新日本vsNOAH 2023.1.21 WRESTLE KINGDOM 17 in 横浜アリーナ 試合雑感

遅くなってしまい申し訳ありません。書き終わった後にやるはずの投稿をすっかり忘れていた上に、ちょうど色々と忙しくなったタイミングでTwitterにも浮上できておらず、結果的に賞味期限切れ間近となってしまいました。詫びの意味も込めて今回は全戦レビューやります。ではでは、とりあえず挨拶もそこそこにいつも通りやっていきましょう。

◼️第0-1試合
藤田&大岩 vs 矢野&小澤

やはりこの面子だと矢野安祟だけ技術的に頭一つ抜けてますね。対抗戦のバチバチの空気感にはそぐわない部分もあるのですが、このスマートさは三沢を彷彿とさせるというか、一番王道の血が濃いのは矢野だなと思っています。何より顔が「全日顔」なのがいいんですよ(笑)この感覚……わかりますかね?

序盤のレスリングの攻防は矢野が一枚も二枚も上手というか、緻密な腕攻めを起点に藤田をキリキリ舞いさせながらハンマーロックで制圧したのは驚きました。気迫で上回ったり迫撃戦に持ち込むのは誰にだってできますが、こうした技術の土台で上回るのは誰でもできることではありません。とはいえ藤田も不甲斐なかったわけではなく、しっかりとタックルでダウンを奪ったり腕攻め地獄を抜けてのサイドポジションへの移行など、随所で張り合えていたのはホッとしました。

小澤はこの中だとキャリアが浅い代わりにガタイの良さでは少し上で、それを活かしたバズーカのようなドロップキックが印象的でした。新日サイドの若獅子二人の気迫に対して、試合に伸びやかな広がりを与えていたのは好感が持てます。ブレーンバスターというよりバーティカルスープレックスという名の方が相応しいしっかりブリッジしての投げなど、光るものはありますね。対する大岩は主人公らしいオーラを仄かに感じると言うか、熱量は凄まじく、野良犬に近い荒々しさが一番宿っているのは大岩かなと思います。

そして藤田vs小澤へと移行しますが、ここで抜いてきた藤田の逆水平はとても良かったですね。通常は右腕でのエルボーなわけですが、本来は左利きであり、利き手による威力と精度の上昇もさることながら、スイッチすることによる「違和」がいい具合にアクセントとして機能したのが素晴らしかったですね。これは唯一無二の武器ですよ。利き手での切り裂くようなシャープな逆水平と、途中に見せた重い張り手のコンビネーション。打撃面は申し分なく、この一芸だけで一気に印象を強くした感じがありますね。

最後は矢野の妨害にも負けず、逆水平でねじ伏せて小澤からタップアウト勝ち。対抗戦というステージでの藤田の輝きが素晴らしく、令和の対抗戦男として飛躍して欲しいなと思いました。

◼️第0-2試合
石井&ロイべ vs マサ北宮&稲葉大輝

石井vsマサ北宮は期待通り!石井は対稲村もそうですが、今回の対北宮といい、NOAHだと魅力的な相手が多すぎますね。一見バチバチなマッチアップに見せかけて、両者ともに試合巧者というか北宮のアメリカンな試合構成に凄く噛み合ってると思います。

試合はマサ北宮が監獄固めでロイベからタップアウト勝ち。試合後は石井vsマサ北宮の大乱闘。ルーツを考えれば当然ではあるのですが、やはり似通った雰囲気がありますし、この二人はシングル見たいですね。

◼️第1試合 棚橋&矢野&小島&杉浦 vs 丸藤&KENTA&外道&ファンタズモ

対抗戦の中で唯一交流戦みたいな空気のある試合でしたね。それにしてもバレクラメンバーに丸藤inはさほど違和感がないというか、KENTAとの関係性や暗黒の時代をともに生き抜いた棚橋との邂逅、矢野とのコントじみたマッチアップなど、交流戦らしい文脈を一手に引き受けた振る舞いをソツなくこなしていたのは凄いですね。

