2023.7.15 新日本プロレス G1 CLIMAX 33 開幕戦 試合雑感

◼️第1試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Bブロック公式戦
YOSHI-HASHI vs エル・ファンタズモ

ファンタズモのベビー転向により、ヒールだったころと比較するとベビー同士の一戦となり、やや締まりのない一戦となってYOSHI-HASHIとの噛み合わせは悪くなった気もするのですが、その反面ズモのベビーはわりとすんなり収まっていて持ち前の軽薄さがいい具合に明るく働いていましたね。

ズモのテンポに惑わされたYOSHI-HASHIでしたが、場外へのトペで一気に火をつけると、格ゲーでいうところの「振り得」の技である逆水平を連発して徐々にペースを掴みます。対するズモもスワンダイブ式のサンダーキス'86という、これまた予想外の角度から飛ぶ大技で追い討ちをかけるものの、最後はYOSHI-HASHIが逆打ちで勝利。ここにきて新たなフィニッシャーを出したのは素晴らしく、またYOSHI-HASHIのイメージにも合っていますよね。この体勢から得意の羽折り固めにもいけますし、いいところに目をつけたなと思います。

◼️第2試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Aブロック公式戦
チェーズ・オーエンズ vs ゲイブ・キッド

開幕早々ゲイブが背後からオーエンズを奇襲!今回のG1は20分一本勝負というのに賛否があったわけですが、なんてことはない。ゴングが鳴る前に襲えば試合時間のカウントは進まないのでいくらでも伸ばせるという……。方法論としてはありきたりでありながらもゲームのバグみたいで笑いました。

試合自体はほとんどが場外戦。リング内に戻ってゴングが鳴ってもゲイブの噛みつき等の荒れっぷりが凄まじかったのですが、互いにキャリアがあるせいか試合の荒れ模様に反して試合自体は綺麗に噛み合っていましたね。最後はCトリガーからパッケージドライバーで勝利。ゲイブはインパクトのある暴れっぷりからの堂々たる玉砕という感じで勝利にこそ恵まれなかったものの、その方向性は明確かつわかりやすいのはいいですね。そしてある意味では一番柴田の血が濃いというか、この狂犬のような暴れ回り方と玉砕っぷりは2003〜2004年ごろの初期柴田を彷彿とさせるのですよ。それもあって個人的には成田vsゲイブに注目してます。楽しみですね。

◼️第3試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Bブロック公式戦
タンガ・ロア vs KENTA

ロアのパワーと、それをいなしつつKENTAのインサイドワークが光った試合ではあるのですが、このモードのKENTAって本当に勝ち星に恵まれないのが残念ですね。その代わり勝者にしっかりスポットライトが当たるのは素晴らしく、ロアの勝利は単純な公式戦の一勝というだけでなく「お帰りなさい」の意味もこもってて嬉しかったですね。

◼️第4試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Aブロック公式戦
海野 翔太 vs 成田 蓮

今大会の中での注目カードの一つであり、新日の未来を占う一戦でもあります。前半はやや間延びした打撃合戦が続きましたが、この攻防を見てもやはり「魅せ」に関しては海野に一日の長があるなと。成田も負けじとまさかのスピニングトーホールドを繰り出し、そこからの足4の字という「無我」西村修を彷彿とさせるムーブを見せます。確かに考えてみれば成田は若干無我寄りというか、ストロングスタイルを標榜しつつも鈴木みのるや柴田勝頼のようなUの香りを纏っているか?と言われたら少し違いますし、スープレックス一つ取ってもホールドとピンフォールへのこだわりが強いんですよね。だからこそそちらに流れるのも理解できる話です。久しぶりのアマレス式のアンクルホールドからの変形テキサスという成田スペシャル3号が見れたのは嬉しかったですね。

対する海野は技の見映えはいいのですが、全体的に技の「格」が追いついていないのが難点です。だからこそ対角線からのネックブリーカーをイグニションと命名したり、蝶野直伝のお墨付きを得ることでSTFのグレードを上げたりと技の周知に勤しんでいるわけで、特にSTFはほぼスリーパーのそれは以前と比較してもかなり形が良くなったように思います。小林邦昭直伝のフィッシャーマンズスープレックスもブリッジは綺麗でしたし、リバース式のツイスト&シャウトは決まり具合はよかったです。足りないのはそれらの周知と、技の印象付けですかねえ。DDT系とネックブリーカー系とフェイスバスター系の技を上手くブレンドしたファイトスタイル自体はわりと正統派でいいと思うので、今のキャラクター性に技の格が早く追いついて欲しいですね。

