2024.1.4 新日本プロレス ベルク Presents WRESTLE KINGDOM 18 in 東京ドーム 試合雑感


あけましておめでとうございます。はじめましての方ははじめまして。新年の挨拶は前回済ませたのですが、やはり1.4ドームは新規の人も多いと思い、もう一度挨拶することと相成りました。Twitterでは書ききれない長文置き場としてプロレスのレビューを書いておりますが、プロレスブログというにはどうにも気恥ずかしく、また不定期というのもあって感想文という体裁で落ち着いてます。よければ読んでくれると嬉しいです。ではでは、前置きもここまでにしてさっそく書いていきましょう。

◼️ 第0試合 「KOPW 2024」進出権争奪ニュージャパンランボー

毎年思うことなのですが、このニュージャパンランボーは開幕で見るのにちょうどいい塩梅ですよね。ほどほどに気を抜いた状態で見れる上にすっかり定着したサプライズ枠の楽しみもあるという。今年の面子はかなり豪華というか層の厚さに驚かされます。

MVPを一人挙げるとしたらYOHでしょうね。壊れたSHOと違ってYOHは別方向にブッ壊れたというか、今のYOHは本当に謎めいていて自由で面白いです。稲中ジャージは直撃世代というか……当時はスラダンと稲中の時代でしたよね(笑)入場の謎ダッシュも笑いましたし、新年初笑いをYOHに取られたのが悔しくてたまりません。レスラーはシリアスとコミカルを演じ分けられてこそ超一流というのが自論なのですが、これを獲得したYOHは間違いなく飛躍しますよ。

目立ったのはYOHだけではなく、やはり今年のサプライズ枠でしょう。一人目はフジタ・Jr.・ハヤトで、予想外であると同時に、1.4ドームに立ちたいという当人の願いを間接的に叶える形になったことに感じ入ってしまいました。この瞬間、間違いなくハヤトはこの場の主役でしたし、ドームに立つこと自体に価値がある今の新日において、単なる数合わせだと揶揄されがちなニュージャパンランボーという多人数形式の試合に改めて大切な意味が生まれた瞬間でもありました。

もう一人は飯塚隆史で、新日マットには5年ぶりの登場でありながら、その肉体は少しも衰えておらず加齢がいい具合に不気味さを醸し出していて良かったです。白眉なのは二人のサプライズ枠の登場でガラリと雰囲気が変わったことと、最後の入場がタイチという作為性が逆に文脈としてしっかりと繋がっていたことで、作品としてちゃんと完結したことなのですよ。飯塚の狂乱は前の世代にとっては懐かしい一幕であり、最近ファンになった人からしたら近年の噂のレジェンドの登場なわけで、2012年以降の新しい新日の歴史を垣間見ましたね。そして落ちる寸前でファンの嘆息を呼びながらもギリギリで生き残ったオーカーン、石森、矢野、試合時間の大半を股間にロープを打ち付けられてきた稲中ジャージのYOHという4人が残り、飯塚は大暴れのまま舞台を去って行きました。封印が少しユルユルな気もするのですが、神出鬼没のイメージを保ったままでの引退だからこそできたことなのかもしれませんね。この面子だとやはりYOHかオーカーンの戴冠に期待したいところです。

◼️ 第1試合 60分1本勝負
IWGPジュニアタッグ選手権試合
モロニー&コナーズ vs TJP&アキラ

棺桶に閉じ込められて復活の時を待っていたTJPなのですが、フィリピンの吸血鬼アスワングという新たなペルソナをその身に宿して復活を遂げましたね。二面性のあるレスラーといえば新日だとやはりムタや鬼神ライガーが頭をよぎりますが、今回のを見る限りではどちらかといえばフィンベイラーのデーモンキングギミックに近い印象がありました。新日においての怪奇系キャラクターは空き家でしたし、何よりクールなTJPと今回の鬼面はイメージとしては真逆で、これはかなり冒険してきたなと。

