2023.8.5 新日本プロレス G1 CLIMAX 33 Aブロック最終戦 試合雑感

◼️第6試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Aブロック公式戦
辻 陽太 vs ゲイブ・キッド

互いにイケイケかつ攻め一辺倒の二人であるため、試合前から壮絶なシバキ合いに期待の集まる一戦でした。

開幕早々、このG1ですっかり定番化した奇襲を仕掛け、辻を殴りまくるゲイブでしたが、その背後から薄笑いを浮かべて姿を現した辻。まさかの辻二人?というざわめきが巻き起こり、ザックが以前やった替え玉か?と思いきや、その風貌は辻陽太そのもの……。混乱の中、実況によって明かされたまさかの双子の兄!これには笑いましたw辻、やってくれましたね(笑)ゲイブもわりとガシガシ打撃を入れていたのでてっきりヤングライオンかと思いましたが、スタントマンというので得心がいった感じですかね。

プロレスにおいての兄弟による入れ替わりはわりと古典的なネタではあるのですが、まさかこのタイミングでやるとは思わず、サプライズ感が凄かったです。ネタもそうなのですが、何よりこういうことをサラッとやるあたりに辻の「ロスインゴらしさ」を強く感じてしまったというか、頭のきれる怪物だなと思いました。

入れ替わりトリックのインパクトは絶大だったものの、試合もそれに負けじと白熱の喧嘩マッチとなりました。互いに一歩も引かず、怪物・辻陽太を前にしてもゲイブが見劣りしなかったのが素晴らしいポイントで、バックドロップ、フロントスープレックス、エルボーとシンプルな技セットのどれもが強力かつ、特に投げは角度がエグいんですよね。不意に出したムーンサルトプレスはその中だとやや浮いている印象もあるのですが、SANADA戦での剽盗ではなく、自身の得意技だという強いプライドを感じました。

辻は今の新日のレスラーだと珍しく序盤から中盤にかけての大技が多いタイプであり、トペを始めにゲイブに負けじと繰り出したムーンサルトプレスやブレーンバスターボムなど、技だけで格の違いと鮮烈な印象を残せるのは強いですよね。逆に後半はシンプルなヘッドバッドやカーブストンプといった小技が目立つタイプで、スケール感の拡散からの集約がとにかく上手いなと。よもやすれば竜頭蛇尾に陥りそうな構成ですが、フィニッシャーのスピアーことジーンブラスターの一撃必殺性があるため、手詰まり感がなく一気に走る抜ける爽快感があるのがいいですね。加えて、このクライマックスの余白がそのまま辻の可能性となっており、それこそオカダの開脚式ツームストンや内藤のバレンティアといった、終盤用の大技という成長要素を残しているので、これからが楽しみなわけですよ。

最後は張り手の応酬からヘッドバッドでダウンさせると、最後は互いに走り込んだ中、ジーンブラスターでゲイブを撃破。ゲイブからするとまさに特攻玉砕といった印象ではありますが、このG1を通じて最もその実力が周知されたのは間違いなくゲイブでしょう。ヒールというスタンスにこそ隠れていますが、新世代の若手らしいガツガツとした野心や荒々しい熱があったのはゲイブです。これからも注目していきたい選手ですね。



◼️第7試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Aブロック公式戦
成田 蓮 vs 清宮 海斗

戦前から内容、結果含めて最も不安視された一戦でありながら、一番注目を集めたと言っても過言ではない試合でしょう。このG1の清宮はここにくるまで2勝2敗2分けと戦績は決してよくないながらも、試合のクオリティはすこぶる高く、Aブロックのマッチレーティングを底上げしていた印象があります。

対する成田は他の令和闘魂三銃士と比べるとやはり一枚落ちる印象であり、当人の本質に合ったスタイルと現状のスタイルの噛み合わせの悪さだったり、周囲の生温かい目であったりと、とにかく悔しい夏だったように思います。Aブロック突破の目こそないものの、ストロングスタイルという金看板を背負う以上、他団体の選手相手には絶対負けられず、ここは正念場でしたね。

試合序盤は互いのレスリングによる攻防。ストロングストロングを掲げる以上、ここから逃げなかったことにまずは一安心といった感じで、相変わらず清宮の技術の高さに唸らされるものの、成田も要所要所ではきっちり対応していますよね。打撃戦でいい張り手を打っていたのも印象深く、蹴りよりエルボーや張り手のほうが強いですよね。

