2023.8.12 新日本プロレス G1 CLIMAX 33 準決勝戦 試合雑感

◼️第7試合 時間無制限1本勝負
『G1 CLIMAX 33』準決勝
オカダ・カズチカ vs “キング・オブ・ダークネス”EVIL

猪木モデルのオカダのキャラクターの落とし込みは素晴らしいですね。ストロングスタイルとは全く異なるカラーながら、この「合わなさ」が逆にモノマネ感がいい意味で消えており、猪木のキャラクター性を上手く踏襲しております。アピールのときの赤タオルがいい具合に目立っていました。

大方の予想通り、オカダの入場アピールをEVILが奇襲する形でのスタート。今年のオカダは明確に「怒り」をテーマにしており、その予感を観客は伝播させながら序盤はEVILの悪辣な反則攻撃に翻弄されます。特に場外で見せたマイクでの首絞めはマイクでギブアップを迫るアイクイットマッチを部分的に落とし込んでおり、オカダの呻き声とEVILの罵倒のマリアージュがとても良かったです。

溜めに溜めてオカダも反撃。怒りによる制裁というよりはヒーローショーの雰囲気もあり、この陰と陽の空気感の違いをどう調和させるかはこれからのオカダの腕の見せ所でしょう。加速する往復してのエルボーにコーナートップへの打ち上げ式ドロップキック。マネークリップと見せますが、ここは裕二郎とSHOが乱入。ハウスオブトーチャー、徹底してますね。相手がオカダという強者だからこそ、悪の連携が許される。二人でオカダを逆さにしてのディック東郷の金的チョップは一つのハイライトでありました。

オカダは再びマネークリップで捕獲しますが、ここでのオカダの口の空いた表情が少し不安を予感させつつ、入ってきたハウスオブトーチャーの面子を蹴散らすことで観客の心をかき乱す。しかしながらディック東郷の介入に視線を奪われたその隙に今度はSHOが介入と、まさに視線誘導のミスディレクション。オカダも負けじとドロップキックの乱れ打ちでハウスオブトーチャーを蹴散らすなどの大立ち回り。しかしここでEVILの暗躍が光り、レフェリーを盾にしてのレインメーカー式のローブロー。しっかり逃げ場を奪っての一撃。見事ですね。ついでにオカダの得意とするカウンターでのドロップキックを封じているのも素晴らしく、そこから走り込んでのラリアットも良かったです。この技って終盤戦を反則で染めている今のEVILからすると以前のEVILを彷彿とさせるレア技であり、これだけでEVILの本気が窺えますね。

そこでEVILはフィニッシャーであるEVILを狙いますが、オカダがジャーマンで切り返します。ただダメージは大きく起き上がりにやや時間が。仕掛けたレインメーカーに対して、EVILは死んだフリ。いやあ……とにかく思いつく限りのヒール殺法を繰り出すEVILに脱帽です。当然これは三味線で、レフェリーを突き飛ばして再度金的を狙いますが、同じ手にかかるオカダではなく、これを防ぐと開脚式のドライバーから咆哮一閃。ツームストンも進化しましたが試合における位置付けは変わっておらず、この技を出すだけでクライマックスを認識するのは上手いですよね。

オカダはレインメーカーを狙いますが、これをドンピシャでEVILで切り返し、それを外してのローリングラリアット。EVILは腕を迎撃すると、続くショートレンジラリアットも再び迎撃。この連続攻撃で虎の子の右腕を痛めたオカダが二刀流とばかり左腕で放ちますが、慣れてないせいかやや初速が遅く、これをドンピシャで切り取ったEVIL。ここは一気に会場が湧きましたね。

これで終わりかと思いきや、なんとこれをギリギリでキックアウトするオカダ。この試合におけるオカダは強者である以上、これ一発では終わらないのと同時に、オカダが不得手な左で放ったのと同じように、またEVILも普段とは逆の左手で仕掛けるEVILだったんですね。だからこそオカダは左腕で仕掛けたわけで、だからこそ普段とは逆のEVILでの切り返しが読めなかった。そして左腕だったからこそ返されてしまった。ここのロジックは素晴らしいものがありますよ。そして何より返された瞬間のEVILの驚愕と憎悪の入り混じったこの表情……。いやはや、千両役者ですね。

