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同値関係の定義式は減らせる

この記事は数学の記事であり、日記です。日記性は中盤以降に出てきます。


同値関係

同値関係とは、集合S上の関係「〜」であって、Sのすべての元a,b,cについて以下の3条件を満たすもののことをいいます。

反射律
$${a\sim a}$$

同値関係の一例である「=」のことを想像するとわかりやすいですが、「どんな元も自分自身とは同値である」みたいなことです。

対称律
$${a\sim b\Rightarrow b\sim a}$$

「aがbと同値なら、bはaと同値である」と読めます。

推移律
$${a\sim b}$$かつ$${b\sim c\Rightarrow a\sim c}$$

これも具体例として「=」を見るとわかりやすいですが、a=bであってかつb=cなら、a=cを結論付けられる、というのの一般化です。

意味はともかく、このような3条件を満たす関係を「同値関係」といいます。

それぞれの条件を満たすことをもって「反射的」「対称的」「推移的」と言ったりもします。

前述の通り「=」はこの3条件を満たすので同値関係であり、「<」は対称律を満たさないので同値関係ではありません。

スルーしがちですが「Sのすべての元a,b,cについて」という条件は重要です。一部の元のみで反射律や対称律が成り立っていても、集合上の関係としてそれは反射的や対称的とはいえないよ、ということです。

部分群

さて、話はまったく変わって、群Gの部分集合HがGの部分群である条件は「HがGの演算によって群になっていること」なのですが、これと必要十分でもっと扱いやすい条件として以下のものが知られています。

(ア)単位元
$${1_G\in H}$$

$${1_G}$$はGの単位元です。Gの単位元がHに入ってることが必要だよ、と言ってます。
少しの式変形で$${1_G=1_H}$$、つまりGの単位元がそっくりそのままHの単位元でもある、ということが結論できます。

(イ)逆元
$${x\in H \Rightarrow x^{-1}\in H}$$

あるGの元xがHに入ってるなら、xのGでの逆元もまたHに入っててほしいよ、と言ってます。

(ウ)積で閉じている
$${x,y\in H\Rightarrow xy\in H}$$

xとyがHに入ってるならその積も入っててほしいと言ってます。Hが群になってほしいことを考えるとこれはあたりまえともいえます。

意味はともかく、このような3条件を満たすGの部分集合をGの部分群といいます。

(今何の話をしているかわかりやすいように、同値関係の話のときはa,b,c、部分群の話のときはx,y,zを使っています。どちらも変数を表し、意味の違いはありません。見た目だけです)

部分群の定義式は減らせる

これは割と有名な話なのですが、この3つの式は一本にできます。これです。

(エ)
空でないGの部分集合Hについて、
$${x,y\in H\Rightarrow x^{-1}y\in H}$$

これだけ見るとなんじゃそりゃですね。さっきは無かった「空でない」という条件が生えているのも見逃せません。これは必要十分性をいうときに重要になってきます。

パッと見では本当にこれだけで済むのかよくわかりませんが、ちゃんと見るとうまいこと3条件をひとまとめにしていることがわかります。見ていきましょう。

⇒を示す

まずもって「空でない部分集合」というのは(ア:単位元)の条件があれば即座に出てきますね。単位元があればそりゃあ空集合ではありえません。

そして(イ:逆元)で手に入る$${x^{-1}}$$を(ウ:積)のxのほうに適用すると
$${x,y\in H\Rightarrow x^{-1},y\in H}$$
からの
$${x^{-1},y\in H\Rightarrow x^{-1}y\in H}$$
となります。「ならば」の最初と最後を繋げば、これは(エ)そのものですね。

(ア)(イ)(ウ)を使って(エ)が得られました。

(ア)(イ)(ウ)⇒(エ)のほうは今見た通りシンプルなのですが、その逆(⇐)を示すのはちょっと大変かつテクニカルで気持ちいいです。

⇐を示す

(エ)を前提して(ア)(イ)(ウ)を導きます。

ここで「空でない」という条件を入れたことが効いてきます。

Hは空でないので、なんか元tがとれて、それを$${x,y\in H\Rightarrow x^{-1}y\in H}$$のxとy両方に適用すると、$${t^{-1}t\in H}$$となって結局$${1_G \in H}$$、つまり(ア)が言えます。