◼️第2試合
エル・デスペラード vs YO-HEY

対抗戦なのに相思相愛。この試合に対するデスペの意気込みたるや凄まじく、入場を省略してでも戦いたい前のめりな感じが良かったですね。

YO-HEYは恐らくNOAHの選手の中ではトップクラスに新日に馴染みやすいというか、キャラクターが非常にキャッチーで見やすいんですよね。新日ファンは気質的にキャラクターと技で値踏みする傾向にあるのですが、後方一回転のドロップキックに顔面Gというわかりやすい技に加え、ビジュアル面も受け入れられやすいと思います。

しかしながら試合は足への一点集中でYO-HEYの動きを止めるとヌメロ・ドスでデスペがタップアウト勝ち。対抗戦でのギブアップ負けは屈辱的ではあるのですが、そんな陰湿さは良くも悪くもあまり感じず、わりかしクリーンな横綱相撲だった気もします。対抗戦らしい異物感はそこまでなかったのは少し残念な気もしますが、ヒリつきやすい対抗戦の中で新日の外にもこんな凄い選手がいる、という意味ではいい試合だったかもしれません。それはそれで上から目線過ぎるきらいもあり、YO-HEYもこんなレベルの選手ではないのでやや忸怩たる気持ちはありつつも、もっと見たい選手ではありますね。BOSJ参戦を強く熱望します。

◼️第3試合
タイガー&田口&ワト vs AMAKUSA&宮脇&アレハンドロ

AMAKUSA、王者でありつつもキャラ変も相まってか知名度が低く、当分は「周知」が最優先事項になりそうです。とはいえ元のポテンシャルが高いのと、独特な一人称含めたあのキャラクターはわりとクセになりそうです。

試合はやはりコークスクリュートペとでもいうべき独特のブエロ・デ・アギラが光っていて、これは銭の取れる技ですね。トルニージョにフィニッシュとなった「開国」と、回転技が目立つのもわかりやすくていいと思います。

タイガーはこの面子の中だとベテランであり、対抗戦らしいカタさを見せつつ重鎮として機能してました。他の見所はワトvs宮脇で、互いに若いせいかバチバチ感が先行してましたし、AMAKUSAプッシュの影に隠れながらも、もう少し長く見たかったというのが本音としてありますかね。アピール含めて目立ってたのはアレハンドロで、こうしてみると NOAH Jr.の駒の多さが目立った試合だなと思いました。


◼️第4試合
オカダ&真壁 vs 清宮&稲村

ノーコンテストでありながら文句なしに今大会のベストバウトです。そして一番の問題作。当初の予想と結果が大きく食い違った一戦でもあり、この流れや結末を読めた人は一人もいなかったのではないでしょうか。

オカダとのタッグや稲村との因縁を考えると真壁ではなく石井が入るのがスマートであり、ここに真壁が組み込まれたのは以前の試合での稲村との因縁もあるのでしょうが、失礼な話、ちょうどいい「負け役」だと思っちゃったんですよね。もしくは以前も書いた通りの稲村を仮想・力皇としての見立てという真壁のチョイス。他にはオカダ&真壁って知名度含めれば一番メジャー感のある組み合わせで、再びの盟主交代を迫るNOAHからすると分かりやすい相手だったのか?などと試合前は色々と考えておりました。

でもそんなつまらない想像は文字通り「一蹴」されましたね。こうしたサプライズって如何にして予期させないかが肝であり、今回の対抗戦に足りなかった殺伐さや不穏などをまさかこの二人で出してくるとは思いませんでしたよ。

オカダにとっての清宮はアウトオブ眼中だったわけですが、事件はチンロックで稲村を捉えているときに起こりました。清宮がカットに入り、背後からのストンピング。微動だにしないオカダ。再びのストンピング。いい加減しつこいと技を解き、オカダが振り返ったその瞬間に、まさかの清宮の顔面蹴り!いやあ……言葉が出ません。清宮がこれをやるとは。場内もどよめきを隠せなかったですし、この試合が終わってもなお、この顔面蹴りは語り草になって賛否が出ていますね。

