十三、自由に物を云う

会社は好況だ。荷造り場は残業に次ぐ残業。不満がくすぶっているが、組合は無い。

幹部を交えた親睦組織で、毎月例会がある。

「何でも遠慮なく喋りなさい。」

そう言われてもなあ。皆んな下を向いたまま。仕事終わりで腹が減っている。振舞われる出前のもりそばだけが楽しみだ。

親睦会のガリ版刷の社内新聞で、編集委員をやってみないか、と言われた。「大学出だから。」そんな理由でだ。好きに記事を書いて良いと言う。

よし、いっちょうやってみるか。

社内新聞「もくめ」1957年5月号 巻頭「自由に物を云う」 例会で社員が発言しないことが問題になっている。何故か。一方が生殺与奪の剣を持っていて、一方は俎上の鯉だからだ。いわゆる産業予備軍と言われる失業者が掃くほどいるという事実が、我々労働者の背筋を寒くさせる。当社は国の政策、時の景気不景気に左右されながら、同業者との熾烈な競争に打ち勝っていかねばならない。我が儘を言う社員は切って捨てれば良い。低賃金でも喜んで働く者が他にいくらでもいるのだから。日本の多くの中小企業がそうであるように、我が社にも労働組合が無い。組合の結成は憲法で保障されているし、働く人たちの当然の権利であることは中学生でも知っているのに。「きみ、労働組合はアカだよ。それに、こんな小さいところで組合を作ったら、会社が潰れるよ。」逆だろう。小さい会社だからこそ、低賃金の労働者たちの頑張りが無ければやっていけないんだ。彼らを守ってこそ、会社の繁栄がある。「自由に物を云え」と言うから、自由に云ってみた。御意見を請う。

入社して一年に満たない発送の作業員が、身の程を知らずに偉そうにほざいた。

このアカいトンカチ頭め。今に会社からおっぽり出してやる。幹部はそう思ったに違いない。

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