2023.7.27 新日本プロレス G1 CLIMAX 33 DAY9 試合雑感

◾️第1試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Aブロック公式戦
海野 翔太 vs チェーズ・オーエンズ

第一試合に相応しい勧善懲悪の試合ながら、奇襲を迎撃した海野の眼差しに怖いものを感じ……この天性のベビーフェイスとラフファイトへの適性がどう合わさるか、本当に楽しみです。

チェーズのテクニカルなスタイルは相変わらずで間断を埋めるようにねちっこく攻め立てます。こうしたスタイルならCトリガーのような便利な膝攻撃は控えて欲しいなあと思う反面、これを会得してからチェーズのスタイルの幅が広がったのも事実で、出しどころは間違ってないんですよね。ついつい振ってしまう上に印象にも残りやすい麻薬のような技ながら、きっちりコントロールしてるチェーズには頭が下がります。前の辻戦と比較するとややもたつきが目立つ印象もあり、チェーズを通して伝わる令和三銃士の試合構成力という。チェーズがリトマス試験紙になってるような気もしますね。

最後はパッケージドライバーを横回転で着地すると速射のデスライダーで海野が勝利。このクライマックスの切り返しはよかったですし、なんというか子供が初めて見た試合がこれなら凄く印象に残りやすいなと思いましたし、子供のヒーローとしての役割もあるのだなと、そんなことを考えてしまいました。

◾️第2試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Bブロック公式戦
YOSHI-HASHI vs タイチ

エルボーとフロントキックの応酬でのスタート。雌伏の時に鍛え上げたYOSHI-HASHIの逆水平は定評がありますが、逆に温存したことでちゃんと効果的なタイミングで使用してるのがよく伝わってきます。

タイチも全日の魂を背負うものとして逆水平は手慣れた印象があり、チョップのラリーからタイチが得意とするキックで有利を取る展開は攻防が段階的に積み重なっていてとてもよかったです。

ヘッドハンターにネックブリーカーと首攻めでYOSHI-HASHIが主導権を取り返すと、首筋にエルボーを落としつつ不意打ちの逆水平でリズムを掴むYOSHI-HASHI。タイチはコーナーで加速してのジャンピングハイからパンタロンを脱ぎ捨てて一気に本気モードへ。

ラリアットとアックスボンバーの撃ち合いからデンジャラスバックドロップを被弾したもののYOSHI-HASHIもカナディアンデストロイヤーで応戦。熊殺しを繰り出すなど、攻防のエスカレーションに従ってYOSHI-HASHIもしっかり危険技で技の帳尻を合わせてきたのが素晴らしいです。

しかしながらこの手のエスカレートする試合はタイチに分があるのも事実で、頂狩を切り返すとブラックメフィストでタイチが勝利。この試合順でこうした試合が観れるとは……。タイチも凄いのですが、応戦して高め合ったYOSHI-HASHIを褒め称えたいですね。

◾️第3試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Aブロック公式戦
清宮 海斗 vs ゲイブ・キッド

当然の奇襲攻撃ながら、清宮戦ってわりとみんな集中するせいか入場妨害がいつもよりダーティに響いた気がします。僕が清宮のファンなのでそう思うだけかもしれませんがw場外で清宮をなぶりつつ緑のサイリウムに向かって挑発するゲイブの悪辣さもさることながら、強烈なエルボーですかさず打ち勝った清宮の喧嘩魂も素晴らしいものがありますね。こういうときに清宮の持つ当たりの強さは本当に頼もしいなと感じます。

リングカウントが進む中、戻る清宮の姿に惚れ直したというか、19で慌てて戻るという新日でよく見るパターンではなく、シームレスに、そして這い上がるように執念を見せて上がったのがリアリティ満載でとても良かったです。清宮、明らかに新日参戦から表情の魅せ方がより洗練された印象もあり、新日参戦は単に地力を見せつけに来ただけでなく、ちゃんと新日での経験値が生きているのが新日ファンとして、そして清宮ファンとして嬉しいですね。

