D進祝いブログ:VRとの出会いから始まった、食体験を彩る研究者の展望
morioです。D進お祝いおじさんとして活動しています。
以前からお付き合いのある、とある学生さんのD進をお祝いしつつ、研究のことや私生活のこと、ありとあらゆることについてインタビューしてみましたので是非ともご覧ください。
ちなみに前回はこちらです↓
再開@札幌
-今日はよろしくお願いします。遅くなってしまって申し訳ないです(深夜0時の札幌)
「よろしくお願いします。お久しぶりです」
-二年ぶりくらいですかね?
「そうですね、それくらいだと思います。morioさんと初めて会ったのもVR学会年次大会でした。今回もVR学会でお会いできましたね」
-そういえばそうでした。2017年の徳島ですね。共通の知人がいて、居酒屋での初対面でしたね。正直けっこう酔ってて何を話したかは覚えてないですが・・・
「あれが僕にとって初めての学会参加だったんです」
-それは素晴らしい場に会えて光栄でした。今回の年次大会も「始まった!」感がありますね。
VRとの出会い、進学の決心と意外な展開・・・
-ではまずは簡単に自己紹介をしてもらっていいですか?
「東京大学大学院 学際情報学府先端表現情報学コース 博士後期課程1年目の大野雅貴です。所属は葛岡・雨宮・鳴海研究室です」
-VRとの出会いはどのようなものだったのですか?
「浪人時代にソード・アート・オンラインを見たのがきっかけでバーチャルリアリティに興味をもち、Twitterで検索しました。その中でIVRC(※現Interverse Virtual Reality Challenge)を知り、稲見昌彦先生からのお誘いもあり、IVRCを見学したんです。そこで体験したコンテンツがすべて素晴らしく、こういうものを自分も作りたいと思って、当時慶應義塾大学に所属していた稲見先生に連絡しました。自分も稲見先生のいる慶應の理工学部に行こうとしたんです」
-素敵な出会いですね。SAOがきっかけで検索し始めて、結果的に稲見先生と出会えたのは運命的ですね。
※ご存知ない方向けに注記しますと、稲見昌彦先生はVRや人間拡張学で超有名な先生です
「ですが、受験に向けて勉強を頑張っている時に大変なことが起きました」
-大変なこと?
「センター試験近くになって稲見先生の『東大に移ります』というツイートを見たんです。その当時はすでに慶應に行くと決めていたので文系科目を全部捨てていました」
-なんと・・・
「そこからではさすがにもう東大には行けないと判断し、慶應の中でも自分の好きなことができそうなSFCに行くことを決めました。入学してみると、筧先生の研究室以外にはVRを研究しているところが無かったので、自分でVRサークルを立ち上げて本格的に始めました。
その後、学部ニ年生で研究室に入って触覚や錯覚の研究を行いました。
色んな人に出会い研究という行為が楽しくなってきて、学部四年まで続けました。そしてこのまま研究を続けたいと思い、院進を決めたのです。でも、院は特に学費が高い。院からは自分で学費を払うと決めていたので、国立へ行こうと考えました。僕の研究したい分野では鳴海先生が第一人者だったので鳴海先生にコンタクトをとって東大への進学を決めました」
お金がない・・・→料理で食いつなごう!→コロナ禍でおそと出られない・・・→中華料理突き詰めよう!
-よくわかりました。研究のお話はこの後伺うとして、最近ハマっていることなどありますか?
