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ソーラー検討中の社内担当者向け資料(前編);事前検討

2019年5月末、Pizza 4P's Xuan Thuy店に太陽光発電システムを導入しました。

今回この記事を書くに至ったのは、今後もっと多くのビジネス(レストラン、ホテル、工場などなど)が再エネを導入していくには、やはり社内の担当者の知識が重要だと思いまして、実際に導入した経験が少しでも参考になれば!!と思い、実際のソーラー導入経験+解説をザックリまとめることにしました。

ちなみに本記事は、主に企業の社内担当者向けに書いていいますので、家庭に設置したいという方にはあまり参考にならないかもなのと、ベトナムでの経験ですので、日本とは異なる部分があるかもしれないことはご了承ください。

ソーラー設置までのプロセス

まずは簡単にどんなプロセスなのか、ざっくりご説明します。

1)事前検討
まずはそもそもソーラー設置が可能なのかを検討します。(本記事にて説明します)

2)EPC会社との面談・現場確認・交渉
EPCというのはソーラーシステムの設置業者のことです。実際に屋根に設置するに当たり、こちらの要望を伝え、現場を見てもらい、提案書をもらい、条件や価格の交渉を行います。

3)設置工事
EPC会社に設置してもらいます。

4)モニタリングとメンテナンス
設置後にどのように電力発電量をモニタリングするか。また、メンテナンスをどう行うか、について。

事前検討事項その1 パネル設置か、電力購入か?

そもそもソーラー設置を検討されているということは、何かしらのメリットをお感じだからだと思います。主に、環境に良い(エネルギー起源CO2排出量を減らせる)と、電気代を減らせること、この2点が主な導入メリットかと思います。

そこで一つ目に考えるべきは、実際に屋根にソーラーパネルを設置したいのか、それとも、再エネ由来の電力を購入するだけでOKなのか、という点。

というのも、日本などの先進国では電力自由化が実現されていますので、どこの電気会社から電気を購入するか消費者が選べるのです。

ここで、ソーラーを導入する資金はない、もしくは設置できるスペースがない、だけど再エネを使いたい、という方は再エネ由来の電力を購入すればOKです。(例:みんな電力

もちろん、自社の屋根にソーラー設置し、それでも足りない電力は再エネ由来の電力を購入、というパターンもありです。

ベトナムではまだ電力自由化の制度設計まで至っておらず、Pizza 4P's Xuan Thuy店では自分たちの屋根に設置するの一択でした。(今後、ベトナムでも電力自由化になるという話は聞いていますが・・・)

事前検討事項その2 自社で購入か、他社に買ってもらうか(プライベートPPAという選択肢)

おそらくほとんどの方が、ソーラーシステムを設置するのであれば、自分でシステムを購入することを想像されるかと思います。ただ、場合によっては、自分で初期コストを一切払わずに、ソーラーシステムを設置できる方法もあります。

それは、自分たちの屋根を使いつつ、他社(発電事業者)がお金を払ってソーラーシステムを設置し、自分たちはそのソーラーシステムから発電された電力を購入するだけ、というモデルです。いわゆる〈プライベートPPA〉と呼ばれるモデルです。

これは、巨大な屋根を持っていて、電力需要が安定している工場などの事業者であれば、より可能性があります。規模的には1MW以上の発電規模だと、発電事業者にとって投資する魅力のある案件と言えるのではないでしょうか。(個人的な感覚です)

1MWの発電規模のソーラーを設置する場合、必要な屋根面積は6,000〜7,000平米くらいです。Pizza 4P'sの場合、そんな大きな屋根はないので、自社でお金を出して購入しました。

日本だとソーラーローンなどもあるみたいですね。

事前検討事項その3 建物のオーナーは誰か?

