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【安曇野から発信する潤一博士の目】42~山で迷い子にならないために

 山で、迷い子にならない、その秘訣はただ一つ、「いま、地形図上のどの地点に居るか、常に確認できていること」です。
 地質調査においては、貴重なデータ(地形、地質、化石、鉱物、断層など)も、地形図に正確に記録できなければ、その科学的価値は半減してしまいます。
 いま居る場所を確認するためには、まわりの地形と地形図をくらべること、その際、クリノメーター(磁石)による方位の確認と高度計による海抜高度の確認が有効です。特別な目安として、高圧送電線は特に有効です。
 地形図は、バックなどに大切に入れておくものではなく、歩きながらでも、常に目をとおさなくてはならないものです。一般の山歩きでも同様で、地形図を十分に確認していない人も多いように見受けられます。

①1/2.5万地形図御嶽山(国土地理院)
長野県西部地震(1984年9月14日)による御嶽山南斜面での大崩落調査のため、
同年9月26日に、田の原駐車場から人跡未踏の原生林を通り、崩落地に至った。
その時のルートを記入。ほぼ等高線にそって進んだ。
②その時のメンバー。同僚・熊井久雄さんと学生4人+酒井
③帰りに迷わないように、ルートの所々の樹幹に印をつけた。
その時の傷跡が今でも痛々しく残っている。
④9月26日のルートは、その後大勢の人に利用され、
踏みかためられ、道となった。
雪の残る同ルートを通り崩壊地での実習にむかう信大地質の1年生。
⑤地震直後の伝上川。巨大土石流の流下跡。谷の深さは数十mで、
河床では両岸が巨大な壁となり、どこに居るのかわからない。画面右上方の滝が目印となる。
⑥その滝の近景。落差30mを越える。
⑦伝上川を含む1/2.5万地形図。⑤、⑥の滝が表示されている。
⑧地形図左上方に、イズミ沢最上流部の複雑に分かれた谷系が見られる。
この場所では、自分の居る所は意外とわかりやすい。まわりの地形に特徴があるから。
⑨クリノメーター(精密な磁石) 方位を正確に測ることができる。
⑩バロメーター(高度計) 自らの居る場所の海抜高度がわかる。
地形図、クリノメーター、バロメーターの三点とまわりの地形を観察すれば、
自分の居る場所を正確に知ることができる。どんな山の中でも、迷い子にならない。

(地質学者・理学博士 酒井 潤一)


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