「Youtubeに上がっている謎の中国料理を見様見真似でつくるというのにハマってます。中国語は1ミリもわからないけど、字幕を手がかりに推理してつくるのが最近の趣味です」
-そういえば、マサキ君は料理をされるイメージありますね
「はい。もともと料理が好きだったんですよね。きっかけは大学三年生の時で、一人暮らしを始めてお金がないので自炊した、そしたら意外と料理すきだということに気づいた、といった始まりです。毎日一品は作ってました」
「でも、大学院受験が終わったタイミングで金が尽きました。本当にお金が無くて。。自分が売れるものが時間と脳みそと体力しか無かったんです。食いつなぐためにまずは金よりも食べ物が必要で、『料理をするから一緒に食べさせてくれ』という”一夜限りの料理人”という企画を始めました。これがTwitterでバズりまして」
-その企画、私も見てました。かなり盛り上がってましたよね。
(知らない方は #一夜限りの料理人 で検索してみてください)
「めちゃくちゃたくさんの方にお声かけを頂きました。あまりに来すぎて、半日で受付中止になる状態でした。
10~20件くらいを2ヶ月くらいで提供させて頂きました。依頼者の冷蔵庫にある食材で料理して一緒に食べて、もしよかったらチップを頂く、というので食いつないでいました。
反響・要望も多く、自分自身もこういったことが好きだし、向いてると思っていました。
このまま続けるつもりだったのですが、新型コロナの流行でできなくなってしまいました・・・。
結果、その時に感じていた『誰かのために』が内側、自分自身が食べるためのものに向いていきました。
それでハマったのがスパイスを使った料理です。まずカレー作りから始まって、中華料理に行き着きました。今は中華料理を極めようとしていまして、その延長線上で『日本に輸入されて進化を遂げた中華料理。たとえば麻婆豆腐』に興味を持ち始めました。これってどういう成り立ちなんだろう?
自分の知らない本土で食べられている中華料理を知りたくなり、中国語は全然わからないのですがYoutubeでクッキング動画を観ながら作ってみるようになりました」
-言葉がわからなくても作れるものなのですか?
「そうですね。目で見たら材料も調理方法もなんとなくわかります。料理のためには最低限必要な情報が入ってることに気づき、Youtubeで漁るようになりました。もう3年くらいやってますね」
-ずいぶんと長くやっていますね。
「趣味が高じて、先日のコミケでは数年間作り続けた中華料理のレシピを同人誌にして売りました。旧正月に中国友人に食べてもらったりもした。結果はかなりうまいと言ってもらって、嬉しかったです。
最近はより極めるためにもYoutubeを見ています。
もっと極めたら中国語の勉強もして、本場の料理本を見ながら作りたいですね」
-忙しい中でそういったことを継続できるのはすごいですね!
「忙しい中でもやってますね。むしろ忙しいからこそやりたくなってきます」
-そういうものですか?
「はい。研究をしていると、長い期間試行錯誤を繰り返すことになります。短くても一年単位です。それに比べて料理は一時間後には結果がわかります。試したことがすぐ結果になるのは研究とは大きく違うことですね。
ミニマムな実験を試してる楽しさや、創作欲を気軽に発散できる場として料理は楽しいです。
物をつくるのは大好きなので料理で発散しています。腹も満たせるし安いし創作欲も満たせる。誰かに食べさせたら喜んでもらえる。メリットしかないです。忙しいときにこそやりたい。僕にとっては精神的安定を保つものです」
-なるほど。そういう考え方は理解できます。
電気刺激と味覚の研究の研究の始まり
-ではここからは研究の話を聞かせてください。まずは、大学院でどのような研究をしていたのでしょうか?
「基本的には修士の頃から同じ研究を今も続けています。電気刺激を用いて辛味の感覚を増強するという研究をしています」
-味覚の増強というと、最近明治大学宮下先生の研究が注目を浴びていましたね。あれと似たようなものなのでしょうか?
■参考リンク
「電気味覚という意味では領域は近いのですが、宮下研の研究とはメカニズムが違います。僕は触覚系のバックグラウンドを持っており、研究アプローチは経皮電気刺激、触覚によるものがメインです。皮膚(舌)の上に電極を置いて電流密度分布を与えることで感覚を惹起・編集する技術です。三叉神経を刺激することを研究していますので、効果は近くてもアプローチは違うことになります。電気刺激によってどのように触覚や辛味の感覚が発生するかのメカニズムは諸説ありますね」
-表出される効果が似たように見えても、アプローチの手法が異なっているのですね。その仕組み、成り立ちは今後解明されるのでしょうか?