TJP自体、五指に入るテクニシャンではありますが、完全別ギミックで試合のテンポすら変えてきたのは恐れ入りました。とはいえ、まだ当初の衝撃も手伝ってか見慣れるのに時間がかかるという印象ではあったものの、それでもインパクトは十分で、面白いなと思ったのは相手に噛み付く吸血からの赤い毒霧であり、吸血した血を吹き出してるというのは斬新でしたね。毒霧って基本的には不意打ちのイメージがあり、噛み付くという目に見える形での事前の下準備入りの毒霧というのは中々に凝っている気がします。最後は2/2でCatch 2/2が王座奪取。TJPのキャラチェンジも相まってかなり新鮮な気持ちで見れた一戦でした。素顔のほうが人気なだけに、たまにやる分にはいいかもしれませんね。

◼️ 第2試合 15分1本勝負
NJPW WORLD認定TV選手権試合
ザック・セイバーJr. vs 棚橋弘至

1.2のノアの大会で前哨戦がありましたが、前の試合も今回の試合も含めて腰の入った勝負というよりは棚橋の社長就任も含めてこれからのプロモーションといった印象が強く、またTV王座自体もそうしたイメージがある王座であったため、いつもの二人の試合よりは良くも悪くも肩の力の抜けた感じで見ることができました。

15分という制約もあってか、棚橋は現状できる範囲での最大公約数的な試合をやろうという意識が強く、多少強引であろうとも特定のポジションや型に入ってしまえば勝てる、と割り切ってる感じがありますね。大らかなアメリカン気質というか、それは緻密な技術を持つヨーロピアンなザックと相対すると価値観というか思想の面でかなり異なり、この試合でもそれは如実に感じました。いい悪いの話ではなく、棚橋は「絵作り」においては新日においては右に出る人はおらず、わりと流動的な攻防よりも場面場面で印象のほうが残りやすいしそれをかなり意図的にやっているレスラーであると思います。

ハイフライフローにテキサスとやや仕掛けが早いながらも技としての大盤振る舞いを見せつつ、最後はシーソーゲームでのエビ固め合戦から無理やりにザックを押さえ込んでの勝利。押さえ込み合戦ってキャッチボールのような感じがありますが、反動をつけてより深く押さえ込むという形にしたのは上手かったですね。現状の棚橋で今のザックに勝つには時間的にもこれが限界であり、それでいてザックの価値を落とさずにスムーズに王座移動できたと思います。

あれだけの長期政権だったのもあってザックの陥落は残念ではあるものの、社長自らがベルトを手に持ち、無料放送でファンを増やすというTV王座のコンセプトに則るなら棚橋以上の適任はいないでしょう。その反面、若手枠のベルトというもう一つのコンセプトからはかなり縁遠くなった気もしますが、それはまたいずれの話で、一旦棚橋を経由することでまた新しい顔役の王者が生まれるのだと思います。

ザックはこれで丸腰になったことによっていよいよIWGP世界ヘビー級王座の道が見えてきましたね。ケニー、ジェイ、オスプレイの次の新日本プロレスNo.1ガイジンの座はザックになって欲しいですし、それぐらいのポテンシャルはある選手だと思います。

◼️ 第3試合 30分1本勝負
スペシャルシングルマッチ
辻陽太 vs 上村優也

令和闘魂三銃士が頭角を表した中で、遅れてきた新星となった上村優也と、昨年で一気に注目度と期待感で次代の大物となった辻陽太。この二人のシングルがドームで組まれたというだけで二人への期待感の大きさがわかりますね。昨年の話題性を一気に奪った辻はともかく、まだ実績に乏しい上村が相手というのは大抜擢に映るかもですが、ヤングライオン時代の上村の評価の高さを知っている身からするとむしろ当然で、単純な潜在能力だけなら今の令和闘魂三銃士より確実に上だと思っています。あくまで個人的な感想ではあるのですが。

試合内容はイケイケで強さを押し付ける辻に対して同期の意地でヒロイックに抗う上村という綺麗な対比になってました。辻はやはり日本人離れした雰囲気と強豪ガイジンのようなイメージを纏っているのが特筆すべき点であり、ファイトスタイルも今の新日本の主流であるジャパニーズルチャど真ん中であり、一言でいえば使う技含めてキャッチーかつ「トレンド」なのです。

