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ギアファンde日常。「バックスの散歩」

バックスの散歩

今日は、頭がやけにチクチクと痛む。
フォーが来てからというもの、こいつの経過観察と国への報告が業務として増え、俺は国のお偉いさんの指導のもと、苦手な書類仕事としばしば格闘する羽目になっていた。

書類仕事、特に国が絡む分野の書類をまとめる作業は骨が折れる。
決められた形式がやたら多く、文章もよく言えば格調高い、悪く言えば堅苦しい文体で読んでいて頭痛がする。
国のお偉いさんは、よく毎日こんなものに目を通して平気でいられるもんだ。

大きな溜息をつき、ボリボリと頭をかく。
完全に煮詰まった。そう直感した俺は、仕事を手伝ってくれている団員に告げる。
「わりい、少し休憩してくる」

お気をつけて、という声に頷き、執務室を出る。
階段を降り、裏口からギルドの中庭に出る。

中庭は、木々も草むらも青々とした葉を付け、春もいよいよ深まってきたのを感じる。
背の高い、大きな葉が付いた植物に近づき、その葉を撫でるように触る。
柔らかな感触が指先に伝わる。
この植物の名前、なんだったっけな。昔エマが教えてくれた気がする。

エマは、この中庭を訪れるのが好きだった。
生えている木や植物を手当たり次第に触ったり、においを嗅いだり、幼い子供のようにくるくるとよく動き回っていた。

『目で見るだけじゃ足りないの。手で触れて、香りを嗅いで、できることなら味わって、五感でこの子たちのことを知りたいの』
エマはよく、そう言っていた。

俺はそのまま、目につくものに手を触れる。
しっとりとした花びら、節榑だった木の幹、ざらざらとした煉瓦の壁。

感覚が、世界と溶け合う。
そんな気がする。

掌(てのひら)を通じて、流れ込んでくる世界。
エマが教えてくれた世界。

「団長?」
その声に、はっと意識が引き戻される。
「なかなかお戻りになられないので、呼びに来てしまいました。すみません」
いけねえ、つい長居しちまった。
「いや、俺の方こそすまねえ。…さて、仕事に戻るか」
「はい」

箱庭の中の世界を背に、俺は現実に戻る。


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