【安曇野から発信する潤一博士の目】41~地質調査は沢あるきから~
宮澤賢治の「楠ノ木大学士の野宿」という作品で、楠ノ木大学士が、蛋白石を探して、葛丸川をさかのぼって行く場面が出てきます。何げない話ですが、この沢あるきが地質調査の基本だということを、賢治さんは、よく知っていました。
私たちが取り組んだ御岳火山の地質調査も、沢あるき(沢をさかのぼる)が基本でした。沢は、地層の露出が良く、しかも、風化していない新鮮な岩石が多いからです。また、沢は、まわりの地形を見て、自分の現在地を確認するのに適しています。地質調査では、地形図のどこに自分が居るのか、常にわかっていなければ、正確な記録が残せません。その沢あるきには、“沢はさかのぼること”、“未知の沢は下るな”という鉄則があります。登るときには、目線が常に足元にあり、安全を確認しつつ、一歩一歩進むことが出来るからです。下るときはどうでしょうか?足元が良く見えない場合があります。どこに足を置けば安全か確認できないことがあるのです。特に、初めての沢、未知の沢を下るときには、安全が確保しがたいからです。さかのぼった沢を下る場合、ルートを確認していますから、その逆をたどれば良いのです。
地質学科の卒業研究は、一年間、一人で山あるきをするのが普通でした。だから、山中で事故がないように、万全の注意をはらいました。その一つが、“沢はのぼること’、“未知の沢は下るな”でした。
(地質学者・理学博士 酒井 潤一)
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