今度は正調のEVILを狙いますが、これをオカダはショルダースルー式のエビ固め。いわゆるジェリコキラーですね。これを返したEVILはラリアットを狙いますが、今度はそれを掟破りのEVILで返すオカダ。オカダvs EVILの名シーンの一つであると同時に、今のオカダカズチカになる前の、岡田かずちか時代だったころの得意技である大外刈りの変形という意味もあり、オカダが使うことに違和感はさほどないのですよ。そこからエメラルドフロウジョン式のドライバーから、一撃必殺のレインメーカーでピンフォール勝ち。オカダが三年連続で決勝戦進出が決まりました。

実のところ、思いつく限りの反則を交え、介入乱入上等でデコレーションしましたが、オカダvsEVILの試合としてはそこそこの好勝負止まりであったかなと。この二人ならあともう一つ先にいけた気もしたのですが、それでもEVILに十分勝機があり、ハラハラさせただけでも充分ではあるでしょう。どちらが決勝にいってもおかしくない空気でありましたし、準決勝戦らしい試合であったと思います。

EVIL、決勝進出して欲しかったですね。やはりこうしたシチュエーションでの大ブーイングはヒールとして心地よく、それでいながら大舞台でのバッドエンドをやれるかどうかが今後のEVIL次第にかかっているという。それも含めて楽しみですね。いつの日かG1史上初の大バッドエンドが見たいものです。


◼️第8試合 時間無制限1本勝負
『G1 CLIMAX 33』準決勝
内藤 哲也 vs ウィル・オスプレイ


メインに相応しい顔合わせであり、それでいて互いに絶対負けられない一戦。過去オスプレイ相手に二連敗しており、三度目の敗北は絶対に許されない内藤に対し、念願のオカダ超えを果たし、肉体的に全盛期のど真ん中を走る今こそ、史上二度目の外国人優勝を狙うオスプレイ。勝負論の高まりが凄まじいですね。泣いても笑っても勝者は一人で、それがプロレスの歓喜であり残酷さなのです。

序盤はそんな予感に反して丁寧かつじっくりとした立ち上がり。欧州系らしいリスト・コントロールで内藤を動かすと、いきなりの急加速。この二人の試合はやはり緩急が素晴らしく、合間に挟まれるオスプレイの強烈な金属音を鳴らす逆水平はえげつなく、内藤はコーナーから落下しましたね。オスプレイの苛烈な猛攻に対して、信頼性のある内藤の受けの技術。まさに矛と盾の頂上決戦ですよ。

ポテンシャルや動きではオスプレイに劣る膝に内藤も、閃きという特異性があり、ヒップトス式牛殺しとでもいうべき複合技は素晴らしかったです。ここにきて新技とは……。これでペースを取り戻すとしっかりと自分の動きを披露し、ペースを取り戻します。

ヨーロピアンネックロックでジワジワ絞り上げると、再びヒップトス式のバックブリーカー。そしてレッグシザースネックロックで痛めた首を絞めあげます。オスプレイが上流のゴウゴウと流れる川なら、その底流で泥を巻き上げるのが内藤で、このいやらしさは歴戦のキャリアを感じて見事ですね。

何とか返したオスプレイが場外弾を狙ってコーナーに上がりますが、すんでの所で内藤が阻止。エプロンでの攻防という危険領域の中、このG1で猛威を振るったエプロンオスカッターを狙いますが、飛び乗った隙を狙ってハングドマン式のエプロンへのネックブリーカー。そして立て続けに場外へのネックブリーカーを放つ内藤。完全に首へと焦点を合わせましたね。

カウント19でリングに戻るオスプレイでしたが、グロリアを放つと自身のG1優勝のきっかけとなった技、プルマ・ブランカ。完全に勝ちに徹していながら、閃きは衰えずそれでいて円熟味のある今の内藤はいいですね。