最初に断っておきますが、僕は一線を越えたなとは思っていません。長州vs前田を彷彿とさせる一撃!と当初は話題になってはいましたが、その再演というよりはれっきとした「オマージュ」といったほうが正確で、同じでは決してないですが、意図は確実にしてたとは思います。つまりはっきり言っちゃえば「逸脱」は全然してないんですよね。その境界線の上でのギリギリでのダンス。アクシデントの類でもありません。互いに合意の取れた一撃でありながらも憎しみという感情はホンモノで、そこに凄みがあるんですよ。

一拍間を置いて、やられたことを認識したオカダ。表情の変わり具合とそこからの清宮への特攻は最高でした。組み伏せてのハンマーブローの連打は不穏試合ではなくギリギリプロレスの範疇に収まることの証明でありながら、横たわった清宮の土手っ腹へのサッカーボールキックの連打は痛烈でバランス感覚が見事であり、この打撃の配分が絶妙でありながら、しっかり激情を纏っていましたね。端的に言えば「喧嘩」としての凄みは間違いなくありましたよ。

特筆すべきは起き上がった清宮がここで一度反撃しようとするのですが、それをすかさずヘッドバットで止めたあたりが顔面蹴りよりもよほど「シュート」な感じがしましたよ。あの「チョーパン」こそプロレスの間合いやタイミングと少し異なるステゴロの技であり、清宮の顔面蹴りを敢えて同じ箇所で頭突きをして流血でデコることで、後の絵をより凄惨に見せようとしたのかな……という勘繰りもあるにはあるのですが、それを差し引いても見せ技としての一撃ではないなあと。オカダが負けん気が強いのは知っていましたが、ああ見えて意外と喧嘩慣れしてるな……というのが正直な感想で、あれにはゾッとしましたね。

一度離されましたが、清宮も仕掛けておいて引く道理は微塵もなく、今度はジャンピングエルボーで飛びかかります。そして引きずり起こしての張り手一閃。 後の中嶋戦でも語りますが、NOAH=張り手失神のイメージってわりと浸透してしまったせいか、ノアだけはガチを体現する技になりつつある気がするんですよね(笑)あれだけコケにされたオカダの顔面を堂々と張ったことのカタルシスたるや素晴らしく、この喧嘩根性だけでも成長の証だと思いますよ。

そして真壁やレフェリーが入り乱れての再度のストップ。しかしながら張られて収まらないのはオカダであり、一度はリングに戻るそぶりを見せながらも今度はオカダが突進。ハンマーブロー連打からのこれまた珍しいフロントネックロックで清宮を捕獲します。普段はほとんど見せない技で、これはオカダ流の「殺し技」でしょうかね。この後方回転式のフロントネックロックって中邑が若手のときに見せてた形に酷似していて、今でこそ腕ひしぎのイメージが強いですが、デビュー当時の中邑ってフロントネックロックを得意としてたんですよね。中邑から教えてもらったのかな、などと想像が滾りました。

ここから馬乗りになってオカダもビンタしますが、清宮は冷静に腕を回して自身の体を押しつけて反転。ガードポジションを取り返してのエルボー連打。この辺りの技術は流石といった感じで、シンプルに清宮は「強い」ですね。このシーンは本当に清宮に惚れ惚れしちゃいました。オカダもきっちり察してガードしていますが、ここでパウンドではなくプロレスだからこそエルボーが飛んでくるのが怖い部分で、プロレスだからこそ油断できないんですよ。

レフェリーと真壁が割って入り、何とか両者を止めようとしますが、オカダが静止を無視してフロントキック。そして清宮を抱え上げて場外の机へと叩きつけます。場外戦はやや清宮に先手を取られた感もありますが、この一撃でダメージ配分としては帳尻合わせができたなという印象ではあるのですが、注目ポイントは清宮の足であり、端的に言えば投げる側と投げられる側の呼吸が合っていないのです。このぎこちなさがかえってこの場外乱闘のリアリズムを担保しており、またオカダと清宮の課題の一つである絶対的な体格差。そして抵抗をものともせずに抱え上げて叩きつけるオカダの膂力に驚いてしまうんですよねえ。

