見出し画像

春眠暁を覚えず

漢文の教科書に必ずある孟浩然の五言絶句「春暁」の冒頭だ。
ちょうど今の季節の眠い朝の様子をうたっている。
読み下しで全文を記す。

『春眠暁を覚えず
 處處啼鳥を聞く
 夜来風雨の声
 花落つること知りぬ多少ぞ』

わかりやすい漢詩だ。
「春の朝眠くて眠くて起きられない
 そういえば鳥が鳴いている
 昨夜は風や雨で眠れなかった
 咲いた花もいっぱい散っただろう」
詩心もない文章だが、大体こんな感じだろう。

ところが、詩人はこんなふうに訳する。

井伏鱒二

『春の寝覚めのうつつで聞けば
 鳥の鳴く音で目が覚めました
 夜の嵐に雨まじり
 散った木の花いかほどばかり』

三好達治

『このもかのもに とりはなき
 はるのあしたは ねふたやな
 よっぴてひどいふりだった
 いよいよはなも おしまいか』

土岐善麿

『春あけぼのの うすねむり
 まくらにかよう 鳥の声
 風まじりなる 夜べの雨
 花散りけんか 庭もせに』

佐藤一英

『さめやらぬ こころに遠く
 またちかく とりなきかはす
 あめ風は 止みやしぬらむ
 花や落ちし 落ちずやいかに』

松下緑

『寝むたい朝の ゆめごこち
 チュンチュン雀もないている
 昨夜ひとばん 雨風あれた
 花もよっぽど散ったろう』

ひとつの漢詩から人それぞれの思いが現れる。
詩はいいなあ。
あなたはどんなふうに訳するだろうか。
どこに重きをおくだろうか。
典型的な起承転結の詩だ。

若い頃のように、朝起きられないほど眠いことはなくなった。
暁を覚えずように眠ってみたい気もする。
夢もみらずに眠りこけたら起きられなくなるかもしれない。
これは冗談。
本気か冗談かわからない年齢にきているので困ってしまう。
聞くほうはもっと困るだろうが。

呑んべいの閑話
「春暁」というカクテルがあるのをご存知か。
清酒(1/3)をベースに
ウオッカ(2/3)
グリーンティリキュール(1tsp)
桜の花の塩漬け(塩抜き)
以上をステアする。

うすみどりいろにさくら。
今の季節にピッタリのカクテルだ。
調子にのったら酔いそう。

見出し画像はニオイバンマツリ(匂蕃茉莉)。
写真をみるだけで匂ってきそうに、香りの強い花木だ。
春から初夏にかけて、香りのある植物が多い。
部屋に飾ると安眠できなくなりそうだ。



忙しい皆さま、お休みの日は惰眠をむさぼりくだされ。

読んでくださってありがとうございます。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?