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ギアファンde日常。「グウィンドリンと割れた小瓶」

グウィンドリンと割れた小瓶

パリン。
研究室の中に響く、甲高い音。

思いがけず聞こえてきた音に振り向くと、フラジィルがしまったという表情で床を見つめていた。

「教授、ごめんなさい!割ってしまいました…」
謝罪の言葉はだんだんと尻すぼみになっていく。

すぐさま、フラジィルの様子を伺う。
痛がったり、気分が悪くなったりしている様子はなさそうだ。
小瓶の中身は…午後の実験に使う予定だった薬液か。なら劇物ではない。
ひとまず、内心でホッと胸を撫で下ろす。

「怪我はないかね?」
「は、はい。わたくし、箒を持ってまいりますわね」
「ああ、頼んだよ」

ぱたぱたと慌てた足音を響かせ、フラジィルが部屋を出る。
それを見送った僕は、割れた小瓶の破片に目を向けた。

大小さまざまな破片は、あまり遠くに飛び散った様子はなく、まるで以前の形を保とうとするようにそこに散らばっていた。
それこそ、目を凝らして見れば、元の形が分かるぐらいに。

ひとつひとつの破片は元の形の面影など少しも見られないのに、それが正しい位置に並んでいるだけで、元の姿が浮かび上がってくる。

僕らも、きっとそのようなモノとしてこの世に存在しているのだろう。
ある時は、数多の破片の集合体として。
またある時は、世界を構成する破片の1つとして。

頭の中で、ガラスの破片が哲学的空間を行き来するさまに見とれていた僕は、箒を持ったフラジィルが怪訝な顔をしてこちらを見ていることにも気づかなかった。


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