(エ)から(ア)が出てきました。

そうやって手に入った$${1_G}$$を(エ)のyのほうに適用すれば、
$${x,1_G\in H\Rightarrow x^{-1}1_G\in H}$$
$${= x^{-1}\in  H}$$
となって、これはまんま(イ)の式です。

(エ)と(ア)から(イ)が出てきました。

あとはもう手に入った$${x^{-1}}$$を使うだけです。
いま、$${x,y\in H\Rightarrow x^{-1},y\in H}$$が言えたので、さらに(エ)の式から
$${x^{-1},y\in H\Rightarrow (x^{-1})^{-1}y=xy\in H}$$
となり、「ならば」の最初と最後を繋げば
$${x,y\in H\Rightarrow xy\in H}$$
が得られ、これはまんま(ウ)の式です。

(エ)と(イ)から(ウ)が出てきました。

(エ)から(ア)(イ)(ウ)が出てきて、「⇒」と合わせることにより、3条件と(エ)が必要十分であることが結論づけられました。

3本の条件式を一つにまとめることで、ある部分集合が部分群であることを証明するのが少しだけ楽になったりします。

部分群による同値関係

さて、部分群によって(もとの集合に)定まる同値関係、というものがあります。このようなものです。

HをGの部分群とする。Gの元xとyについて、$${x^{-1}y\in H}$$なら$${x \sim y}$$と定義する。
このとき、この関係「〜」は同値関係である。

これのもっとも身近な例は$${\mathbb{Z}}$$(整数)に対する$${n\mathbb{Z}}$$(nの倍数)でしょう。

この例における$${x^{-1}y}$$とはすなわち「2数の差」のことになります。
n=3を例にして言うなら「-3+5」は$${3\mathbb{Z}}$$に入っていないので、3と5はmod3で同値ではなく、「-5+26」は$${3\mathbb{Z}}$$に入っていので5と26はmod3で同値です。

では「〜」が同値関係であることを証明しましょう。ここがこの記事における最大の注目ポイントです。

「同値関係であることを示す」というのはすなわち、その関係が反射的(自分自身と関係があるか)、対称的(反対向きの関係はあるか)、推移的(関係が移ってゆくか)かを一つ一つ見ればよい、ということです。

反射律

まずこの関係が反射的かどうかを見ます。それはすなわち、任意のGの元aについて$${a^{-1}a\in H}$$であることを言えばよいということです。そうすれば「〜」の定義より$${a\sim a}$$を結論できますからね。

これはほぼ自明ですね。$${a^{-1}a=1_G}$$です。Hは部分群だったはずなので、$${1_G}$$はHに入ってます(部分群の条件(ア)より)。よって、$${a\sim a}$$です。

対称律

対称的かどうか。
任意のGの元aとbを持ってきて、$${a^{-1}b\in H}$$だと仮定します。これはすなわち$${a\sim b}$$だと仮定しているわけです。

すると、Hは部分群なので、ある元が入っているならその逆元も入っています(部分群の条件(イ)より)。
$${a^{-1}b}$$の逆元とは$${b^{-1}a}$$です。これは定義に従って読み替えると$${b\sim a}$$を表します。

$${a\sim b}$$と仮定して、$${b\sim a}$$を導けたので、対称的です。

推移律

推移的かどうか。
任意のGの元aとbとcを持ってきて、$${a^{-1}b\in H}$$かつ$${b^{-1}c\in H}$$だと仮定します。これはすなわち$${a\sim b}$$かつ$${b\sim c}$$だと仮定していることになります。

さて、Hは部分群なので、積で閉じています(部分群の条件(ウ)より)。
ということは$${(a^{-1}b)(b^{-1}c)}$$もまた、Hに入っているはずです。計算すると、
$${(a^{-1}b)(b^{-1}c)}$$
$${=a^{-1}(bb^{-1})c}$$
$${=a^{-1}1_Gc}$$
$${=a^{-1}c}$$
となり、定義に従って読み替えると$${a\sim c}$$です。

