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笑いのストック

心の最強のデトックスは、泣くことだと何かで読んで以来、泣けるもの集めにはまっていた。
手堅いところでは、マンガ「君に届け」の2巻とか。
「蒼天航路」の荀彧が亡くなるシーンとか。
何が自分の琴線に触れてくるのかは、把握できているので「これは泣けるな」と思う映画は100%泣ける。

ところが、笑えるものというのは、探すと案外難しい。
普段の私は、お笑い番組を見ていても「にやり」くらいしか笑わない。
M-1 のあのハイレベルな漫才を見ても、声を出して笑うことはあまりない。
我慢しているわけではなく、おそらく笑いのハードルが上がり切ってしまっているのだ。
だって、子どものころから筋金入りのお笑い好き、今でもテレビもYouTubeも見るのは、たいていお笑いだもの。
当然、好きだから見ているのだが、見すぎるとパターンがわかってしまって、次の展開が予測できることがある。
こうなってくると「ああ、あのパターンね」と思いたくて番組を見ている、ただの嫌な視聴者だ。

ところが、つい最近「まさかこんなことで」と思うようなシーンで涙が出るほど笑ってしまった。
年末に録画したまま、忘れていた「アメトーーク!」の「運動神経悪い芸人」がそれである。

もともと、「運動神経悪い芸人」という企画は、出来ないことを笑いものにしている感じがいたたまれず、見るのが辛い企画であった。
笑われることを「嬉しい、楽しい」と思っている人ばかりなら、きっと一緒に笑えたのだと思うのが、フルーツポンチの村上さんは企画の第一弾からずっと笑われることが嫌そうであった。
笑われて、プライドがズタボロになっていくのをリアルタイムで見せられている感じしかしなかった。
「自分は、笑われたいのではなく、笑わせたくて芸人になったのに」という趣旨の発言をしていたこともある。
走り方が独特で、膝を曲げないフォームから「ひざ神」などというキャッチフレーズまで付けられており、仮にこれが小学校内で行われていたら、明らかにいじめだ。

そういったわけであまり好きではないその企画を、飛ばし飛ばし見ていたところ、画面に水中股くぐりという競技が映った。
水泳の苦手な芸人が二人一組になり、片方が5mラインで足を広げて立っているところを、もう片方が壁を蹴って潜水し、立っている人の足の間をくぐっていくというものだ。
小学校時代、プールで友達と散々やった、あれだ。

この企画の中で、パーパーのほしのディスコさんがとんでもなく面白かったのである。
彼の「水中で進もうとする手足の動き」はどう見ても阿波踊りであり、優秀なアメトークスタッフにより「ちゃんかちゃんかちゃんかちゃんか♪」というあのBGMまで付けられていた。
ほしのさんは、潜ろうとしてもちっとも潜れておらず、なぜかカメラの方に腹側をばっちり向けた姿勢で、大真面目に(おそらく本人は命の危機すら感じながら)阿波踊りを踊り続けている。

それを見た瞬間、笑いが止まらなくなり、ついでに涙まで止まらなくなってしまった。
笑いすぎて。

ほしのさんは、笑いが起きて満足そうである。
しかし、彼は意図してあの動きをしたわけではないはずだ。
なぜなら、水中で股くぐりをするより、水中で横から撮影しているカメラの方に腹を向けた姿勢で阿波踊りを踊る方が、はるかにむつかしいから。
しかも、全く進んでいない。
あれだけ手足を掻きながら、同じところで静止できるなんて天才の所業である。
あれを自分で制御しているなら、運動神経抜群芸人だろう。
ということは、偶然、素晴らしい奇跡が起きて、視聴者は水中阿波踊りを見ることができたのである。

私は該当シーンを3回見直して、3回とも笑いながら涙が止まらなくなったのを確認してから、その場面のみ編集で取り出し、プロテクトをかけて永久保存とした。
笑いのストックの出来上がりである。

今後はこういうものを、どんどん集めて行きたい。
人生後半、この先、悲しいことが増えていくのだろうから。
泣けるストックはもう充分。
笑いのストックを増やしていこうと思う。

**連続投稿762日目**

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