2023.7.23 新日本プロレス G1 CLIMAX 33 DAY6 試合雑感

◾️第1試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Dブロック公式戦
ザック・セイバーJr. vs アレックス・コグリン

開幕の殴り合いでパワーの差を見せつけるコグリン。ザックも腕狙いで三角を仕掛けるもパワーでコグリンが一気に持ち上げます。ザックもエプロンでの肘へのストンピングやコーナーを利用してのカウンターのネックツイストなど、リング内外を使っての立体的な攻めでコグリンの腕を破壊しにかかります。コブのようなわかりやすい重量級と違い、それに匹敵するパワーファイター相手として差別化を図りつつも試合のカラーを変えているのが上手いですね。

コブラを切り返しつつ、バンプハンドルへ形を変えたり、リバースゴリーでのストレッチなど、LA-DOJO仕込みの基礎テクニックに腕力をプラスした形のスタイルなのはとても原始的かつ源流のプロレスという感じがしますね。この試合で見せたブロックバスターも実にオールドスクールな匂いがあってよかったです。

ザックの試合にしてはやや鈍重な印象を受けつつも、シンプルなプロレスという感じであり、最後は腕ひしぎからの三角腕固めでザックの勝利。苦戦しつつも貫禄勝ちでした。

◾️第2試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Cブロック公式戦
タマ・トンガ vs マイキー・ニコルス

これもまたオーソドックスな香りのあるプロレスですね。テクニカルな切り返しにスピーディーな攻防。特筆する場面こそないものの、こういうシンプルな攻防も悪くはないものです。最後はムーンサルトことブルーヴェンジェンスをガンスタンで切り返しての、ランニングしての正調ガンスタンでタマが勝利。これも第一試合と同じ横綱相撲という印象でしたね。それにしてもTMDKの二人は本当にいい選手ですね。シェインはボム・バレー・デスが個人的にはかなり好きな技ですし、マイキーは今回の青タイツや風貌も相まってどことなくクリス・ベノワっぽさがあるので好きですw

◾️第3試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Dブロック公式戦
後藤 洋央紀 vs シェイン・ヘイスト

シェインはマイキーと比較するとややヒールな印象とある荒々しさと躍動感がありますね。開幕奇襲から一気に攻め立てますが、ここは後藤が隙をついて後藤弍式で押さえ込んで技アリ一本。ややあっさり目の試合構成ながら、荒々しさではなくこうした変化球をサッと投げられるのはまさにキャリアであり、G1優勝の実績は伊達ではありません。衰えではなく、元からこうした押さえ込みは後藤は得意であり、むしろこういう方面にスキルツリーを伸ばしていくのは今後を見据えるといいかもしれませんね。

◾️第4試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Cブロック公式戦
HENARE vs エディ・キングストン

鷹木戦での勝利はかなり大きく、風貌の変化もあってかHENAREの入場時の貫禄と表情が素晴らしいですね。以前の全身武器のようなプロレスナイズされたストリートファイターめいた風貌も好きだったのですが、ガラッとイメージを一新してからは使う技の強弱に関わらず、野生味と力強さが
付与された印象があります。

対するエディキンはやはり表情が素晴らしく、これは応援したくなりますよね。以前も書きましたがこの観客との距離感の近さが持ち味というか、加えて使う技が往年の名選手の技が多めというのもあり、海外のプロレスオタクが夢を叶えた姿を追体験しているかのような楽しさがあります。

徹底して腕を攻められ、苦戦を強いられるエディキンですが、ジャンピングハイ二連発から小橋を彷彿とさせるハーフネルソン。最後は打撃戦からのバックフィストトゥザフューチャーで逆転勝利。フィニッシャーとしては周知の問題もあってリアクションはそこまでな印象もありましたが、元の裏拳自体が不意打ちめいたものもあって、技としては悪くなかったと思います。こうした雰囲気が似合うというか、エディキンは本当に面白いですよねw

