騒いでいた蝉の大合唱はもう聞こえなくて、もう少し声の高い、控えめな鳴き声が聞こえた。秋の虫だろうかと日陰で電車を待ちながらぼんやり考えた。  祖父が亡くなった。享年89歳。救急車で運ばれた翌々日、病院で息を引き取った。  自宅で転倒してから満足に歩けなくなり、腰の骨が折れていた(!)から 入院することになったものの、最終的に在宅介護をすることになった。  祖母が「自宅で看取りたい」と言っていたと両親から聞いたのが、たしか去年末だったと思う。

          祖父のいない処暑

          「冷めないピザ」が焼けるまで

           少し前の夕食に、鶏肉と高菜の水餃子を作った。  大量生産して冷凍することもできたのに、初めて作るからレシピに忠実に10枚だけ使った。あと20枚の餃子の皮がある。  さて、どうしたものか。  寒い時期だったら鍋で泳がせてしゃぶしゃぶにするのもいい。しかし今は夏真っ盛りだ。私が住む土地では日中は蝉、夜は蛙が鳴いている。  暑い時こそ熱いものという気分にもなれない。  去年の夏は自宅療養であまり外出しなかったからか、一年越しの猛暑にまだ慣れていない。どうやってやり過ごしたのか覚え

          「冷めないピザ」が焼けるまで

          掌編小説「海のクリームソーダ」

           オフィスから五分ほど歩いた場所に、隠れ家のような喫茶店がある。大通りから一本曲がり、雑居ビルに挟まれたひっそりとした店構えは、入口の看板がなければ見落としてしまうだろう。そのせいか、外回りをする同僚や先輩と遭遇したことは未だにない。  ふらりと入れるチェーン店も利用するが、クラシック音楽に耳を傾けながら静かに過ごせる空間も気に入っていた。  この日は珍しく、私の他には誰もいなかった。  いつもは決まってコーヒーを注文するが、今回は朝の星座占いに頼ることにした。午前中はトラブ

          掌編小説「海のクリームソーダ」

          掌編小説「めんつゆの海を泳いで」

           土曜日、遅めの朝食に素麺を茹でることにした。  梅干しを一粒入れた鍋にたっぷりの水を沸かし、素麺を三束解いた。化粧木箱入りの上等なそれは、義姉からお中元に頂いた代物だ。 「起こしてもよかったのに」  まだ眠たそうに欠伸をする千夜は、寝巻きのままでエプロンを締めている。 「いいよ。折角の休日なんだから」  妻は意外と朝に弱い。昨夜は遅くまで韓国ドラマに夢中になっていたから、寝坊をしても仕方ない。  僕はといえば、普段の平日と変わらずに目が覚めた。  まずはリビングの窓を開けて

          掌編小説「めんつゆの海を泳いで」

          私と青い鳥

           今、Twitterで一日に閲覧できるツイート数に制限がかけられている。私は未承認だから一日1000件だ(3日23時現在)。  あくまで一時的な規制らしいけれど、それが一週間後に解消されるのか、はたまた来年まで続くのかは確定していない。わからないまま常駐している。  幸いにもTwitter以外の連絡先手段はあるけれど、13年も使っているSNSからはそう簡単には離れなれない。  私の場合はTwitterから知り合った人が多い。  夏はビアガーデンのビールで、冬は大衆居酒屋のや

          私と青い鳥