2023.7.21 新日本プロレス G1 CLIMAX 33 DAY5 試合雑感

◾️第1試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Bブロック公式戦
YOSHI-HASHI vs タンガ・ロア

タンガ・ロア、入場してきたときのリングの上でのアピールいいですよねw同じ明るさでもタマちゃんとは質の違う明るさというか、こうして見てると明るさというより朗らかさなのかなと思います。YOSHI-HASHIのベルトの斜めがけも格好いいというか、甲冑に近いコスもあって胸当てのように見えるのがいいですね。こういう部分を見ても神は細部に宿るというか、新日の「見られること」への意識の高さがよく分かるなと思いますね。

短期決戦を狙っての開幕の押さえ込み2連発はややもっさり感があったものの、YOSHI-HASHIの勝気がよく出ていましたし、続いてTシャツを脱がして逆水平をブチ込むのも自身の武器を自覚して使っていてよかったですね。ベビーvsベビーの構図でもこうした気迫を見せてくれるからこそ見る側もノリやすさがあります。

しかしながらロアはパワーに勝り、重厚感のあるハンマーブローと、地獄突きとボディブローの連打で重さと軽さでリズムを変えつつ攻めていきます。弱攻撃と強攻撃をバラけさせるロアに対し、発生の速さで勝るYOSHI-HASHIが応戦する。土台のしっかりしたプロレスです。ラリアットの撃ち合いとスピアーでロアが上回ると、そのままダイビングヘッドバット。続くエイプシットで突き刺そうと試みるも、このリーグ戦で使い出した新技、逆打ちこと「頂狩」でYOSHI-HASHIが逆転勝利。初公開時よりスムーズで、だいぶこなれてきた感があります。これは相手の体格を選ばないですし、小兵であるYOSHI-HASHIのイメージに合ってていいですね。いい試合でした。


◾️第2試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Aブロック公式戦
成田 蓮 vs ゲイブ・キッド

奇襲を読んだ成田がゲイブを迎撃。リング上でやろうとのマイクでバチバチの攻防を開始。成田の打撃はやはり少しすっぽ抜けてる感があるにはあるのですが、互いにデンジャラスなバックドロップの撃ち合いは素晴らしく、ゴチャゴチャ考えないこうしたぶつかり合いが見たかったんだよ!と膝を打ちました。ゲイブも無法者に見えてハーフハッチを仕掛けた成田を首相撲やクリンチのようにコントロールして体勢を変え、ロープブレイクしたシーンは非常に上手かったですね。

手を焼いたゲイブはコーナーマットを剥がし、剥き出しの金具に成田の頭を何度も叩きつけます。フラフラになった成田に打ち込む逆水平も強く、応戦した成田の逆水平も意外と重さがあって音が出ていて驚きました。これが柴田から教わった「張り手のやり方」なのですかね?コーナーエルボーからのハーフハッチホールド、コブラツイストと畳み掛けた成田。これは切り返されますが、ちゃんと足のフックを外してから叩きつけてるのはわりと好きですね。そこからすかさず裏膝十字→膝十字。アマレス式のアンクルホールドである成田スペシャル3号と成田も技の連携を見せます。

しかしながらそんな成田を一撃で昏倒させたゲイブの張り手。成田もジャーマンスープレックスホールドで切り返し、断頭台、ダブルリストアームサルトからのコブラツイストを極めますが、足のフックを外してレフェリーブラインドをついての金的。そこからのレッグトラップパイルドライバーでゲイブの勝利。今までの成田の試合では一番よかったものの、結果としては惨敗で、持ってるものが悪くないだけにこうも差があるのをまざまざと見せつけられるのはただただ残酷です。アプローチこそ反則ではあるものの、柴田の血が最も色濃い狂犬ぶりはゲイブが見せつけましたし、フィニッシャーのパイルドライバーも鈴木みのるのゴッチ式パイルドライバーのような印象もあって、成田が今まで師事してきた相手のことを思うとこれは悔しいでしょうねえ。今回の試合は内容的にも悪くなかっただけに「敗北」の二文字がより重くのしかかるというか、スープレックスはいいのですけど、もう一つの武器である関節技の爪が甘い印象を受けるのがキツいですね。試合構成上仕方ない部分もある反面、捕えたら逃さないぐらいの気迫が欲しいというか、いい部分ちゃんと目立つだけに成田はもうがむしゃらにやるしかないですね。

