10.8 KING OF PRO-WRESTLING 東京・両国国技館試合雑感。

前回の興行に続いて、今回も荒れ模様の興行となりました。まさに一寸先はハプニングの詰め込みっぷりであり、語ることの多い内容でしたね。いつも通り、雑感を書いていきたいと思います。

・IWGPJr.タッグ王座選手権試合 金丸義信&エル・デスペラード vs 獣神サンダー・ライガー&タイガーマスク

ライガーは加齢もあって以前のようには動けないのですが、あえて動きを少なくすることで持ち前の重厚さを存分に発揮していましたね。ロープワークからの一瞬の丸め込みや脇固めなどはベテランの巧さが光っております。

ライガーとタイガーのタッグは最強ベテランタッグとしてノアに何回か出向いており、金丸とは因縁浅からぬ関係があります。金丸は以前のノアでの格を考えると今のポジションにはかなり違和感があるのですが、対外の知名度があり、主人公オーラのある丸藤を遊軍ポジションに置き、華で劣る金丸を外に出さずに外敵用の番人に据え、丸藤にシングルで勝たせずに団体内での最強の格を維持させた三沢の配役の上手さが今になってよく分かります。金丸の本来の職人肌的な資質はむしろ今の方が合っており、この試合に限っては終始デスペのサポートに徹していたのが良かったですね。最後はレフェリー不在の隙をついた急所攻撃からピンチェ・ロコ(旋回式のペディグリー)でのフォールという形になりましたが、デスペがタイガーから獲った意味はかなり大きく、成長を感じさせます。個人的には鈴木軍の小間使いのようなポジションからは脱却して欲しいのですが、金丸と反則のサポート込みで存在感を浸透させていく今のやり方は悪くはないと思ってます。

・オカダ・カズチカ&矢野通&YOH&SHO vs 内藤哲也&SANADA&BUSHI& "X"

ロスインゴの新パレハ"X"の話題作りは大成功ですね。やはりプロレスにおける"X"は予想も含めて盛り上がるもので、あえて普通に登場させず、対戦するCHAOSの裏切り者という可能性も直前まで捨てなかったあたり、内藤の手腕が光ります。「リングサイドに来てかもしれません」の言葉でリング内に集まった意識をリング外へ散らして、そこからのミラノコレクションAT復帰の言葉は観客を騒然とさせましたが、これは一流の前フリというか、ミラノ弄りのネタですよねw

焦らしに焦らせた"X"は大方の予想通り、鷹木信悟だったのですが、安パイでありながらも期待されていた人物でもあり、また長らく続いたCIMAのエース体制に風穴を開けたというのも、上を狙うロスインゴの反逆性とも噛み合います。何よりも内藤と並んだ瞬間の絵面の収まり具合に驚いてしまいました。違和感がないんですよね。コスはEVILとの被りを避けるためなのかロングタイツだったのですが、デザインが没個性的で、できればスパッツのほうがよかったなというのが個人的な雑感です。ドラゴン、という異名も出自との符号性はありつつもやや安直ではあるのですが、鷹木信悟のイメージを極力損ねず、逆輸入するための薄めの味付けだったと納得はできます。

仕方ないとはいえ、Xの正体が明らかになった場面がほぼピークで、それは入場が一番のピークという内藤のことを思えばやや引っかかる点もあるのですが、試合そのものは素晴らしいものでした。ドラゲ仕込みの高速ロープワークに、堂に入った試合運びなど、鷹木信悟のお披露目試合という点では100点満点でしょう。パワー&スラムを中心とした怪力殺法は現新日Jr.の中ではいそうでいなかったポジションであり、怪我で欠場したヒロムの代わりとしては十分過ぎる格の選手でもあります。ただ、鷹木信悟自身はヘビーでも通用する体格であり、チャンカンで宮原から獲ったというのもあって、Jr.の枠に収めるのはやや勿体無い気もするのですが、まずはJr.タッグリーグでの試験運用ですね。個人的にはオカダとの絡みも見たかったのですが、それは後のお楽しみでしょう。ラストファルコンリーがラストオブザドラゴンという名前が変わったのは厨二病感バリバリだったのですが、それもロスインゴの雰囲気に合っていますよね。ただ、それよりも途中に繰り出した熨斗紙のほうがインパクトは強かったです。鷹木信悟加入は戦力面での増強になりますが、新メンバー加入というのは常に分裂の危険性を孕んでおり、これがロスインゴ崩壊の遠縁になりそうで、ヒロム復帰の際の鷹木信悟との関係性は目が離せないですよね。

・EVIL vs ザック・セイバーJr.

