おとしどころ 4

           mosoyaro

 リンダが仕事を終えて戻ってきた。
リンダには先輩からの連絡は入っていなかった。さっきの電話の内容を聞かせた。
「呆れた、真空あんたをショールームに誘ってきたの。こんな時に。信じられない。
で?これからどうする。作戦たてないと」

「色々とリサーチが必要だね。
琴の他にもいる被害者の事、事件に関わった奴ら、そいつらの住んでる所、帰宅時間、よく行く店、家族構成とか。
調べないといけない事が沢山ある。リンダと私じゃ素人だし時間がかかる。

その時、私はある人の顔が浮かんだ。
優作

「私今から知り合いの探偵事務所にいってくる」
「知り合いに探偵がいるの?」
「うん、大学の同級生、建築家にならずに探偵になった。
何かと頼りになる人。いつもは浮気調査が主な仕事だって言ってたけど。もし尾行とかが必要になったら慣れた人じゃないと怖いし。リンダにも紹介したいな、一緒に行くよね」
「もちろん、行く」

事務所は天神の雑居ビル。
場所は一等地だけど怪しいテナントが多く、何度来ても好きにはなれない。
看板は出しているがあまり目立たないようにしているらしい。
訳ありの人が出入りしやすいように。
小さく
天野探偵事務所
と書かれている。

建築の大学出身なのに探偵になるなんて本当に珍しい。
学年での成績はいつもトップ。
在学中に一級建築士の資格をとった。
法律の勉強もして司法試験にも合格している。
ちょっと変わっているけど良い人だ。
その事は前にある事で助けてもらったからよくわかっている。
卒業後、就活しないで親戚の探偵事務所に入ってしまった。
理由は今だによくわからないが、飲み会の席で皆んなから質問された時、どうしても助けたい人がいて、その人を探偵が救ってくれたからって言った。
詳しい事はそれ以上喋らない。

ビルの3階まで階段を登り事務所のベルを押した。
事前に連絡をとってあるからドアはすぐに開いた。
友人の名前は上田将暉。学生の時のあだ名が「優作」年齢は2歳年上だ。
大柄でマッチョ、うちの母親が若い頃見ていたドラマの俳優、死んでこの世にはもういない、松田優作みたいだから私は今でも優作と呼んでいる。

「久しぶり、よくきたね。まあ座って」
指差す方にはちょっと低めの3人掛けのソファがあった。
「お邪魔します」
リンダと2人で並んで座った。
前のテーブルの上にはさっきまでいたであろうお客さんの飲みかけのコーヒーが置いてあった。
私はそのカップを横にずらす。
「ごめんごめん、今片付けるから、新しいコーヒーもいれる」
「こっちこそ、急にごめんね、忙しかったんじゃない」
事務所には優作しか居なかった。
コーヒーをいれてくれて、前の椅子に座った。
「大丈夫ちょうどお客さん帰った所だ。友達と一緒に来るのは初めてだね。
初めまして、真空の大学の友人、上田です。優作と呼んでください」
「初めまして、三浦倫子と言います。リンダって呼ばれてます。真空とは中学からの親友です。看護師をしています」
「看護師で美人の親友、真空からよく話は聞いてた。君だったんだね
噂どおりだ。会えて嬉しいです。
困った事があったらいつでも相談してください。
まあ自分に相談してくるときは深刻な事情の時だからあまり会わない方が良いのかな。
真空も本当に困った時にしか会いにきません。
友達だから、もっと気軽に会いにきてくれても良いのにと思うけど。
真空今日の相談も深刻なんだろ」

私は怒った口調で答えた。
「深刻、女の敵が現れた」

私は高校の卒アルを持ってきていた。
琴や自分、リンダが写っているページをめくって写真を指差した。
「この子を救いたいの。力を貸して。私達の親友、琴を」

それから私達は昨日起きた出来事と琴から聞いた話を詳しく話した。嫌な話だけど説明しないといけないからしょうがない。

「先輩の写真は琴から転送してもらった、この男」

優作はその写真をじっと見て黙り込んだ。

「どうしたの、まさか知り合い?」
「いや、実はさっきまでいたお客さんの相談も同じような内容で。
娘を助けてくださいって、お母さんが相談してきた。
この写真の男と、あと2人写ってた。
守秘義務があるから詳しい事は言えないけど、かなり追い詰められて自殺未遂までしたらしいんだ。
こいつ、相当悪いやつだな。
コーヒーに薬入れて意識を無くして、裸の写真で金をゆする。
車も1番高い外車を購入させる。
だけどレイプはしない。わざと未遂で帰すんだ。
俺に言わせたら未遂じゃないけど。
会社でこんな事やるからには協力者がいないと無理だ。
このショールームの奴らは皆んなグルの可能性が高いな」
「何ですって」
また無性に腹が立ってきた。
コーヒーを持つ手が震えてこぼしそうになった。
リンダは立ち上がって壁ををグーで叩いている。

