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「架空OL日記」と多摩動物園

昨年の「ブラッシュアップライフ」の大ヒットが影響しているのか、バカリズム脚本・主演の「架空OL日記」がTVerで配信されている。
私は2017年の放送当時、かなり期待してドラマを見はじめ、あまりに盛り上がりもオチもない話に、相当がっかりして途中でテレビを消した記憶がある。
ところが先ほど、何の気なしに「架空OL日記」を見てみたところ、これがじわじわと面白いのである。

理由を考えてみるに
①バカリズムの面白さが、2017年当時には世間の一歩先を行っていて半歩遅れていた私には、理解できなかった
②「住住」「ブラッシュアップライフ」と、バカリズムドラマを見てきて展開に慣れてきたため、オチが来るまでの長いフリに耐性が付いた
③このドラマの中での「見るべきポイント」が理解できた
のいずれか、またはすべてであろうと思い至った。

特に③は重要だ。
「実在しないOLの、いたって普通な日常。これのどこを面白がれと言うのか?」と最初は思っていたのだが、「なるほど、ここが面白ポイントだったのか!」と腑に落ちる経験をしたことと、深い関係があるような気がする。

ここまで書いたら、読んでくださっている方は「ああ、今日はその面白ポイントをnoteに書くつもりだな」と思われるだろう。
そう、そのつもりです。
しかし、先に言っておくが、文字にしてみるとたいして面白い話ではない。
それは、先ほど書いてみて確認した。
なので、この先は、ちょっとハードルを下げて読んでみてほしい。
よいかな?

それは、数年前、多摩動物園のアフリカ園に行った時のことである。
アフリカ園には、その名の通りサバンナに暮らす生き物が集められており、ライオンをはじめ、キリン、ゾウなどの馴染みの動物たちがいる。
何度も来ている多摩動物園だったが、時々、見なれない生き物の存在に気づくことがある。
というより来園の都度、その生き物を見てはいるのだが、印象が薄くて記憶に定着せずに、忘れてしまっているのだろう。

その生き物も、そういった印象の薄い一群に所属していた。
(あれ、なんだっけなあ。よく、アフリカの番組で見る気がするんだけどなあ)
名前を思い出そうとしていると、私の後ろを通った女性たちも、全く同じことを考えていたようで
「あのさ、角の長いあれ、なんだっけ? 見たことあるよね?」
と言っている。
「そうそう、テレビでさ、よくサバンナの映像とかで出てくるやつだよね」
「わかる! ライオンの食われ役でよく出てない?」
『ライオンの食われ役』に吹き出してしまい、私は、その動物の名前「オリックス」を2度と忘れなくなった。

……動物園の話は以上だ。
私がこの話のどこに「架空OL日記」の面白ポイントを見出したのか、おわかりだろうか?
答えは、会話である。

「あのさ、角の長いあれ、なんだっけ?見たことあるよね?」
「そうそう、テレビでさ、よくサバンナの映像とかで出てくるやつだよね」
「わかる! ライオンの食われ役でよく出てない?」

「架空OL日記」「ブラッシュアップライフ」あと、今年のお正月に放送されていた「侵入者たちの晩餐」。
いずれも、何気ない女性同士の会話がこれでもかと描かれ、ともすると「普通のシーンじゃないか」と素通りしてしまいそうになるのだが、これらが実際に街中で聞こえてくると、耳をそばだてて聞かずにいられなくなる中毒性があるのだ。
多摩動物園の2人組のように。

普通の女の人同士の会話は、何でもない話をしていても面白い。
バカリズムは、カフェなどで聞こえてくる女性の会話の中の「じわっとくる面白さ」を何とか電波に乗せてみたくて、ドラマの脚本を書いているのではないかと邪推してしまうほどだ。

私は長らく、面白がられる方の性に属していたため、自分たちの会話がなにがしかの面白みを備えているとは気付かずにいたのだが、ドラマで「ほら」と見せられてから、街中で女性同士の会話に集中してみると本当にくだらなくて笑えることが多い。
そういえば、岡崎京子先生の「くちびるから散弾銃」も女子三人組のおしゃべりを描いた漫画だったけれど、あれも絶妙なくだらなさで、いつまででも読んでいられる名作だった。

建設的ではなく、創造的でもなく、嫌いな上司にコードネームをつけて悪口を言っちゃったりする、そんな女性のリアリティがここからどう展開して、最終回を迎えるのか、7年も前のドラマなのに、いまごろ配信を楽しみにしているのである。

**連続投稿755日目**

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