ジェリコ乱入は読めていたのですが、来るとしたら試合後で、まさか試合前に襲撃するとは思いませんでした。EVILの入場は昨年のオカダvsEVILのIWGP戦以来のプレミアムな登場シーンだったのですが、完全に逆手に取られましたね。入場の従者に紛れての襲撃というのは実にWWE的で、試合そのものをブチ壊すというやり方そのものがWWEの流儀であり、一つの洗礼ですよね。以前の内藤vsジェリコでも内藤の入場コスが敗因の一つになったように、一見対極にあるはずのWWEが、入場からすでに戦いが始まっているという常在戦場というのはストロングスタイルっぽくて非常に興味深いものがあります。こういうやり方はWWEではほのぼのニュース枠のような扱いで、もはや新鮮味はあまりないのですが、今の新日ではまだこのやり方に神通力がありますよね。それをジェリコに一人に焦点を合わせて制御不能感を出しているのは非常に上手いです。仮面を取る前に一拍置いて、代名詞であるコードブレイカーを出したあたりは流石の千両役者ぶりで、ジェリコの何が恐ろしいかった、その「空気の支配力」なんですよ。相対した選手の足りない部分が暴かれてしまう上に、どうしても喰われちゃうんですよ。こうした部分もまたプロレスにおける「戦い」なのです。EVILとザックの試合が流れたのは非常に残念で、EVILの関節技への対応力が見たかったのですが、これもまた後のお楽しみであるでしょう。流さずにまたいつか見せてくれるという信頼感が今の新日にはありますので。会場に居て生ジェリコを見れた人は役得ですよね。完全に引き立て役になったザック・セイバーJr.、引いては鈴木軍は踏んだり蹴ったりなのですが、この仕込みがあったからこそのサプライズであると思います。しかしEVIL vs ジェリコは、全くもってEVILに勝ち筋が見えないのですが、このEVILのキャラクター性すら危うくする辺りはまさに戦いですよね。観客の反応も良く、ジェリコの暴挙に対するEVILの報復に注目が集まります。ただ、流れそうだった内藤vsザック・セイバーJr.、またこの暴挙により内藤の団体批判の流れまでやりやすくなり、ドームでの内藤vsジェリコまでの動線がスムーズになったのは素晴らしいですよね。WWE的でありながら、昔ながらの新日っぽい荒れ具合のある最高の展開でした。

・IWGP Jr.ヘビー王座決定戦 KUSHIDAvsマーティ・スカル

二回続けてのサプライズの後という難しい位置付けの試合だったのですが、ここは安定の好勝負でした。

リストの取り合いからスタートし、手首に足を引っ掛けてのマーティのヘッドロック、膝を踏んでの脱出からがぶって蛇のようにしつこいKUSHIDAのフロントネックロックと、ショルダータックルからロープワーク、ヒップトスからの腕ひしぎと、 グラウンドの攻防にJr.らしい軽快さと緊張感を含めた序盤の両者の動きは素晴らしいですね。ジャックナイフ固めとローリングクラッチの応酬もやや演舞的ながら小気味良くてバランスがいいですね。

横軸のグラウンドから縦軸のロープワーク、丸め込みの応酬という立体的な動きを踏まえて場外へ戦場が変わり、エプロンでのトラースキックという帰結点からマーティのターンに移ります。怪鳥音の鳴る逆水平とロメロという難解なジャベでKUSHIDAをネチネチと追い込みますが、KUSHIDAも激しく明るい動きで脱出を図ります。マーティの陰の空気感に上手くKUSHIDAの持つ陽の雰囲気を合わせてますよね。マーティの愉悦と軽やかな動きに、KUSHIDAは情熱と鋭い打撃、危うい関節技で対抗するというのも非常に分かりやすくスイングしています。

KUSHIDAの横入り式のスライディング・ドラゴンスクリューは唸りましたが、即座にエビで潰すマーティの老獪さもまた唸らせるものがあり、先ほどの丸め込みの応酬をさらにハイスピードにして技術面で凌ぎを削り合います。腕が潰されてるとみるや、KUSHIDAもキックというマーティにない武器で挑みますが、マーティもすかさずトラースキックで上書きし、ペースを握らせません。

