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占い通りの台詞に、旅のテーマが寄り添う。~熊本ドッキリ旅行記1~

早朝5時、約束通りに私は友人であるポップの家の前に愛車の軽自動車、タントを横付けして彼を待っていた。タントとはもう15年の付き合いになるが、ポップとはそれを越える四半世紀の付き合いになる。何にせよ長く付き合うと予想外の出来事も全て楽しめるから不思議である。

「やぁ。元気かい?君のために、僕が信用している占いを見といたよ。この週末は、山羊座の君に『えっ?まさか!』の出来事が続くらしい」

ポップは旅の始まりを祝うように、私にそう告げてタントに乗り込んできた。私達は、タントを走らせ山の湘南、伊勢原市から羽田空港へ向かうために出発をした。

「一つ確認させておくれポップ君。山羊座の私が『えっ?まさか!』の出来事に遭遇するということは、私と一緒にいる牡牛座の君も、それを必然的に味わうことになるのだが、その心の準備はオーケーなのかい?」

私は、この先に何が起こるか知る由もなかったのだが、私達ならばそれは起こり得ることだろうと妙に納得していた。

「好むと好まざるとに関わらずに、それが『旅』というものなんだ」

ポップは、若干噛みながらも筋書きの無い台本通りに台詞を言い終えた。

「えっ?まさか!」と通勤渋滞に巻き込まれることもなく、車は予定通りに羽田空港の駐車場に到着した。ポップは周りを見渡しながら早速、私に向けて物語を始めてきた。

「君が気付いているかは知らないが、僕達以外にこの駐車場の列には軽自動車が一台も駐車していないんだ。これを今の君なら何て答えるんだい?」

私も薄々気付いてはいたが、高級車ばかりが並んでいる駐車場を見渡しながら、軽自動車で軽快に飛ばす中年コンビの哀愁に経済格差を感じているところだった。

「この言葉をこの旅の最初にポップ君にプレゼントするさ。『えっ?まさか!軽自動車は旅をしてはいけないのかい?』これが私からの旅の始まりの合図だ。受け取っておくれポップ君」

私達は、「熊本県」へドッキリをしに行くためだけに集合した。私は、K.D.C(小錦ドッキリ倶楽部)の部長だ。この二泊三日の旅は、イベントで熊本県に訪れる小錦夫妻の飛行機の隣の席に座り、ドッキリを仕掛けるという小錦夫妻にドッキリをするためだけに計画したのだった。

ちなみに小錦とは、ハワイ出身の大相撲元大関であり、現在還暦を迎えているタレントである。私達は、リスペクトから「大関」と呼んでいる。

私達は、8時過ぎの羽田発の飛行機に乗るために早めに登場手続きを済ませ、朝ごはんを食べていた。神奈川から離れる寂しさを感じたポップは、売店で崎陽軒のシウマイ弁当を見つけると私の分まで手に取りこう言った。

「神奈川を噛みしめてから行こう」

私達は、お別れする神奈川にお礼を言いながらシウマイ弁当をいただいていた。

その時、ポップは携帯を見ながら、違和感を隠すように私に告げてきた。

「今から言うことを信じるか信じないかは、君次第なんだが、どうやら僕達が乗る飛行機そのものが変更になったらしいんだ。そして、その事自体は大したことではないのだが、注意書きとして、『一部の方は座席の変更があります』と書いてある。多くの人が乗る飛行機の一部の方に該当するなんてことはないだろうと思って今チケットを確認してみたんだ」

「えっ?まさか!」

私は、まんまと占い通りの言葉を発してしまい、それを見たポップは、朝一番の笑顔を振り撒いた。

「おめでとう。我々はその『一部の方』に当選したんだ」

私達は、同じ飛行機の大関の横に座りビックリさせることでドッキリしようとしていたのだが、まさか航空会社から私達へ向けてドッキリを仕掛けてくるとは、考えてもいなかった。

私は、冷静にポップに計画の変更を告げた。

「今だ。今しかない。乗る前に仕掛けよう。隣に座れないなら乗る前に声かけてドッキリしよう」

私達は、シウマイ弁当と神奈川にお別れを告げて待機場の先頭に座っている大関と奥様の千絵さんの背後に忍び寄った。

「君が声をかけたらスタートだ」

ポップにそう言われながら、大関の背中に近付いていくうちに、私の頭の中では、「声をかけてしまったら旅は終わりに向かうんだな」と、寂しさに覆われていた。半年かけた計画のスタートであり、同時にラストスパートだった。

「小錦さん。すみません。一緒に写真撮ってもらっても良いですか」

午前7時半過ぎ、私達は声をかけた。一瞬いるはずもないマスク姿の私達を、ハッキリ認識するまでに大関の間が空いたが、すぐに笑顔になってハグをした。

「えっ?まさか!熊本行くの?」

千絵さんが興奮気味に笑顔で話しかけてくる。私達も当然笑顔で返事をする。

「小錦ドッキリ倶楽部です。ご一緒します」

朝7時のドッキリタイム

旅が始まった。

熊本へ向かう途中の機内で、私はポップにこう告げた。

「今から言うことを信じるか信じないかは、君次第なんだが、大関と千絵さんて星座何だと思う?」

「えっ?まさか!」

私は、会心の笑みでポップに伝えた。

「山羊座だよ」

私達は、機内でがっちり握手した。

なんのはなしですか

スーパースタータケテルが待つ、

火の国熊本へ飛行機は飛んでいく。

3月1日


ドッキリ2

ドッキリ3


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