見出し画像

沖縄の空手家の名字の読み方

最近、島袋龍夫(一心流開祖)の名字を「シマブクロ」と読むのは間違いで、「シマブク」と読まなければならないと主張する海外の空手家のブログを読んで違和感を抱いた。

「シマブクロ」が標準語の読みなのに対して、「シマブク」は沖縄方言での読みである。

昔、井上ひさし原作のNHKドラマ『國語元年』というのがあったが、その内容は標準語作りを巡る悪戦苦闘の物語であった。日本の標準語は西洋の標準語をモデルにして明治に作られた言葉である。この人工言葉を国語教育を通じて全国に広めていったのである。

その結果、今日、沖縄でも名字は標準語で読むのが一般的となった。当時の沖縄でも、琉球新報の太田朝敷のように、言葉でも風俗でもすべて本土と同じにすべきだと主張する意見があり、新聞を通じて盛んに奨励された歴史がある。「方言札」のような負の側面もあったが、多くの人が貧しさから県外や外国に移住する現実もあった。

実際、島袋を「シマブク」と読めるのは、本土の人でどれくらいいるであろうか。『沖縄空手古武道事典』(2008年)では、島袋龍夫の項目は「シマブクロ」と読みが書かれている。これは全国の読者への配慮であろう。

筆者もときどき松村(マチムラ)と松茂良(マチムラ)は方言では同じ発音だと紹介することはある。しかし、通常は沖縄の空手家の人名は標準語の読みで紹介している。もし沖縄方言で表記したらどうなるであろうか。

本部は「ムトゥブ」、喜屋武は「チャン」、富名腰は「フナクシ」となる。これらはまだ簡単なほうである。

摩文仁は「マブイ」、宮城は「ミャーグシク、マーグシク、ナーグシク」、東恩納は「フィジャウンナ」となる。「ヒガシオンナ」が標準語で、「ヒガオンナ」が沖縄方言だと思っていた方もいるかもしれない。正しくは沖縄方言ではフィジャウンナである。

ちなみに上原先生(1904年生)も、下の動画にあるように「ミヤギチョウジュン先生」、「キャンチョウトク先生」と呼んでいた(動画2:05~)。

もし、原音にこだわって沖縄の空手家の名字をすべて方言で発音したり表記したりしたら、本土や海外の方はもちろん、沖縄の人でもわからない人は多いに違いない。筆者も『沖縄県姓家系大辞典』(1992年)を参照しているから上記がわかるのである。

いずれにしろ、島袋龍夫を「シマブクロタツオ」と読んでも間違いではない。海外の一心流の人たちの間で「シマブク」がより多く使われているのならそれでも構わないが、「シマブクロ」が間違っているというのは言いすぎである。

ちなみに、現在の日本の戸籍では、名字の漢字にふりがなは振られていないので、島袋を「シマブクロ」でも「シマブク」でも読むことはできる。ただし戸籍法が改正されて、来年度以降はふりがなが付くので、また事情は変わってくる。その場合、子孫の方に改めて確認したほうがよいかもしれない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?