「そうかもしれません。とはいえ、私の研究においては、人がどういう感覚を得られたのかの解明が優先事項であり、原理の深堀りを行うことは予定していません。そこに深入りするとそれはそれで研究期間が長くなってしまいますので・・・そこを深追いすることは今は考えてないです」
-以前マサキ君と話した際には、ベルベットハンドイリュージョンの研究をしていると教えてもらいました。そこから食の研究に移ったのはどういったきっかけだったのでしょう?
■参考リンク
「学部の二年~三年でベルベットハンドイリュージョンの研究をしていました。この時の研究は、まだ初めてだったこともあり、先輩方の研究を引き継ぐような形で自分の色を出すように進めていました。この研究からも多くを学びましたが、その後自分でテーマから起こして始めたのが、食の研究です」
-虫、食べてましたよね?
■参考リンク
「はい、昆虫食×触覚は自分でやりたいと思って始めたことですね。その後も修士、博士で続けているのは味覚の関する研究です。知覚心理学と工学の間を研究するということは以前から変わってませんし、その中でも触覚という観点はずっと通して考えている関心事です」
-博士課程では何をするのですか?やはり味覚の研究を続けるのでしょうか?
「味覚に限らず、食体験すべてを研究したいです。"味"における基本五味は重要ですが、辛味は痛覚や温度感覚に近いものです。この研究は続けていきます。また、食体験というと香りや食感も必要ですし、店の雰囲気、流れてる音楽、マーケティングも含め、食体験すべてが好きだし愛しているのでその軸はぶらさないと思います。どのように研究を進めていくかについてはまだ自分の型が確立できていないので、研究をしながら型を学びつつ、いずれ守破離して独り立ちしたいですね」
-まずは自分の方を持つことは大事ですね。良い先生方との出会いから学ぶことが多そうです。
「辛味以外の研究も始めようとしてるんです」
-おお、さっそく新たな動きが。
「実は、年明けの2023年1月から半年ほどイタリアへの留学を予定しています」
-なんと!!そうだったのですね。
「そうなんです。現地で指導してくれるラボは嗅覚や聴覚による食感の変化、クロスモーダルによる食感の変化などを研究しているところで、ポテトチップスの食感が音で増強されるという研究でイグノーベル賞をもらっている先生のところなのです」
-非常に面白そうなところですね。
「この研究分野はMulti Sensory Perception of Foodといいます。ポテトチップを食べるときに高い音を聴かせるとより新鮮に感じるという研究で、それを一緒にやっていた先生のラボに行くのです」
-現地ではまったく新たな研究を始めるのでしょうか。
「辛味の研究は工学や神経学からのアプローチでしたが、食体験という幅広い研究に触れることで極めたいと思っています。それ以外にも、せっかくの機会なのでイタリアのフードカルチャーも知りたいです。デザインとか神経科学とかの授業も受けたいですし、楽しみです。
ベルベットハンドイリュージョンの研究で初めて国際学会行ったのもイタリアだったので、不思議な縁を感じています」
-良いチャンスを得ましたね。前向きに取り組んでいるからこそ機会を得られたのかと思います。
「好き」を諦めたくない
-これから、研究者としてどんな社会にしたいか、あるいはどんな社会を望むか、といったことはありますか?
「(長考の末)かなり難しいですが、好きを諦めたくないというのがあります」
-それはどういった意味合いですか?
