SANADAの変〜2023.3.21 新日本プロレス NEW JAPAN CUP 2023 決勝戦 試合雑感〜

◼️ 第8試合 時間無制限1本勝負
『NEW JAPAN CUP 2023』決勝戦
SANADA vs デビッド・フィンレー

ギミックチェンジを果たした両者による決勝かつ、どちらが勝っても初優勝という新鮮味のあるシチュエーションです。とはいえ、このカード自体はあらかた予想はついていたというか、G-1が狭き門になった代わりにかつてのG-1が担っていた登竜門としての役割をこれからNJCが担っていくのでしょう。いきなり総括めいたものから入りますが、ここ数年のNJCはわりと番狂せも起こりやすく、今回もトーナメントで組まれたカード自体の訴求力はそこまで強くないものの、海野や成田などの新世代の台頭や、偶発的ではありつつもオスプレイからデイビスへの魂のバトンなど、一試合一試合のドラマがわりと濃く、SANADAやフィンレーの変貌だけに焦点が集まったというわけでなかったのがよかったです。しかしながら収まる所に収まったなというのが本音としてあり、新日を読み解く上では如何にして「物語性」を持っているか否かが大事なんだなと思いました。

SANADAの低迷の萌芽は成田戦でのシングル敗北のときからありましたが、実感として湧いてきたのは金剛との対抗戦で征矢に惜敗したあたりからで、試合自体のクオリティがすこぶる高かったBUSHIの敗戦はまだ「一仕事」の役目を果たした感がありますが、SANADAはかつてのライバル相手にまともにやって負けたわけで、他と比べてより敗戦がクローズアップされた印象があります。加えて、内藤の武藤戦が決まったあたりで離脱フラグは完全に立っていた印象もあり、師である武藤敬司の引退ロードに端役としてしか絡めなかった不運と己の実力不足を突きつけられたわけなので、変化を求める理由はそれなりに醸成されていたと見るべきでしょう。

実のところ、それ以前からSANADAの試合内容に対して不満は再三noteで指摘していており、それはG-1のリーグ戦で顕著に現れていたようにも思うんですよね。どうにも試合内容のクオリティにムラがあるというか、とりあえず試合内容が薄くても「欲しがる」アピールやパラダイスロック、美技であるオコーナーブリッジさえ見せておけば一定の顧客満足度は得られちゃうわけで、それが伸び悩む遠因になったかもしれませんね。いつもの光景になってしまったが故の「日常性の呪縛」とでも言いましょうか。どんな相手でも合わせてソツなくこなせてしまう優等生気質だからこそ、ぶち当たってしまった壁のようにも思います。

そんなSANADAですが内藤戦で「ロスインゴにいても何も新しいものは生まれなかった」として衝撃の離脱を宣言し、タイチのJust 4 Guysへと合流。金髪から髪を黒色へと戻し、髭も剃った風貌は今までとは違う精悍な面構えになりましたね。しかしながら入場曲は据え置きのままで、コスチュームは変更なし。ここを変えると言ったわりには今までのSANADA像に強い未練を残した「半端」な変化と捉えるか、今までのSANADAのイメージをある程度は残しつつ、その「延長線上」にある変化と捉えるか。ここでSANADAに対しての評価はかなり変わるのではないかと思います。多少アレンジはありつつも根底の部分は変わらず、より素を出すようになったことを喜ぶ人もいるでしょうし、逆にかつてのイメージを引きずることで嫌でもロスインゴ時代を思い出し、それが否定されてしまったことでロスインゴが足枷だったのでは?と感じてしまう人もいるでしょう。

対するフィンレーはバレットクラブのNEWリーダーとして大幅なギミックチェンジをしており、異名もThe Rebelと改めて、傍には安定の外道。長髪&髭という出立ちはどこか去ってしまったジェイ・ホワイトを彷彿とさせながらも、サイコでシャープなジェイとはだいぶイメージは異なりますね。二番煎じ感はややありつつも、わかりやすくイメージを踏襲したことでかえって別物感が際立ちましたし、5代名リーダー襲名として相応しい風貌になったとも言えるでしょう。