「落ち着け!落ち着け!」という真壁のいなしもあり、冷静さを取り戻すオカダ。これを見ると真壁が傍にいたのが本当にありがたいというか、采配としてはベストですよ。率先して喧嘩を買いそうな人間が宥める側に回るほど、異常事態度が上がるわけですから。そしてこれで終わりか……と思ったのも束の間。清宮が顔面をピンポイントで捉えるドロップキック!オカダ相手にこの技のチョイスも挑発めいており素晴らしいのですが、その後の場外へのジャーマンも最高でしたね。先ほど膂力を見せつけられたからこそ、逆に体格差なんて些細な部分に過ぎないという意地であり、投げに対してしっかり投げ返すという返歌を見せた清宮のセンスは非凡なものを感じます。

そして荒れ模様の中ノーコンテスト。マイクを握る清宮に観客は大ブーイング。そしてシングル戦の要求から、相手にしないオカダに対して「ビビってんのか?だったら帰れ!」これには最高にシビれましたw格上だろうが、序列が上だろうが、堂々と喧嘩を売っていく。さすがに臆病者呼ばわりされたらオカダも黙っていられず、サッと顔色が変わりましたね。そしてまた大乱闘で終幕。

これはオカダと清宮による「完全犯罪」ですよ。不穏試合に見せかけて、逸脱しないギリギリの範囲でコントロールしつつ、そして観客も、レスラーも、団体さえもコントロールできないほどのるつぼへと誘う。これこそがプロレスの本質です。試合後にネット上に湧き起こった賛否の反響を見れば、この試合がどれほどの価値を生み出したかの証明になりますし、何より他団体で不穏をやるという仕掛けが凄いですよ。

オカダ真壁vs清宮稲村という組み合わせから感じる安易な予想と前評判。一寸先はハプニングという新日の伝統。旧来の新日に極めて近い「なんでもあり」の今のNOAH。そしてNOAHのホープでありクリーンな王道イメージの清宮が率先して仕掛けるという意外性。Abemaの露悪的かつ扇情的なアジテーション。これらを許さないオカダの美学と頑なさ。そしてオカダ・カズチカという「首の価値」。全てが綺麗に噛み合っていて、文句のつけようがありません。新日ファンは清宮を微妙だと思うでしょうし、 NOAHファンはオカダを不甲斐ないと思うでしょう。ここまで真っ二つに反応の分断を呼び起こした時点で、大成功と言っても過言ではありません。完全にしてやられました。プロレス、最高ですよね!今回は詳細な試合リポートだけにして、この二人の見解についてはプレビューの形でまたあとで詳しく書きたいと思います。乞うご期待!

◼️第5試合 L・I・J対金剛 シングル5番勝負
BUSHI vs タダスケ

ぶっちゃけ言うとロスインゴvs金剛5番勝負の中では一番のベストバウトです。バイプレイヤーが意外な活躍を見せる、というのは対抗戦あるあるの一つなのですが、それにしてもこれはちょっと自分の想像を超えてきたというか……近年のBUSHIの試合では間違いなくベストバウトであり、いい火付け役となりましたね。幽遊白書曰く「組織の鍵は副将が握る」との言葉があり、立場上副将ではないのですが、Jr.に関してはそうかなと。BUSHI無くしては成り立たない試合です。正直ナメてました(笑)すみません。でもこういう予想外の試合がハネるのが対抗戦の醍醐味の一つですよね。

開幕の奇襲の意外性もさることながら、タダスケの髪をグシャグシャとかき乱すヒールムーブは凄く板についていましたし、対するタダスケもTシャツを破くなどのヒートぶりが素晴らしく、互いに対抗戦の意識がビンビンだったのが良かったですね。