「何とかしないとまた次の被害者が出る。自分たちは犯罪じゃないと思っているんだとしたらとんでもないわ、被害者が泣き寝入りして警察に届けてないから調子にのってる。
許せない、どうやったら罪を認めさせて自分たちのした事を後悔させられるかな」

「落ち着け、とりあえずこの件は少し時間をくれ。調べてみる。
俺から連絡するまで決して2人で動かない事を約束してくれるならこの依頼を受けよう。どうする」
「わかった、2人では勝手に動かない。だから力を貸して。
連絡まってる」

事務所を後にした。連絡があるまで長く待ち遠しい。
気持ちのもっていきようがなかった。
世の中は理不尽だ。
男でも女でもどちらも嫌な思いはするだろう。だけど、どうせなら男女共通の嫌な思いにしてもらえないだろうか。女に生まれた事を嫌にならないですむように。
そんな事を考えながら優作からの連絡を待った。

三日後、優作から連絡が入った。
「今日あえるかな」
リンダと私は仕事帰りに天神のソラリアで待ち合わせして3階のカフェにはいった。
ここは窓から警固公園が見渡せて綺麗な夜景が見える。
仲間で飲みに行く前ために待ち合わせしているグループや、キラキラしたライトの近くで見つめ合う男女、足早に帰宅を急ぐ人やこれから夜の仕事に向かう人など、様々な人たちを見るのが楽しい。
私は普段仕事が上手くいかない時や悩みがある時ここでコーヒーを飲む。

優作がやってきた。ブレンドコーヒーを注文してソファーに座った。

「早速だけど、客のふりしてショールーム行ってきた。
これが店内の映像」
アイパッドを見ながら説明してくれた。
「スタッフは全員で4名。
3人が営業で1人事務の女性がいる。
見た目はブランドで固めた派手な男達だけど、皆んな人当たりが良く親切に車の説明をしてくれる。
俺も思わず聞き入ったフリをした。
いかにも外車が好きなオーラを出していたから熱心に喋ってくれた。

事務の女の子がお茶を出してくれた時、さりげなく
「ここのスタッフは3人ですか、皆んな男前ですね。優しいし、スタッフ目当ての女性のお客さんも多いでしょう」
って聞いたら、
「そうですね、かっこいいって人気ありますよ。でも意外と身内には厳しいです。見た目と人柄は関係ないですよ。
あ、何言ってるんだろ私。失礼しました、忘れてください、今のは」
って言ったんだ。

その事務員はブスで、人の顔を見ずに自分の顔を鏡で見てばかり見て話す子だった。
イケメンのスタッフに相手にされてなさそうだったから、負け惜しみで悪口が出たのかと思ったけど、自分のことブスだと気づいてない感じで笑ったよ。
そしてそもそもの性格が悪そうだった。俺だったら面接でだめだな。
あっ話がそれた、ごめん」
「その事務員は男たちの悪事を知ってるかな。知ってたら許せないんだけど」

「俺の知り合いにあの営業所とライバル店の店長がいて詳しく教えてくれた。
他店情報を入手して分析していくために詳しく調べていた。
あの営業所は会社の中で1番業績が良いんだ。特に6年前君達の先輩、山本岳が入社して2年後あたりから売り上げがどんどん伸びている。
中でも1番値段が高い車の契約率が毎年右肩上がりだ。
知り合いは何でこんなに売れるのか不思議がってたよ。
どこの会社も営業マンはみんな顔が良い。だからこの営業所だけが特別イケメンを揃えているわけじゃない。
当然年収もかなり良いはす。
20代の今でも一千万は軽く超えていると思う。

悪どいやり方は今の時代、企業のコンプライアンスに引っかかるのに黙認しているって事は所長もグルだ。
それともう1人の営業も。
事務員はなんだかおかしいとはおもってるくらいかな。
仲間ではないと思った。怪しい感じはするけど。
口が軽そうだから下手に仲間に入れたら秘密は守れなさそうだ。
もう少し調べる。慎重に調べて弱みをみつけていく」
「調べた事を全部教えて、失敗しないように計画練っていきましょ」
「待っててくれ」

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