試合はさらにエクストリーム性を帯び、内藤も雪崩式リバースフランケンシュタイナーを狙いますが、これを着地するオスプレイの離れ業。以前SNSでも大バズりした飯伏vsオスプレイの再演でもあり、あれから2年経ってもこの動きができるあたり、オスプレイはやはり怪物ですね。内藤が続いて狙ったエスペランサを抱えて受け止めると、トップロープへ放り投げ、そこへのシューティングスタープレス=バーニングスタープレス!いやあ……内藤、受けますねえ。続いての高角度のライガーボムもえげつなく、ギリギリで内藤は肩を上げます。

オスプレイはヒドゥンブレード狙い。これもフィニッシャーとして使っているせいか緊張感が高まります。これをギリギリの所で低空ドロップキックで止めて延髄斬りを仕掛けますがこれはスカされてフックキック。オスプレイもオスカッターを狙いますが、今度は内藤がスカすと走り込んでのジャックナイフ固め。6人タッグ戦での定番技ですが、今の円熟味を増した内藤がこれに頼るのは味がありますね。

返したオスプレイと走り込んだ内藤が交錯し、その刹那、ヒドゥンブレードを被弾。ストームブレイカーを狙うも堪えられるとみるやライガーボムに切り換えますが、ここで内藤の天才的な閃きによる反動をつけてのカウンターでのDDT。身体ポテンシャルとエクストリームな技でオスプレイが押すなら、その技を当意即妙な技で切り返しを狙う内藤と、全盛期の肉体に対し朽ちかけた肉体をフル稼働させつつ、若手の頃に希望を抱かれた才能一本で挑むのは色々と熱いものがありますね。

首へのダメージが臨界点を超えて爆発しかかってる中、勝機と見た内藤がハンマースルーを切り返してのトルネードDDT。この技もザックと棚橋を葬ったのあって神通力を纏い出しましたね。続くバレンティアでさらに首への一点集中。こうした終盤の畳み掛けは本当に凄いですよね。

そして問題のシーン。内藤がボディスラムから狙ったのはここぞの一発であるスターダストプレス。昔から見ているファンにとっては心の震える技であり、今の新日の中でセットアップに入るだけでここまで盛り上がる技もないでしょう。膝に爆弾を抱えているのは周知の事実であるからこそ、より覚悟と重みが増す。これは寸前で躱されて自爆となり一転窮地に陥りますが、語弊を恐れずに言えば今の内藤のスターダストプレスって「捨て技」なんですよ。手術後の武藤が徹底的に温存し、出すか出さないかで観客を翻弄したわけですが、内藤は逆にこの技の価値を知っているからこそ、逆に無価値なように、ウン万円の高級服をワンマイルウェアで着こなすような気軽さで、敢えて躊躇なく放つ。それでいてここぞという場面でしか出さないことで安売りはせずとも、外れることで逆説的に当たったときの価値とカタルシスが青天井に高まっていく……。このセンスが僕は本当に大好きで、その使い方含めて本当に内藤らしいなあと。

この隙を逃さずオスプレイはヒドゥンブレード。スターダストプレスって仕掛けるときの高揚感と外れたときの絶望感のマリアージュの落差があるせいか、この後の攻防の価値がめちゃくちゃ上がるんですよね。ここにフィニッシャーの一つであるヒドゥンブレードを放つあたり、オスプレイのセンスも非凡であります。

ただこれだけではスターダストプレスとの技の価値の帳尻が合わず、倒れ込む内藤に唾を吐き捨てるお株を奪う挑発を見せると、今度はオスプレイのリープオブフェイス!内藤が繰り出すスターダストプレスが自身の非凡性を最初に知らしめた過去と肉体がボロボロである今とを接続するキーパーツなら、オスプレイのリープオブフェイスは限界のその先に向かう技であり、キャリアが円熟期に差し掛かった人間が使っていい新技ではないんですよ。見て欲しいのはセントーンで被弾すると同時に立ち上がってアピールを挟んだシーンであり、飛ぶ姿だけでなく当てた後のスタンスからフォールに向かう姿含めて、何一つ無駄がない。まさに絶技と読んで差し支えのない技であると思います。

