黒とグレーと少しだけ白   3

mosoyaro

 職員室では話が聞きにくいので校長室を開放してもらう。
女は何も喋らず下を向いたままだ。
焦る気持ちを、抑えろ、と叔父さんに言われ指示に従った。

柳さんの出番だ。
「何であなたを捕まえたかわかりますか?」 
「いいえ、わからないのでびっくりしています。こんな事許されて良いんですか」
しらばっくれた。
「石田柊君を知ってますよね?
居なくなって今探しています。2日前からです。
あなたとコンビニで話をした後、柊君の姿が見えなくなったんです。心当たりありますよね。
否定しても無駄です、防犯カメラで確認済みですから。
ワンボックスカーに乗って来た人は誰ですか。
あなた話をしていましたよね」
「知りません、お話する義務はありません」
僕は我慢ができなくなった。
「お前、何か知ってるんだろ、柊をどこにやった?早く見つけないと取り返しのつかない事になるかもしれないんだぞ」
掴みかかりそうになった僕を叔父さんが止めた。
そして
「シラをきるなら仕方がない。
黙っているのもあなたの権利かもしれない。
だけどもし、柊に何かあって死んだりしたらあなたは殺人の共犯者ですよ。
あなたの人生は、脅かすわけではありませんが地獄におちます。
もしかして柊を連れ去った連中からお金をもらってますか?
もしそうなら、いくらもらったかわかりませんが、あなたの人生を賭ける価値のある金額なんですか?
今ならまだ間に合うかもしれない。
引き返すなら今です。知ってる事を話てください。お願いします」
そう言って深々と頭を下げた。
女は
「私はただ1ヶ月前にホテルのバーで飲んでいた時に、隣の席に座ってる女の人に声をかけられて。
話の弾みで高校の保健室の先生をしているって言ったら、いいアルバイトがあるって言われて。
難しい事じゃない、美形の生徒の写真と情報を教えてくれと頼まれた。
それくらいなら良いかなと思ったし、
報酬を弾むって約束してくれたから、その時連絡先だけ聞いて、後日連絡した。
それだけで、詳しいことは何も聞かせてもらってない。
だから、どこに連れて行かれたかなんてわからないの」

僕は怒りに震えた。こんな無責任な話あるのか。まがりなりにも先生だ。
生徒の健康と安全を守る役目がある。
少し考えれば報酬を払う時点で、誰にだってそれが危険なことだってわかるはずだ。
叔父さんは続ける。
「柊を売ったのか、いつから狙ってた」
「5月ごろに足を怪我して保健室に来た事がありました。
あの見た目だから、顔は知っていたけど、話をしたことはそれまでなくて、
その時色々話をしました」
「車の中には誰がいたのか教えてください、特徴も」
「運転している女とバーで会った女2人。年は多分私と同じ二十代後半。
髪がストレートで長く、運転していた方は金髪です。
スポーツブランドの白いジャージを着ていました。
ホテルで一緒に飲んだ時はスーツを着てきちんとした身なりでした。
イベントプランナーって言ってました。だから美形の男の子を探して、スカウトしてイベントで使うのかなと思って。
柊くんは人懐っこくて、話が弾みました。
怪我の治療の途中で色々話をして、
福岡出身の女優の、茉莉花は高校の友達だって言ったらファンだって言うから、会わせてあげようか?って言いました。
福岡に帰って来た時、内緒で会わせてあげるって。
誰にも言わないようにと念を押して
あの日、今日なら会えるよって誘って
車に乗せました」

柊が好きな女優だった。
「だけど、柊君がいなくなったって騒ぎになって、私怖くなって。
彼女の携帯にかけても繋がらなくなっていて」
泣き出した。
泣きたいのはこっちだ。納得がいかない。
叔父さんと柳さんは話をしている。
緊急に手配してもらう、市内の防犯カメラを確認してもらい車を検問してもらうしか今の所手がない。
車の車種とナンバーでどれくらい早く探せるだろうか。
大丈夫、今の技術は優れている。
大丈夫だ、そう自分に言い聞かせる。