◾️第3試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Bブロック公式戦
エル・ファンタズモ vs グレート-O-カーン

一見すると異色対決ながら、外国人の多いユニットにいて、なおかつ無国籍感のあるオーカーンというのもあってかあまり違和感はないですね。ファンタズモの乳首攻撃に対して恍惚の表情を浮かべると逆にファンタズモの乳首に噛み付いたのは自身のキャラクターをよくわかっているというか、漂う「イロモノ感」を逆に武器にするのはよかったですw

粘着質なレスリングに対してファンタズモの立体的な飛び技はやや閉塞感のある試合を解放するだけのカタルシスがありましたし、こういう俺のターン!のときのファンタズモは本当に華があります。追い込まれたオーカーンでしたが、ラリアットがそれなりに強烈で、こうした格闘技の素養のある選手の使用するラリアットって個人的に結構好きなのですよ。最後は場外TTDからエリミネーターをGTRのようにバックブリーカー式で叩きつけ、最後は大空スバル式羊殺しのグラウンドバージョンのような技……尻餅の相手へのコブラツイストのような技でタップアウト勝ち。徹頭徹尾イロモノ対決だったのがよかったように思います。

◾️第4試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Aブロック公式戦
ヒクレオ vs チェーズ・オーエンズ

見ただけで試合内容が想像できるほどにキャッチーなマッチアップ。ヒクレオのパワーには絶対勝てないオーエンズが手練手管で封じにかかる試合運び。巨漢は足から崩すのが定石ですが、手に集中攻撃したのは面白く、確かに抱え上げる攻撃が多いだけに手を狙うのは合理的なのですよ。それを嫌って足で攻撃すれば今度はそこを切り崩しにかかる。まさに頭脳戦です。

苦しむ時間が長かったヒクレオでしたが、突進力はデバフがかかっていないため、タックルでやり返すとそこからは怒涛のスラム系の技で反撃。巨漢系レスラーはこれがあるから面白いですよね。追い込まれたオーエンズですが手数で上回ると、ゴッドセンドを切り返して外したニーパッドで一撃。ヒクレオを幻惑すると最後はそのままCトリガーで勝利。ヒクレオは2メートル級のチョークスラムことゴッドセンドは銭の取れる技であり、また持ち味でもあるのですが、それが出ない試合だとやや物足りなさも残るだけに、あと一つ何か欲しい気がしますね。

◾️第5試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Bブロック公式戦
ウィル・オスプレイ vs KENTA

「いつもの相手」なら海外で習得したスタイルであるのらりくらりのヒールモードだけで封殺できますが、相手がオスプレイという怪物級の選手となると流石にそれだけではいかず、ハードな蹴りを何度も繰り出していて、ノーマーシー時代の黒い太陽こと「ブラックサン」だったころの荒々しさを取り戻した感じがあって凄くよかったです。今のKENTAでベースに時折かつてのハードなKENTAを揺り戻す。本日二度目の「これが見たかったんだよ!」でした。個人的には。

KENTA、ハードヒットな蹴りと向こう見ずなファイトスタイルに注目が集まりがちですが、本来の真骨頂はこの気迫にあり、これだけ喧嘩っ早いオスプレイに一歩も引かずに蹴り勝つのが凄いんですよ。打撃だけでなく、あのオスプレイ相手にペースを終始握り続け、文字通り現段階のKENTAでできる最高クラスの攻めだったと思います。

しかしながら勝負を分けたのは若さなのか勢いなのか。体がバウンドしかねないライガーボムに、躍動感のあるヒドゥンブレード。そしてストームブレイカーでオスプレイが逆転勝ち。もう少しKENTAの肉体が全盛期であったならば、もう少しだけKENTAが若ければ。そんな悲壮感すら野暮に思えますし、この名勝負の余韻にかき消されてしまう。いやはや、素晴らしい試合でしたよ。米国で挫折を味わった男が完全アウェーの団体で一気に成り上がり、さらにかつて最高だったころの自分をほんの数分だけ騙し騙し蘇らせる。これに心が震えない人はいないでしょう。間違いなく胸を張って言えます。「今」のKENTAが最高です!