しかしながらゲイブの暴挙は留まる所を知らず、荒れ模様の試合がどんどん暴走試合の様相を呈してきます。清宮もジャーマンで反撃するものの、ゲイブの殴打やストンピングで押されてプッツン。一気に両足タックルで押し潰すとマウントからの張り手連打でノンストップな狂気の暴走モードへ。本来の清廉潔白なイメージにそぐわないブチ切れモードでありながら、ここで生きてくるのはオカダ戦の襲撃であり、あれでキレさせたら怖いというのが周知されてるのがいいんですよ。こうしてみるとあの暴走も無駄ではなかったですし、何よりこうした試合を見せられると昔からの新日ファンとしては血湧きますよね。

互いのエルボーも張り手もとにかく強烈で、そのまま場外乱闘へ。レフェリーの静止もカウントも無視しての大乱闘での両者リングアウト。いやはや……恐れ入りました。これはもう、清宮は「令和の暴走王」襲名でもいいんじゃないですか!?色々と叩かれることのある清宮の「若さ」や「青さ」でありますが、今回は逆にそれがこの結末にプラスに作用したといいますか、無軌道な青春の暴走に相応しい幕切れですし、こう冷静さを失っても仕方ないかなと納得感が生まれるわけなのですよ。若いから仕方ない。若さって本当に素晴らしいものです。それでいながらプロレスリング・ノアという「国体」を侮辱されたからには暴走も致し方ないわけで、G1よりも何よりも大事なものがある。G1での一勝の価値など、誰よりもよく分かってるからこそ、その価値を投げ捨てでも殴らなきゃいけない相手がいた。個人の喧嘩って看板や利益を捨てるからこそ価値があるのだと思います。「乗るな!清宮!戻れ!」と言いたくなる気持ちもわかりますよ。ワンピースのエースの特攻の気持ちが今日ほど肌感覚で理解できた日もないんじゃないかと。目の前で団体を馬鹿にされてもヘラヘラと他団体での勝ち星を優先するようなレスラーではないのです。あれを無視したら「プロレスリングNOAH」の「清宮海斗」じゃないんですよね。

それにしても暴走を仕掛けたゲイブの豪胆さは末恐ろしいものがありますね。メンタルを病んだ経験があり、清宮への当時の挑発は本当の暴走だったわけなのですが、それを上手くプロレスに落とし込んだあたりが素晴らしく、憎悪やジェラシーはホンモノだからこそとにかく生々しい。反則やラフこそ目につきますが、ある意味ではそうした「情念」の昇華という意味では最もストロングスタイルの本質に近いと言っても過言ではないですし、この試合内容がそれを証明してるとも言えるでしょう。プロレスとリアルの境目は基本的には常に曖昧であり、だからこそその感情の凄みに酔いしれてしまったわけなのです。

しかしながら星取りということを考えたら清宮のゲイブ戦での引き分けはわりと黄色信号が灯った気もするというか……色々と心配ではありますね。でもオカダに喧嘩を売って他団体の新日での名を上げた以上、似たようなシチュエーションでやり返されるのも仕方ないというか、因果応報だと思います。ファンはみんな清宮のチャレンジ精神を評価しますが、二団体を股にかけたその首の価値はいまや天井知らずであり、とっくに彼は狙われる立場なのですよ。そこを逃さず喰らいついたゲイブの嗅覚は素晴らしいですし、これでNOAHファンの中でも一気に名を上げましたね。実績は申し分なくとも足りないのは国内での格と知名度だけだったので。いやあ燃えますね。この試合はNEXTを期待します。

◾️第4試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Bブロック公式戦
タンガ・ロア vs グレート-O-カーン

ロアのパワーを封じるように足攻めを見せたオーカーン。場外で椅子を使っての玉座は面白かったですね。足へのデスロックに膝十字と足狙いが光りましたが、ロアが持ち前のパワーで粉砕。最後はエイプシットでオーカーン敗北。オーカーン、特に悪い試合がないのですが、ことG1となるといまいち結果を残せてない印象が強く、ワリを喰っている感もありますね。十分キャラクターとしてはブレイクしているだけに、欲しいのは名勝負と機運だけな気もします。