◾️第5試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Dブロック公式戦
矢野 通 vs 内藤 哲也

内藤vs矢野、実は結構好きなマッチアップなのです。やはり内藤もトップレスラーなわけで、シリアスだけでなくコミカルへの適応力も高いのですが、対矢野相手となるとロスインゴ特有のアジテーションが存分に発揮されると同時に、何でもやる矢野だからこそ何されても文句は言えないわけで、入場で待つ内藤と焦る矢野という構図の時点で互いの心理戦が始まっているわけです。

内藤の入場の長さと高揚感は言わずもがなですが、今回は入場曲が終わるまでリングに上がらず、入場曲が終わったタイミングでどうなるかと思いきやまさかのおかわりw入場が一つの見所であるからこその暴挙。これだけで一つのボーナストラックになっているのがいいですよね。矢野ワールドに足を踏み入れつつ己のカラーに書き換えてるわけで、この二人の対決は世界観のぶつけ合いになってるのが個人的にはポイントが高いです。

たっぷり時間をかけてのゴング開始。やる気ないように見せかけてスクールボーイ、首固め、ジャックナイフと予感された秒殺決着を予期させる揺さぶりをかける内藤。先手を取られて花道を帰りかける矢野ですが、リングに入るか否かで一悶着。ようやく入ったかと思いきや今度はリング下に降りる内藤。心理戦ですよ心理戦。

場外戦では上回った矢野ですが、テープを取り出した所で逆に内藤に鉄柵へと結ばれます。カウント19で戻るも、最後は内藤が不意打ちのカサドーラで押さえ込んで勝利。コーナー金具へのシーソーホイップを見るとやはり膝の状態を不安視してしまいますが、それを嘲笑いつつ矢野を痛ぶったあとは走って帰っての足早の退場。いやはや、内藤劇場でしたね。

◾️第6試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Cブロック公式戦
石井 智宏 vs 鷹木 信悟

いやあ……いつどんな日に組まれても、どんなタイミングで組まれてもクオリティに定評のある二人の試合だけに、最高にアガりましたね。

毎回そうなのですがこの二人は互いに手数が多く、また攻防が濃密なため試合詳細のリポートをやるとべらぼうに長くなりますし、ただそれを追うだけになってしまうためあまり詳しく書くことはないのですが、文字通り言葉はいらない試合ですよ。

ただ一点、特筆すべき点を上げるとするなら、やはりフィニッシュとなったパンピングボンバーですね。ラストオブザドラゴンでのフォールが遅れ、時間切れ引き分けも視野に入った中での一発というのもあってか、いい意味での驚きがあり、二人の試合の「削り」の説得力がこの技で一気に抜きん出た気がします。

新日マットでのメインフィニッシャーはラストオブザドラゴンであり、パンピングボンバーはどちらかと言えば準フィニッシャー。決まり手になることはあるものの、6人タッグ戦での決着とかに使うことが多かったわけなのですが、この試合では決め手となりました。元からドラゲー時代はフィニッシャーとして愛用してた技というのもあって、この試合の決着に相応しい一撃となりましたね。相手が石井だからこその一発という気もしますし、まさに執念の勝利だった気もします。

◾️第7試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Dブロック公式戦
棚橋 弘至 vs ジェフ・コブ

ジェフ・コブのエアギター剽盗を始めとして、フォーリンラブや意外性のあるスリングブレイドを繰り出すなど、この試合のコブはややヒールめいた立ち回りを演じていて面白かったです。特に棚橋相手のアピール過多は舐め切ってる感じもあり、それが棚橋の衰えといい意味で噛み合っていてリアリティがありました。