試合そのものは白熱しつつも、結果としては引き分け。この二人に20分は短すぎます。試合としては……そうですねえ。お世辞にも「いい試合だった」と胸を張って言うには色々と足りておらず、その反面この年齢ならこんなものだろうという感覚もあり……よくある若手の試合という印象でしたね。

過去のこうしたライバル対決と比較すると、互いに憎しみやジェラシーといった生の感情はさほど伝わってこず、ひたすらに意地のみが降り積もったスポーティーな爽やかさがあったというか、良くも悪くも「綺麗すぎる」印象があり、荒々しくもバチバチやりあう試合を期待した人からすると小生意気に見えるかもしれません。「ヒリつき」はさほどなかったようにも思いますね。

ただ、こうした「上辺だけの綺麗さ」を必死に取り繕おうとする感情の背景に何があるかが真に重要であり、言ってしまえば求められてるハードルがべらぼうに高いんですよ。荒っぽくても噛み付きさえすればファンに褒められるような、そんな単純な承認で満足するような「ヌルさ」は今の時代にはありません。僕は現時点の二人のキャリアならこれぐらいの試合でも上出来だとは思いますが、拙かろうとも拙いように見せてはいけないという異常なまでのプレッシャーに同情してしまいますね。

今の世代は嘘でも何でもいいので、とにかく自分を鼓舞しないとやっていけないわけで、完璧で究極に、そしてスマートにこなさなければいけないという圧を逆に感じてしまったんですよ。それは同時代であっても同世代ではない自分のようなおじさんには決して理解ができない感情なんだろうなと思います。脇目もふらず頑張れること自体が一つの稀有な才能であり、そうでない人間は周囲の目を無視することも、逆に気にすることも「意識的」にやってしまう。やっぱり色々と考えて抗ってしまうものなんですよ。そういう意味では課題は色々とありつつも、二人には頑張って欲しいなと思いました。

◼️第5試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Bブロック公式戦
オカダ・カズチカ vs グレート-O-カーン

オーカーンのキャラにしては珍しく前日はノーコメントを貫いただけあって、嫌でもこのシングルは注目せざるを得ませんね。二人のシングルは2020年が印象深いですが、あのときのオカダはレインメーカー封印状態のときというのもあって、王座陥落したとはいえ、ちゃんとした"レインメーカー"とやるのは初というのもあり、新鮮味はあるんですよね。

序盤はオーカーンが持ち前のレスリング技術とそれに伴う複合関節技でオカダを圧倒します。オカダにレスリングをやれ!という声も多く、理解できなくもないのですが、オカダは決してできないわけではないですし、どちらかといえばそういうタイプではないというか、個人的には水戸黄門の印籠のような徹底した黄金比のようなテンプレート。所謂ホーガンとかに近いタイプだと思うんですけどね。それに仮に不得意だとしても自身の不得意な部分で勝負する必要もなく、力や体格で勝る相手に真っ向から力で挑まないのと同じ理屈だと思ってます。ただ、確実に何か「持ってる」のは事実であり、チラ見せぐらいはしてくれよ〜というのはわからないでもないですw

普段とは少しだけ違う一進一退の攻防の中、最後はオカダがレインメーカーでオーカーンから勝利。やや武闘派な試合内容に沿ってかレインメーカーの仕掛けも剣豪の果し合いの間合いのような一撃で、同じ技でもこうも印象が違うものかと感心しましたね。二人とも体格がいいだけに今の新日だと珍しい日本人の大型選手同時の対決さという新鮮味もあり、オーカーンに怪物性すら感じた一戦でした。この試合はまた見たいですね。

◼️第6試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Aブロック公式戦
辻 陽太 vs 清宮 海斗

今大会のベストバウトであり、最注目のカードと言っても過言ではないでしょう。清宮曰く「眼中にない」とまで言い切った新世代への無関心ぶりに対し「マッチ棒」「きよぴ」と煽りの姿勢を崩さない辻。対抗戦らしいバチバチ感はありつつも、個人的には清宮に先手を取られた感が拭えないというか、清宮の投げたボールに反応した感じがあって、やはりこの手の舌戦に勝る新日側に最初にボールを投げて欲しかったですね。僕は清宮海斗が大好きではありますが、こと新日ファンの観点から見ると彼には最大級の警戒心しかなく、この試合もいまいち勝敗が読めず開始からドキドキしっぱなしでした。

