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海外に学ぶ組織論① 米国のShared Parenting法制化にみる組織論

 共同親権の法制化が日本でも取り沙汰されていますが、今日は組織論的な部分に触れてみたいと思います。

 日本は不思議ですよね。これだけの大きな法改正にもかかわらず、賛成する人達は個別バラバラの別居親〜せいぜい数十名程度のグループなどが多く、一方で反対の人間たちは日弁連のようなマンモス組織やシングルマザー団体連合会や巨大NPOなど、非常に組織化されています。この不均衡な状況で、曲がりなりにも賛成の声が潰されず法制化が検討されているだけでも、奇跡的なことなのかもしれません。組織化はされていなくても、切実な声が多いからかなと思います。

 2022/11/10 中断していた法制審が再開され、共同親権の議論がまた動き出すようです。

1. ウェストバージニア州で50:50均等監護法を成立させた団体

 今日これを書いてみようと思ったきっかけは、こちらの動画です。米ウエストバージニア州で父母均等監護の法案を勝ち取った団体の代表が、組織の運営や活動の仕方を語っています。

 ウエストバージニア州では、今年2022年に50:50の父母均等監護を法的推定 (Rebuttable Presumption) と定める法律が成立しました。共同親権が1970年代には成立して定着している米国ですが、州ごとに法律の内容に温度差があり、均等監護推定まであるのは、ウエストバージニア州を含め3州だそうです
以前別記事で、米国でEPT法導入州は6つあると書いたのですが、この動画では3州とされています。今後正確なところがわかったら訂正します)

 動画では、同法の成立に尽力したThe Burdette Groupというコンサルティング会社のCam Huffman氏が、全米の共同養育推進団体であるNational Parents Organizationのインタビューに答えています。

2.  動画を見て思ったこと

 この動画から、子供のために共同親権・共同養育を日本で進めていく上で大事だと思ったことは下記。

①見た目と話し方が明るい

 これが一番大事かもしれません。完全に私の主観ですが、インタビューをしているクリスという男性も受けているハフマンという男性も、見た目が清潔で、笑顔で温和そうです。話し方は明朗で穏やかな印象で、ちゃんと社会生活をしていそうな雰囲気があります。ハフマン氏はたまに吃ったり皮肉そうな笑いをしたりはしますが、乱暴な言葉遣いはなく、話すスピードも一定で安定感があります。この第一印象の良さは、極めて重要だと思います。
 
インタビュアーのクリスという方は終始安定していて、照明も音声も良いのでプロの方なのかもしれません。
 動画中に発言があるわけでは無いですが、会のHP等をみるに、団体代表は医師、弁護士、大学教授、安定企業の社長など、社会的に信用力が高く生活が安定している人であるほうが、団体の信用力や安定度が増すのだろうとも感じました。

②会長はプロのロビイスト

 インタビューを受けているThe Burdette Groupのハフマン氏という男性は、本業がロビイストだそうで、活動には本業の知識が生かされています。離婚を経験し二人の娘さんの親権争いをした結果、ウエストバージニアの親権制度の問題点を知り、EPT法立法には手弁当で参加したそうです。現在はお子さんの監護権を50%持てているそうです。

 The Burdette GroupというのはGRコンサルティング会社(※GR = Government Relationship)で、通常は様々な企業の法的な問題を政府に繋いで解決する手助けをしているようです。アメリカはプロのロビイストがいるとは聞きますが、実物を初めて知りました。
 日本でもGRコンサルティング会社はあるようです(例えば検索して見つかったこの会社など)。プロに戦略的な助言をもらえれば親権制度の改善にも大いにプラスだと思いますが、HPの高級感からするとすごくお金がかかりそうな気はします。

③動き方をプロから学んでいる

 前項に続きますが、団体のメンバーたちはプロのロビイストであるハフマン氏自身や、招聘した他のNPOからトレーニングを受けて、ロビイングの仕方、政治家への話し方、社会への声の上げ方といった方法論を学んでいたそうです。