変化を打ち出した棚橋ではあったのですが、こうしたコブの挑発に乗ってしまった部分もあり、そしてそれは仕方のない部分でもあります。レスラーにとっての一番大切なスタイルの模倣。謂わば「矜持」の部分に触れたからこそで、かつての棚橋を引き出されてしまったわけなのですよね。しかしながら限界を超えて戦い続け、歴戦のダメージで衰えもあるからこそ、棚橋は「変化」を打ち出したわけで、今までの棚橋では当人も言っている通り勝ち切れないわけなのです。それを分かってて棚橋のプライドを刺激したコブはファンの身からすると悪辣ながらも、戦いとしては至極真っ当かつ戦略勝ちといった塩梅で、舐めてるように振る舞っていてその実舐めていないからこそ手段を選ばなかったと考えるなら、コブは実にいい仕事をしたなと思います。

棚橋もまるで勝ち目がなかったわけではなく、こうしてコンディションに対するファンの不安視や「もうダメかもしれない……」というネガティブさを跳ね除けて不死鳥のように蘇り、名勝負を叩き出す様を何度も見ているので大丈夫だと胸を張って言えるのですが、今回ばかりは悔しい完敗でしたね。前のシェイン戦が以前の棚橋で勝利を収めただけに、新日のキャラランク的に上位のコブには負けてしまったというのも色んな意味での「リアル」を感じてしまいます。

棚橋にとっては手痛い敗戦ではあったのですが、やはり注目は内藤戦であり「かつての時代」を背負い抗い続けた人間同士の一戦は非常に気になります。そしてまた変化の棚橋と、今までの棚橋の違いなど、このG1の棚橋も注目ではありますかね。もう終わりだなんてとんでもない。棚橋はここからですほ。

◾️第8試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Cブロック公式戦
デビッド・フィンレー vs “キング・オブ・ダークネス”EVIL

今大会の中では最も刺激的な第一種接近遭遇であり、また最も危険なマッチアップです。互いにヒールユニットの首魁でありながら、緊張感のある危険な関係を続けていたわけなのですが、ここにきてのシングル戦。いやはや、ゾクゾクしますね。

BULLET CLUB WAR DOGSとHOUSE OF TORTURE。互いに仲間を集めての入場は素晴らしかったですし、絵になりますね。プロレス版「黒の衝撃」と言っても過言ではないぐらいのインパクトがありました。

試合は両軍のセコンドが入り乱れ、よもやすればランバージャックデスマッチのような様相を呈していたのですが、目を見張ったのはフィンレーとEVILのヒールムーブのアプローチの違いであり、ここは両者のスタイルや思想が異なることが如実に伝わってきて面白かったですね。

3年ほど前に書いたnote乱入作法〜EVILの介入・反則についての個人的見解〜でも触れたのですが、EVILの反則は一口に反則と言ってもそのバリエーションは多岐に渡り、単純に介入・反則だからと言って切って捨てるにはもったいないほど戦術として完成されています。初期の頃はこの戦法の評判はすこぶる悪く、団体の屋台骨すら揺るがしたわけですが、ヒールということを思えば勲章ですよ。悪が栄えた試しはないわけですから。ガチのヘイトまで生み出したのであれば「悪」としてこれ以上ないリアリティがあり「悪」としては完璧です。

この試合においてのEVILはセコンドが介入できるタイミングが制限されている条件付きの縛りプレイのような感じでありながらも、ブラインドや隙をつく形でのラフプレイが巧みで、単純なヒールの所作としてはフィンレーを大きく上回っている印象を受けました。前述のヘイトをクールダウンさせるためか、近年は中ボス的な立ち位置をキープしつつコミカルな役回りが目立つこともあり、愛すべきやられ役のような振る舞いが目立っていましたが、この試合は久しぶりにEVILの悪辣さを堪能できましたし、特に序盤の拷問式逆片エビ固めはとてもよかったですね。元々スコーピオンデスロックを得意としてるのもあってかその変化球としてこの技のチョイスは見事でしたし、WAR DOGSという野良犬に鎖を巻いて無理やり躾けるような、そんなイメージさえ浮かんできました。