目立ったのはBUSHIの試合巧者ぶりであり、鉄柵を使ってのネックブリーカーからのエプロンDDTといった論理的な下拵えに、腕へのコードブレイカー、背中へのバッククラッカー、そして正調のコードブレイカーという段階を踏んだ3連発など、とにかく技の選択にミスがなく、またいつも以上に苛烈に感じましたね。タダスケも呼応するように印象深いラリアットを連発し、BUSHIも喧嘩じみた顔面への張り手を出すなど、コントロールしつつも少し逸脱した攻めを見せており、普段と違う場外戦のタイミングなどの変拍子もあってか、実に対抗戦らしい対抗戦に仕上がっていたと思います。

BUSHIの試合はどんなポジションでもソツなくこなす器用さのせいか、良くも悪くも「お仕事」感が漂っていてよく言えば「潤滑油」悪く言えば「我欲」が見えない感じもあって今まではいまいちノレてなかったのですが、この試合に関しては文句なく100点満点の試合運びでした。恐らくですが、BUSHIというレスラーは、予想外の「解」や観客の想像し得ない答えを導き出すような試合は不得手な反面、あらかじめ解答の決まっている類の試合はわりと得意で、試合のテーマや自身の役割への意識が必要以上に強いのだと思います。だからこそ試合によってはクオリティは高くとも「想像を超えない」弊害があるのですが、今回のような場とシチュエーションさえ完全に整っていれば対抗戦に求められる役割を100%果たすことができる……。これわかってるからといって簡単にやれることでもないんですよね。つまりはそれなりに場さえ整えればいくらでもできるということで、ストーリーと相手さえきっちり練り込めばいつでも主役になれそうな気がします。KUSHIDAの帰還での影響はやはり期待したいところではありますが……。

それにしても、あのオカダvs清宮の衝撃をいい具合にリセットし、対抗戦の空気を作っただけでもMVP級の活躍ですよ。最後こそ毒霧を切り返されて押さえ込まれましたが、BUSHIは素晴らしい働きをしましたね。

◼️第6試合 L・I・J対金剛 シングル5番勝負
高橋ヒロム vs 大原はじめ


軽薄なチャンピオン、ヒロムに対して大原はじめは重厚感があり、組みの応酬からのバックブリーカー地獄というパズルのような試合が良かったですね。今回の対抗戦は新日側がリードするような雰囲気の試合が多かった中で、この試合は逆に大原のベテラン感が際立ったというか、ねちっこい泥沼のような試合に見せかけて躍動感が損なわれず、対抗戦らしい熱さがあったのがいいですね。

ヒロムは受けっぷりがいいせいか各種バックブリーカーの痛々しさがとてもよく、試合のボルテージが上がるにつれて大原はじめを認識していくのはストーリー性を感じました。とはいえ、挑発であることを差し引いても大原はじめを「知らない」と称するのは色々とヤバいとは思っていましたが、最後の花道でしっかり前言撤回しましたね。勿論、ナメてかかるようなレベルの選手ではなく、2004年デビュー組は面子を見れば分かる通り、まさに今をときめく黄金世代であり、ヒロムたちの新世代からすると、何よりも倒さなきゃいけない世代なのです。そう考えると思ったより重い試合だったようにも感じますね。

◼️第7試合 L・I・J対金剛 シングル5番勝負
SANADA vs 征矢学

文字通りの中堅戦。位置付けも試合内容も他と比較すると地味に映るかもですが、情感のある試合でしみじみとした良さがあります。

SANADAも征矢もポテンシャルは高いながらも現在所属してる団体では結果に恵まれず燻ってる感じがあるんですよね。互いが互いに向ける言葉は己への叱咤でもあり、また何かしらの突破口を見つけるための戦いで、他の対抗戦とはそうした意味でも空気が違いました。

パラダイスロックを封印してコミカルさはなりを顰めつつも、無言のアピールで存在感を刻み込もうとするSANADAと、弾道で罷り通ろうとする征矢学。二人の生き様がそのままファイトスタイルにも表れていたような気がします。そしてその現在の選択がそのまま結果に繋がったような……そんな試合でした。対抗戦とは思えないぐらい噛み合っていて、通じ合うものがありつつも、ここで終われないからこそ蹴落とさなければならない。そうした残酷さと哀愁はこの試合が一番だったように思います。