人を隠すなら何処だろう。人目につかない場所。
もしくは、人目についても怪しまれない場所。自分ならどこに隠すだろう、考えろ。
連れ去って暴れないように、車の中で薬を飲まされるか何かして動けないようにされているはず。
車の中で暴れられたら若い男を女2人で抑えるのは難しいだろう。
ぐったりしていて、拘束されている人間を隠すならば、人目のない倉庫、空き家、空き店舗、工事中の建物、病院などある。
連れ去って海外に運ぶなら、とりあえず近場の外国。
そこからヨーロッパ方面へ送るのかな。
福岡と言う立地を考えれば船。
博多港、渡船場、韓国は1番近い外国だ。
埠頭にはたくさんの倉庫がある。
船も停まっている。
外国の船が多い。
港の近くに銭湯があったな、一回だけ行った事がある。
銭湯のボイラー室なら人目につきにくく、声もかき消されるな。
それか、船の地下とか。
波の音で声が聞き取りにくいはず。
叔父さんを見た。
考えている、多分考えている事は同じだろう。
「叔父さん、人を違和感なく隠せる場所って倉庫とか銭湯のボイラー室とかじゃないかな」
「埠頭のだろう、船に乗せて運ぶつもりなら海に近いほどはやりやすいよな。俺も考えた、スーパー銭湯があったな。
今のところ何の確証もないけど、確認しに行ってみる価値はある。
じっとしてはおけないから。
柳、埠頭の方へ行ってみよう、ついて来てくれ」
「行きましょう、天野さんには今まで何人も少年少女を探し出して犯罪から守ってもらってます。
その勘を信じますよ。自分も確かめずにはいられません。行きましょう」

車を飛ばしてその場所に向かう。
ここから港までそう遠くない。
だけど天神を通過する時、車は先に進みにくい。
高宮通りは道が狭い上に二車線道路の片方にはバスや配達の車が多く止まり道をふさぐ。
渡辺通りの方が道が3車線あるから通りやすい。
この車はパトカーではないので、信号を守りながら慎重に走らせないといけない。
天神は車が多い。
減速しながら海の方に向かって行く途中、僕は近年の天神ビックバン計画でこわされ、空き地になった街の風景を横目で見ながら、2、3年後ここに大きなビルが建っても、この光景は忘れないだろうと思った。
何故なら、こんなにも手に汗握った状態で見た風景だったから。

その間に柳さんはさっきの高校での出来事を上司に報告している。
保健室の女には手錠をかけ、校長室に置いてきた。
後で警察が連れて行くまで校長と教頭に見張りをたのんだ。

港から出港する船には警察が出港できないように手配した。
柳さんの携帯に連絡がきた。
市内の防犯カメラに不審車両を確認、埠頭に向かっている。パトカーが追跡している。

銭湯に着いた。
柳さんと僕は正面玄関へ行き、叔父さんは裏口へ。
銭湯の料金所カウンターで警察手帳をみせる。
店長らしき男が飛んできた。
事情を説明して協力してもらう。
鍵を持って案内してもらい、裏口からまわってボイラー室へ。
叔父さんと合流した。
その場所は外の建物になる。
普段は鍵がかかっていて誰でもはいれないようになっている。
従業員も限られた人しか出入りしない。
「鍵が、普段2個あるはずの鍵が一つしかない。そんなはずないのに」
店長が慌てている。
「犯人がいるかもしれないから気をつけよう」
と声をかけられた。

銭湯の作りが大きいからか、ボイラー室も広い。
太く大きなパイプが何本もあり、ボイラーの音で、声が聞き取りにくい。
換気が充分ではないし、外の気温が高いからか、むっとする。
薄暗い、中を進んでいく。
「柊、いるか?柊」
大きな声をはりあげる。
薄暗いなか、奥に進んでいくと2階に上がる階段があった。
急いで駆け上がる。ここも薄暗い。
「柊、いるのか、いたら返事してくれ」

その時
「......,.ちゃん」
小さくだけど声がする、
「叔父さん、こっち上がってきて、声がする。誰かいるよ」
僕は2階の奥へ進んだ。

そして、手足を縛られた制服姿の柊を見つけた。
急いで駆け寄り
「柊、柊、大丈夫か。
良かった生きてた。心配したんだぞ」
柊を抱きしめた。嬉しくて涙が出てきた。
柊は
「にいちゃん、また会えて良かった」
と言って気を失った。

           つづく

注意
この小説に出てくる建物は実際の物とは全く関係ありません

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