黒とグレーと少しだけ白 2

           mosoyaro        

母が帰ると叔父さんは優しい顔で僕の方を見た。
ゆっくりとタバコに火をつけ煙をはきだす。
「将暉ありがとな。子供の頃からなんだけど、お前の母親は思うようにいかないと癇癪を起こして泣くんだよ。
熱も出すし、、、
だけど今は由美に構っていられない、柊を探す方が先だ。
やらなくてはいけない事がたくさんあるからな。
確認だけど、警察には行ったんだよな。だけど相手にされなかった?」
「そう全然だった。いなくなった当日だったからか、高校2年の男子だから、家出の可能性の方が高いとか、フラッとそのうち帰ってくるとか言われました」
叔父さんはタバコを灰皿に置いて

「いいか、警察に話を聞いてもらうには要領がいるんだ。ただいなくなりました、探してくださいではダメなんだよ。
行方不明届けを出すには緊急な理由が必要で、例えば自殺の可能性があります、とか、老人だと認知症です、とか。
事件性のないただの家出と判断されたら、ほとんど何もしてくれない。
なんせ行方不明者は届けが出ているだけで年間8万人以上いて、一人一人を探し出すのは今の警察の能力では無理だ」
「それでか」
やっぱり雑に扱われたのには理由があった。
「それに、相談に行ったのは家の近くの派出所だろ。
そんな時は派出所ではなく中央署とか南警察署とか大きい所に行った方が良い。
なぜか、結局情報は大きな所に集まってくるから最初から大きな所に届けた方が時間も手間も省ける。
生活安全課という部署があって専属の警察官がいる。
交通事故や少年犯罪、非行、ストーカー、防犯とか生活に密着する事の相談にのってくれる部署だ。
もちろん家出もはいる。
殺人とか凶悪事件は扱わないから相談にのってもらうなら生活安全課がいい」
「そうなんだ、知らなかった。
先に叔父さんに相談すれば良かった」

何で叔父さんの事を1番先に思い出さなかったのだろう。
僕は自分のマヌケさに腹が立った。

「天神には中央署があるから帰りに寄って、自殺の可能性があるとか言って届けを出そう、写真も持って来てるし。
あと、学校やバイト先には行ってみたんだよな」
「はい行きました。
先生や仲が良い友達にもきいて、バイト先の人にも、塾にも聞きにいきました。
みんな知らないっていわれました」
「柊の部屋は、確認した?
なくなっている物とかなかったかな。
パソコンの中も見て検索している人や場所とか。
携帯は持っていってるんだったな」
「携帯は持ってます。制服や鞄、教科書などないから学校にいくつもりで家を出ています。
だけど学校には行ってない。
普通に考えたら通学の途中で何かあったって考えられますよね。
だけど見た人はいない」
「そうそう、そうやって冷静に事実を一つ一つ潰していきながら考えるんだ。
通学路には防犯カメラがある場所がある。おれはそこを調べてみるつもりだ。
それと、、、これは外れてほしい、、俺の考えてる事なんだけど。少し嫌な予感がするんだ」
「なんですか?教えてください」
「由美には言わないでほしい。
将暉の胸に留めておいてくれ。
実は、本当の話か確かめた事はなかったけど、ここ数年、中学生から高校生の男子生徒が急に居なくなっている。
探しても見つからない、だけど家族には家出する理由がわからない。
年間五件くらい、福岡だけじゃない、佐賀、大分、熊本と広範囲だ。
ある時、夜の街でこんな噂が流れた。
ある組織が美少年だけを誘拐して海外のセレブに売り飛ばしている、って。
日本の少年は童顔で肌も綺麗だからヨーロッパの方で人気があるらしく、高く売れるそうだ。
人知れず美少年を探す組織がいて、何気に近づいて拐っていくらしい。
狙われてさらわれそうになった少年が話しているのを聞いた人が、注意するようにと夜の街で噂をながしていると。
もちろん、何の証拠もない、だけど、柊は身内の俺が言うのもなんだけど、俺の若い頃に似て美少年だ。
もし、そんな奴らが本当にいるのなら真っ先に狙われても不思議じゃない。
そうでない事を祈っている。がもしそうなら時間がない。
海外に連れて行かれたら探せない。
とにかく一刻も早く見つけださないと。
俺の勘が当たっているなら、犯人は顔見知りの可能性が高い。
友人関係をもう一度あたろう。
目撃者も。
明日から忙しくなるぞ、この後、警察に届けを出したら将暉、家に帰れ。
そして今日は寝ろ、寝てないだろお前も。
体力勝負だ、俺はこれから夜の街で聞き込みする。