前半で目を引いたのは清宮のランニングネックブリーカーの受けで、これは王道の技かつ清宮自身も使うせいか、掛け手・受け手ともに綺麗に決まった印象があります。そして徹底した足狙い。仕掛けの早いドラゴンスクリューに足4の字固めと成田を悶絶させます。20分一本勝負では清宮の本領は発揮されないという声も多かったですが、むしろこの新日に対する適応力の高さにこそ目を見張るものがあり、このG1のリーグ戦って清宮海斗がどういうレスラーかの周知とプロモーションも兼ねてたわけで、それを思うと非常にキャッチーに削ぎ落とした清宮の試合構成力はべらぼうに高いんですよ。何より清宮のG1での試合って「違和感」が全然なかったんですよね。このアジャストぶりは本当に凄いことですよ。

成田は成田でマムシのようなしつこいスリーパーに活路を見出し、どうしたって地力で劣る成田がこれを選ぶのは非常に説得力がありましたね。あのタフな潮崎豪ですら柴田のスリーパーで落とされかけたり、鈴木軍侵攻時に鈴木みのるが散々使っていたのもあり、これを選ぶこと自体が成田の師の踏襲であり、怪物級のタフネスを持つ対ノアを考えるとこれはベストな技チョイスだと思うわけです。近年、船木やその教えを受けた拳王がこれを使って異色性を出してノアマットで暴れてたのも印象深く、わりと目の付け所はいいなと思っていたんですよね。

成田にいいようにやられて欲しくないという願いと、清宮のAブロック突破を願う気持ちが交差する中、試合のボルテージは一気に高まります。スリーパーからのコブラは成功したものの、それ以降はフロントスープレックス、コブラともに清宮にきっちりガードされ、清宮はフランケンシュタイナー、コブラを切り返してのタイガースープレックス、さらに変形タイガードライバーで一気に攻め立てます。これを何とかクリアする成田。変形シャイニングの構えで万事休すかと思いきや、これを一発で切って捨てた成田のカウンターでのフロントスープレックスホールドで!3カウントとともに、清宮の夏が終わりました。

いやあ……これしかなかったですよ、本当に。成田が清宮に勝つにはこれしかなかった。このG1で何度も出したコブラではなく、最後の最後で頼ったのはやはり地金の部分であり、そして他のレスラーにはない成田自身の特性しかない。決まれば取れる技を決めさせてしまった。敗因はそれで十分でしょう。これなら仕方ないですよ。ストロングスタイル=柴田イメージが強いせいか、どうしてもそっちに引きずられがちですが、無理にコブラやキックを使わずとも、自身の武器である各種スープレックスを磨き上げていけばいい。そしてそれがいずれはストロングスタイルと呼ばれるものになる。遠回りなようですが、個人的にはそれが一番だとあらためて思い直しましたね。

フロントスープレックス一発で終わるのは納得できないファンも多いかとは思いますが、成田はこれでSANADAから大金星を取ってますし、何より成田のフロントスープレックスは綺麗なんですよね。とにかく美しい。他の追随を許さないぐらい角度、高度、ブリッジともに素晴らしく、クラッチしてホールドする関係上、腕を解かずに相手が仕掛けてきた勢いに投げの勢いを加える形で、急角度で後頭部を打ちつけているわけで。あらためて見直してみても決まり具合はパーフェクトなんですよね。勘違いしないで欲しいのですが、フロントスープレックスはれっきとした「必殺技」です。自分から仕掛けてホールドするノーザンのようなタイプではなく、またカウンターで投げっぱなすのではなく、相手の勢いを利用してのカウンターで、それを殺さずにしっかりホールドするから3カウント取れる威力に仕上がっている。ようはそういうことなのですよ。運用こそクイックめいていても、あれはれっきとしたカウンターの必殺技なのであり、銭が取れ、相手を倒せる技なのです。

清宮にとっては戦績は震わず、悔しい夏で終わりましたが、その爽やかさの余韻は消えず、何よりこのG1参戦で確実に自身のファンを増やしたのは明白であり、結果としてはプラスしかないと思ってます。あと、当初僕は話題性と動員のことを考えたら清宮の決勝トーナメント進出は十分あり得るだろうと思っていて、逆に当初期待されていたオカダとの邂逅はこのG1ではないだろうというスタンスだったのですが、思った以上に清宮の対新日のストーリーは長丁場で組まれてるなと思いました。向こう5年は確実に続くというか、対オカダ相手の勝利に加えてG1での決勝進出という新たな野望も加わりましたし、GHCをすでに戴冠し、N-1を制覇した今となっては、まだ目指すべき目標があるというのは一つの幸運だと思います。