④組織づくり

 組織運営や活動に関して、以下のようなことに注意したそうです。

  • 団体の印象を悪くする人たちには退会してもらう(1時間に及ぶ大変な電話もあったとか)

  • 情熱と好奇心と敬意を大切にし、教育を行なった

  • 立法者(議員)に対して決して嘘をついてはいけない

  • 他の団体を非難してはいけない

  • 法制度により何が起きているのかを説明する時は、個人的な体験を話す。コピペで作ったような出来合いの話ではなく、個人の実際の体験を話す

 会員には集会に出てきてもらって一緒に遅くまで仕事をしたり、集会に出ない人にはツールを提供し個々人で声を上げてもらったりしたそうで、人それぞれに可能なお手伝いをしてもらったようです。

⑤地元組織との連携

 ハフマン氏の団体はウエストバージニア共同養育の会という会員数約1000人のグループとパートナー協定を結んでいるようです。同会のコアメンバーは8家族ほどで、メッセージアプリで互いの家族のことを話し合うほど仲が良いとのこと。これも大切で、気心が知れていて心理的安全性が保たれ、なんでも話せる雰囲気というのは強い組織の土台だと思います。
 この組織は主にFacebook上で展開しているようで、運営方針を見てみると、簡潔ながら大事なポイントを押さえていると思います。

West Virginians for Shared Parenting のFacebookグループルール

1. 常に子供の最善の利益のために行動する
2. ブレないこと。全ての書き込みは均等監護の実現に向けたものであることを意識する
3. 喧嘩せず仲良くする。話すほどのことがなかったら何も話さないこと。我々は互いに支え合うためにここにいる。他の人の意見に同意できないこともあるだろうが、そうした場合、議論は敬意を持って、かつ事実に基づいて行うこと

https://www.facebook.com/groups/westvirginiansforsharedparenting/

⑥全国組織との連携( National Parents Organization )

・National Prents Organizationは全米規模の共同養育推進団体
・The Burdette Group社はクライアントが居なければ州倫理委員会と代理人として直接交渉はできないので、ハフマン氏はポケットマネーを出してNational Parents Organizationに自分の代理人になってもらった
・ウエストバージニアでの法改正に向けてたびたび相談に乗ってもらうとともに、同団体が提供しているたくさんの資料を使用した。

3. ウェストバージニアの法改正を下支えした他の組織

①National Parents Organization (NPO)

  • https://www.sharedparenting.org

  • 全米NGO団体

  • 設立年:1998年(2013年に現呼称に改称 →以前:"Fathers and Families")

  • 創設者:Ned Holstein(医師)

  • Facebookフォロワー 1.9万人、Twitterフォロワー 2500人、YouTubeチャンネル登録数650人

  • 全米約半分(26)の州に支部がある(主に東部)

  • 略すとNPOなのでややこしい

 先にも書いた通り、全米の共同養育推進団体であるNational Parents Organization はウェストバージニアでの法改正を舞台裏から支えた団体です。他にもこの記事によると共同養育の推進団体は全米にたくさんあるようですが、National Parents Organizationが一番大きいようで、メディアにも多く取り上げられています。
 とは言ってもYouTubeのチャンネル登録数などは寂しい限りなので、巨大団体とはとても言えません。アメリカでも共同養育の支持層はこの程度なのか、あるいはそもそもアメリカでは共同親権が普及して半世紀経つのでもう役割を終えつつあるのか、どうなのでしょうね。

② International Council on Shared Parenting

 動画に直接出てくるわけではないですが、International Council on Shared Parenting(国際共同養育協議会)という国際組織もあります。
学者・福祉専門家・市民団体代表等から選ばれた各国の代表が集まって、執行部体制を作っているようです。数年に一回国際会議を開催していて、2023年はギリシャで開催するようです。前回は1000人以上の参加者がいたそうで、かなりの規模です。

 Board Memberに准教授が多いので、Emery教授やSmith教授など共同親権の反対論者には教授格の人が多い中では、ちょっと貫目が足りていない感じはありますね、残念ながら。

https://en.wikipedia.org/wiki/International_Council_on_Shared_Parenting

https://www.twohomes.org

4. 日本の共同親権運動も、世界的な繋がりにも組み込まれた方が良いのでは?