さて、ここから屋根の話になります。ソーラーシステムは発電効率の保証年数がおよそ25年間です。現在、ほとんどのパネルメーカーが、25年経っても80%くらいの発電効率を保証しています。つまり、ソーラーシステムは設置から25年間は使えるということです。(厳密には、10年ごとにインバーターは交換が必要ですが)

25年というとだいぶ長い年月です。この場合、設置する建物(屋根)の所有者が誰か、というのも重要なポイントです。

というのも、事業によっては建物をオーナーから借りているという形態も多いと思いますので(レストランやホテルなどは特に)、その場合はソーラー導入に際して建物オーナーの同意を得る必要があります。

ビジネスの業態によってケースバイケースだと思うのですが、自社で工場の建屋を所有している会社は問題ないでしょうし、一方、テナント契約の場合、契約期間が短い業態はどちらかというとハードルが高いと思います。

Pizza 4P'sの場合は、建物オーナーとの契約があります。Xuan Thuy店の場合は、ソーラーシステムの投資回収年数を計算した上で、それがオーナーとの契約期間よりも短かったため、「契約期間内に投資回収できるのであれば、購入しよう!」という決断に至りました。(投資回収年数の計算方法については次回説明します)

事前検討事項その4 屋根の材質

ここからはソーラー設置のための物理的要素について検討します。Pizza 4P's Xuan Thuy店の屋根を見てみましょう。

白い点線で囲ったエリアが、ソーラーパネルを設置している屋根です。ここは金属板素材の屋根で、対荷重も問題ないと確認できたエリアです。

ちなみに、この屋根の左側にもソーラーが設置できそうな屋根があるのですが、実はこれ、透明の塩ビニール波板がスライド移動できる屋根なのです。なので、残念ながらソーラーの設置には向きませんでした。

さらに上部(写真右上)にも屋根がありますが、これはビニールハウスの素材で作った屋根になっておりまして、こちらもソーラー設置できませんでした。

などなど、屋根の素材や設計によって制約があることがお分かりいただけるでしょうか。これらの点をEPC業者と共に検討し、実際にどの屋根にソーラーパネルを設置するのか検討する必要があります。

事前検討事項その5 対荷重(パネルは1枚20キロ)

ソーラーパネルって意外と重いです。パネルの大きさにもよりますが、一枚あたり20kgくらいします。

例えば、今回Pizza 4P's Xuan Thuy店に導入したGCL社製のパネル〈GCL-M6/72-375〉は一枚あたり22.2kgの重量です。1平米あたり10kg以上の負荷がかかるので、屋根全体で計算するとかなりの重量が加わります。この点は建物のオーナーもしくは設計会社に要確認です。

事前検討事項その6 方角(とにかく南!)

そして方角について。屋根の方角というのは意外と重要でして、発電量に大きく影響します。じゃあどの方角が良いのかと言えば、もちろん日光が当たる南向きがベスト。これが東や西ならまだマシですが、北向きですとかなり発電量は下がるので、要チェックです。

ちなみに南半球の国の場合は逆です。太陽の動く方角が違いますので、北向きがベストです。

事前検討事項その7 影

ソーラーが発電する日中の時間帯にて、何かしらの障壁によってソーラーパネルが影らないようにお気をつけください。設置している一部のパネルだけでも影になると発電効率が落ちます。

Pizza 4P'sの場合を例にします。実は、Xuan Thuy店へ導入を検討する前は、Phu My Hung店への導入を検討していました。なぜかというと、Phu My Hung店の屋根はとても広いからです。しかし、よく検討してみると午前中のほとんどの時間が近隣のマンションによって屋根が影になってしまうことが分かりました。

写真手前の建屋がPhu My Hung店の屋根です。

正午あたりまで、屋根の半分以上が影に覆われてしまっていることが分かり、Phu My Hung店でのソーラー導入は断念したという経緯があります。この影さえなければ、すごくいい屋根なのですが・・・。

事前検討事項その8 屋根面積(からコストを予想)

さて、上記の物理条件をざっと検討すると、ソーラーパネルを設置できそうな屋根面積がわかります。それをベースに、ざっくりとコストを試算できるので、自社の予算確保や、EPC会社との交渉に役立てます。

Pizza 4P's Xuan Thuyの写真に戻りましょう。今回、このスペース(5.0×16.0m)にソーラーパネルを設置します(という仮定で解説します)。

ちなみに、設置するパネルと屋根の縁は最低でも50cmほどはスペースを確保した方が良いので、この面積全部に設置できるわけではないことは頭に入れておきましょう。

スペースを計算するためには、屋根の図面が必要です。ほとんどのEPC業者は屋根図面をベースにしてパネルのレイアウトを設計しますので、図面は必須です。もし図面がない場合は、EPC業者に実際に屋根の面積を測定してもらいます。