KUSHIDAは再び腕に焦点を合わせ、ディアブロ・アームバーで絞り上げますが、マーティはサードロープ越しのシーソーホイップでKUSHIDAを悶絶させます。こうした何でもない小技をささやかな違和感として観客の脳内にねじ込んでいくマーティのスタイルには感嘆のため息しかありません。

バックトゥザフューチャーをファルコンアローで切り返してのチキンウイング・クロスフェイスで一気に試合は終盤へなだれ込みます。掟破りの仕掛け合いになりますが、互いに腕攻めが一つのキーポイントになっているんですよね。KUSHIDAもマーティの危険技に対し、シェルショックやオートマティック・ミッドナイトといった盟友アレックス・シェリーの技を出したことで、決定戦に相応しい死闘と相成りました。

マーティの手へのピンポイントのストンピングで、KUSHIDAは腕を痛め、ホバーボードロックへいくことができません。続くバックトゥザフューチャーもスモールパッケージで切り返され一気に窮地に追い込まれましたが、マーティのダブルアームからのチキンウイング・クロスフェイスを切り返し、デスバレー式の変形バックトゥザフューチャーから正調バックトゥザフューチャーという畳み掛けでKUSHIDAの逆転勝利。通常、フィニッシャーの連発は技の印象が軽くなるのですが、バックトゥザフューチャーは相手との密着感があるせいか、連発してもダメ押し感が際立ってて説得力があるんですよね。素晴らしい試合でした。ドームは恐らくは実現しなかった石森太二とのシングルだと思うのですが、それも楽しみですよね。

・東京ドームIWGPヘビー級王者挑戦権利証戦 棚橋弘至 vs ジェイ・ホワイト

G-1での好試合から、外道の帯同によって、大物ヒール感の増したジェイ・ホワイトとの一戦は、観客の大ブーイングからのスタートになりました。ジェイはドームメインはまだ早いとも思うのですが、ベビーvsヒールという意味では現新日の提供できるカードの中では一番であり、またオカダとは違った意味での難敵でもあります。近年ファンになった人からすれば、外道は気のいいオジサンのような印象なのかもしれませんが、その名前が示す通りのヒールであり、外道の力を借りるというのは悪魔の取引に近いものがあります。黒ずくめの服に目深に被ったキャップで鋭い視線を投げかけるだけで、この試合におけるヒール感の構築に一役買っています。

外道の介入から痛めた足を徹底的に狙われる展開となり、足をギターに見立ててかき鳴らすジェイの憎々しさは素敵ですね。ジェイは能面のような表情の乏しさとそれに付随する感情の表現力が難点ではあるのですが、サイコ感のあるシリアルキラー・ヒールという立ち位置がそれを打ち消していますよね。元々デンジャラスな技に重きを置くスタイルとヤングライオン時代から評価されているレスリングセンスが当初は噛み合っていなかったのですが、G-1を経て上手くそれらを融合させたように思います。

防戦一方の棚橋でしたが、ドラスクの連発による得意の足殺しでペースを握ろうとします。棚橋が足を痛めたことによって、棚橋の足殺しが単なる痛め技ではなく、相手を自身と同条件に追い込むという風に新たな意味が付与されているのがいいんですよ。プロレスにおける合理性の一つですよね。それでも膝への蹴り一発で攻撃の手は止まってしまい、ジェイの場外へのバックドロップから、鉄柵への一撃で苦悶の表情を浮かべます。余談ですが、ジェイのこの鉄柵への往復攻撃というムーブはいいですよね。技名もつかない得意技というか、こうした小技には惹かれるものがあります。

棚橋もロープ越しのドラゴンスクリューという拷問技から場外への決死のハイフライフローという極端な振り幅の技を見せます。執念のドラスクと意地のハイフライ、段階的な積み重ねではなく、小技からの大技。大雑把でありながらその攻撃は実に理に叶っていますよね。

痛む足を引きずってのロープワーク。今の棚橋は単純なロープワークすら試合のコンディションを図る一つのバロメーターとなっており、見所の一つになっています。逆水平を耐え抜き、棚橋のペースかと思いきや、不意打ちのフラットライナーからのぶっこ抜きジャーマンでジェイも即座に反撃します。