試合内容は元より切り返しに定評のあった両者ならではのフレッシュな一進一退の攻防となりましたね。フィンレーのスタイルはネックブリーカーやパックブリーカーといった頸椎や脊椎等の身体の中心軸……謂わば「骨」に狙いを絞った分かりやすいブリーカーキャラであり、そこにアイリッシュ気質の激しい打撃のテイストを加えた感じですね。リーダー襲名以後は不安視された乱入や介入に頼ることなく、ひたすら横暴に激しく攻め立てるスタイルとなっていて、まだ神通力の備わっていないトラッシュパンダを引き立たせるために大技を増やして全体的に試合の厚みを増してきたのが印象深かったです。

SANADAもフィンレーの激しさに押されつつも、変化の期待感を逃せない必死さや全力感はわりと出ていましたし、それでも今までのSANADAと何が違うんだ?今まで何をしていたんだ?という厳しい査定の目はありはしたのですが、終盤に繰り出したある技でその評価は多少改めてしまいました。その技とは何を隠そうシャイニング・ウィザードです。これには驚かされましたね。

SANADAのシャイニングウィザードは技としての練度は低く、お世辞にも上手い一発とは言えなかったのですが、それが逆に「意識的に使うのを避けてきた」というSANADAの言葉の信憑性が増すんですよね。真似事でも簡単には使えない魔力がこの技にはあり、それは技の難易度や利便性だけの話だけではなく、わかりやすいパロディ感が出てしまうというか……。武藤敬司の代名詞だからこそ、弟子が使うとより容易く、武藤敬司のイメージへと絡み取られてしまうわけです。思い返せば新日のラストマッチでSANADAはこの技を武藤から直接被弾していますし、あれは武藤なりの手厳しい置き土産だったのかもしれませんね。

個人的にSANADAの変化は乏しいなと思っていてNJCの快進撃はあまりノレてなかったわけですが、このシャイニングは胸に迫るものがあり、見る目がちょっと甘くなってしまいましたね。変化というのは単に新しいものを出すだけではないのです。今までの自分でも出せるものがあることへの「気づき」もまた変化の一つであり、そんな風に見る視点を変えることは意外と大事だったりするんですよね。三十半ばになった男の自分探しと捉えればこの選択も妙にリアルに感じちゃうというか、思い当たる部分も多く、簡単に手札を全部捨てればいいわけではないんですよね。固定観念に囚われないのは確かに大事なことなのです。

そしてフィニッシュはこのトナメでも猛威を振るった変形DDT。SANADAの伸び悩みはそのスタイルも要因の一つとしてあり、それは必殺技の多様さです。ラウンディングボディプレスにオコーナーブリッジ、ややランクダウンしますがスカルエンドと、新日本だと珍しい同ランクの複数フィニッシャー持ちなわけですが、それらが見慣れてしまった最近は複数持ちであることがやや足を引っ張っていたようにも思います。一点集約型の他と違ってこれらを自在に組み替えてフレキシブルに対応する戦略の広さがSANADAの持ち味だったわけですが、そのせいで逆にSANADAといえばコレ!というようなSANADAを象徴する絶対的フィニッシャーの不在が課題として浮かび上がってしまったんですよね。無形は一つの境地であれど、多様な選択肢は逆に判断を迷わせる。本来は試合のトーンに合わせて切り替えるもので、それはSANADAもやっていたのですが、見る側としては技の価値基準が並列になってしまい、一つを出せば残りが繋ぎになってしまう悪循環に陥っていたわけなのです。自由が故の強みはあれど、やはり「型」の強さには敵わない部分もありますからね。