$${a\sim b,b\sim c}$$だと仮定して、$${a\sim c}$$を導けたので、推移的です。

関係「〜」は同値関係であるとわかりました。

群論ゼミin数学デー

数学好きが集まってだべるイベントをやっているのですが、最近そこで群論のゼミもやっています。

私が発表者だったときにこの証明を扱って、発表時点では気づいていなかったのですがゼミメンバーから「部分群の条件を全部使っていて良い」的な指摘がありました。

そこで証明を見返してみると、確かにHが部分群であるための3条件を余す所なく使っていてすごい!!と感激したものです。

で、そのときはすごいね〜くらいで終わったのですが、あとあと考えると「部分群の条件と同値関係の条件は、それぞれ対応しているのではないか?」と思えてきました。

だってそうじゃないですか? 部分群の条件と同値関係の条件は、それぞれが似ています。

$${1_G\in H}$$と$${a\sim a}$$。
a~aというのはなんとなく単位元っぽい雰囲気を醸しています。

$${x\in H\Rightarrow x^{-1}\in H}$$と$${a\sim b\Rightarrow b\sim a}$$。
a~bに対するb~aというのはなんとなく逆元っぽいです。

$${x,y\in H\Rightarrow xy\in H}$$と$${a\sim b,b\sim c\Rightarrow a\sim c}$$。
a~bとb~cからa~cを導いているのは、なんとなく積をとっているっぽいです。

そこで私は考えたのです。だったら、3条件から(エ)を導いた(しかもそれは必要十分であった)ように、同値関係の3つの式も1つにまとめられるのではないか?と。

同値関係の定義式は減らせる

部分群の条件(エ)である

$${x,y\in H\Rightarrow x^{-1}y\in H}$$

は「片方を逆にして積をとっている」と読めます。ここに「a~aが単位元っぽくて、a~b⇒b~aが逆元っぽくて、a~b,b~c⇒a~cが積っぽい」ことを加味して考えると、同値関係の式をまとめたものはこうなるのではないでしょうか?

$${a\sim b}$$かつ$${c\sim b\Rightarrow a\sim c}$$

推移律の式の「b~c」の部分を逆にしたものです(※)。「aがbと同値で、cもまたbと同値なら、aとcは同値である」と読めます。「同じものに等しいものは互いに等しい」といったようなことになりますね。

※部分群の式と合わせるなら「a~b」のほうを逆にしなくてはいけないのでは?と思うかもしれませんが、実はどっちでもいい(必要十分)ことがわかっています。しかし、こっちのほうが何かと扱いやすいので、すみませんが扱いやすい方でいかせてください。

でこれ、ちょっと足りない部分があるのがわかりますか?

そう。部分群の定義式とちゃ〜んと対応付けたいなら、「空でない部分集合」のあたりの文言が欠けています。

つまりこっちにも「空でない〜」に対応する文言を付け加えたほうが良さそうで、それはおそらくこんな感じになるのではないでしょうか?

集合S上の元a,b,cについて、すべての元に対して関係する元が存在し
$${a\sim b}$$かつ$${c\sim b\Rightarrow a\sim c}$$

式で書くと$${\forall a\in S,\exist b\in S,\:s.t.\: a\sim b}$$ということです。「空集合でない(元が存在する)」というのと「関係が存在する」というのとで、確かに対応してそうです。

事実、これがちゃんと反射・対称・推移の3条件と必要十分になっているのです。証明していきましょう。

⇒を示す

これは予想通り、部分群の条件を減らしたときのやり方をそのまま踏襲すればできます。やってみましょう。

まずもって「すべての元に対して関係する元が存在し」というのは反射律があれば即座に出てきますね。a~aなのでそれはもうすべての元に対して関係する元が存在します。少なくとも自分自身です。

そしてこんどは後半部分を導くために、対称律と推移律をひとまとめにします。

まず仮定としてa~bとc~bとが成立しているとしましょう。「a~bかつc~b」ということですね。これは仮定なので何でも持ってきてokです。

そして対称律があるので後者はb~cとできます。「a~bかつb~c」となりました。

推移律があるので、ここからa~cを導けます。

a~bかつc~bと仮定して、a~cを導けたので、

$${a\sim b}$$かつ$${c\sim b\Rightarrow a\sim c}$$

が結論できました。これは「同じものに等しいものは互いに等しい」つまり「目的の式」です。

反射・対称・推移から「目的の式」が結論できました。

⇐を示す

実はこれが必要十分なのです。つまり反射律・対称律・推移律の代わりに「目的の式」を使うことができる。

ずっと「目的の式」と呼び続けるのもなんなので、名前を与えておきましょう……というか目的の式の「$${a\sim b}$$かつ$${c\sim b\Rightarrow a\sim c}$$」には名前があります。「ユークリッド律」というのです。

ユークリッドがその著書『原論』において、まさに「同じものに等しいものは互いに等しい」と言及したことが由来になっているようで、ユークリッド自身がこういう同値関係やらなんやらのことを研究していたとかいうわけではないみたいです。

