2023.8.10 新日本プロレス G1 CLIMAX 33 準々決勝戦 試合雑感

◼️第5試合 時間無制限1本勝負
『G1 CLIMAX 33』準々決勝
ヒクレオ vs 内藤 哲也

ここから先は優勝するまで負けたら終わりのトーナメント。場内の期待感も否応なしに高まります。新世代の怪物、ヒクレオの超パワーはリーグ戦を通じて周知されましたが、内藤の巨漢狩りにも期待が集まりますね。

並び立つ両雄。こうしてみると体格差が目立つ二人ではありますが、内藤は足への攻めで冷静に対処。低空ドロップキックを皮切りにレッグロックやクランチループ、リバースインディアンデスロックでジワジワも攻め立てます。パワートリップの間を外すなど、内藤は攻め手を緩めません。苦悶の表情を浮かべるヒクレオですが、逆水平やビッグブーツなどのド迫力の打撃で返すと、エスペランサを受け止めてのアバランシュホールドや超高角度のラストライドなどの重い一撃で内藤を悶絶させます。

キーとなったのはヒクレオのゴッドセンドであり、何度も危機にさらされますがこれを徹底的にマークして返すと、最後はデスティーノで内藤の勝利。ヒヤヒヤしましたが、何とか準決勝進出。一芸に優れるヒクレオだけに、そこに攻防を集約させて焦点を当てた内藤の頭脳勝ちですね。ヒクレオは単発の威力が高いだけに、単発で終わると勝ちにくく、投げの構えに入ったときの内藤の空中でのボディバランスの良さがそのまま勝ちのカウンターに繋がったのが面白かったです。


◼️第6試合 時間無制限1本勝負
『G1 CLIMAX 33』準々決勝
ウィル・オスプレイ vs デビッド・フィンレー

昨年はフィンレーの切り返しのセンスがオスプレイという巨大な才能によって開花し、観客が認識できる速度の限界に迫る攻防を繰り広げたわけですが、あの頃とはほぼ別人になったフィンレーというのもあり、勝敗は全く読めません。互いにタイトルホルダーであり、互いにユニットリーダーという立場の重さもありますね。

疾く、速く。対オスプレイ相手だとフィンレーもギアが上がるのか、普段よりスピーディーでありながら、その加速と加重を持ち前の荒々しさに存分に乗せていますね。オスプレイも喧嘩根性満載で応対しますが、割って入るバレットクラブの面々。帝国も応戦し、試合は荒れ模様の様相を呈してきます。

決して引かない粗暴な打撃のオンパレードに、一瞬、一瞬の切り返しのセンスでフィンレーは肉薄するものの、やはりここ一番での爆発力はオスプレイに軍配が上がりますね。フィンレーもオスカッターに対してスプリングボード式の河津落としで返すなど、センスを活かした切り返しの妙はやはり血統の良さを感じてしまいます。

オスプレイもこのG1で猛威を振るったエプロンでのオスカッターや、テーブルでのパワーボムなどのエクストリーム性を高めることでフィンレーの粗暴さに呼応しており、この辺りはやはり百戦錬磨だなと。

読み合いからオスカッターを成功させ、リープオブフェイスを放ちますが、レフェリーを盾にするとここでゲイブとコグリンの乱入。それをオーカーンとコブが排除するユニットのプライドを賭けた総力戦に。隙をついてシレイリでの打撃を加えたフィンレーが投げっぱなしのボムで叩きつけ、処刑モードのままINTO OBLIVIONを狙いますが、これはカウンタースタナーのスタンドッグミリオネアで返すオスプレイ。ヒドゥンブレイドはこれまたセンス抜群の高速バックスライドで虚をつくと、フィンレーは再びINTO OBLIVIONを狙いますが、それを迎撃するヒドゥンブレード。ゾーンに入ったまますかさず決めたストームブレイカーでオスプレイ、激勝!いやはや……観客の視認性の限界値に迫る速度を見せたクライマックスの濃密さたるや。オスプレイ……改めて思いますが怪物ですね。

リーダーでありながらフィンレーは中々大きな結果が出ず、悔しい結果に終わりましたが、牙はもう喉元にまで迫ってきておりますよ。終わってみれば反則介入ありとはいえ、全部盛りの満漢全席であり、文句なくベストバウトの一つとなりました。若き野生の天才フィンレーのこれからの飛躍に期待します!


