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それでもなお、へこたれない太陽。

じぶんの部屋が、ずいぶんと好きだ。家賃の割にはよい立地と、ほどよく綺麗な室内のアパート。近くには地域猫のたまり場があって、運がいい日はトリオが出迎えて尻尾であいさつしてくれる。昼下がり布団をたたけば、室外機で丸くなってるべつの仔が目を丸くしてこちらをじいっと見つめている。

いまは好みも決まってきて、これが私の快適さやうっとりに繋がるんだなと、ある程度わかっている。けど実家にいたころは全く違っていた。じぶんの部屋の飾り立て方もわからないし興味もなく、姉にされるがままだった。

たとえば私が1500円くらいの予算を渡し、姉はマウンテンバイクを走らせ、駅ビルの雑貨屋さんで好き放題の物を買ってくる。そしてこれまた私の好みを聞くでもなく、好きなように飾り立ててゆく。

壁には雑誌の切り抜きやポストカード。勉強机は、憧れブランドのロゴが入ったマスキングテープでデコレート。ドアにはウェルカムボードも設置して。子供の頃から姉は、妹相手にスキと得意を爆発させていた。

みんなが憧れるような、センスあるものを持つことも多く、そんな持ち物をエサに、遊びに来た私の友達を夢中にさせた。姉に友達を取られたことが悔しくて、「おねえちゃんはもう入ってこないで!!」と泣きわめいたこともある。

姉は息子を生んで、旦那さんと新築の家を買った。初めてお邪魔した時の、こだわり具合やこじゃれたインテリアも含めて、ああさすがだな、全然変わってないとおもった。改めて一人暮らしのわたしの部屋の内装をお願いしようか・・なんてけっこう本気でおもっていた。

そんな矢先、姉を病魔が襲った。生活は一転、ほとんど家で過ごすことが多くなった。大好きな家の2階にも、介助してもらわないと上がれなくなった。食事も塩分をひかえ、運動もできず、湯船にも浸かれなくなった。

それでもおねえちゃんは、強くてまぶしかった。「子供は絶対ほしかったから、一人生んどいててよかった」「幼稚園も病院も、いまの家から近くてよかった」「薬がようやく見つかった段階でめちゃめちゃ高いんだけど、申請後は国から補助が下りるらしくて助かったよ」こんな状況下でも、よかったこと、できることをしっかりと見つけていた。

太陽と月だなあ、なんていつも会うたびにおもう。これまでにも、私だったらぜったい乗り越えられなさそうなことが何度もおねえちゃんを襲った。その度に、それでもなお、なぜかわたしには楽観的にみえたし、素直に喜怒哀楽を爆発させながらも乗り越えていった。

この人の明るさには敵わないなあ、なんて、本人にはぜったい言わないけど。いっしょに隣で過ごせたこと、いざという時頼れる存在でいてくれること、そして唯一の家族であることをありがたくおもっている。

おねえちゃん、前に話したけど2人でカフェを開くことになったら。ぜったいお店の名前は「Sun and Moon」にしようね、ベタだけど。これからもつかず離れず、たとえ喧嘩しても最後は仲良くいられますように。

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