◾️第6試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Aブロック公式戦
海野 翔太 vs 清宮 海斗

今大会の注目のカードの一つです。前回の辻vs清宮戦を見る限りでは海野の勝ち目は薄いようにも思えたのですが、それを見越してか蝶野正洋直伝のSTFわ会得し、歴史の継承者たる清宮に対して自身もまた新日の生え抜きかつ、継承者としての覚悟を決めてきたのが良かったですね。長文といい、わりと戦前の段階での準備は全て抜かりなく終わっていますし、戦いは始まる前から決まってるとは言われますが、やれるだけのことは全てやったように思います。

試合全体の印象としては、王者経験の差というのはやはり大きいもので、当初不安視されたほどではないにせよ、明確に差はあったように思います。目線こそ同世代ではありつつも、試合全体の視野は清宮のほうが上かなという印象もあり、海野の技をあますところなく受けつつも、要所要所でのダブルダウンのシーン……特に目立ったのはドラゴンスクリューを仕掛けた場面であり、通常ならすかさず攻めるものの、そこで間を取ったのが少し長く感じました。海野の攻めのダメージを引き立たせつつ、じっくりと受け切った感じがありますね。明確に差があったなというポイントの一つが若々しいエルボー合戦で、武藤継承以後の清宮は武藤殺法ばかりに注目が集まりがちではあるのですが、当人は以前よりさらに意識的にエルボーを多用しており、あのオカダですら苦悶の表情を浮かべるぐらい技のキレがよく、自身は武藤のコピーではなく、武藤と三沢のハイブリッドなのだという強烈な意識が窺えます。三沢光晴という憧れの喪失から彼の物語は幕を開けたわけで、それを思えば打ち負けるわけにはいかないとはいえ、ここはやはり差があったポイントの一つなのかなと。

そうした打撃の重さや試合構成という「懐の深さ」では清宮が勝りつつも、では海野はその領域で跳ね回るだけの俎板の鯉に過ぎなかったのか?と言われればそれは否で、海野は海野で戦前のツイートからも分かる通り、ある程度の力量の差は織り込み済みで試合をやってた雰囲気があり、はっきりと下剋上で「喰らう」気満々だったのが良かったです。この試合のハイライトの一つはシャイニングを仕掛けた清宮をドンピシャで捉えた直伝STFであり、これはタイミング、仕掛け方、係り具合のどれもが完璧でした。惜しむらくは以前から書いていた通りの技の「格」であり、このリーグ戦でSTFでのギブをもぎ取って技を育てていれば、ひょっとしたらここで、もしくはこの先の攻防で再び出せて勝負が決まったかもしれないなと思わせます。これは準備不足というよりは、それだけ説得力があったというか、技に未来を感じましたね。

もう一つのハイライトはやはり足4の字のシーンでしょう。起死回生のドラスクからコーナーまで使っての低空ドロップキック地獄。そして蝶野正洋直伝のSTFへの返礼として繰り出した武藤直伝の足4の字なわけですが、これは本家を葬った技であり、師匠格は同程度でも技としての格や神通力は歴然です。苦しむ海野を二度に渡って引き戻して極めましたが、裏返す攻防がなかったのは個人的にはちょっと意外でした。

レフェリーストップすら辞さない程度に追い込まれた海野でしたが、ここで技を解いたのは清宮。いやあ……足4の字というか、途中で解除したことが一番のハイライトかつ、プヲタ的には解釈が無数に枝分かれする場面であり、非常に印象深いシーンでした。視野という点では経験に勝る清宮に先を譲っても、自身の得意領域である受けのリアクション部分は海野が譲らず、受け手として映えていたのは間違いなく海野のほうです。人によればやや過剰というか、その後の白目も手のバタつきも含めてオーバーリアクションに見えるとは思うのですが、裏を返せばそれが海野なりの余裕の表れというか、清宮がダブルダウンでダメージと互いの格の帳尻を合わせたのであれば、海野は海野でオーバーアクトでこの試合のキーポイントの一つを彩っていく。メタな見方になりますが、これは余力がなければできませんし、そのオーバーリアクションの背景にある意地を思えば個人的にこれはアリだと思いました。