「眼中にないのになぜそれをわざわざ言うのか?」という意見もありましたが、それは単純に言わないとわからないと新日ファンが思われてる可能性があり、ようはナメられてるんじゃないかと(笑)怒れ!新日本!という感情で見てましたね。

あと、これはTwitterにも書きましたが、オカダを狙うのと新世代の主役を貰うのは何も矛盾しておらず、2010年代のプロレス界のアイコンであるオカダを倒すことはそれ即ち新時代の主役になることと同義であり、端的に言えば清宮の怖さってオカダ相手の世代交代という物語を他団体にいながらハックし続けていることなんですよ。その証拠に清宮参戦でオカダとの再戦は期待されても、令和闘魂三銃士が勝ち上がってオカダとの一戦が期待されてるわけではなく、この時点で清宮にはかなりのアドバンテージがあるんですよね。ようは新日の新世代が時代を交代するには、清宮がオカダを倒すより先にオカダを倒さなければいけなくて、そうしないと団体内の世代交代はできてもプロレス界の時代交代にはならないでしょう。誰が最初にオカダに土をつけるのか?は新世代にとってはかなり重いテーマだと思います。

そんな清宮に対し、入場で背を向けた瞬間にトペをぶち込んだ辻は清宮をどうにか「わからせて」やって欲しいという新日ファンのニーズをちゃんと掴んでいましたね。加えてオカダと同じ方法論でもあり、清宮が得意とする序盤のレスリングによる圧倒を奇襲を仕掛けることで一気に「巻いて」しまうのは戦略としては圧倒的に正しいです。清宮は強いですが本質的にはややスロースターターであり、そういう意味でもテンポを先に掴むのは正しいんですよね。

変則的な技と持ち前の身体ポテンシャルによるパワワーで序盤こそ辻が圧倒しましたが、清宮は動じずに丁寧な足殺しで対抗。鉄柱を使ってのレッグブリーカーにフラッシングエルボーも膝にブチ込むエグさを見せ、武藤直伝のドラスクも仕掛けるタイミングが完璧でした。この辺りはひょっとしたら新日ファンにはあんまり刺さらないのではないかという危惧もあり、新日ではこうした足殺しは金丸の独壇場というのもあって目新しさに欠けるかもなと思って見ておりました。新日ファンはこうした新顔の選手に対してはフィニッシャー含めて独創的なムーブをやるか否かが一つの評価軸としてあるなというのは以前から感じていたことであり、加えて清宮は外敵でありながらベビーフェイスの主人公としてのスタンスを崩さないのもあって、主人公として見れない層からすると言動含めていまいちキャッチーさに欠けるというか、気持ちよく消費できない居座りの悪さ。その「プロデュースされてる」感が鼻につくのかな?とも。二つの団体を並行して見ているとこうした価値観の違いは面白いですよね。

対する辻もコーナーで取られた足を重ねて脱出するなど、王道かつ正統派の清宮に対して独創性でゴリ押ししたのは良かったですね。SANADA戦こそ惜敗に終わりましたが、いまだ未知数の怪物性は少しも損なわれておらず、その幻想のベールが剥がれることなく、手負いの怪物はより恐ろしいという風に野獣性を剥き出しにしたのは本当に素晴らしいなと思います。

しかしながらキャリア、もとい経験値では清宮が勝り、辻との攻防で一瞬見せた破顔一笑は辻への返答かつ余裕の表れで、最後は以前のフィニッシャーであり得意技のタイガースープレックス。令和の変形タイガードライバー、そこからの変形シャイニングウィザードというオーバーキルで勝利。武藤敬司の間を丸ごと踏襲したせいで、やや浮いた印象もあるせいか色々言われる変形シャイニングですが、この試合はスピーディーに決まっており、清宮のプロモーションの一戦としては完璧でした。これが清宮海斗なんですよ。清宮の台詞が負けフラグのようでヒヤヒヤしていましたが、ようやく清宮の天才性が新日でも発揮されたようでホッと胸を撫でおろしました。と、同時に新世代の中では一番可能性があり、ワンチャンあった辻の敗北がショックでもあるという……。嬉しいけれど、とにかく悔しい!いやあ、これこそがプロレスですよ。本当に楽しいですね。