◼️第8試合 L・I・J対金剛 シングル5番勝負
鷹木信悟 vs 中嶋勝彦

勝彦の蹴り、対新日用に合わせて多少デチューンされてるとはいえ、それでもその衝撃音たるや凄まじく、腹部へのぶった斬りキックでどよめきが起こったのが個人的には嬉しかったです。スタイルそのものが名刺になる。レスラー冥利につきますよね。そして無言の笑みでアピールを絞っているからこそ、逆にいつもより多めに見せた踏みつけるシャッターチャンスが映えるという。

白眉なのは勝彦が普段はあまり見せないコブラツイストと卍固めを見せたことで、これを新日のド真ん中でやるという挑発が素晴らしいです。そして鷹木相手にこれが機能することもまた無視できない事実で、IWGP世界ヘビーを奪取し、鷹木政権を経たからこその賜物。一度新日完全侵略を成し遂げた男だからこそ、象徴の簒奪ができるわけです。鷹木はもう新日のアイコンの一人なのですよ。

対する鷹木も強さを押し付けることで強さvs強さという分かりやすいマッチアップになりましたね。ただそれを差し引いても勝彦の蹴りのハードヒットには苦悶の表情を浮かべており、いつもより耐えるシーンが多かったのもこの死闘を物語っていますよね。

明らかにギアが上がったのは勝彦のエルボーに「いいねェ!」鷹木が笑みを見せたあとで、このシーンからあからさまに互いの打撃が一段階上になりましたね。そして物議を醸した勝彦の張り手と戦慄のハイキック。特に張り手はDDTとの抗争で危険な「武勇伝」が付与されたせいか、技としての「格」がかなり上がった気はします。そしてバーティカルリミットの一撃必殺感や、未遂にこそ終わったもののダイヤモンドボムの片鱗もあり、勝彦は本当に強かったですね。バーティカルリミット、ノーザンライトボム、ダイヤモンドボム。勝彦の垂直落下三種の神器という技セットはかなり好きです。

しかしながら鷹木も蹴りを捉えてパズルのように組んでのカウンターのメイドインジャパンで反撃すると、パンピングボンバーにスライディングDという王座戦仕様の大盤振る舞い。そして最後は圧巻のラストオブザドラゴンで畳み掛けての勝利。ほぼ全てを出し切った鷹木と、余力があるというほどではないものの受けて立った勝彦という構図が目立つ試合であり、やはり最後の執念のブースト具合で鷹木に軍配が上がったという印象があります。

そう考えると、鷹木のリベンジという文脈がかなり濃かったせいか、ハイクオリティな試合ではあったものの発展性や拡張性は薄く、これだけやってもまだほんの少し物足りなさがあるというか……この二人ならさらに「上」はあるだろうなと思わせるのが凄いですね。とはいえこれは贅沢な戯言に過ぎず、試合の評価を下げるものではないです。骨太なグッドマッチ。オカダvs清宮の大荒れを除けば、単純な試合のクオリティでは今回の興行では一番でした。

◼️第9試合 L・I・J対金剛 シングル5番勝負
内藤哲也 vs 拳王

2勝2敗で迎えた大将戦。ロスインゴvs金剛の対抗戦はこの二人の戦いに集約されていたと言っても過言ではありません。まず戦前の盛り上げに関しては100点満点かつ、金剛サイド、もとい拳王の圧勝と言ってもいいでしょう。新日ファンも当初こそ金剛の粗雑さに批判的な視線を向けてはいたのですが、風向きが変わったのはYouTubeの拳王チャンネルの内藤年表であり、あれでかなり拳王のファンは増えたと思います。これは以前も書きましたが、拳王のエンタメ適性は非常に高く、あのグレート・ムタにも喰われるどころか瞬間的なバズでは上回ってしまったわけで、実のところ現新日のエンタメの空気感には凄く適応しやすい選手なんですよね。内藤年表に関してよく調べた!という声も多かったのですが、新日のファン層の喜びそうな企画を打ち出したことのほうがよくリサーチしているなと感じたというか、ここら辺はYouTuberとしての経験も生きていますよね。令和の空気感にもマッチしていたと思います。