その後、叔父さんと警察に行き届けを出した。
今回はすんなり行方不明届けは受理された。
元刑事の叔父さんにが役に立ったのは間違いなかった。
これで警察も少しは気にかけてくれるだろう。
とにかく家に帰ろう。
夕飯をすませ、風呂に入った。
近々良い事がある。って何の事だろう。
ベッドに横たわり色々考えているうちに眠りについた。

 次の日の早朝、昨日叔父さんの肩を持った事を根に持っているのか、出かける時も母は布団から出てこなかった。
父は
「母さんは大丈夫だから、頼むな」
と言ってくれた。
「行ってきます」と声をかけて家をでた。
おじさんが車で待っていた。
よく見たらもう1人、人影がみえる。
「おはよう、少しは眠れたか。
今日一緒に行動してくれることになった、中央署の柳君だ。挨拶して」
「生活安全課の柳です。昨日会いましたよね、よろしく」
昨日帰りに届けを出しに行った時にいた警察官
「ああ、昨日は制服だったのでわかりませんでした。おはようございます。よろしくお願いします」

 車の中から通学路を確認しながら防犯カメラがらありそうな場所をさがす。
防犯カメラを確認させてもらうには警官がいた方がスムーズだと判断したのだろう。
届けは出したが、まだ家出の可能性もあるから、何か決定的な証拠を見つけないと大掛かりには動けない警察の事情もある。

途中、コンビニが2軒。カメラは店内と駐車場を向いている。
コンビニに事情を話し2日前の映像を見せてもらえないかと交渉した。
一軒目の店の映像には特に変わったものは写ってなかった。
2軒目のコンビニにもお願いした。
そこには買い物をする柊が写っていた。
慌てて叔父さんを叩いた。
「いた、柊だ。写ってる」
パンとコーヒー牛乳を買って外に出た時、駐車場で誰かに声をかけられている。
若い女の人だ。笑いながら話をしている。
どこかで見たことのある顔だ。
どこだろう、思い出せない。
すれ違う生徒がその人に頭を下げて挨拶をしている。
このコンビニから学校までは歩いて3分ほど、坂の上にその高校はある。
その間に何かあったのか?
続きをみる。
その時、白いワンボックスカーが駐車場に入ってきた。中は見えないように目張りしてある。
その車はすぐに立ち去った。
その後、柊の姿が画面から消えた。
ほんの一瞬の出来事だった。
先生らしきその女は何事も無かったように学校の方へ歩き出した。

僕は思い出した。
そうだ、3日前高校に事情を聞きに行った時に廊下ですれ違った女だ。
白衣を着た若い女性だったので覚えていた。
僕はこの学校に3月まで在籍していたので、保健室の先生が変わったんだと、その時思った事を思い出した。
前は定年間近のオバさん先生だったから。
「叔父さん、柳さん、この女は高校の保健室の先生だ、何か知ってるかもしれない」
僕たちは急いで車に乗り込んだ。
学校に着いて車を止め、3人で職員室を目指す。
扉を開けると先生達は朝の職員会議をしていた。
大声で
「お取り込み中失礼します」
と言い中に入った。
唖然とする先生達の中からカメラに写っていた女を探す。
40人以上いる先生をみわたし、見つけた。
白衣は着ていない、だけど顔は真っ青になっている。
女は逃げようと後ろを向いた。咄嗟に僕たちはその女に向かって走り出す。
僕は女の腕を掴んだ、そしてすかさず叔父さんが女を歯がいじめにし捕まえた。
柳さんが声をかける。
「事情を説明してもらえませんかね」
職員室は騒然となった。
「校長、時間がないので説明は後にしてください。私は警察です。緊急事態なんです」

            つづく

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