◾️第5試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Aブロック公式戦
ヒクレオ vs 辻 陽太

日米パワー対決とでもいうべきド迫力のぶつかり合い。辻のポテンシャルモンスターぶりとヒクレオの怪物性が上手く噛み合った好試合となりました。

単なるパワーのぶつかり合いだけでなく、跳べるからこその辻の怪物ぶりであり、それが単なる怪獣プロレスの枠を超えて「ありえない」ものを見せられているような、そんな興奮に満ち溢れていましたね。

こうした巨漢との試合ってよもやすればチャレンジマッチのようになったりもするのですが、辻のイケイケな攻めぶりが逆に功を奏した部分もあり、それに対してヒクレオも弱々しくなく堂々と弾き返したのがよかったですね。辻がしっかりとブレーンバスターボムでヒクレオを投げ切ったのがこの試合のハイライトの一つであり、ボディスラムよりブレーンバスターで投げ切るほうがヤバいというか、変にタメずにあえて「普通」に投げ切るのが凄いなと思います。フェイントとして使用したカサドーラも通常の巨漢相手への押さえ込みとは印象が変わってて、それがとても良かったですね。

しかしながらジーンブラスターことスピアーを蹴りで迎撃され、ゴッドセンドは一回転着地したものの、ロープワークからのジーンブラスター狙いをパワースラムで返されるとゴッドセンドで叩きつけられて惜しくも敗戦。レスナーvsビッグショーが頭をよぎったというか、このカードは育てていく価値がありますね。

◾️第6試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Bブロック公式戦
エル・ファンタズモ vs KENTA

リング上より場外の時間が長い変則的なラフファイト。ファンタズモの流血に竹刀を持ち出すなどの荒れ模様の試合でありながら、ゴング前という矛盾。同じような荒れっぷりでも先ほどの清宮vsゲイブとはまた違ったハードコアさがあり、今のKENTAはこの手の試合は得意ですね。

長い長い場外戦が終わり、リングに上がってようやくゴング。串刺しドロップキック連発から一気にgo 2 sleepを狙いますが、これをドンピシャで首固めで切り返したELPが逆転勝利。それにしてもこうした反則モードのKENTAって、手を変え品を変えてのアイディアは買いますが、長尺のターンでの支配が逆に負けフラグ感ビンビンなのが少しいただけない部分もありますね。ヒールらしいと言えばヒールらしいのですが。

◾️第7試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Aブロック公式戦
SANADA vs 成田 蓮

現状、色々と足りない成田相手にどんな試合をするか気になってはいましたが、ひとまず及第点といった印象ですかね。SANADAは覚醒したというか、明らかに辻とのリマッチ以降は技の使い方や配置が変わっており、王者の空気感を身に纏っていると思います。この懐の深さはまさに王者の器であり「成る」までに本当に長かったなあと。

序盤は成田のレスリングに付き合う形での丁寧な仕込みながら、反撃は悠然としていて王者の余裕はありつつも成田の攻めをしっかりと受け止めていましたね。

ポップアウト式のTKOのミスやスカルエンドがやや崩れたりと目立つ瑕疵こそあったものの、ハイライトはやはり成田のデッドフォールを切り返してのコブラツイストであり、ちゃんと対策を練りつつもこうした比較的新しめの技に対して古典技で迎撃するシチュエーションは燃えますよね。成田のコブラツイストってオカダのレッドインクのような二段式になっていて、フィニッシュになった試合を見る限りでは頬骨を極めてフェイスロックに近い形でやるのがタップを取るバージョンだと思うのですが、残念ながらそこまではいけず。仕方ないとはいえ、わりと好きな技だけに決まらないシーンが弱々しさを出してしまうという難点が成田にあったわけですが、最初こそ返されたものの、カウンターで決めた今回のコブラはジワジワと締め上げていて堪えるSANADAの表情も含めていいシーンになってたなと思います。