対する上村はそんな辻に対し張り合いつつも、HEAT STORMという異名通りの熱血さと主人公オーラで強大なライバルに立ち向かうベビーというポジションをキープし続けたのはまさに一つの才能で、リッキー・スティムボートに憧れを抱いているのもあってかアームホイップのキレは抜群であり、当人の志向も古き良きアメリカンプロレスという感じがあっていいですね。そして風貌が2000年代の棚橋にあまりにも似ているというのもあり、ファイトスタイルも昔の棚橋にかなり近いものを感じます。今の棚橋はどちらかと言えばよりTVスター特化といった感じで、その現代棚橋のパフォーマーの部分を最も色濃く受け継いでいるのは海野翔太でしょう。こうしてみるとファイトスタイル含めて血の系譜というか、新世代は全員バラバラなのも面白いですよね。

こうしたアメリカンスタイルに時折混じる野毛道場仕込みの技術がクセになるというか、この試合でも見せた上村の飛びつき腕ひしぎは最高でしたね。あとは最近上村がよく使ってる無双式裏投げ……個人的にはHエッジが近い気もして、これもまたヒロイックなイメージにあってていいと思います。そしてドラゴンスープレックスホールドから間を置かず、腕を極めてコントロールしてのカンヌキスープレックスホールドで辻に勝利。いやあ……上村はそもそも使う技が好きなんだなと改めて思い知らされました。

辻もまさかの敗北ではありますが、最高王座にはギリギリ届かず、そしてごくたまに足を引っ張られる感じの「もどかしさ」が定着しつつもあり、それでいながら新世代のトップランナーとしての格が一切落ちていないのは凄いなと思います。これは確かに応援したくなりますよね。今のところは試合内容、パフォーマンスともに一級品で、一番出世が約束されていると思いますが、仮に悲願の王座戴冠が他の3人に先んじられた場合、このもどかしさが焦燥感へとガラリと変わりそうです。年齢もあってか焦りは人一倍あると思いますし、その時こそが辻の確変であり、時代が変わるのかもしれませんね。

◼️ 第4試合 30分1本勝負
スペシャルタッグマッチ
海野翔太&清宮海斗 vs EVIL&成田蓮

海野と清宮のスペシャルタッグは団体の垣根を超えていますが、清宮大岩ほどには洗練されておらず、どちらかといえばゲスト的な位置付けですよね。清宮の入場曲はドームという大舞台に映えると同時に高揚感を掻き立てられますし、技術面では同世代より圧倒的に抜きん出ているので、そういう意味でも清宮参戦はいい刺激になっているのではと思います。

海野は試合内容のクオリティや技術面では清宮の後塵を拝してはいるものの、ことパフォーマンスに関してのみなら清宮をも上回っているとさえ感じます。清宮のオーラも主役のみが纏えるものであり、そこには天性のものを感じますが、海野のそれはさらに天賦の才に近く、確かにこれはエース候補生としてしか生きる道はないですし、またその約束された道はそれだけに非常に困難なものではあるでしょう。ただ、それも納得せざるを得ないぐらい今回のバイク入場は素晴らしく、この光景そのものがいずれ訪れるであろう海野エース路線の未来に繋がるというのを想起させるのは素晴らしいですね。

しかしながらNOAHで敗北を喫したハウスオブトーチャーが二連敗を許すはずもなく、試合は改良版プッシュアップバーで海野に一撃を加え、そのままハイアングルフェイスバスターことダブルクロスで海野を葬り去って勝利。新フィニッシャーがショーン・ウォルトマンのXファクターなあたり旧世代のプヲタとしてはつい反応せざるを得ないですが、脱ストロングスタイルとしてはいい感じのイメージ変更ではないですかね。ただ、幕引きはともかく試合内容での輝きはまだまだといった感じであり、ハウスオブトーチャー加入と海野との因縁の継続でどこまで成長できるかが今後の課題となるでしょう。個人的には失われつつあるストロングスタイル路線が道半ばで終わったことに忸怩たる思いがありますが、とはいえヒール転向後の晴れやかな表情を見ると、まあこれはこれでいいものでは……と思い直しましたし、新世代のヒールとして頑張って欲しくありますね。