ジェイの上手さの一つとして、年齢にそぐわないインサイドワークの巧みさもあるのですが、それ以上に相手に対する「誘い」があります。単に攻め立てるだけでなく、あえて相手にやらせておきながら自身の得意技へと追い込んでいくスタイルというか、受けることで相手の技の選択肢を潰しているんですよね。そのことにより、相手が選んだのではなく選ばされたかのような流れになり、それはひとえに生来の駆け引きの上手さにあり、まさに蟻地獄か詰め将棋といったような、ジェイのセンスの賜物でしょう。単純なひらめきとはまた違った頭脳戦をジェイの試合からは感じるんですよね。

ブレードランナーとドラゴンの仕掛け合いで棚橋が一歩も引かなかったのはいいですね。ここは年齢や怪我を言い訳にできない部分ですから。エルボーの相打ちからツイスト&シャウト連発を仕掛けますが、捻り式のブレーンバスターでやり返されます。棚橋はこの試合において技を極端に絞っていましたが、それがまた追い込まれた感じが出ていて非常に良かったです。

ハイフライ式のボディアタック、正調ハイフライフローという必殺フルコースが決まりましたが、外道がレフェリーの足を引っ張ったことにより、試合は混沌を極めます。続くブラスナックルの攻撃こそ躱したものの、ジェイのローブローで棚橋は悶絶。ジェイと外道の二人だけですが、両者とも上手いだけあって二人分以上の働きがありますよね。椅子を振りかぶったジェイですが、ここはお返しの棚橋のローブロー。海の向こうの中邑を彷彿とさせる一撃で、それが過ぎったファンも多いことでしょう。エースのイメージにはそぐわない技ですが、実は棚橋自身は相手がやるならやり返す強かさを秘めており、近年だと2015年7月5日の対矢野通戦でも掟破りの金的を見せているんですよね。

椅子へのボディスラムからハイフライフローを繰り出しますが、この博打は裏目に出て、躱されて膝を椅子で強打してしまいます。椅子を投げつける狂気性をジェイは見せ、ブレードランナーで万事休すかと思いきや、一瞬で切り返しての電光石火の首固め。電光石火は走り込んでの首固めなのですが、これはまさに電光石火としか言いようがありません。かつて棚橋の丸め込みはファンから色々と批判されていた時期があったのですが、今のキャリアでこの懐刀を抜いてくるのは感慨深いものがありますね。手段を選ばず、また逆転勝利という印象は非常に強かったです。

試合後、荒れるジェイに対し、まさかのオカダが救出にやってきました。かつてのライバルが助けにやってくるという少年漫画的なこの展開には燃えましたよね。殴られて帽子を取られた外道の表情はポール・ヘイマンっぽさがありました。止めに入った邪道、バレクラOG乱入からの邪道外道のCHAOS離脱&OGとの結託までは綺麗に繋がりましたね。外道のみでは一匹狼感の強かったジェイに仲間ができたのも大きいですが、当初入ると見られていたバレクラから一旦距離を置いてCHAOSに入ったことで、上手く裏切り者として機能するようになりましたね。これでオカダ&棚橋という夢のタッグの可能性も生まれつつ、オカダvsバレクラOGという流れもまとまりました。ドームでのオカダはジェイとのシングルですかね。ややインパクトに欠ける一戦ではあるのですが、ストーリーが付随したことにより俄然注目度が高まりました。バレクラOGは元よりリーダー不在が一番の欠点であったのですが、ジェイの加入でそれは払拭されましたね。ただ、石森加入のあたりから怪しかったバレクラOGのオリジナル感はすっかり薄れてしまったので、この加入を機にユニット名を変えてしまってもいいかもしれません。

・IWGPヘビー級王座3way戦 ケニー・オメガ vs 飯伏幸太 vs Cody

結論から言うと、個人的には今ひとつでした。3wayアンチではなく、むしろ3wayという試合形式は好きなのですが、この試合はどうにも乗れなかったです。試合のクオリティはそこそこの好試合で見所も多かったのですが、当初ブチ上げたような、後に語り継がれる伝説の試合というほどではなかったですね。点数をつけるのは嫌いなのですが、敢えてつけるなら75点の出来の試合で、普通の試合ならいいのですが、王座戦として見るにはやや物足りなさがあり、個人的にはこの3者ならもう少し上を目指せたのではと言うのが正直な感想です。