「”社会”というのはいろんな構成単位があると思います。コロナ禍で社会が分断された結果、同居人と猫との3人の生活が僕にとっての”社会”になりました」
-そういった意味での”社会”、のお話ですね。わかりました。
「コロナ禍で外に出られなかったので、家で辛い料理をたくさん作って食べていました。ところが同居人は辛いのが苦手で全然食べられないのです。おなかも痛くなる。ですが、相手に合わせて辛くないものを作ると今度は自分が物足りない。このコンフリクトを解決するために、辛味を増強する技術があれば好きを諦めなくて済みますよね。僕にとっての社会課題、そのために研究を続けています。
学部生のころは『社会を変える!日本を変える!』みたいなでかいことを言っていました。ですが、コロナ禍の生活の中で三人家族も一つの社会であることに気づきました。その中で好きを諦めないということを実現したいです。この”好きを諦めない技術”の一つが僕が研究している辛味の増強技術です」
- ひとつの料理から複数の味覚を創造するというのは興味深いですね。私も子供がいまして、カレーを辛くするわけにもいかず、奥さんがいつも子供用に別のものを用意しています。その研究があれば一つ作ればよくなるかもしれませんね。
「好きなものに対して突き詰めること自体もすごく好きなんです。みんながそれぞれの『好き』を突き詰める社会であってほしいなと思います。
先日、コミケに料理本を出展しましたが、コミケは最高の場でした。いろんな好きがあっていいと肯定してくれる場所だと強く感じました。例えば、隣のブースの方は『理想的な合わせ出汁をつくるパラメータを深層学習で解く』というテーマの本を出されていました。このように、好きを突き詰める空間は熱量に溢れていると思います。それだけで社会に変化を起こしてると思ってます。怒りや悲しみとは違う、純粋な好きという力。
その好きというのを自分なりに表現できるのはいいことですよね。それが同人活動でも研究でもよいのだと思います」
-恥ずかしながらコミケには行ったことが無いのですが、SNSなどを通して熱量は非常に感じます。
一方、マサキ君が研究していた昆虫食は、食糧危機に向けた課題解決型のアプローチだと思っていたのですが、それはいかがでしょうか?
「昆虫食も単純に好きだったからやった、というのが正直なところです。もちろん研究としてやる以上、食糧危機というのは建前としてはありましたが。研究者としての想いは当然持っていますが、自分自身の興味も強くあるんです。最終的には社会や学問に貢献したいし、それは当然にしていきます。でも、本来の目的は自分が満足できることをしたいです。
研究でもビジネスでも、実在するかも分からない都合の良い仮想の顧客をペルソナとして、そのペルソナを幸せにするストーリーを語ることに疑問を感じています。研究の中で抽出されるペルソナはあくまで自分が望んだもの、『こういう課題を抱えた人間がいてほしい』という想いで決めているのではと思っていて、それが好きではないんです。一方、自分自身や自分の身近な人は確実にいる対象ですよね。知らない、存在するかどうかもわからないようなペルソナに自分の時間を使うような無責任なことはしたくないです。
社会を構成する一人として自分の存在を忘れたくないです。自分が幸せになることは少なくとも社会の中の一部には貢献していますよね」
-ペルソナを立てるのは企業でも広く行われていますが、その粒度は人それぞれですし、自分自身の企画に都合のよい解釈をしてしまうこともあるかもしれませんね。抽象度を上げる際に、ある程度の願望が入ってしまうというか。
マサキ君よりひとこと
-今日はありがとうございました。マサキ君のモチベーション、研究に対する想いがよくわかりました。
最後に読者に一言お願いします。
「ありがとうございます。しがない一般人の経歴から考えていることまで読んで頂き、正直誰が興味あるのかとは思いますが、読んでくれたことにお礼を言いたいです。
この記事からなにかを学んでほしいとは思ってません。
この記事を読む時間があるなら自分の好きなことをしてください(笑)」
-ここを読んでる人はもう最後まで読んじゃったと思うけど(笑)
「早く寝てください(笑)」
-笑
「何かを記録として残すことは、あとあと読み返してこんなこと考えてたのかと振り返られるメリットがありますので、この記事も楽しみにしています!」
-ありがとうございました。
インタビューを終えて
深夜の札幌にて、久しぶりの対面を果たしたマサキ君。
創作欲に満ち溢れていてそれをひとつひとつ具現化していく姿がいつも印象的です。
まさかイタリアに留学する(予定)とは思いませんでしたが、きっと素晴らしい結果を残して帰ってきてくれるでしょう。
英語もイタリア語も頑張ってね❤
ではまた。
2022/11/3 morio
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