◼️ 第5試合 60分1本勝負
NEVER無差別級選手権試合
鷹木信悟 vs タマ・トンガ

今大会のベストバウト候補の一つです。ゴツゴツ路線のイメージの強いNEVER王座戦にさらに躍動感を増した満漢全席ぶりであり、因縁抜きのシンプルな試合内容のみならこの試合がベストだったとさえ言っても過言ではないですね。試合そのもののレベルが非常に高く、王座戦らしい満足感がありました。

鷹木に対してタマが一切格負けしておらず、ほぼ同格として走り切って戴冠に至ったのが何よりも嬉しかっただけに、後の新日離脱のニュースが衝撃的というか……理由が仕方ないとはいえ、タマは本当の功労者ですよ。見れる機会はまた訪れはしますが、とりあえずこの試合は集大成としても申し分ない名勝負だったと思います。

◼️ 第6試合 60分1本勝負
IWGPタッグ&STRONG無差別級タッグ選手権試合
後藤&YOSHI-HASHI vs ヒクレオ&ファンタズモ

試合直前にしれっと現れたドルフ・ジグラーで情緒がおかしくなってしまいました。予告なしに現れていいレベルの選手じゃありません(笑)

すわ次期タッグの挑戦者か?という思いもよそに、毘沙門vsヒクレオ&ズモのタッグは何度も手合わせしただけの完成度であり、安定感のある試合運びでしたね。最後はヒクレオバージョンのサンダーキスことサンダーストラック'91で後藤から勝利。このタッグパートナーのフィニッシャーを交換するという発想が素晴らしく、また2メートル近いヒクレオのダイビングボディプレスは説得力抜群で良かったですね。

◼️ 第7試合 60分1本勝負
IWGPジュニアヘビー級選手権試合
高橋ヒロム vs エル・デスペラード

レコードホルダーと化したヒロムが選んだのはやはり運命であり因縁の相手でもあるデスペラード。愛憎渦巻くライバル関係であり、今の新日本Jr.は若手も台頭したものの、依然としてヒロムとデスペの青春狂想曲の渦中にあると思います。この二人より上手い選手や強い選手はいるのですが、だからこそこの二人にしかできない戦いをやるというのも理にかなっており、立場こそ違えど常に二人は新日Jr.の発展のために同じ方向を向いて戦ってきたわけなのですよね。

今回のヒロムvsデスペもその総決算に相応しい死闘となりました。今までの二人の戦いでの名場面……たとえばヌメロ・ドスのカナディアンデストロイヤーでの切り返しなど、二人の戦いを追っていればその積み重ねは感じますし、何より二人とも手が合うんですよね。ライバル関係と喧伝されても意外と手が合わないこともあり、ライバルであり手が合うというのは実のところかなり奇跡的な事柄ではあるのです。

今回はデスペが垂直落下のダブルアームパイルドライバーという奥の手からのピンチェ・ロコで勝利。BOSJの前人未到の三連覇に続き、IWGPJr.ヘビーの最多防衛記録の更新すらようやく見えてきた矢先の中で、デスペラードにその記録を止められるという屈辱。ヒロムからすると非常に悔しい結果に終わりましたが、ヒロムの夢を潰えさせ、そうした形でヒロムの視界に入れるのはエル・デスペラードだけなのですよ。そうでなければライバルとは言えず、そうでなければ対等とは言えない。二度に渡ってBOSJ決勝で負け続けてヒロムの記録更新に寄与しただけに、ここは絶対に負けられない一戦でした。

しかしながら、それは対ヒロムを向いての話であり、当人はいまだBOSJ優勝を成し遂げていません。G1における橋本真也や中邑真輔のような8年目での縁結びが今年デスペラードに訪れるのか。これはかなり気になる所ですね。

◼️ 第8試合 60分1本勝負
IWGP GLOBALヘビー級選手権
初代王者決定3WAYマッチ
オスプレイ vs モクスリー vs フィンレー

今大会のベストバウトの一つです。AEWとの契約が決まったオスプレイの人気は凄まじく、要請ありきとはいえ入場時のコールからしても、今の年齢ですでに「伝説化」していますね。そんな現代の現在進行形の伝説だからこそ、WWEの重鎮かつAEWの狂犬でもある世界標準のレスラー、ジョン・モクスリー とのシングルが見たかった気もするのですが、ここに文字通り割って入ったのはデビッド・フィンレーという男。稀代の天才、ジェイ・ホワイトの後釜にしてバレットクラブの5代目リーダー襲名というのもあってか、格で負けてはいても存在で遅れを取るわけにはいきません。

