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ドラマ「階段下のゴッホ」~絵は言葉のない手紙

主人公の都(SUMIREちゃん)は、偶然ギャラリーで見た "赤い絵" に、雷に打たれたかのように強烈に惹かれる。
そこから都は、高校生の頃の夢だった美大を目指そうと決意し、美大予備校に通い始める。

SUMIREちゃんといえば、浅野忠信くんとCHARAの娘として有名なわけだけど、もう彼女が20代後半ということに驚き、あらまぁ大きくなってねぇ…とつい親戚のおばちゃん目線になってしまう。
SUMIREちゃんが演技しているのを初めて見たけど、思っていたより演技も自然で低めの落ち着いた声も意外だった。そしていつも思うのだけど、光の加減で微妙に色の変わる瞳が神秘的で引きこまれ、彼女には不思議な存在感がある。

相手役の神尾 楓珠ふうじゅくんが演じているのは、都の予備校仲間で、東京藝大を目指し6浪中である人間嫌いで風変わりな真太郎。
楓珠くんも初めて見たというか知ったんだけど、まず名前が読めない(苦笑)。
その彫刻のように端正な姿から、ドラマの中で都に"ダビデ"と呼ばれている(笑)。ダビデとは、デッサンでよくお世話になるミケランジェロ作の石膏像。
ほんと綺麗なお顔立ちで、佇むだけで雰囲気のある俳優さんだと思った。

バリキャリ高収入で会社でも中堅社員である30代目前の都が、今の仕事を辞めずに働きながら美大を目指すという序盤、都ってガッツあるな、だけどもし入れても現実的にその後どうするつもりかな…と、苦い気持ちと共にちょっと引いて見ている自分がいた。
私はまたあの美大受験のための予備校やデッサン教室に通うのは2度と御免だな…と思ってしまう。そこに通っていた頃からすでに、受験仲間の技量に圧倒され、自分の力のなさにコンプレックス一杯で、心折れそうになっていたことを思い出す。それでも他に入りたい大学もなかったし、とにかく上京したいという不純な動機で美大を目指していた。

ドラマの中でも、自分に才能はあるのか?家の経済状態を考えたらもう浪人は出来ない…など、それぞれが悩み葛藤しながら美大入学という一つの目標に向かっている。
6話で都が「私は天才じゃないから努力するしかない。でも頑張ったら報われることってあると思うんだ。だから一緒に頑張ろう」と言うのだが…ごめん、私には嘘くさく感じてしまった。
予備校の中で唯一の現役受験生である高校生のはなちゃんが、「頑張っていない人なんていない。はなには全員敵!はな意外の人みんな落ちちゃえ!って思ってる!」と闇落ちしていたが、「絵の世界って10年に一人天才が出ればいいんだよ。あとは皆どーでもよくて、見向きもされない。天才以外は天才の踏み台で終わっちゃう。」という言葉は、ずしーんと重く胸にのし掛かった。自分はその踏み台にさえなれなかった一人なわけで…。

ギャラリーのオーナー(利重剛さん)が都に言った言葉がとても印象に残った。

人が絵を描くのには理由があります
自分のためだったり
誰かのためだったり
絵は上手い下手で計ることは出来ません
でも悲しいことにこの世界は
上下、良し悪しで、自分の価値を見出すしかない

窮屈な世界ですよね

でも社会というものは
格差によってバランスを保ってる
私たちは壁を作り過ぎました
男女、国籍、肌の色、年齢、貧富の差

ーー絵は言葉のない手紙
そう"赤い絵"を持ってきた人は言いました
あなたにはその手紙を読むことが
できるかもしれないですよ

高校入学当初から、美大出の顧問教師を差し置いていつも沢山の賞に入選していた美術部のエースがいた。将来は画家になる、東京藝大を目指すと彼女は宣言していた。
ドラマでも描かれていた通り、東京藝大に現役で合格できるのは全体の3割くらいしかいないし、何浪もするのは当たり前の特異な世界だ。
彼女も例に洩れず最初の受験に失敗してしまったが、その後もこのドラマの登場人物のように挑戦し続けていたようで、風の噂では7度目!?でついに受かったと聞いた気がする。
それまでの長い時間諦めなかったことにも驚いたし、彼女は他の道も考えなかったのか?どんな気持ちでやる気を保ち続けていたのだろうか…と、正直ちょっと人生無駄にしちゃったんじゃないか、とも思った。
自分の希望する大学へ入るというのも確かにその人の人生には重要だとは思う、だけど学校を出てから後の人生の方がずっとずっと長い。
藝大を出たからといって、画家として生計を立ててゆける人というのは、ほんの一握りというのもまた事実。

だけど、その時、自分がどうしてもそうしたいと願ったことに全力で打ち込み、完全燃焼することも大切なことなのだと思う。そうしなければその後の人生、ずっとくすぶり続けてしまうかもしれないのだということを、私はすっかり忘れてしまっていた。

ほっとけないよ
だってキミから手紙を受け取ったんだから

絵が好きとか
直球投げられると、すげえムカつく
こっち来んな!

あなたにとってのお兄さんみたいに
私もあなたの絵を追いかけてる

追いかけても届かない…

だから楽しいんじゃん!

あんたの絵は
真っ直ぐで怖い
わかってたよ始めから
だから追いかけて来んなって思った
こっち来んな!って思った

最終話が、とてもよかった。
都と真太郎の本気のぶつかり合い、ゴッホと弟のテオを彷彿とさせる真太郎と兄の関係にも泣けた。

若くて青臭くて、胸が熱くなる情熱のようなものを、思い出させてくれたドラマだった。


絵は言葉のない手紙
いつか誰かに届くようにーーー






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