ともかくこれからはこっちの呼び方を使っていくことにします。

これまでに反射・対称・推移からユークリッド律を導きました。ここからはユークリッド律から反射・対称・推移を導いていきます。こっちはちょっと大変かつテクニカルで気持ちいいです。

「すべての元に対して関係する元が存在する」ので、S上の元aを任意にとってくるとなんかbが存在して、a~bとできます。

部分群の式をひとまとめにしたときに「空でない」が効いてきたのと同じですね。

次に、ユークリッド律における「c」の部分にaを適用すると、式は

$${a\sim b}$$かつ$${c\sim b\Rightarrow a\sim c}$$(ユークリッド律)
↓↓↓
$${a\sim b}$$かつ$${a\sim b\Rightarrow a\sim a}$$

という式になり、a~bからa~aが結論づけられたことになります。aは任意だったので、これは反射律そのものです。「誰かと関係がありさえすれば、自分とは関係がある」とも読めますね。

ユークリッド律から反射律が出てきました。

こんどは、「a~b」と仮定して、ユークリッド律の「b」にaを適用してみましょう。

$${a\sim b}$$かつ$${c\sim b\Rightarrow a\sim c}$$(ユークリッド律)
↓↓↓
$${a\sim a}$$かつ$${c\sim a\Rightarrow a\sim c}$$

となります。いま手元にa~aはあるので、$${c\sim a\Rightarrow a\sim c}$$が結論づけられます。これは対称律そのものです。

ユークリッド律と反射律から、対称律が出てきました。

そしていまa~bかつb~cと仮定しましょう。すでに証明した対称律があるので、これをa~bかつc~bとできます。

それをユークリッド律にそのまま適用させると、$${a\sim b}$$かつ$${c\sim b\Rightarrow a\sim c}$$となります。

a~bかつb~cと仮定してa~cが言えたので、推移律も得られます。

ユークリッド律と対称律から、推移律が出てきました。

ユークリッド律(と、すべての元に関係が存在するという条件)から、反射・対称・推移が導けました。

前に証明した「⇒」と合わせて、これらが必要十分であることが結論できました。

まとめ

かくして、同値関係の式を減らすことができました。狙ったわけではありませんが、最後の項の見出しが記事タイトルと同じなのはいいですね。最終話のサブタイが作品自体のタイトルと同じでエモいやつみたいです。ここで1期OPが流れます。

さて、同値関係の式を「一つに」減らせたか、と聞かれると微妙です。得られた式はこう書くこともできるからです。

(1)$${\forall a\in S,\exist b\in S,\: s.t.\: a\sim b}$$
(2)$${a\sim b}$$かつ$${b\sim c\Rightarrow a\sim c}$$

この場合2つの式に減ったと言えますが、それは部分群のほうでも同じで、あっちはあっちで「空でない」をこう書くことができます。

(1)$${\exist x \:s.t. \:x \in H}$$
(2)$${x,y\in H\Rightarrow x^{-1}y\in H}$$

なのでまあ「一つに減らせる」という言い方はせず「減らせる」とだけ言いました。

同値関係の条件を減らすことによって証明が楽になったりなにかいいことがあるかは微妙です。多分楽になることはそんなにないでしょう。同値関係の証明ってだいたい反射律と対称律は自明で、推移律だけを示すことが多く、そう考えると推移律を示すのもユークリッド律を示すのもそんなに労力は変わらないだろう、と思えるからです(この意見はゼミメンバーの受け売りですが…)。

とにかく「減らすと嬉しい」という話ではなく「減らせる」というだけの話です。

でもこっちの話は部分群の式が減らせることに比べてあんまり知られていないんですよね。「ユークリッド律」という用語の知名度も、まあ基礎論の人には知られているでしょうが数学界一般だとほとんどありません。

でも個人的にはこれがとっても意外に感じられて面白かったのです。反射・対称・推移というのは定義であると同時に、同値関係の内実をよく表しています。それがもっと短くできる、というのは驚きでした。

どっちの定義がよいか、というのは場合によります。群の定義だって一本の式でかけるらしいですからね。時と場合(眺める場合と使う場合など)によって使い分けていきましょう。

というわけで今回はこんなところで。この記事が面白かったり役に立ったと感じられた場合は、よろしければサポートをお願いします🙇

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