そんな二人の怪物に挟まれた状態で試合開始となりましたが、早々にオスプレイとモクスリーの結託により早すぎるテーブルクラッシュで戦線離脱。そこからはオスプレイの超人ムーブvsモクスリーの狂犬ムーブの激突となりました。

モクスリーはWWEスパスタに抱かれがちなイメージに反してハードヒットかつ日本のプロレスへの適応力はべらぼうに高く、またこの試合においても暴走ぶりが素晴らしかったですね。息を呑んだのは復活したをパイルドライバーを相手の腹に目掛けて串刺しするシーンで、そのデンジャラスさとアイディアに驚かされてしまいました。オスプレイの躍動感も試合全体のペースアップに寄与しており、3wayらしい目まぐるしさの中で見事なドームプロレスを行えていたように思います。

ウォードッグス乱入から二人まとめてのテーブル葬と試合が一気に荒れ模様へと突入するも、好機を逃さなかったのはフィンレーで、ストームブレイカーをモクスリーに決めたオスプレイの一瞬の隙を狙い、首を捉えてローリングして決めたINTO OBLIVIONは最高の一語であり、この切り返しのセンスのみならワールドクラスの二人にすら引けを取りません。その後のブレーンバスター式のG2Sとでもいうべき新技、オーバーキルも素晴らしく、介入ありきとはいえオスプレイからしっかり3カウントを奪ったのは値千金の勝利であり、それでいて試合全体の印象としても一切格負けしていなかったのが良かったですね。

退場時には先ほど姿を表したドルフ・ジグラーとの小競り合い。やはり名を売るには著名な人間を倒すのが一番で、また彼にはそれを成し遂げるだけの才があります。フィンレーの下剋上成り上がり、期待したいですね。

◼️ 第9試合 60分1本勝負
スペシャルシングルマッチ
オカダ・カズチカ vs ブライアン・ダニエルソン

今大会のベストバウトかつ、近年では最もオカダが追い込まれた試合となりました。夢のカードではあるのですがダニブラの負傷込みでその因縁は深く、単なるドリームマッチではないストーリーが付随された遺恨マッチとしてのクオリティも高かったのは賞賛すべきポイントだったと思います。

とにかくダニブラが強く、レスリングを基調としたオーセンティックな攻防ながら非常に見応えのある試合でしたね。オカダも当人の思想からしては珍しくエプロンサイドで危険なツームストンを放ちましたし、近年は同格の相手が多かったオカダがAJ以来の自分以上の強者に挑んでいる姿が非常に印象的でした。

特にオモプラッタ式フェイスロックことルベルロックから、オカダからタップを奪った腕極め式、そこからさらにナガタロック3のような複合関節技に移行したシーンはハイライトで、ほぼ脱出不可能かつ攻められ続けた腕をへし折れかねない拷問技は凄まじかったですね。「腕を折る」が単なる安っぽい挑発ではなく試合内容で実感したのはまさにスーパースターの成せる技であり、その後のWWEユニバースにはお馴染みのYESポーズの繰り返しには涙腺が緩んでしまいました。間違いなくオカダの眼前に立っていたのは世界的な社会現象を巻き起こしたダニブラその人であり、これは言葉通りの世界との戦いなのだと。新日本を背負っているだけでなく、日本人レスラーとしての一つの挑戦でもあったのだなと、感じ入ってしまいましたね。

そんな脅威のダニブラに対し、腕を封じられたオカダが選んだ秘策はファイヤーマンズキャリーからホイップして叩きつける新技で、最初見たときはヘビーレインか?それともランドスライドか?もしくはまさかのWWE繋がりでアティテュードアジャストメントか?と色んな想像が過りましたが、仕掛け終わったあとの体勢が膝つき式だったということを踏まえるのであれば、1.4ドームで今まで進化を遂げてきたオカダのツームストンバリエーションの一環で、あれはファイヤーマンズキャリー式ツームストンパイルドライバーが正解なのかなという結論に至りましたね。腕を痛めていたのもあってか角度がやや甘く、今までの派手なオカダドライバーからすると拍子抜けするような進化かもですが、大事なのは相手の頭の上に立つというレインメーカーポジションとでもいうべき位置どりにあり、ここから正調のレインメーカーを決めてオカダ辛勝。腕の痛みに顔を顰めながらのフォールが印象的で、これは久しぶりの苦戦でしたね。

