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ギアファンde日常。「エドガーと蒲公英」

エドガーと蒲公英

「あ、たんぽぽの綿毛!」
エミルの弾んだ声。
つられて「お?」と足を止める。

見ると、煉瓦の隙間から、ふわふわした球体がにょきっと生えている。
「おー、ホントだ」

「懐かしいなぁ〜。子供の頃、よく綿毛を飛ばして遊んでたなぁ」
そう言って、エミルの細い指がぽきりとたんぽぽの茎を折る。

エミルが唇に綿毛を近づけ、ふうっと息を吹きかける。
吐息にあおられた綿毛がたんぽぽを離れ、ふわりと宙を舞う。

飛んでいく綿毛の中に、誰かの笑い声が聞こえる。
エミルのそれとは少し違う、もっと幼い声。

『兄ちゃん!ほら、見て!』
そうだ。あいつもこうやって、たんぽぽの綿毛を飛ばすのが好きだった。
酒に酔って怒鳴り散らす親父から二人で逃げて、夕暮れの土手に二人でたどり着いて、そうして見つけた綿毛。
こうやって、二人で遊んだっけなぁ。

残っていたたんぽぽの茎をぽきりと折る。
口元に近づけ、ふうっと息を吹きかける。
少し綿毛が残っていたエミルと違い、一息でほとんど飛んでいく綿毛。

ふわふわと、風に揺られて飛んでいく綿毛たち。
なんだか、夢の中にいるような心地だった。


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