2023.7.16 新日本プロレス G1 CLIMAX 33 DAY2 試合雑感

◾️第1試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Cブロック公式戦

石井 智宏 vs デビッド・フィンレー

フィンレー、当初は長髪&髭という風貌もあってかジェイ・ホワイトの後釜感がありましたが、実際のスタイルはかなり異なり、それこそ初期バレクラに近い荒々しさがあるのがいいですよね。石井相手だとどうしても比較されがちなジェイとの違いがより顕著に現れるというか、持ち前の気性の荒さがギラギラと光っています。

対する石井も打ち合いはまさに壁とでもいうべきスーパーアーマーぶりで耐え、打撃戦は一撃で返していきます。しかしながらそれで弱々しさを感じないのがフィンレーの凄い所で、足を狙った攻撃もテクニカルな一点集中というよりモンハンの部位破壊のようなえげつなさがあり、テクニックはあっても醸し出すイメージが全然違うんだなというのを実感します。

これは以前も書きましたが、パックブリーカーにしろ、プリマノクタにしろ、決め技のINTO OBLIVIONにしろ、基本的にフィンレーの技は身体の中心軸である骨にダメージを与える技に集中しており、スタイルの特異性が際立っているんですよね。今までのバレクラリーダーの中でも明確にカラーは差別化できており、足りないのは本当に実績だけなんですよ。そういう「成り上がり」が許されるのもバレクラの特権であるとも思います。

20分という短い時間ながら戦いは激化の一途を辿り、相手の体を壊しかねないハードな技の応酬が繰り広げられます。石井相手だとやはり擬似的なNEVER王座戦の空気も漂ってくるというか、真っ向勝負かつリズム感が噛み合っていて見てて心地よかったです。最後はブレーンバスターの仕掛け合いからリバースブラッディーサンデーの体勢からのプリマノクタ。そして改名後から神通力を纏い出した一撃必殺のINTO OBLIVIONで石井を粉砕。フィンレーの特色はもう一つあって切り返しのスピーディーさにあり、これがあるからこそ「怖い」んですよね。そうしたフィンレーの良さを引き出した石井が素晴らしいのは言わずもがなで、昨年と比較するとフィンレーの成長には驚かされます。元からこれぐらいの地力があったのは明白とはいえ、立場は人を変えますね。


◾️第2試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Dブロック公式戦
後藤 洋央紀 vs 矢野 通

CHAOS対決、互いに手の内を知ってるせいか、テンション高くて爽やかさがありますよね。開幕早々の押さえ込み合戦は実に「らしい」攻防ですが、後藤式が返されたのには少しびっくりしました。登夢くんと後藤をリング下に放り込んで被り物を被せて撹乱するなど、矢野劇場が幕を開けます。翻弄されてるように見えて、こうした相手でもソツなくこなせる後藤のエンタメ適性の高さにもびっくりしますよね。

最後は両手を掴んでのヘッドバッド3連発からのGTR。試合としてはあっさり目であり、同門対決というのもあって制裁という印象もないのですが、変に落とさずに初戦で勝てたのはホッとしました。後藤優勝。毎年言ってますが自分はまだ諦めていませんよ。頑張って欲しいですね。

◾️第3試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Cブロック公式戦
マイキー・ニコルス vs HENARE

アーロン・ヘナーレ改めHENARE。前日の会見で隠していた口元が顕になりましたが、そこにはマオリ伝統のタトゥーが。スキンヘッドも相まってまるでマイク・タイソンのようなゴツさとカッコよさがあって惚れ惚れしました。ビジュアルにやられちゃいましたね。

対するマイキーはタッグ屋のイメージが強く、またシングルとなるといまいち印象が薄いかもですが、NOAH時代から見てる身としてはとにかく感慨深く、プレーン・シンプル・グッド・レスラーなんですよね。プロレスにアダプトしたストリートファイトのHENAREの打撃に対して果敢に応じつつ、要所要所でセンスのある切り返しを見せる。いや、本当にいいレスラーですよ。

最後はコブラツイストから反転してサイドに落とす変形ドライバーことMaster Blasterでマイキーが勝利。HENAREは真っ逆さまに頭から落ちていてゾッとしましたが、説得力は抜群でした。このリーグ戦を通じてまだマイキー・ニコルスがピンときてない層に周知できるといいですね。

◾️第4試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Dブロック公式戦
シェイン・ヘイスト vs アレックス・コグリン

