「幻のオリンピック~戦争とアスリートの知られざる闘い~」

 1940年に東京で開かれる予定が戦争のため中止に追い込まれたオリンピック。そこに出場するはずだったが戦争で命を落としたアスリートの人生を追ったNHKのドキュメント番組を、収まりきれなかった資料も加えて本にしたものです。
 1936年のベルリンオリンピックでメダルを期待されながら敗れ、次の東京オリンピックで雪辱を果たすつもりが、中止になると自ら陸軍に志願し中国山岳地帯での共産軍との戦闘で亡くなった陸上短距離の鈴木聞多や、ベルリンオリンピックサッカーで優勝候補のスウェーデンを破ったチームにいて戦争で命を落とした四人の選手達などが描かれます。
 特にページを多く割かれているのは、1932年のロサンゼルスオリンピックからベルリンオリンピックにかけての日本水泳界の黄金期を指導者として過ごした松澤一鶴と戦争で亡くしたその14人の教え子についてです。
 最後の章で、1964年の東京オリンピックの各国の選手が一団となってなだれ込んだあの感動的な閉会式が、偶発的に起こったことではなく式典部長だった松澤一鶴が仕掛けたのだと明らかにされます。

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