最後は感謝の気持ちでの座礼。もうここまで来たら言葉は不要ですね。オカダ・カズチカvsブライアン・ダニエルソンというカードが組まれただけでも充分すぎる意味があり、日本初世界標準のカードが実現できただけでも個人的には何と言うことはございません。オカダvsダニブラ、期待に違わぬ名勝負でした。

◼️ 第10試合 60分1本勝負
IWGP世界ヘビー級選手権試合
SANADA vs 内藤哲也

前の二つの豪華カードと比較すると些かパンチは弱いながらも、それでもこのカードでメインをやると決めて実行した新日本プロレスに頭が下がります。内藤のデハポンコールなるか否かが一つの注目ポイントであり、SANADAのノーコメントもあってか王者に対する逆風は凄まじく、年内最後の大会でもブーイングが飛んだのを見ても色々と苦しい戦いだったと思います。僕のこのカードに対する考えや二人の思いは前に書いたnoteを読んでいただければ分かるとして、新日の凄いところはドームメインはちゃんとイデオロギー闘争かつ、カードの持つ意味をかなり重くしているんですよね。本来ならもう少し華やかな試合になってもおかしくはなく、双方を主人公として据えるなら適任は他にもいたとは思うのですが、2023年の総決算かつ、ドームメインはこの二人でなければならなかった。その意味を今はただひたすらに噛み締めています。

この試合に賭ける内藤の意気込みたるや壮絶なものであり、試合もほぼ王者SANADAに対して先手を取り続け、それを見守る観客の祈りにも似た息苦しさの中、既存のムーブに変化をつけつつ徹底的にSANADAを追い込んでいきました。内藤を応援しつつも当然SANADAにもかなり肩入れして見ていたわけではあるのですが、試合内容に対してシビアな見方をするならば、やはり王者経験の差とドームやメインイベントでの試合経験と場数、またビッグマッチ仕様の後半戦での引き出しの数では流石に内藤に一日の長があったと言わざるを得ず、SANADAは培ってきたものを出し続けて何とか抗い続けたという印象です。

ドームメインというのはやはり特別な舞台であると同時に、そこは誤魔化しの効かない場所であり、自分という存在が一気に表出します。途中のSANADAの表情はその想像を絶するようなプレッシャーや緊張が如実に伝わってきており、二万人規模の観客の期待感という荒波に揉まれながら、痛めた右肩を押さえつつオールを必死に握り続けるような印象もありました。そんな中での決死の咆哮や幾度となく練習したであろう技の数々やそれを裏付ける技の精度などには涙腺が緩みましたし、ドームメインでの王者という役割を何とかこなそうという、そんな素顔が垣間見えましたね。

最後は掟破りのデッドフォールからのバレンティア、そして正調デスティーノで内藤の勝利。今までのSANADAはスカルエンドとオコーナーブリッジ&ノーブリッジとラウンディングボディプレスという三種の神器を変則的に組み換えることで終盤戦を戦っていましたが、ユニット離脱以降はデッドフォールを最上位フィニッシャーに置いて次点でシャイニングウィザードという構成になっており、この変更からの経験値の差はやはり一年足らずでは埋め難いものがあったなという印象です。終盤戦でのフィニッシャーに繋げるまでのルートと、その展開に繋げられる技数での敗北。単にデハポンコールのニーズに負けたというわけではなく、負けにはちゃんと負けるだけの理由が必ずあるあたり、新日の試合のクオリティの高さを感じますね。そしてここでしっかり上回ったあたりに内藤の老獪さがあると同時に、あまり語られていませんがIWGP世界ヘビーの最年長記録更新でもあるのですよ。亀の甲より年の功と言うような年齢ではありませんが、それに相応しい「経験値の差」という勝利だったと思います。