コグリン、身体の仕上がりが素晴らしいです。エプロンにいるシェインをコーナーから直接持ち上げて叩きつけるサイドスープレックスなど見た目だけではないパワーがいいですね。対するシェインは躍動感のあるファイトが目を引きますし、対角線から走りこんでのジャンピングニーはとてもよかったです。TMDKの面々は土台となる基礎のテクニックがしっかりしてるのがいいんですよ。

最後は椅子を取り出したコグリンの行動が裏目に出て、椅子の上へのバックドロップからボム・バレー・デスでシェインが勝利。以前から好きな技の一つなので見れたのがとにかく嬉しいというか、これ、銭の取れる技ですよ。TMDKのスタートが上々だったのは喜ばしいことですね。

◾️第5試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Cブロック公式戦
鷹木 信悟 vs エディ・キングストン

今大会最注目カードの一つです。清宮参戦ばかり取り沙汰されがちですが、米インディーの旅人、エディ・キングストンの参戦って超ビッグニュースだと思いますよ。特に元ドラゲーの鷹木とのマッチアップはそこはかとなくインディーっぽい空気感が漂っているというか、この二人の対峙だけでゾクゾクしちゃいました。

エディキン、お世辞にも風貌が格好いいわけではなく、また使う技もよく言えばオマージュ、悪く言えばエディットレスラー感が満載なのですが、発する空気感と試合構成はいいんですよ。ぽっちゃりな体格に見えて体幹も素晴らしいんですよね。恐らくですが、一番の魅力はインディー行脚で培った観客との心理的な距離感の近さというか、盛り上がる勘所をちゃんと押さえている印象があります。最後はローリング裏拳からのノーザンライトボムで鷹木に勝利。非常にいい試合でした。

◾️第6試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Dブロック公式戦
棚橋 弘至 vs ザック・セイバーJr.

棚橋の新衣装、一部で逆バニーと言われててめちゃくちゃ笑いました(笑)「今までの棚橋を捨てる」との宣言からのこれは不意打ちすぎますよ。それにしてもWWE中邑のコスであるボディスーツと酷似してるのがファンにはたまらない部分であり、ある種の「匂わせ」ですよねえ。

開幕はオーソドックスなレスリング。対ザック相手は戦績こそ良くないものの棚橋は結構楽しんでやっている感じが伝わってくるというか、こういうクラシカルな試合は本当に好きなんでしょうね。ヘッドシザースの攻防で、恐らく今の棚橋の膝の状態ではできないであろうヘッドスプリングからの離脱をサラッとやったあたりにザックの意地悪さが垣間見えます。

バックスライドの体勢からの腕の取り合いから、ショルダーアームブリーカー。猪木の代名詞であるこれを没後に棚橋が使うあたり、色々と思う部分がありますね。そしてアームロックで固めて棚橋はグラウンドへ。そしてキーロックと丁寧に仕掛けていきます。棚橋、若かりし頃はSAWでの出稽古を繰り返し、全盛期藤田和之ですら王座戦で棚橋を押さえ込むのに難儀した程度にはグラウンドの素養と下地があり、決してできないわけではないんですよ。何とか逃れたザックはロープ越しのドラスクという棚橋のお株を奪う技を繰り出すことで精神的な優位性を崩しません。

ザックvs棚橋の名場面ではありつつ、ドラスクやヒールホールドでウィークポイントである膝を徹底的に攻められた棚橋でしたが、ザックのテキサスクローバーホールドは流石に許さず、まさかの三角絞め。こうした技は好まない印象があったので驚きました。これは何とか返したザックですが、下からの膝十字を狙う棚橋。これも何とかヒールホールドで返すザックでしたが、イメージにない技を連発する棚橋は「変化」を感じていいですね。

腕へのドラゴンスクリューに、意外性のある飛びつき腕ひしぎ逆十字。ここでの腕ひしぎでの攻防は棚橋が上回りましたが、最後は押さえ込まれて棚橋の敗北。これ、棚橋vs中邑戦で見せた棚橋の腕ひしぎ対策でもあり、またザックが棚橋にやられたときの技でもあり、棚橋的にはこれで負けたのは悔しいでしょうねえ。いや、それにしても変化の棚橋は非常に面白かったです。腕ひしぎにしろ三角絞めにせよ、総合格闘技や柔術イメージが色濃くて当人の思想に合わないのと、それらを得意とする中邑との差別化もあって使ってなかっただけで、まるで中邑の忘れ形見のようのこれらの技を使う姿には感じ入るものがありました。この状態の棚橋で鈴木みのる戦が急に見たくなりましたよ。良かったです。

◾️第7試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Cブロック公式戦
タマ・トンガ vs “キング・オブ・ダークネス”EVIL