拳王の赤に対して内藤は白での入場。相変わらずのスローな入場に対し焦れて突っかかる拳王。拳王のこの振る舞いって小物くさいと言われがちではあるのですが、ここはむしろ恐ろしく空気を読んだというか、内藤視点で見た場合一番「やりやすい」のはこういう相手であり、また内藤ファンが見たいのもガン無視より焦れる相手のほうでしょう。対抗戦でありながらスイングさせようとする気概があり、YouTubeでの前哨戦で醸造した空気感を変に乱すことなく上手く転がしたと思います。

試合は首vs腹というわかりやすい攻め所と一進一退の攻防。凄く次の流れが予想しやすく、そういう意味では想像を超えるタイプの試合でなかったせいかあまり特筆するべき所はなかったのですが、凡戦というわけではなく、80点ぐらいのほどよく見やすい「キャッチー」な試合だったと思います。惜しむらくは攻防に少し「ズレ」があったことですが、対抗戦ということを考えれば瑕疵と捉えるほどではないです。個人的にはスカす内藤に怒る拳王という立ち位置の試合なら、内藤がブーイングを受ける立場だったほうがより輝いたような気もしますね。ここら辺は新日の興行である以上仕方ないというか、声援は新日サイドのほうが多かったですね。

試合は切り返しのデスティーノ、バレンティア、そして正調デスティーノとフルコースで内藤の勝利。カタルシスのある流れであり、試合内容は良くても戦績が奮わなかった昨年の内藤からすると景気のいい復活劇でしたね。

負けた拳王も憎き新日に負けたという生き恥のような感じはまるでなく、どちらかといえば今回は試合に負けて勝負に勝った気もします。それは別に負け惜しみではなく、拳王からすると裏テーマはファン層の拡大なわけですから。「ロスインゴファンだけど拳王が好きになった」という声が多かった時点で本懐は果たした気はします。遺恨を残さずに第二章・完できっちり個人戦で決着をつけたこと。今回の5番勝負。僕は何よりもそこを評価します。完全決着って大事ですよ。

これは単なる妄想ではあるのですが、拳王、ひょっとしたらG-1出るかもですね。外敵ゲストして充分に名は売りましたし、拳王は見たいマッチアップ多いんですよ。タイチ戦とか面白そうですね。

試合後、アピールする内藤に対し武藤敬司乱入からの引退試合の相手への指名。内藤もいつもの内藤節で応じつつも楽しみな様子が隠し切れませんでしたね。リベンジにギリギリ間に合ったことが喜ばしくもあり、オカダ天龍の対比でもあり、またドームメインという逆転の内藤哲也でもありという……わりと綺麗な落とし所だったなとも思います。正直武藤の引退相手はハードルが上がりすぎていただけに「内藤か……」という声もあるにはあったのですが、格としては申し分ない上に、個人としての因縁もあるので納得のカードではあるでしょう。次代のエース路線から独自路線へと変わった内藤がここにきて王道回帰の流れが来たのも面白く、遠回りこそが最短の道だったとはよくもまあ言ったものです。

以前のnoteで内藤を称して「エンドマークがつかなかった」と書きましたが、ここにきて他者のエンドマークを付けることになるとは思いませんでしたね。どうあがいても「あの瞬間」を今後超えられないのではないか……そう思っていた矢先の武藤戦。間違いなく内藤のレスラー人生においての大きな山場の一つですね。憧れの喪失から本当の物語は始まるものです。





今回の対抗戦。これと比較すると一年前のはプレビューに過ぎず、完全決着のシングルが多かったこともあってこちらのほうが面白かったですね。「マット界」が共通言語として復活しただけでも個人的には最高の興行だったと思いますよ。これが本当の意味でのレッスルユニバースであり、要はやはりNOAHかもしれませんね。ファンとしては楽しみが尽きません。次は武藤敬司引退興行ですが、こちらも見逃せないですし、2023年もプロレスとともに生きていきましょう。ではでは。

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