技の解除というのはプロレスではかなり賛否のある部分というか、極まりすぎた技を解除することで「冷める」人が出てしまう危険があるのですが、今回に限っては解釈によって変わるのがミソなのですよね。ほぼ勝負が決まってた足4の字をあえて解くことが余力の差であり、清宮の余裕の表れのようにも思えますし、逆に絶対にギブアップしない海野に根負けして「これでは勝ちにならない」と解いたようにも思えるわけです。

そこからタイガースープレックスホールド、ジャンピングニーはややスカされましたが、続いて変形タイガードライバーと畳み掛けますが海野は執念のキックアウト。時間切れが迫る中、変形シャイニングを繰り出しますが、それを抱え上げて変形デスライダーで切り返した海野ですが、これはカウント2に終わり、そのまま時間切れ引き分け。あの足4の字のシーンが勝負の分かれ目になったのが本当に上手く、差はありつつも結果としては引き分けという落とし所が見事だと思いました。

終盤戦に関していえば、清宮は正調のシャイニング、スタンディングのシャイニングとまだ温存しており、これは恐らく変形シャイニングをわかりやすく新日ファンに周知するためと、来たるSANADA戦に向けて隠し玉として持っているのだと推察されます。それに加えてフランケンシュタイナーや、今回は足攻めだったので出す機会はなさそうですがダブルアームロックがあり、清宮はまだ手札が残っていたんですよね。

対する海野は速射と正調の2パターンのデスライダーのみと、終盤戦での攻防の厚みに関してはやはり清宮有利かなと思いました。デスライダーが決まればワンチャンあったにせよ、そこまで持っていく手札が尽きている印象があり、続けていても勝ちは厳しかったかもな、というのが正直な感想です。

しかしながら結果として引き分けは引き分けであり、余力があろうが、力の差があろうが、王者経験があろうがなかろうが、引き分けは引き分けです。そこは読み間違えないように。個人の感想に過ぎない範囲で言うなら、僕は差があったと思いますが、さほどその差は絶望的なものでもなく、必死に食い下がり、喰らいつき続けた。そんな勝負でしたかね。変に対等ぶったり、逆に差があり過ぎたわけでもないあたりが同世代の対決としてリアルでしたし、何より自身より強い格上の相手とやりすぎたからこそ、同世代かつやや格下からの猛追への対処に遅れたとも言えるわけで、王者経験の差があるならば、同世代経験の差もあったということですよ。スティルメイトは陥ったことに気づきにくく、その可能性に陥ってしまった後はそこから逃れるのが難しい。近年見た試合の中では最も語りがいのある引き分けでした。

海野も悔しいながらも得たものは大きいというか、わりとパフォーマー気質かつキャラクター先行のイメージが強いだけに、こうしたキャラや借り物の技だけじゃどうにもならない試合の中で、意地という「地金」を見せたのが良かったですね。そう考えると新日の采配も見事と言うか、清宮に当てたのはリスキーとはいえ正解だったと言えるでしょう。海野は意地しかありませんでしたが、最後に残ったそれがレスラーの一番の宝物です。近い将来、決着戦が見たいですね。


◾️第7試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Bブロック公式戦
オカダ・カズチカ vs タイチ

クリーンブレイクと見せかけて開始早々の旋回式ツームストン。ローリングラリアットからのレインメーカーと、オカダの奇襲には驚かされました。テンプレートがしっかり固まっているからこそ、こうした変拍子で驚かされるわけですね。タイチもビッグブーツを突き刺し、強烈なエルボー、ジャンピングハイと同じ三拍子で返します。しかしオカダも場外DDTからリングに戻ったタイチをマネークリップで捕獲。後ろ回し蹴りもただ普通に押し倒すという技にもなってない技。特に変わったことはやっていないのに、早い仕掛けと場外DDTで立て続けに首を攻めたおかげか、こんな風に少し歪さを混ぜ込むことで凄惨な雰囲気が出てきたのが良かったです。

この雰囲気作りはタイチも寄与しており、開幕の顔面蹴りもそうですが、コーナーでクリーンヒットさせたジャンピングハイ。さらにステップキックに串刺しフロントハイと、全部ピンポイントでオカダの顔面を撃ち抜くことで殺気への返礼をしたのが上手いんですよ。20分というのもあってパンタロン脱ぎもやや「巻いて」いましたが、四天王スタイルで長尺の試合が目立つタイチはひょっとしたら短いハイスパートの試合のほうが適性があるのでは……?とか、そんなことを考えてしまいました。そして振り抜いたステップキック。ほとんど顔面蹴りですね。この前の試合の清宮を思うと、否が応でも対抗戦の「あの場面」が思い浮かぶわけで、この辺はかなり緻密に計算されてるなと思いました。

