Facebook Mapについて思う

Facebook の地図(iOSはAppleマップが出るがそれ以外)が新しくなっている。

このプロジェクトを担当したStamenのブログを読んだ。Cartography(地図表現)は、私の専門領域の一つでもあり、大変興味深かった。

Facebook Mapのプロジェクト

Facebook Mapのプロジェクトは、約2年にわたってStamenという、地図などのデータビジュアライゼーションを手がけるチームが参画する形で進められている。

このFacebook Mapの良いと思う点の1つ目は、OSMのデータを基本的に使い(小縮尺ではNatural Earthのデータを使用)、Open Source Toolsでサービスを構築していることである。このアプローチは、MapboxやMapTilerなどでも採用されている。

そして2つ目の良い点は、地図のデザインが、Facebookで使うベースマップとして、よく練られていることである。全体的に控えめなトーンとしつつも、地形の陰影などの視覚的な効果を適宜採用して退屈さを避けている。自動車でのナビゲーション用途では無いので、大縮尺では歩行者にとって必要な街路などを可能な限り表現している。

そしてもう一つ良い点としては、元Appleの同僚がこのプロジェクトで活躍していることを知ったことだ。彼女はとても有能ででもっと一緒に仕事をしたかったのだが、いろいろ思うところがあったのだろう。私よりも少し前に退社してしまった。その彼女がこういう大きなプロジェクトで実績を上げていることを知ることは、とても嬉しい。

ただ、せっかくのこのプロジェクトであるが、地図デザインはやっぱり北米の臭いがプンプンする。小縮尺から中縮尺までは比較的違和感が少ないのだが、日本の都市部を表示すると「あれれ?」となる。

例えば、鉄道路線の表示が目立たず、日本のユーザーの期待値にはほど遠い。大阪駅ってどこ?環状線は?御堂筋線は?

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拡大をしても、駅名すら入っていない。地下鉄も無いし、主要なビル名も無い。

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これがグローバル仕様として、有無を言わせずFacebookで展開されてしまう。Stamenのチームには日本人はいなさそうなので、仕方ないだろう。

これの改良は、単にスタイルファイルをいじくるだけではうまく行かないと思われる。データモデルの定義から始め、国に応じた個別のスタイを適用する仕組みなどを作らないと実現が難しそうなので、そうした合意形成と実施には時間がかなりかかりそうだ。

こうした機会がほとんど得られない日本

私の体験になるが、グローバル企業が運営している大規模な地図サービスで、日本という独自性の強い市場の要求を一部でも反映させるのは大変な道のりだった。私個人の努力だけではどうなるものでも無く、日本人メンバーやそれを支えるチーム全体の粘り強い努力のもとで少しずつ実現していった。

そうした体験を一度でもすると、大規模な地図サービスがどのような設計思想の元で構築され、どんなスキルを持った人材がどう関与して、出来上がった仕組みがどのように運用されているかを知ることができる。そして、実際にどのような強みと弱みがあるのかも詳しくわかるようになる。この経験値は、私が感じるに、とてつもなく得がたいものだ。

にもかかわらず、このような本格的な地図のサービスの構築と運用に携われる機会は、日本企業ではもはや得られない。グローバル企業のサービスに日本のメンバーが十分に携わらない結果として、今回のFacebook Mapの例でもわかるように、地図デザイン1つとっても、日本のユーザー体験を満たすものには必ずしもなっていない。Googleマップや、Appleマップは、既にそのような努力が払われてきており、相当期待値に近づいてきているが、それでも、あちらこちらで私はギャップを感じている。

私は、こうした状況に危機感を持っている。そして、ギャップを満たすような役割を果たすことが私の使命なのかなと思って、最近その辺を主として自分の業務領域としている。

もし、Facebook Mapのプロジェクトに加わることができていたのならば、こうするといいよ、ああすればうまく行くよ、などと言いたかったし、そして、これから何を言おうかと考えている。もちろん、その機会が得られればの話しだけれども。

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