残酷なのは、この前に行われた海野vs成田との比較にもなっていることで、この試合のクオリティの高さが逆説的にこの二人のステージは海野や成田より上であることの証明にもなっているわけで、これは同ブロックにいる二人にとっては悔しいのではないかと。でもですね、プロレスはキャリアのみによって決まらず、レスラーの技のみで決まらず、ただ結果のみが真実、なのですよ。ようは勝てばいいのです。

海野は蝶野直伝のSTFを会得することで、若干付け焼き刃な印象もありつつも、歴史の継承者たる清宮に対して系譜という意味でも勝負を仕掛けられますし、技量はともかくストーリーテリングの才覚においては清宮より圧倒的に上だと思っています。成田は一番厳しい戦いを強いられそうな気もしますが、ストロングスタイルの看板を背負っている以上負けは許されず、また一番新日vsNOAHを感じる戦いでもあり、清宮の顔面蹴りを逆に繰り出しそうな「怖さ」もちょっとあるんですよね。いやはや、令和闘魂三銃士vs清宮海斗。楽しみしかありません。応援しつつ戦々恐々としつつ、清宮のG1は見守っていきたいと思います。最後に付け足しておきますが、僕のG1予想はオスプレイvs清宮海斗でオスプレイの優勝かなと。当たるかどうかはわかりません。G1の清宮はワクワクしかないですね。

◼️第7試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Bブロック公式戦
タイチ vs ウィル・オスプレイ

タイチにとってかなり分の悪い相手というか、明らかに実力が上であろうオスプレイはかなり厳しく、想像の通りかなりの死闘となりました。オスプレイのイケイケな躍動ぶりと比較するとタイチは基本的には「哀愁のスロースターター」であり、やられっぷりとそこに付随する感情の絶叫は絵になりますね。

そんな中で実質勝負が決まったのは側頭部の耳付近に直撃したジャンピングハイと、雪崩式のバックドロップでしたね。平衡感覚を失った中で受けたこれらのダメージは甚大で、頼みの綱のヒドゥンブレード を天翔十字鳳で迎撃したタイチがブラックメフィストで突き刺して激勝!試合前はお世辞にも勝つ姿が想像できなかったのですが、いざ勝ってみると違和感のない勝利。J5G入りした後のタイチは明確に一線を引いていてSANADAのサポートに回ってる感じがとにかく歯痒かったのですが、この試合に関してはタイチが主役でした。SANADAもいいですが、タイチもJ5Gの主人公として振る舞って欲しいものですよ。

◼️第8試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Aブロック公式戦
SANADA vs ヒクレオ


メインはジェイ・ホワイトとKENTAを倒し、実績のみなら申し分のない怪物ヒクレオ。圧倒的な体格差の前に苦しい戦いを強いられ、フランケンを切り返されてのボムで窮地に追い込まれたSANADAではありましたが、最後はゴッドセンドことチョークスラムを切り返してのデッドフォールで勝利。ヒクレオのチョークスラムは巨漢として説得力抜群であるものの、フィニッシャーであるせいか中々決まらず、それを抜きにすると少し薄味な気もしますね。パワースラムとパワーボム、アバランシュホールドは良かったのですが、あと一つ二つ何か大技が欲しい気もします。対するSANADAは良く言えば横綱相撲であり、試合として悪くはないものの、メインとして見るにはややインパクトに欠ける面もあるというのが正直な感想で、デッドフォールでの一発逆転はハマりそうでハマらない気も。間違いなく代名詞であり、王座戴冠もあって神通力は備わりつつあるものの、使い手を選ぶ妖刀な気もして、持ち技でありながらまだ使い込む余地はあるなと思いました。SANADAもまた、成長中のチャンプなんですよね。

試合後のマイクは地名を噛むという大失態ではありましたが、こうした「失敗」も笑って流し、許されるようになったというのが逆にSANADAにとってはいいことなのかなとも思います。ファッションでいうところの「抜け感」というか、計算じゃないあたりに味があるというか。案外こういう部分からSANADAの四角四面なカタさが抜けていくのでは?と思いますし、こんな感じで失敗しても伸び伸びやるのが成功の道だとも思います。海野vs成田のときに書いた「上辺だけの綺麗さ」に対する解答を持っているのは間違いなくSANADAであり、それを叩き込んで欲しいですね。それが王者であり先駆者の務めです。期待してますよ。以上!





開幕戦というのもあって、長くなってしまいましたがまたこの季節がやってきました。G1の全戦レビューは気が狂いそうになるぐらいキツいのですが、頑張ってるレスラーと並走する感じでレビューするのも悪くないなと思います。ではではこの辺で。また明日お会いしましょう。

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