 イメージですが、共同親権・共同監護・共同養育を推進する運動は全世界的な文脈があるのだと思います。アメリカの場合だと下記のようなつながりがある理解です。

International Council on Shared Parenting(国際組織)
 ↓
National Parents Organization(全国組織)
 ↓
National Parents Organization WV支部(地区組織)
 ↓
West Virginians for Shared Parenting (地元当事者組織)
The Burdette Group(ロビイングのプロ)

 こうした世界規模のつながりに、日本の運動も位置付けられていくことが長期的には大切だと思います。

 おそらく今回の法制審で、日本が共同親権への法改正を成し遂げられたとしても、それでも一発で全てが完璧になることは考えづらいでしょう。何事も継続的な改善と保守が必要で、それは長期的で根気のいる作業になります。子供のためにどうするのが良いのか、常にフィードバックを入れて法律と実運用を改善し続けないといけません。

 そうした時、共同親権を求める市民団体としての動き(政治)だけでなく、学術(理論的根拠)、福祉従事者・法律家(実務家の声)の動きも三位一体で進めていかないと、既に数十年遅れている日本の制度はなかなか海外に追いつかないように思います。

 オーストラリアなどでは、家族法改正で共同親権が導入された後も何度か改正が入っており、その度に現在の日本と同様に賛成論者と反対論者の激しい論戦になっています。その際に、国の予算で調査委員会が組織され学術組織から担当者が割り当てられ、その調査結果が政策の行方を大きく左右するわけです。この学術組織が反対論者だけで占められていれば、公正な調査は望むべくもありません。

 したがって、長期視点では当事者団体や市民団体だけでは足りず、学術組織や実務者団体においても賛同者が増え組織化されている必要があります。その為には、「弁護士は悪」とか「御用学者」といって敵対するばかりではなく、理解者を増やすための冷静な対話も必要でしょう。

 また、公正な調査をしてくれる学術組織にこそ国家や民間の予算が下りるような働きかけも必要です。そして国際的な繋がりも作って強固なネットワークにしておかないと、長期的には負けてしまいます。
 その為には最終的には運転資金が必要になるので、利害当事者からの寄付金だけでなく、他の資金獲得の道筋が必要になります。要は、いま共同親権に反対している人たちのやっているのと同じような組織運営をしていく事になるのだろうと思います。

 自分の子供が連れ去られるより昔のことは詳しく知りませんが、親子ネットやNPOキッズふぁーすとが、日本におけるNational Parents Organization的位置付けなのかなと漠然と思っています。設立者の青木聡教授や小田切紀子教授たちは、おそらくそういう意図で設立されたのではないかなと想像します。
 国際的文脈にもつながっていくという意味では、学者や弁護士で構成されていたNPOキッズふぁーすとは、それが可能そうなメンバーで構成された唯一の団体だったような気がするのですが、2021年に解散してしまったようで残念です。

 National Parents Organization はアメリカで共同親権の立法がされた後の1998年であることを思うと、むしろ日本でも共同親権法制が成立してから、こうした組織化は進んでいくのかもしれません。

 なおアメリカでも、National Parents Organization以外にもたくさんの似たような位置付けの団体があるようなので、日本でも別居親団体が乱立しているのと近い部分はあるみたいです。そんな中でもNational Parents Organizationが頭一つ抜けているように見えるのは、
 a) 創立者が医師で社会的信頼性が高いこと、簡単に失業したりしないから安定して運動できること 
 b) 見た目がクリーン
 c) 動画・ウェブサイト・メディア露出の数も質も高い 
ことが理由ではないかなと思っています。

あまり組織論ではなく散漫な内容になってしまいましたが、以上。


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