そんな中で編み出した新フィニッシャーであるこの変形DDTは先駆者が何人かいる技で、形としてはブレードランナーのDDT版といった感じでしょうか。ちょうどジェイ・ホワイトが不在となった今は空き家の技であり、頭から落とす技=垂直落下式のようなデンジャラスなイメージはあまりなく、SANADAの持ち味であるテクニカルな要素のほうが強いので、そういう意味でも新たな代名詞になるでしょうね。このNJCはこの技一本で勝ち上がってきていて、以前のSANADAのようなどれがフィニッシュになるかわからない予測不能さは失われたものの、まずは周知と定着でしょうね。あとはネーミングぐらいでしょうか。それが整えば神通力を持つようになるでしょう。この技が主砲として定着してしまえば残りも副砲として生きてくるわけで、シャイニングまで会得した今となっては、終盤戦の厚みはかなり増したのではないかなと思いますね。

試合後は自分の言葉でマイクアピールしつつ待望のギフト。これにホッとした人もいれば、逆に前と変わらない姿に失望する人もいるでしょう。変化ではなく進化と捉えればまあアリ……ですかね。試合は個人的には結果を出したこととシャイニングという意外な引き出し、変形DDTという新技の目新しさもあって及第点の好勝負ですかね。こうなったら王座戴冠して、それで堂々と評価の壇上に立てばいいんじゃないかなと思います。期待も反発も、とりあえずは王者になってからでしょう。

そしてJust 4 Guys改め、SANADAを加えてJust 5 Guysへとユニット名変更宣言。うーん……SANADAの変化について色々と書きましたが、移籍先のユニットにこそ問題があるというか……SANADAの変化のきっかけがユニット移動である以上、ユニットの問題と切り離して考えることができないのは頭の痛いところです。

広報としてのTAKAみちのくは弁は立ってもイメージとしては最悪の一語で、SANADAのファン層とはそぐわないでしょう。変化が乏しいことを前項で批判はしたのですが、ユニットイメージの悪さを見ると今までの客層を離すわけにはいかないので、ガラッと変えるのに抵抗があるのもわかるなと(苦笑)あまりこうした事柄にnoteで触れたいとは思いませんが、まあこればかりは当人のやらかした事柄がファンとの距離があまりにも近すぎたのが問題ですし、信義則にもとる行為であった以上、生理的に受け付けないとの声が出てくるのも仕方のないことだと思います。せっかくの独り立ちのために行動を起こしたのに、人によったらSANADAがTAKAにいいように利用されているように感じる人もいるでしょうね。ここで問題の是非を語るつもりはないのですが、せっかくの新たな門出なのに先行きが不安視されるばかりなのも色々と難儀だなと思います。

ユニットのイメージというのはかなり大きな問題で、元からナーフされた鈴木軍という新鮮味のない弱体化イメージだった所に、新戦力のSANADAの加入があまり歓迎されてないのはかなりの「つまづき」ですね。そしてそれをある程度見越した、誰の看板も背負ってないただの五人組というブランドイメージ作りが、それを前口上で担うTAKA自体に悪いイメージの大半があるせいで、誰も真面目に聞かずにあまり機能していないのも致命的ではありますね。

元よりヘビーが手薄だった所にSANADAが加入したことで、SANAやん&タイチ兄やんの友情タッグ結成自体は魅力的ではあるものの、SANADAは内藤とのタッグが試合クオリティも含めて予想以上にハマっていましたし、タイチはタイチで名タッグチームであるデンジャラステッカーズがあったわけですから、その二つのタッグを超えるとなるとかなりのハードルの高さを感じてしまうわけです。

つまりはSANADAは自分の変化だけでなく、ユニットリーダーとしてのイメージも全面に押し出さなければいけないわけで、それこそJust 5 Guys=SANADAのユニットとしなければいけないので、これはかなり難しいですよ。ただでさえメンバーのアクが強いのもありますし、SANADAが目立てば今度はタイチが脇に引かなければいけなくなり、みのるから卒業してせっかく軍団長になったのに、それも束の間でSANADAのサポートに回るというのは受け入れ難い人も多いでしょう。こうして書くと手詰まり感もありますが、ひょっとしたら何かしらの予測できない変化があるかもで、それだけが今の期待ですかね。

さてさて、かなり長くなりましたが今回はここまで。SANADAの変化は色んな意味で目が離せなくなりました。IWGP、戴冠しても挑戦失敗してもそれはそれでイバラの道ですが、自分で選んだ道なので頑張って欲しいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?