その理由として、3者の立ち位置の不明瞭さがあります。ケニーvs飯伏という重みのある試合を単なるリベンジ戦として消化しなかった点は評価しており、3wayというアイディアは良かったのですが、試合の成り立ちがやや微妙で、特に必然性がなかったんですよね。せめてCodyがヒールならばまた違った試合になったであろうことを考えるとこのタイミングでの3wayは非常に惜しいものがあり、所謂「いい試合」をしようとする意識が先に立ちすぎていたような気がします。ただ、新日においていまだ忌避感の強い3wayという形式を選んだ気概は買いますし、ケニーの王者らしさや新日の風景を変えるという点には賛同しかないです。

3wayが嫌われる理由の一つとして、そのゲーム性が挙げられますが、具体的にゲーム性があるとどうまずいのかがあまり説明されていないですよね。恐らくは王者に関わりのない場で勝敗が決まるという王者にとって不利な形式、理不尽さが嫌なのでしょうが、ヒール相手での防衛戦では第三者による介入があることを考えると、理不尽さという要素はそこまで受け入れられないものではないと思っています。あと、王者が勝敗に関わらなかった場合、シングルによるリベンジ戦が濃厚で、それを前提とした感じが受け付けないのかもしれません。ただ、王者に傷をつけずに陥落できるというのは利点でもあり、後のストーリーを構築しやすいのができることが3wayのいいところでもあるんですけどね。

3wayにおけるゲーム性はアトラクション要素が強い反面、いつ王者がベルトを落とすか分からないという緊迫感に満ちており、そのハラハラさは十分王座戦の試合形式として通用する類のものです。ただ、今回の試合ではその緊迫感があまり出ていなかったのが個人的には乗れない原因でしたね。ノンタイトルならアトラクションも楽しめたのですが、王座戦ならではの重みは薄かったように思います。勝負論をあとほんのひとさじ強めておけば受け入れられた人も多かったのではないでしょうか。しかしこの明るさは重みとは無縁だからこそ成立したものであると考えると、いまいち断言もできないんですよね。

批判の多い3wayですが、その見所は多く、はっきり言えば食わず嫌いだと思います。まず単なるシングル戦と違い、1vs1が3パターン見れるという贅沢な利点が3wayにはあるんですよね。また1vs1vs1が時に1vs1に切り替わるという入れ子構造の中、休まずに誰かが動き続けることによるドライブ感が持ち味なのですが、1人のダウンをベースにした1vs1の時間が長かったのも個人的にはマイナスです。リング内での1vs1と場外戦での1vs1がシームレスに矢継ぎ早に切り替わるほうが個人的には好みでしたね。ただ後半でそれらは解消されましたし、恐らくは新日本プロレスワールドのカメラワークの問題もあるとは思います。会場で見るとまた印象は違ったのではないでしょうか。

色々と否定的に書きましたが、全否定というわけではなく、好きた部分も結構ありますし、実験的な一戦と見れば見所は非常に多い試合でした。試合に詰め込まれたアイディアの数々は素晴らしいものがあり、それはひとえにCodyの働きによるものです。WWE的なソープオペラはDDT仕込みのケニーと飯伏ならではで、ケニーがCodyとも繋がりがあるので、例え全員ベビーだとしてもある種の三角関係のようになっているんですよね。すでに成立した恋人にちょっかいをかける間男のような感じというかw不信、決裂、一騎打ちというケニーと飯伏の複雑かつ濃密な関係とストーリーを試合の中に落とし込んだ手腕は見事でした。

ただ、付け加えておくなら、このケニーと飯伏の友情ストーリー、もといケニーの友情観にはファンからはかなり賛否両論あり、以前のヤングバックスとの一戦もそうなのですが、勝負論を大事にする人には受け入れ難いものがあります。DDTでの両者を見ていない人間には、仲がいいのはわかっても、それ自体がいささか食傷気味になっているのではないでしょうか。昔からのファンには格で差をついてしまった飯伏にジェラシーを期待する声もありますし「飯伏、お前は噛み付かないのか?」と言いたい人もいるでしょう。ただ、昔から見ているとプロレス的な決裂というのはこの2人には相応しくなく、下手にやれば非常に安っぽいものになる危険性があります。この辺は2人の宿題であり、この異物感があるからこそ、新日の価値観への侵略や棚橋ケニーのイデオロギー闘争に繋がってる面白さもあるので、変に迎合せずに貫いて答えを出して欲しいですよね。