今回導入したのは、GCL社製の375Wpのパネル。これくらいの発電容量のパネルですと、おおよそ一枚あたりの大きさは1.0m×2.0mです。つまり1パネル=2平米。よって、この屋根面積80平米だと、だいたい40枚くらいは敷けるかな、という予想を立てることができます。

ただ、実際には余剰スペースが出てきますので、これより少ない枚数になります。実際、今回設置できたのは32枚のパネルでした。

これでおおよその発電容量を計算できます。1パネルの発電容量が375kWpで、それが32枚。単純に掛け算すれば、このシステムの発電容量が計算できます。

375Wp × 32 = 12,000Wp

12,000Wp = つまり12kWpのソーラーシステムが作れるということです。

さて、ここから発電容量を元にコストを予想します。僕が今までカンボジアやベトナムでいくつかのソーラープロジェクトに関わってきた中で、また業界の平均的な数値として、設計費や設備費や設置工事費など全て含めて、ざっくり1kWpあたり10万円です。よって、今回の12kWpのシステムだと、だいたい初期投資に120万円くらいかな、と予想することができます。

もちろん、このソーラー設置にかかる平均コストというのは国によっても違いますので、あくまでもカンボジアやベトナムなど東南アジアの平均と思ってください。日本はもっと高いと思います。また、年々ソーラーシステムのコストは下がっていますので、これもまた現時点の平均コストと思ってください。また、設置する規模によってもコストは異なります。小さければ1kWpあたりの単価は上がりますし、巨大なメガソーラープロジェクトだともっと下がります。なので、この数値は参考程度にしていただき、実際には複数社からの相見積もりを取得することでコストを比較してみてください。

補足ですが、Pizza 4P's Xuan Thuyに設置した際は、当時中国のパネルメーカーがどこも供給過多でソーラーパネルの価格が値崩れしていたのと、Pizza 4P's のブランド力もあり、EPC業者がかなり値下げしてくれましたので、かなり小規模なシステムにも関わらず、上述した平均単価よりもだいぶ安い値段で設置することができました。

事前検討事項その9 オングリッドかオフグリッドか

さて、ここまで検討できると、設置するシステムについても、またそのコストについても、だいぶ具体的になってきたと思います。最後に検討すべきは、系統電力に繋ぐか、繋がないか、についてです。

一般的に、ほとんどのビジネスはすでに系統電力からすでに電気を購入していると思います。その系統からの電力に加えて、ソーラーからの電力を足すことが〈オングリッド〉と呼びます。Pizza 4P's Xuan Thuy含めて、ほとんどのケースはオングリッドだと思います。

一方、例えば途上国の田舎ですと、まだ無電化地域の村もあります。また、大自然に囲まれた人里離れた場所に建設するリゾートホテル。もしくは、小さな島など。そういった電線がない場所にソーラーを設置して電力を自給するモデルを〈オフグリッド〉と呼びます。

オングリッドかオフグリッドかの違いによって、システムの設計に違いがでてきます。主なポイントは、オフグリッドだと蓄電するためのバッテリーを設置する必要がある、という部分でしょうか。バッテリーを設置すると、かなりコストが増えますので、そこは要チェックです。

個人的な経験というか感覚ですが、ソーラーにバッテリーをつけるとなると、ソーラーだけの場合と比較してコストが5倍くらいになる印象です。もちろん、バッテリー自体の価格も徐々に下がってはいますが、まだまだ費用対効果が良いとは言えません。

また、オングリッドの場合でも、系統からの電気が不安定で頻繁に停電が起こるような状況ですと、停電時のバックアップ電源としてのソーラーを期待されている事業者もいるかと思います。その場合は、通常のインバータではなく、ハイブリッドインバータというものを使用する必要がありますので、EPC会社に相談しましょう。(英語だとインバータと呼びますが、日本だとパワコンとも呼ぶみたいですね)

つまり、ただソーラーを導入して電気代を下げたいのか、それとも停電時の対策としてソーラーを導入したいのか等、その目的がどんなものであるかはちゃんとEPC会社へ伝え、それに合ったシステムを設計してもらうべきです。

 

次回はEPCとの交渉について解説します。


こんにちは。ベトナムのホーチミンに住んでます。Pizza 4P'sというレストランのサステナビリティ担当です。