それでいて、プロレスリングノアの発展という最初の目標はずっと変わらず、全てはそこへと繋がっていく。清宮の物語はまだ幕を開けたばかりなのかもしれません。現時点だとどうなるか未知数とはいえ、またG1に帰ってくると言ってくれたのは新日ファンとしてはただただ嬉しく、清宮海斗の逆襲をまた期待したいと思います。このG1での高クオリティぶりをみれば、その才能を疑う人間はプロレスファンの中にはいないでしょう。僕もその一人です。

◼️第8試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Aブロック公式戦
SANADA vs チェーズ・オーエンズ

このG1で一気に王者としての盤石さを示したSANADAですが、個人的には変わったなと思ったのは辻との再戦からで、清宮戦までに覚醒が間に合ったのに一安心すると同時に、ようやく手放しでSANADAを褒められるようになったのが喜ばしいです。やはり最後の最後まで王者然としていましたね。

試合は場外カウントやサポーターの金具殴打による危うさもあったものの、SANADAの牙城を崩すには至らず。パッケージパイルドライバーをフランケンシュタイナーで切り返すと、そこから加速してのシャイニングウィザード。SANADAのシャイニングは武藤と違ってコンパクトかつメリハリが効いてない代わりに、とても伸びやかで流れるように放つのが魅力的ですね。そしてすっかり定番化したデッドフォールからの3カウント。この技もフォールに行くまでの動きが以前と比べると非常に洗練されており、こうした細かな所作の部分でもSANADAの成長ぶりが伺えます。とにかくひたすらに盤石かつ、全勝も納得の安定感。王者のまま全勝からの初制覇。それもいいんじゃないかなと思ってしまいました。

◼️第9試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Aブロック公式戦
海野 翔太 vs ヒクレオ

清宮が敗退したことで、この二人の戦いが事実上のAブロック2位決定戦となりましたね。ヒクレオはG1開始前はわりとノーマークだった印象はあるのですが、ジェイ・ホワイトに続き清宮海斗を倒したという実績面は申し分なく、新世代の怪物としての認知はかなり高まってきたと思います。

体格面は不利ながらも、巨漢相手の試合らしく何度もボディスラムに果敢に挑みながらも、そのパワーを真っ向から受けるあたり、やはりエース路線なんだなと再確認しちゃいますね。単にボディスラムチャレンジだけでなく、しっかりとヒクレオの巨体を雪崩式ブレーンバスターで投げ切ったあたりは素晴らしく、メインに相応しい特別感があって良かったです。

ただ、惜しむらくはSTFの決まり具合であり、直伝されたことで武器にはなったものの、まだ研ぎ澄ますまでには至っておらず、これはひたすらに練度を高めていくしかないですね。ヒクレオはその巨体の活かし方をこのG1を通じて学んでいった感じがあり、特に超高高度の投げ捨てパワーボムにはビビりました。やはり力こそパワーですよ。

ヒクレオのゴッドセンドをDDTや回転エビ固めで切り返して追い縋るも、最後は高速パワースラムことパワートリップからのゴッドセンドで海野轟沈。課題点は多くとも、この奮戦ぶりは中々のものであり、メインを立派に務め上げただけで十分ですね。

それにしても恐ろしきはヒクレオの怪物ぶりであり、清宮含めて令和闘魂三銃士の日本人新世代を全員総ナメにしたのはヤバいですよ。終わってみればそれらを全員倒したSANADAとヒクレオのAブロック勝ち上がりという納得の結果であり、ここで海野が勝ったならば良くも悪くも昔の棚橋のように叩かれていたかもしれないなと思ってただけに、一安心したというのが正直なところかもしれません。Aブロック最終戦、最後まで波瀾万丈で本当に面白かったです。





いやあ……今日ほど固唾を飲んで見守っていた興行はないですよ。清宮敗退のショックは大きいながらも、新日相手に顔面蹴りだけの男ではないとしっかりと実力を見せつけた清宮が嬉しく、またその逆で清宮に今の業界トップである新日本を体感させた新日の層の厚さもまた喜ばしく、勝ち負けは重いながらも、久しぶりに対抗戦らしい空気感があってゾクゾクしちゃいました。特にこのAブロックは単なる勝敗だけでなく、勝ち負け含めてストーリーテリングが本当にしっかりしており、色々と昔のG1と比較する声もありましたが、個人的にはリーグ戦にストーリー要素を無理なく組み入れたという点でG1は新たなステージになったと思っています。残りのBブロック、Cブロック、Dブロックも気になりますね。ではでは、今日はここまで。