最後はカウンターでのデッドフォールでSANADAが勝利。切り返しには定評があり、それでいての横綱相撲ぶり。当初こそ不安があったものの蓋を開けてみればソツのない試合であり、現状コントロールできる範囲で最大限成田の魅力を引き出したかなと思います。これ以上は偶発的な要素に頼らざるを得ず、また成田のレベルアップが一つの課題であるでしょう。面白さでは前回のSANADAを破ったシングルのほうが上だと思いますが、あのときのようなバフがなく、王者経験の成長込みならこんな試合になるかなと。もう少し前回の負けを想起させるような幅の広さが成田に欲しかった感じもありますが、まあまだ先の話ですかね。

試合後にSANADAがバクステで語った令和闘魂三銃士査定は、清宮が頭一つ抜けてるとの辛辣な言葉。確かにSANADAというリトマス試験紙を通してみれば一番クオリティが高かったのは清宮戦なわけで、これはまあ妥当な評価でしょう。外様の王者だからこそ言える台詞な気もします。棚橋政権とオカダ政権の盤石な王者像を踏襲しつつ、一気に大黒柱感が増した気もしますね。

◾️第8試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Bブロック公式戦
オカダ・カズチカ vs ウィル・オスプレイ

いつ戦っても名勝負が約束されている二人だからこそ、そのハードルは常に高く、世界最高峰の一つと言っても過言ではない黄金カードに失敗は許されない。ドームメインで戦い、G1決勝でも戦ったカードだけに期待は否応なしに高まるというか、シチュエーションや舞台こそ一枚落ちるものの、逆にこの黄金カードがここで実現したことがかえってプレミア感が増しましたね。

ほんのロープブレイクの触りだけでも二人の表情の変化が素晴らしく、超一流は指の先から表情筋まで含めて何よりも雄弁であり、全てを支配下においているものです。そこに嫌味が全くなく、緊張感を途切れさせないまま攻防が加速していく。単に大技を連発すればいいというわけではなく、それでいながらも何かしらのスペシャリティを期待される。この二人の組み合わせほどプロ意識を感じさせる試合はありません。

ハイライトの一つはエプロンへのハングドマン式のオスカッター。さしものオカダもこれ一つで沈黙しましたね。どうしてもこうした危険技への期待感というのは生じてしまうものですし、要求されるハードルはとにかく高くなっていくものなのですが、そのニーズにきっちり応じる両者のプロ意識の高さたるや。カウント19ギリギリで戻るオカダの姿が偶然にも前の試合の清宮とダブったというか、この単に戻る姿一つとっても他のレスラーとは所作もタイミングも全然違うんですよね。

20分という制約の中、オカダの選択はマネクリ地獄で、これは評判の悪い技でありながら、択としては正解で、オスプレイのヒロイックさをより高める結果となりました。そこから不意打ちのローリングラリアットも絞め技からの打撃というのは非常にキツいもので、リアリティラインはきっちり担保されてたように思います。

普段より仕掛けの早いレインメーカーも、やはり長時間勝負の印象が強いからでしょうかね。オスプレイの秘策は切り返してのレインメーカー式ヒドゥンブレードであり、通常のタイプとは技のイメージがガラッと変わってることに驚きました。そしてしっかりクラッチして万感の思いを込めてのストームブレイカー。オカダ戦初勝利……ではないですが、これが実質初勝利と言っても過言ではないでしょう。元より実力は拮抗しており、勝ちに不思議は微塵もないのですが、それでもようやく一つの山を超えた気がします。

試合後のマイクはまさに魂のマイクであり、あれは言語の壁を超えていましたね。オスプレイという一つの時代の証明に加え、オールタイム・ベスト・レスラーと言っても大袈裟ではない名勝負製造機ぶり。オスプレイが現役である時代に生き、共に走り抜けられることを今日ほど感謝した日はありません。日本に居続けてくれてありがとう。紛れもない本物の天才です。

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