開始早々仕掛けたのはEVILでしたが、タマはすぐに応戦。元バレクラというのもあってこうした悪辣さへの対応力は高いですよね。コーナーでのバイオニックエルボー見せるなど、ベビータマちゃんは乗りやすいヒーロー性と明るさが同居しているのが魅力です。

しかしながら影に徹していたディック東郷が外したコーナーマットへと被弾。そこから花道でのブレーンバスターでEVILがペースを取り返します。ゴングを勝手に鳴らされて混乱する中、カウントギリギリで戻ったタマでしたが、中々ペースを掴めませんね。

反則を除けば真っ向勝負であり、以前のEVILの試合と比較するとベビーvsヒールの構図はかなり洗練されてきていますよね。最後はレフェリーを突き飛ばして生まれた隙を利用しての金的。そこからのEVILで勝利。観客の悲鳴が細く長く響いていたのが印象的で、声援が戻った状態のHOTが本来の姿なのだなと再確認しました。個人的には勝ち上がってのEVILvs清宮で外敵vsヒールという変則的な試合が見たいですね。

◾️第8試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Dブロック公式戦
内藤 哲也 vs ジェフ・コブ

内藤vsコブは元から手の合う二人ですよね。内藤のお株を奪うコンビネーションを見せるコブの身体ポテンシャルはやはり素晴らしく、パワーだけでなく投げも含めた躍動感が最大の持ち味なんだなと。コブの攻めの身体ポテンシャルと内藤の受けの身体ポテンシャルのぶつかり合いのリズム感がとにかく絶妙で、伸縮自在かつ躍動感のある内藤の受けっぷりがコブの超パワーに花を添えている印象があります。内藤はこの手のスープレックスモンスターとの相性がとにかくいいですよね。パワーに対してのスピードによる加速と加重による攻めも小兵のスピードタイプとして非常に合理的ですし、内藤のレッグシザースネックロックを持ち上げるコブのイカれパワーぶりも見てて最高に興奮しました。

この試合における内藤の受けっぷりは非常に面白く、仕掛けがとにかく返されているのは戦術としては全て悪手であり裏目に出てはいるのですが、エンタメ性の観点から言うと、これをやられたらヤバい!=ここで返されるのが見たい!という場面で確実に抜かりなく、最悪のカードをちゃんと引いているんですよね。裏面が透けているトランプで敢えてジョーカーを引く感じというか、ノーロープのバンジーのようというか。この「わかってて」やってる感……裏を返せば観客が見たいであろう壮絶な攻防をちゃんとこなすだけの、自身の受けへの信頼性が見て取れるわけです。これを見て内藤はもうダメだ……とはならないでしょうし、ヒヤヒヤしつつもこうした攻防ができることに逆に安心してしまったんですよね。

内藤の最大の魅力はこうした自身の力量のみに信を置き、時にファンの心配すら嘲笑う形で危険領域とダンスを踊る豪胆さにあり、周りが止めれば止めるほどにプレーキをかけず逆にアクセルを踏み込むような刹那性にあると思っています。僕のような棚橋ファンの視点から見る内藤はわりと興味深くて、衰えに対しての方法論が棚橋と内藤とでこうも違うのかという驚きがありますし、内藤のほうがより刹那的な印象があります。会見でも語った内藤の棚橋に対する言葉は全て反語なわけですし、今回のブロックでの対決は楽しみですね。

試合はツアーオブジアイランドでコブが内藤相手に初勝利。内藤からすると壮絶な玉砕ながらも、どこかやり切った感のある一戦でしたね。しかしながら初勝利という感じはさほどなく、また逆に内藤が衰えたようにも見えない好勝負ぶり。近年の内藤は膝の状態を含めたコンディションが不安視されていますし、世代交代へと突入した今の新日本という状況の中、辻陽太の加入で一歩下がるんじゃないかという不安もあるにはあるのですが、こんな感じでスポーツライクに勝ったり負けたりできる立場であることへの安堵が強かった。そんな試合でしたね。やはり充実することが一番ですし、充実しないと燃え尽きることができないわけですから。この夢の果てがどこなのか。それはファンにもわからず、エンドマークのつかない男はまるでピーターパンのようでいて、儚い夏の陽炎のようにゆらめいているわけです。近年のG1の中で、もっとも夏の暑さと夏の終わりの儚さを感じるのは内藤ですし、今の内藤はカッコいいですよ。間違いないです。

最後は帽子を被ったコブがロスインゴのお株を奪うかのようなマイクアピール。これも非常によかったですね。試合内容が素晴らしく、マイクでもちゃんとオチている。夏の幕開けに相応しい爽やかな激闘でした。

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