◼️第7試合 時間無制限1本勝負
『G1 CLIMAX 33』準々決勝
SANADA vs “キング・オブ・ダークネス”EVIL


これまた因縁の深い二人でありながら、すでに二人ともロスインゴではなく、離脱パターンこそ違えど卒業した二人による試合と見れば感慨深いものがありますね。

存在感を増し、試合における支配力を高めたのがEVILなら、王座戴冠後にそれら全てを飲み込む懐の深さを会得したのがSANADAであり、EVILが陸の支配者ならSANADAはさしずめ海の支配者であり、これはNJPWの新たな神話の幕開けですよ。前と違い、二人の試合のスケール感が一段階上になったようにも感じます。

時折ディック東郷の介入による不穏さがありつつも、丁寧に対処していくSANADAのインサイドワークぶり。見えない部分でのお互いの空気の支配権をめぐる攻防がいいですね。

金的を見せるEVILに対し、逆に金的を見舞うSANADA。ベビーvsヒールの対決のようでいて、SANADA自身のポジションはニュートラルにちかいせいか、こういう攻めができるのがいいですね。二人の試合でかつては決まり手となったオコーナーブリッジは介入で決まらず。この試合、介入が目立つようでいてSANADAの視野の広さとアンテナに引っかからないようにディック東郷は機を窺っていた印象があり、ここぞというタイミングで入ってきた印象があります。

ディック東郷もろともシャイニング乱打で蹴散らすSANADA。EVILの見せたラリアットは昔の終盤戦におけるEVILを彷彿とさせましたし、反則や介入といった手札切れで出てくるEVILの素顔なのですよ。これは余裕がなかった感じでしたね。延髄斬り、シャイニングと畳み掛けたSANADAでしたが、最後はカウンターのEVILでまさかの王者SANADAがここで敗退。全てを賭けて何とか勝ちをもぎとった。まさにヒールの面目躍如ですね。

SANADAの全勝を誰が止めるかが気になっていましたが、ここで立ち塞がるのがEVILというのが面白く、SANADAとEVILのカードは現在進行形の新日の王者とヒールの鉄板カードですので、よりクオリティを高めていって欲しいなと思いました。この二人がようやくこの立ち位置に上り詰めたのがひたすらに嬉しく、これはリマッチが非常に気になりますね。


◼️第8試合 時間無制限1本勝負
『G1 CLIMAX 33』準々決勝
オカダ・カズチカ vs ザック・セイバーJr.

以前からその兆候はありましたが、TV王座を獲得してからのザックはかなり意図的にサブミッションだけではないファイトスタイルになりつつあるというか、サブミッションに溺れがちという印象からの脱却を図りつつ、スタイルの拡張性を大事にしている印象があります。サブミッションって単に極めてタップを取るだけではなく、相手の動きを制したり、欧州系特有の幻惑する手四つであったり、技に入りやすくするための「当身」の技術であったりと、そちらのほうを重点的に見せている印象があるんですよね。

このオカダ戦でも、極めだけでなく崩しや削りといったパターンでも繰り出しており、オカダにとってはより難敵といった印象に仕上がっていました。ザックの試合はやはり見惚れるものがあるというか、見てて面白いんですよね。とはいえ、オカダという巨体のキャンバスを存分に使ってのザックのサブミッションアーティストぶりは相変わらずで、逆さ吊りで首と腕を同時に極めるシーンは実にザックらしくて最高でした。

攻めでのより広がったザックに対し、オカダはパターンに嵌めようとしたり、逆に弱々しく振る舞って引きつつ攻めの隙を出させようとしたりと、逃れつつも機会を狙ってる感じがありましたね。蝶野がよく見せていた「死んだフリ」戦術も感じたというか、やはりG1三連覇がかかってるのもあって、そっち方面の意識もあったのかな?とも。ザックに畳まれつつも、関節技を組み替えた隙を見て一瞬でロープに足を伸ばしたあたりが個人的には面白いシーンでした。戦いでしたね。

かなりの消耗戦となりましたが、要所要所で突き刺したオカダのドロップキックの精度は落ちないままで、飛んだザックを迎撃したり、斜め方向からのロープワークでもしっかり突き刺していたあたり、追い込まれたオカダも怖いですね。受け疲れと攻め疲れが交錯する中、エメフロ式のドライバーで突き刺すと、最後はレインメーカーでオカダ辛勝。このG1の中で最も苦戦した試合と言っても過言ではなく、今の拡張したスタイルのまま練り上げてしまえばザックのオカダ超えも夢でなく、そのときはタップアウトを奪うのではないかと……。そんな夢の可能性が見えた勝負でした。ザックが新日にいてくれたことには感謝しかありません。いや、それにしてもこのザックを全部引き出すのは相当キツイなと思いましたよ。流石のオカダも疲労困憊でしたね。

他選手にとってのオカダ戦って、基本的には今まで積み重ねてきたものの集大成であり総決算なわけなのですよ。当人が望むと望まざるとにかかわらず、そうしたポジションになってしまった以上、ベルトの有無に関係なく、全て受け止める義務がオカダにあり、そしてそれは他者の夢を踏み躙る行為でもある。賞賛が敗者に向かうということは、顔役としての仕事が良かったことの証左であり、それでいながら反発も呼び、孤独な強者としての道を歩まざるを得ない。ぶっちゃけた話、オカダの体格やキャリアなら潰すことも厭わないならできるはずではあるんですよね。それをやらない頑固さというか、矜持というか。そういう部分が僕は好きなのかもしれません。





さて、4強が出揃った中で、長かったG1も残すところあと二日となりました。優勝予想はオスプレイですが、カードの予想は現時点ではオカダvs内藤であり、これはどっちも見たいですね。長かったnoteの更新もあともう少しのしんぼうです。どうか最後までお付き合いいただければ幸いです。ではでは、またお会いしましょう。

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