満を持してオスプレイはストームブレイカーの構えに入りますが、これを高速のフランケンシュタイナーで切り返す内藤。才能のポテンシャルではるか先にいくオスプレイに、かつて天才と呼ばれた男が己のセンスを信じて才能一本で追い縋る……。いやはや、今の内藤はカッコいいですよ。

そう思ったのも束の間……ここからが問題のシーンです。恐らくコリエンド式デスティーノ、もしくは浴びせ蹴りに行こうとしたシーンで屈んだ内藤に対し、オスプレイのフックキックがドンピシャで刺さり、内藤が倒れます。起こしたオスプレイが再び後頭部へのヒドゥンブレードを狙い、それは何とか躱すものの、走り込んだ内藤はまたしても力無く崩れ落ちる……。これ、脳震盪なのか意識が飛んだのか。受けに定評があり、ここに来るまでオスプレイの絶技を受け続けてきた内藤の肉体が、ここにきてとうとう限界を迎えました。プロレスラーは超人ですが、それでも人間なんですよ。

オスプレイの仕掛けたレインメーカー式ヒドゥンブレードを回避するも、三度、足から崩れる内藤……。内藤がこんなシーンを見せることが珍しく、アクシデントの絶望的な空気感が支配する中、オスプレイがストームブレイカーを仕掛けます。僕は内藤の勝ちを疑ってなかったのですが、流石にこのシーンはゾッとしましたね。

しかしこれをギリギリでデスティーノで返す内藤。密着戦の間合いから再びデスティーノ。そしてフラつく足取りの中、三度目のデスティーノで内藤、逆転勝ち。いやあ……後半で大技を仕掛けつつ上手く攻防を仕掛けたオスプレイの「修正力」も見事ながら、この危機的状況の中で、何度も使い、肉体が覚えている技であるデスティーノをしっかり放った内藤。二人とも天晴れですよ。正直な話涙腺が緩みましたし、二人ともまごうことなき「プロレスラー」です。

口さがない人は色々言うかもしれませんが、今回の試合は技のエスカレーションが激しく、内藤も受けまくったせいかこうなってもおかしくはないんですよ。演舞的な部分がありながらも、プロレスはれっきとした戦いであり格闘技です。だからこそこのダメージは何より「リアル」であり、偶発的なアクシデントがたとえ起こったとしても、それさえも塗り替えて止まらないのがプロレスの本質です。決まり決まったことをただ漫然とこなすだけじゃないんですよ。大技を受けた代償として、これ以上の「リアル」はないのです。

このダメージは決して尊ぶようなことではなく、また評価するようなものでもないのですが、このシーンがあったことで必然的に試合の重みが増し、限界が近い内藤の決勝戦進出が、それこそ崖端に指一本どうにかかかるような、そんなギリギリ感が生まれたんですよね。二連敗していて、己の限界を突きつけられた相手だからこそ、こうした状態での勝ち方にリアリティがあるという。

そしてオスプレイ。決勝進出こそならず、オカダを倒して波に乗っていた今だからこそ優勝して欲しかったのですが、これもまた勝負です。G1決勝戦でのオカダvs内藤の予想をしていた者としては内藤が勝ったことが嬉しくもあり、元の優勝予想がオスプレイだった者としては、夏の終わりの儚さとともに残念さと無念さが胸の内に沸き起こってくる……。だからこそプロレスを見るのはやめられないんですよねえ。

たとえ才能があり、キャリアがあり、最強であろうとも、最後の最後で「天運」を掴めなければ頂点には立てず、今回勝利の女神は内藤に微笑んだ。そういうことです。人事を尽くして天命を待つとはまさにこのことであり、人智を超えた先には運命としか呼べないものがある。まさにデスティーノ。おあとがよろしいようで……。

いよいよ長かったnoteの連続更新も次で最後です。最後の決勝戦。見届けるしかないですね。またお会いしましょう。ではでは。

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