オカダもリバースネックブリーカーで何とか返すと、ショットガンドロップキックにコーナーでの打ち上げ式ドロップキック。さらには花道でのDDT。タイチの頭をそのまま叩きつけたりと、繰り出す技のチョイスをタイチとこの試合のトーンに合わせて少しエクストリームかつエグめに調整してるのが見事です。これこそプロの技ですよ。

そして再びのマネークリップ。いやあ……試合構成が変わるとここまで印象変わるんですね。そしてタイチを一撃で昏倒させたエルボー!これ、ノアの清宮戦で見せた対抗戦仕様の「カタい」エルボーですよ。新日で一番強いエルボーの使い手はオカダで間違いないですね。苦戦を強いられたタイチでしたが、雪崩式バックドロップで一気に取り返しに掛かります。これは未遂に終わったものの、オカダのミサイルキックをパワーボムで叩きつけ、バズソーキックで一撃。天翔十字鳳にデンジャラスバックドロップ2連発。これはオカダの脳天も真っ逆さまであり、互いの頭部を狙い合う危険領域の試合になりましたね。

オカダのラリアットも仁王立ちで耐えると、そのままアックスボンバー。そしてバックドロップホールドはとにかく美しく、オカダを追い込みにかかります。ブラックメフィストはオカダのエビ固めで返されますが、ショットガンドロップキックを切り返してのタイチ式外道クラッチ。これはカウント2.999であり、危うかったですね。

延髄斬りとジャンピングハイキックが互いに交錯し、今度こそのタイミングで仕掛けたブラックメフィストは再びオカダの上から押し潰すエビ固めでガッチリ固められて逆転負け。オカダのこの技、賛否ありますが僕は非常に好みの技であり、オカダの体格でこれは説得力ありますし、プロレスはピンフォールを狙う競技ですから。いやはや、それにしてもデンジャラスな空気からの薄氷の勝利といい、カラーが様変わりしていったのがいいですね。個人的には今大会ベストバウトの一つであり、つぶさに見ればタイチの即応性と対応力。試合のトーンをシームレスに変えるオカダの上手さが光ったなと思いました。


◾️第8試合 20分1本勝負
『G1 CLIMAX 33』Aブロック公式戦
SANADA vs 辻 陽太

文句なしに今大会のベストバウトです。このnoteでも王者SANADAの試合に関してはわりと手厳しく、それでいながら執筆した当人としてはヤキモキしつつ不安になりつつ見守っていたわけですが、この試合は文句のつけようがないくらいに王者SANADAの試合であり、またG1のSANADAの試合でもベストバウトの出来だと思います。

序盤はSANADAが誘う形で前回の王座戦では見られなかったレスリングの攻防。前はわりとイレギュラーかつ歪な試合だっただけに、今回は逆にオーソドックスにど真ん中を狙ってきたのは好感が持てますね。そこから一転して高速のロープワークの攻防で不意に狙ったシャイニングとスピアーが交錯します。これは互いに不発に終わったものの、この転調は素晴らしかったですね。

辻のトペはSANADAが拒否し、場外での攻防へと移りましたが、SANADAが一気に入場ゲートへ駆け出すとそこでTKOを狙いますが、これは辻がケブラドーラコンヒーロで切り返します。花道でSANADAを抱え上げて運搬したシーンがとても良く、辻はやはり立ち姿が絵になりますね。エプロンへスネークアイズにビッグブーツと、この「あしらってる」感が王者に対して雰囲気負けしていないのが辻の最大の魅力だとも思うわけです。余談ですが辻のランニングボディプレスはヘビー級のパワー技と見せかけてフォームや跳躍力はルチャで見る技なのがいいですよね。

SANADAもボディスプラッシュをバックドロップで返すと、低空ドロキから正調のドロップキック、さらにプランチャと躍動感のある攻めを見せます。前回よりかなり能動的かつスピーディーに動いており、この辺は一度手を合わせているのもあって辻に合わせた感じがありますね。