ケニーvs飯伏の戦いにROH的なエッセンスを足し、アイディア感満載の味付けをしたCodyの仕事ぶりは素晴らしかったですね。Codyはこの試合においてはストーリー面で大きなハンデを負っていたのですが、それをものともせず、プレイヤーよりはギミック担当みたいな感じで振る舞ったのはとても良かったです。シングルも十分こなせますが、元々はタッグ適性のほうが高い選手ではあったので、引き立て役は得意とする所であり、その存在感が全く喰われてはいないのは凄いですよね。試合が決まった時の、カットが間に合わなかった表情はまさに千両役者でした。

試合後に、権利証を防衛した棚橋がやって来たわけですが、笑顔こそ張り付かせていたものの、その表情は硬かったですね。恐らく3wayは見ていたのでしょうが、彼もまた受け入れられないものがあったのでしょう。それはひとえに試合形式というよりはケニーと飯伏の関係と、そのスタンスが気に入らないのでしょうね。

マイクでの「俺は怒っているよ」でゾッとしたというか、棚橋がこんな猪木的なマイクをするとは思いませんでした。棚橋と猪木は一見対極に位置する選手なのですが、猪木の後継者になるには猪木の後追いでは絶対に無理なのですよね。反目し、脱猪木を目指さないと猪木になれないというか。いや、当人も別になりたかったわけではなく、個人的には猪木というよりトリプルH的な印象があるのですが、猪木になりつつあるのは当人も自覚はしているのでしょう。得意技とはいえ、同じ興行でドラゴン張り手、所謂ビンタを連発していたのも妙に勘ぐってしまいますねw

余談ですが、棚橋って滅多に本音を喋らないんですよ。別に嘘をついているというわけではなく、ある程度周囲のことを考えたポーズの発言が多いというか。個人的に棚橋の本音は恐ろしく貴重で、それこそ棚橋と猪木の対談の時にポソッと「新日本の側に立って守って欲しかった」という言葉が印象に残っています。ずっと家を支えて時に父親を恨みもした長男の言葉のような感じがあるというか。辞めた人間ではなく、残った人間にしか言えない言葉で、だからこそ新日らしさを語る資格は棚橋にしかないんですよね。ひょっとしたら猪木がいた場合の新日というのを幻視して、その立場になりつつある中、自分流に猪木を解釈しての発言を出したのかもしれませんね。それはそれで非常に業が深いというか、とても興味深くあります。

「ケニーは賞味期限切れ」というマイクもまた難解というか、謎かけも猪木的ではあります。普通に考えれば棚橋がかけられるはずの言葉をあえてケニーにかけた意味は、色々と考えさせられますよね。一夜明け会見で「品がない」と言ったのもかなり攻撃的というか、メジャー団体のエースならではの矜持というか、この辺は本当に保守的ですよね。ザワザワしますし、乗れる部分、乗れない部分もあるのですが、かなり刺激的だと思います。

最後に書きますが「新日本らしさ」が棚橋ケニーを語る上で一つのキーワードになっています。新日本ではなくNJPW、という揶揄は多く、半分は納得できるのですが、これだけは言っておかなければなりません。今の新日において「新日本らしさ」を体現でき、なおかつ「新日本らしさ」を口にできるのは残った選手と見捨てなかったファンだけの特権なんですよ。今更感がある、という意見もありますが、それは価値観の変容と戦ってこなかった外部の意見だとも思うのですよね。実のところ、新日本らしさをめぐる戦いってずっと継続しており、ある意味ではそれが新日のアイデンティティなわけで、ファンが勝手に終止符を打っても、戦いはずっと続いているんです。それが看板を掲げているが故の宿命なんですよね。ファンによる好みの時代の選別が終わっても、新日本が新日本である限り、形を変えようとも続いていく戦いなのでしょう。

非常に長くなりましたが、ドームへの道筋が決まりつつあって話題性が乏しくなりがちな下半期にしては、かなり濃厚な興行でしたね。次も新日を楽しんでいきましょう。

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