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ライ•クーダー (非産業ロック)

「うちにはギターがたくさんあるのに、どうして貧乏なの?」 ある日、ライ•クーダーは、息子にそう問われて、さぞ答えに窮したことでしょう。

スライドギターの名手、多数の参加作品、ローリングストーンズからのギタリスト要請、そんな彼のイメージからは貧乏だなんて想像ができません。

70年代のライ•クーダーは、商業主義に惑わされることなくルーツ音楽を探求してきました。多種多様な人種の国の音楽に接して旅を続けていました。
しかし彼の70年代の作品群は、今でこそ名盤として知られるところですが、当時はすべてのアルバム合わせても数十万枚しか売れていなかったのです。

電気ガスと水道も止められそうになり、クレジットカードも使えなくなり、息子にこんなことを言われたら、いくら良い音楽の探求活動をしていても、まず稼がなきゃと考えてしまいますよね。

ずっと売れない良い音楽をやり続けたライ•クーダーは1982年本作↓発表後、しばらくアルバム制作から離れ、稼ぐため映画音楽の仕事に転職します。
80年代前半のダンスミュージックやMTVが急速に広まった状況が、彼をそうさせたのです。私の好きなボニーレイットも然り、70年代に一貫して良い音楽をやり続けていたのに、1983年に契約を打ち切られてしまいましたから。

そんな時代背景(70年代後半か80年代前半の米国音楽シーン)について ginger.tokyoのオーナーさんのnote記事「産業ロックとは」↓にその辺りの事が書かれていて反響もあり、コメント欄でLonsomeCowboyさんの産業ロックの定義や、当時のシーンが陳腐化していった要因についてのコメントが納得してしまいます。

それにしても「産業ロック」って、揶揄したイメージがありますよね。

( 産業ロックのがっかりソング•ベスト3 )
○ミスターロボット笑 スティクス 1983
○アイワナノー笑 フォリナー 1981
○キャントファイトなんとか〜
 REOスピードワゴン    1984

特に、ドッモアリガットミスターロボット!
はほんとダメ!70年代はあんなにキレキレだったじゃないか〜。
元々実力のあったバンド達が、時流に抗えなくてサウンドを変えていた時代でした。

私もその頃はレンタルレコード店にいて、実は80年代前半の音楽シーンには完全に背を向けていました。お客さんと「昨夜のベストヒットUSA良かったよね〜」とか話を合わせながら、内心はアンチ産業ロックでした。


Ry Cooder 「The Slide Area 」1982年

本作は、その産業ロックの時代に発表。
まったく流行りにそぐわない、白人の黒人ルーツ模倣的アルバムです。私の記憶としては、産業ロックのぴったり対極にある様な言わば、非産業ロックのシンボルです。

本作での私のお気に入りはロックぽいロカビリー「ブルー・スエードシューズ」。元曲はカールパーキンスでEプレスリーのカヴァーが有名ですね。
スライドエリアというアルバムタイトルの如く、ライさんの野太いボトルネックギターが地滑りするように炸裂しています。(↑冒頭)

この頃のライさんは黒人音楽に傾倒していて、本作もブラック三部作の一枚なんていわれていました。私が好きな点は黒人男性三人のゴスペルコーラス隊。この辺りも商業的匂いがまったく無いですよね。「Mama, Don't Treat Your Daughter Mean」↓は導入部からして男ぽい三重奏コーラスで、痺れます。

ライ•クーダーは自作曲は意外と少なく、古き良き曲を取り上げ、彼の素晴らしいギターでピカピカにしてリニューアルさせてしまいます。歌詞も一番二番の後に自作で三番を追加したりして自分の歌にしてしまいます。彼のヴォーカルは始めはウマヘタに感じるかもしれませんが、聴くほどに味が出てきて素晴らしいと思います。

そんな彼のヴォーカルが胸を打つ本作ラスト曲は、ジェームス・カーの珠玉のバラード「That's The Way Love Turned Out For Me」↓ここでのライさんのギターも伸びやかなカントリーブルーズの味があってとても良いです。

さて、ライ・クーダーといえば、80年代、日本ではサントリーウイスキーやパイオニアのカーステレオのCMが思い出されますよね。ほんとにセンスのいいCMでした。

このCM撮影時、面白いエピソードがあって、既にスター扱いのライさんをリムジンで送迎することになってたらしいのですが、撮影スタジオからライさんは奥さんに電話して「帰り、迎えに来てくれない?リムジンは酔っちゃうんだよ」と。
奥さんは、その頃いつも日本車で、おんぼろのカローラで迎えにきたそうです。(笑)

貧乏な時期も経験したライさんご夫婦の、
ほろっとするエピソードですね。

奥様と。日本大好き

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