辻がコルパタからのトペスイシーダで取り返すと、タマちゃんばりに跳躍力のあるボディスプラッシュ。雪崩式はSANADAが突き落としましたが、これをバク宙で切り返すあたりに辻のポテンシャルのヤバさが分かりますね。TKOは不発になりましたが、ブレーンバスターの読み合いはネックスクリューでSANADAの読み勝ち。ネックスプリングで起き上がるあたりに辻のポテンシャルに張り合う「若さ」がありましたし、TKOから間をおかずに出したラウンディングボディプレスもよかったです。デッドフォール開発以降はフィニッシュになる頻度は下がりましたが、逆に以前より気軽に振れるようになりましたし、技の神通力は残ったままなので早い仕掛けで驚きがあるんですよね。これはかわされたものの、エルボーからのローリングエルボーとテンポを崩さず攻め立てるSANADA。辻も負けじとパックブリーカー、フェイスバスター、そしてストンプとコンビネーションを繰り出します。

SANADAのオコーナーブリッジを止めるとそのまま辻が掟破りのスカルエンドへ。以前の敗戦がしっかりと生きた感があります。そこからラウンディングボディプレス。辻のポテンシャルモンスターぶりここに極まれり。

大ヨータコールが起こるも、ここをムーンサルトアタックからのスカルエンドで動きを止めるSANADA。色々言われがちなスカルエンドの「停滞感」ですが、コールが起こったタイミングでのこれはベストであり、戦略としては申し分ないです。しかしながらげに恐ろしきは辻であり、オレンジクラッシュで叩きつけてペースを譲りません。

そしてリバースゴリーの体勢に入りますが、これをリバースフランケンで切り返すと、膝をついた辻にシャイニングウィザード。そしてデッドフォールの必勝パターンに入りますが、これを側転で切り返した辻がバイシクルニーからトラースキック、ヘッドバッド、そしてカーブストンプと一気に畳み掛けます。こうしたコンパクトな打撃を終盤戦に持ってくる歪さが辻の面白い部分ですね。

そして必殺のスピアーを繰り出しますが、これを低空のカッターで切り返すと、すかさずラウンディングボディプレス。前フィニッシャーの神通力は伊達ではありません。シャイニングが武藤ムーブなら、これもまた武藤ムーブなのですよ。そしてカウント2と見るや否や、一撃必殺のデッドフォールでSANADAのピンフォール勝ち。この時の辻の受けっぷりが脳天から刺さる感じで素晴らしかったですね。

マイクで辻を「やっぱりお前凄いわ」と言いつつ「今日勝ったのは俺なので帰ってもらっていいですか?」と語るSANADA。今回はしっかり決め台詞として響きましたし、いつものニヤつきと口を三角にしての悔しさが同居した辻の笑みなど、エピローグとして最高でしたね。前回は辻のプロモーションという感じでしたが、今回は王者SANADAのプロモーションというべきスマートな勝利であり、全体的に能動的かつテンポアップしていて前回の反省点がしっかりクリアされていたのが良かったです。それでいながらインパクトは前回に軍配が上がるものの、試合としてのクオリティは今回が断然上であり、SANADA vs 辻が黄金カードに化けた瞬間でしたね。何より王者SANADAの試合として完璧の一語であり、本日三度目の「これが見たかったんだよ!」です!w

敗れた辻はこれだけのポテンシャルでまだG1での勝利がないというのも驚きですね。それは令和闘魂三銃士全員がそうなのですが、辻は凱旋帰国後の王座戦で惜敗の印象が強いままG1に突入して未勝利のままというのもあって、爆発はしているのにまだ勝利による大爆発を残しているという稀有な状態にあります。フィニッシャーは果たしてスピアーなのか。それとも別なのか。それも含めてかなり引っ張られているというか、実力は申し分なく、また同期の中では頭一つ抜けているだけに、念願の初勝利でありながら当然の勝利となる日がとにかく楽しみですね。何よりもこれだけやってまだ底が見えない感じなのが素晴らしいです。辻vs海野、辻vsゲイブが個人的に気になってますね。SANADAは王者らしく無敗のままですが、だからこそ怖いのは清宮戦であり、王者としてはここは絶対に勝たないといけません。いやはや、G1は熱いですね。

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