対するフィンレーもやられっぱなしでは終わらず、掌を踏みつけるストンピングは親父譲りのえげつなさがあり、単なる顔面へのガウジングやストンピング一つ取ってもフィンレーがやるととにかく陰惨に映るんですよね。相手の骨を直接攻めてるようなイメージというか、人体破壊系のヒールといった塩梅で、そこに生来の気性の荒さを上手く乗せることに成功したと思います。またそれでいながら血脈の天才ぶりを感じる切り返しのセンスは相変わらずで、EVILを切り返してのバックブリーカーは素晴らしかったですね。

入ってくるたびにレフェリーがダウンする新日史上類を見ないほどに荒れまくった一戦は、ベルト攻撃、シレイリで打撃、そしてINTO OBLIVIONと凶器攻撃をふんだんに使用しての勝利。この二人の間で決着がつくとは……いやあ……これには驚かされました。

互いが互いにボスポジションのリーダー格であるからこそ、この決着ってお茶を濁すのかなと少し思っていたんですよね。時間切れ引き分けか、両軍入り乱れてのノーコンテストか無効試合。ヒール同士の対決というのもあって、反則負けは「名誉」なわけですし、それも含めて幕引きへの期待感は非常に高かったわけなのです。それにしてもこんな感じになるとは……。見終わってショックを受けている自分に気付いたというか、両選手とも好きなのですが、どうやらEVILを応援していたようです。見終わって気づくのもまた、プロレスの醍醐味なのかもしれません。

いや、それにしてもヒールの勝利で喜ぶような人種である僕が、こうしたヒール同士の決着でショックを受けるとは……。ある意味では普段周りのファンが味わってる絶望感ややるせなさをヒールファンに味わわせたという意味では最高の仕事をしたと言えるのかもしれません。しかしながらユニット推しとしては胃がキリキリするような分裂の危機が表面化したわけでもありますし、何よりどちらがヒールとして上というのはともかくとしても、勝ちと負けで明確に二人の間に序列がついたのがキツいですね。

バレットクラブのリーダーは先代、先先代とIWGPの常連だったというのもあり、それと比較するとNJC準優勝とNEVER王者という実績はやや格落ち感が否めないのですが、ここにきてEVIL相手の勝利というのはまさに値千金であり、頭目としての面目躍如たいった感じがあります。とはいえ、フィンレーというレスラーが格落ちかと言われたらそうではなく、新日での実績面で語るなら、WWE行き前の初代リーダーのプリンス・デヴィッドもJr.の実績は極めていましたがヘビー級の実績は同じような感じでしたし、それを抜きにしてもフィンレーの宿した荒々しさは原点回帰に近いものがあるのです。それを思うと勝利も当然な気がしてきますし、ここからさらに飛躍しそうで楽しみですね。

敗れたEVILは個人的にはショックではあるものの、ヒールとして遅れを取ったとは到底思えないですし、それ以上にこれから先に血みどろの抗争が広がりそうで、そっちにちょっとワクワクしているんですよね。ヒール転向後のEVILはロスインゴ勢との因縁や対ベビー相手のヒールストーリーが多かっただけに、対ヒールの戦いというのはわりと目新しく、ジェイとの緊迫感のある敵か味方かわからない物語も面白かったのですが、対フィンレーとの戦いではEVILは直接対決で敗れてる以上、明確に「主人公」なわけなのです。ヒールなのに主人公とは?と思うかもしれませんが、EVILは普段何と言ってますか?「俺こそが正義であり、本物であり、頂点」なのですよ。これ、アンチヒーローみたいな役割というわけではないのがミソで、悪は悪のままとしての地獄のような戦いが幕を開けるかもしれないのです。ユニットの今後は不安でありつつも、これは非常に楽しみですね。こうしたストーリーテリングをやらせたら今の新日は天下一品です。因縁の種を蒔きつつのto be continued。どうなるか追っていくしかないようです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?