そして待望のデハポンコール……かと思いきや、ここでまさかのEVIL&ディック東郷の乱入。場内は当然の如く大ブーイング。内藤勝利からのデハポンコールは既定路線のように見えて、内藤ファンほど安心してそれを信じられず、疑っていたのはひとえに新日に対する不信感……というか裏を返すのであれば、一筋縄ではいかない新日という一寸先はハプニングを地でいく団体への信頼感とでも言うべきでしょうか。デハポン中断ではなくデハポンコール前だったというのがギリギリのラインであったとはいえ、この怒号の渦は凄まじかったですね。

そしてEVILが中腰になり、絶望の言葉を浴びせかけるように高らかにIWGP世界ヘビー第8代王者を宣言……というタイミングで、その膝を踏み台に、前王者SANADAのシャイニングウィザードが炸裂!他のロスインゴメンバーの誰でもない、SANADAがこの中断を阻止したというのがニクいですね。そして短い期間ではありましたが組んでいた内藤SANADAタッグの一つの決着でもあったと思います。

そして内藤と向かい合い、もう一回を示す指一本だけ立てると、そのままリングを去りました。最後まで寡黙でありながらもその行動は何よりも雄弁でしたね。大SANADAコールの中、去り際のSANADAは堪え切れずに号泣。ここで僕も不覚にも泣きそうになってしまいました。王者としての差や足りないものは感じたとはいえ、現状できる精一杯はやりましたし、それでもなお届かない頂がある。でもだからこそまた目指せるのです。SANADAは今年G1優勝して欲しいですね。王者陥落後は確実に一皮剥けますし、今日SANADAが味わった悔しさを、今度は下の世代に教える番だと思います。

結局は内藤のデハポンコールのアシストをする形になり、華を添える形で終わってしまったことに思うことがある人もいるかもしれません。それでもそうした去る者としての美学は、エゴイストの化身、常に主人公街道を驀進してきた師である武藤敬司が現役時代にできなかったことであり、認めることは劣等感を抱いていた自分との訣別でもある。

また、デハポンを寸前で阻止しようとしたEVILも、その自分のいないデハポンを守ろうとしたSANADAも、双方共に本当の意味での旧ロスインゴベルナブレスからの卒業となった。僕はそんな気がします。思い返せば2020年のデハポン阻止のときにはコールに二人は傍にいたはずで、それは初期ロスインゴベルナブレスだったあの頃の時代とのさよならを告げる一幕でもあったのかもしれませんね。夢が叶うということは夢の終わりを意味するわけで、それはロスインゴベルナブレスデハポンの一つの青春の終わりであったとも思います。そして万感の思いを込めてドームが一体となったデハポンコール。約4年越しの忘れ物はしっかりと回収され、2024年に相応しいハッピーエンドとなりました。

これ自体が内藤哲也のラストランの始まりだという声は多く、ドームメインでの大合唱もこれが最後になるかもしれません。そのことを悲観する呟きもいくつか見かけてその気持ちは理解しつつも、個人的には「終わり」が来ないことのほうが恐ろしいと思います。上書きされない思い出というのは、逆に誰も立ち入れない完璧で美しい思い出となってしまい、そうなってしまっては最後、決してその「先」にはいけません。デハポンコールが阻止されたあの時あの瞬間から囚われて抜け出せなくなった一瞬のモラトリアムに、今日この日にこの場所でしっかりと決着をつけた。いつまで内藤の語る「今」が続くか分からずとも、先に進むことをちゃんと決めた。内藤哲也物語のエンドマークの一つをしっかりと付けた。それだけで尊いことだと思います。

そんな思いとは裏腹に、バクステでの内藤はそんな「最後」に対する心配をカブロン!と吐き捨てる。そうですよね。そうでなければ内藤哲也ではないですよ。周りの想いをよそに、今度の内藤政権は思うがままに我儘に、突っ走って欲しいと思います。ケツは新しい社長が持ってくれることでしょう。





やはり1.4ドームとなるとどれだけ削っても長くなってしまいますね……今年もまたプロレスを楽しんでいきましょう。ではでは、今日はここまで。