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植物への愛が深すぎて、陶芸家になってしまった人の話

この三連休、アイテム愛媛というイベント会場で「全国くらしの器フェア2024」という陶芸市が開催されている。
中日の今日、お邪魔してきた。
会場には、全国から70もの窯元さんが出店しており、同時開催の「えひめハンドメイド雑貨フェア2024」のお客さんも合流して、大変な数の人で溢れていた。

出店しているのは、九州の窯元さんが多い印象だ。
ライターの先輩が、長崎の波佐見町というところで、波佐見焼きを盛り上げる「Hasami Life」というWEBサイトのライティングを担当されていたが、その波佐見町からも4つの窯元が参加されていた。

いろんな器に目移りしながら、これぞという出会いを求めて会場を歩いていると、会場中程のブースにちょこんと鎮座する丸っこい植木鉢と、そこに添えられた「植物の相談にも乗ります」の文字が気になった。

その植木鉢は一風変わった形をしていた。
底面についているはずの水抜き穴がなく、代わりに横にいくつもの穴が空いている。
さらに「鉢底石は要りません」と手書きのポップがついている。

「むむ?」

植木鉢の前で立ち止まり首を傾げる私に、お店のオーナーさんが声をかけてくださった。

「なにか気になります?」

「なります、なります!この鉢は、底に穴が無いですけど、本当に水は抜けますか?根腐れしちゃいませんか?」

「これだけ空気穴が空いていれば、根腐れはまずしませんねえ。土が常にここから湿気を逃せますから」

「この穴から根っこが出てきちゃったりはしないんですか?」

「根っこはね、空気に触れると普通は切れちゃうんですよ。乾燥してるところに伸びていっても、意味ないなと判断すると、自分で切っちゃう。アガペなんかは特別で、梅雨時にここから根っこが出てくることもたまにありますが、他の多肉では無いですね」

「お兄さん、多肉植物を育てていらっしゃるんですか?」

「ええ。というより、僕、元々園芸屋なんです」

「ええっ?」

「園芸屋って、造園業の人たちが庭木の買い付けに来たり、弱った樹木の手入れの相談に来たりするところなんですよ。だから、丈夫な植物を育てることに関してはプロ」

「なるほど、だから、ここに『相談に乗ります』って書いてあるんですか。それが、どうして陶芸を?」

「鉢植えの植物にもっといい環境を作ってやりたくて。たとえば、農業をする人って畑の土にこだわるでしょう?ふわふわに耕して、根が育ちやすいようにしてから作物を植え付けるじゃないですか。でも、鉢植えで植物を育てる人は、植えたら植えっぱなしで、土の隙間がなくなって硬くなっても、気にしない人が多いと思うんですよね。それだと植物がうまく育たない。それで、根っこがいい状態で育つ鉢を自作しようと思ったのがきっかけです」

「じゃあ、この鉢は、根っこがよく育つ工夫がされてるんですね」

「そうです。空気穴もそうなんですが、例えばここ」

ここ!

「この縦線ですよね?なんだろうなぁって気になってました」

「これは、根が走る(成長しすぎる)のを防ぐんです。根っこって植木鉢の側面にぶつかると、同じ方向に回り込むように伸びていくでしょう?これが走りすぎると、真ん中の太い根を巻いて締め付けてしまうことがあるんですよ。そうすると、最悪枯れちゃうことになるので、根が走りすぎないよう、ここで止めてるんです」

「そんなすごい発明だったとは!」

「ホームセンターなんかにはよく、スリット鉢ってあるでしょう?」

スリット鉢(モノタロウより)

「はい、ダバダバ、水が漏れていきそうな鉢ですよね」

「あれは、先ほどお話ししたように、根が空気に触れることで、それ以上走らないように止めてるんです。同じことを陶器でやろうとすると、スリット部分が焼いた時に割れてしまうんですよ」

「ははーん。それでこの形になったんですね」

「そうなんです。壁で物理的に止めたんです」

「うわ、どうしましょう、すごく欲しくなってきました」

「(笑)お好きなのをどうぞ」

「でもそうすると、一つ困ったことが」

「なんでしょう?」

「うちにある鉢がしょぼ過ぎて、この鉢だけ浮いちゃうと思うんです」

「ははは!そしたらですね、一年使ってみて、やっぱりこの鉢いいなと思ったら、また来年ここで新しいのを1つ買ってください。毎年きてますから。そうやって、少しずつ増やしていくのも楽しみじゃないですか?」

「そうですね、確かにそれは楽しみです。それにしてもずるいですよね」

「何がです?」

「だって、この会場で多肉植物に詳しくて焼き物にも詳しい人って、お兄さんの他にいないですよね?多肉用の植木鉢が欲しい人はもう、お兄さんから買うしかないじゃないですか」

「(笑)この会場だけじゃなくて、日本全国にまで範囲を広げても、両方に詳しいのは、僕しかいないと思いますよ」

「うわ、負けた!これください!」

結局、元園芸屋のお兄さんの不思議な形の鉢を1つ買ってしまったのだった。

春の植え替えシーズン到来。
この鉢でうちのハオルチアがどれだけ元気に大きくなるか、今からワクワクしている。

「とみ徳」の富岡徳昭さん

✳︎「全国くらしの器フェア2024」 は、明日(2024/02/25)まで開催中。

**連続投稿756日目**

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